事業所得者の休業損害

事業所得者の休業損害は,「現実に収入減があった場合に認められる。」とされています(赤い本)。

 

事業所得者の場合は,収入減がいくらあるのか把握するのが難しいことが多いですが,基礎収入額は事故前年の確定申告所得額によって認定されることが多いです。

ただ,固定費を基礎収入に含めるかといった問題があります。

 

また,事故前年の確定申告所得額から減少した額の全てが,休業損害として認められるのかという問題もあります。

名古屋地裁平成29年1月16日判決では,「売り上げの減少全てが本件事故によるものとは認め難く」「全てが本件事故によるものとは認め難い」として事故前年の確定申告所得額との差額の30パーセントを休業損害と認定しています(自保ジャーナルNo.1996)。

 

事業所得者の休業損害の把握には,様々な問題点があるため,交通事故被害者に被った損害を少しでも回復していただくために更に努めていきたいと思います。

ドアミラー同士の接触と怪我

自動車のドアミラー同士が接触した交通事故の場合,その交通事故と怪我との因果関係が問題となることが多いです。

ドアミラーのみの接触の場合,ドアミラーが折れるなどすることで,車両内の運転手には大きな衝撃が加わらないと考えられています。

そのため,ドアミラー同士の接触しかない交通事故の場合,事故と怪我の因果関係が否定されることが多いです。

 

また,和歌山地裁平成28年12月26日判決では,ドアミラー同士のみ接触した交通事故について,衝突を避けるためにハンドルを切った際に首及び腰に過伸展の動きが生じ,頸椎捻挫及び腰椎捻挫当の傷害を負ったという主張について,ハンドル操作が身体に大きな負荷をかけるものであったとは認められないと判断されています。

 

車両の損傷が軽微な場合は,交通事故と怪我の発生の因果関係を立証できるのか慎重に判断する必要があります。

 

MTBI(軽度外傷性脳損傷)

交通事故に遭うなどして脳に外傷を負った場合,高次脳機能障害が生じることがあります。

高次脳機能障害が認められるためには,①脳損傷があること②高次脳機能障害を疑わせる症状の存在③同症状が脳損傷に起因することが必要です。

 

自賠責保険では,後遺障害に該当するか否かは「労災認定必携」に準拠して判断されています。
「労災認定必携」では,高次脳機能障害に該当する脳損傷があるといえるためには,「脳の器質的病変に基づくものであることから,MRI,CTなどによりその存在が認められることが必要」とされています。
ただ,自賠責保険では「労災認定必携」に準拠して後遺障害等級認定を行っているもののMRI,CTなどにより脳の器質的病変が認められないと絶対に高次脳機能障害に該当する脳損傷があると認定しないとまではされていません。
①事故後の意識障害の有無とその程度,②画像所見,③因果関係の判定(他の疾患(非器質性精神障害等)との識別)という観点を総合して高次脳機能障害に該当する脳損傷が存在するかを判断するとされています。
しかしながら,脳外傷による高次脳機能障害は,脳の器質的損傷の存在が前提となるため,やはり脳の損傷が画像上認められることが非常に重要となります。

 

高次脳機能障害の中で特に問題になるのが,頭部外傷が比較的軽度であるにもかかわらず,高次脳機能障害としての典型的な症状(認知障害,情動障害)が認められるという場合です。
意識障害の程度が軽微であるなど頭部外傷が比較的軽度の場合に発生する脳損傷は,MTBI(軽度外傷性脳損傷)と総称されています。
MTBIについての判断基準としてWHOが2004年に発表した基準があります。
外傷後30分の時点あるいはそれ以上経過している場合は,診察の時点でのグラスコー昏睡尺度得点は13-15(意識レベル軽症)の場合に,①混乱や失見当識②30分またはそれ以下の意識喪失,③24時間以下の外傷健忘期間,④その他の一過性の神経学的異常(けいれん,手術を要しない頭蓋内病変)うちの1つ以上を満たした場合は,MTBIに該当するとされています。

 

しかし,WHOの基準に照らしMTBIに該当するとされたとしても,それのみでは高次脳機能障害であるとは現状では,認定されません。
MTBIについては,裁判上においてもほぼ脳外傷による器質的脳損傷が否定されています。

 

交通事故によって負う傷害は多種多様です。
弁護士として法的な知識のみならず,傷害についても日々学んでいきたいと思っています。

 

弁護士法人心の高次脳機能障害サイトはこちらになります。

中間利息控除

「交通事故に遭い,治療は終了したが重い後遺障害等が残ってしまった。治療中に被った損害だけではなく,交通事故に遭い後遺障害が残らなければ将来的に稼げたであろう金銭も賠償してもらいたい。」と考えられる方も多いかと思います。

 

交通事故に遭わなければ将来にわたって得られたであろう利益のことを逸失利益といいます。
逸失利益は,相手方から損害として賠償を受けることができます。

 

逸失利益は,原則として,「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数」という式で計算されます。
今回は,同計算式のうちの中間利息控除係数というものに注目してみたいと思います。

 

逸失利益を計算するに当たり中間利息が控除されるのは,将来において受領するはずの金員を現在受領することから,現在から本来受領するときまでの間に付されるであろう利息分を控除すべきと考えられているためです。
中間利息控除の仕方には,主なものとして複式ホフマン方式と複式ライプニッツ方式という考え方があります。
複式ホフマン係数とは,将来取得する債権額を一定時期ごとに取得するというように考える方式であり,複式ライプニッツ係数とは,将来取得する債権額を一定時期ごとに取得するものとし,利息計算に複利を用いるものをいいます。
現在,実務上ではライプニッツ方式が採用されており,利息は年5%とされています。

 

しかしながら,現在の低金利が続いていることを考えると年5%の中間利息を控除することが妥当なのか疑問が生じます。
改正民法案では今までになかった中間利息控除の条文が設けられています。
また,これまで年5%であった法定利率が3%に変更する内容となっています。

こうした民法上の法定利率の変更や低金利の流れを考慮すると,現状の民法が法定利率を年5%としているからといって中間利息控除を年5%で算定している実務は本当に良いのでしょうか。
民法改正前後で受け取れる逸失利益が大きく異なる結果になるのは不公平な気がします。

 

今後の中間利息控除の考え方について弁護士として注意深く見ていきたいと思います。

通院付添費

交通事故に遭い怪我をしたために通院が必要になったが,1人で通院することができず家族に付き添ってもらった。
家族が付き添いのために時間を使ったことについて事故の相手方に何か請求できないのか?

 

といったように家族が通院に付き添ったことについて事故の相手方に何か請求できないのかと考えられる方も多いと思います。

 

上記のような請求は,一般的に通院付添費という損害として相手方に請求することができます。
ただ,通院付添費を請求した場合に全て損害として認められるわけではありません。家族等の通院への付添の「必要性」が認められた場合に限り損害として認められ支払われることになります。
では,どのような場合に「必要性」があると認められるのでしょうか。

 

幼児・児童は一人で通院できないため,多くの場合通院付添費が認められます。
その他の場合は,医師の指示,傷害の内容,程度等を総合的に判断して付添が必要かどうか判断されます。

 

裁判例の中には,成人した女性が頸部挫傷,左上肢外傷性末梢神経障害等からRSDを発症した事案で,症状や処置の影響で身体がふらつくなどの症状があったと認定して通院日数のうちの一部に付添が必要と判断したものなどがあります。
ちなみに付添看護料は1日2000円から3000円程度とされることが多いです。

 

交通事故に関する弁護士法人心のサイトはこちらをご覧ください。

後遺症と後遺障害

弁護士として多くの交通事故の相談に乗る中で,「医師に後遺症は残るだろうと説明を受けたので,申請すれば後遺障害の認定を受けられますよね。」という質問を受けることがあります。
この質問に対しては,「事故対応や通院状況,怪我の程度を確認しないと後遺障害の認定を受けられるかは,わかりませんと。」としか答えられません。

 

なぜ,医師に後遺症が残ると説明されたのに後遺障害の認定を受けられる可能性が高いと言えないのか疑問に思われる方も多いと思います。
これは,後遺症と後遺障害の定義が異なるからです。

 

 

まず,後遺症は,交通事故によって負った傷害が完全に回復せずに身体等に残った機能障害等の症状を意味します。

 

一方,後遺障害は,交通事故によって負った傷害が完全に回復せずに身体等に残った機能障害等について交通事故との関連性や整合性が認められ,その機能障害等の存在が医学的に証明または説明できるものであり,労働能力の低下が伴い,その程度が自賠責施行令の等級に該当するものを意味します。

 

このように後遺症と後遺障害の定義が異なることから,後遺症が残るとの説明を受けたからと言って,後遺障害の等級の認定を受けられるとは限りません。
後遺障害等級の認定を受けるためには,残ってしまった機能障害等について交通事故との関連性や整合性等が必要になります。
そのため,医師の後遺症が残るとの説明からだけでは,「では,後遺障害の認定を受けられる可能性が高いですね。」と答えられないのです。

後遺障害に関して弁護士をお探しの方は,弁護士法人心にご相談ください。

脳脊髄液漏出症の画像所見等

脳脊髄液漏出症について平成22年度厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業の脳脊髄液減少の診断・治療法確立に関する研究班が脳髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準というものを公表しています。

脳髄液漏出症が疑われる場合には,同基準を参考にして適切な検査を受けると良いと思います。

CRPS

CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは,神経損傷等の後に疼痛が蔓延する症候群のことをいいます。

CRPSか否かの判定は,世界的には,浮腫,皮膚温度異常,発汗異常のいずれかが罹病期間のいずれかの時期に認められればCRPSと判定するとの指標が示されています。
しかしながら,上記指標はCRPSに特異的にあらわれるものではないため外傷性変化等との区別はできずCRPSの疑いのある人を判定する指標にしかならないといわれています。
そこで,日本では厚生労働省CRPS研究班が,日本におけるCRPSの判定指標について研究し報告をしています。
興味がある人は,目を通してみても良いと思います。

なお,CRPS症候群と判定されているか否かは後遺障害の有無の判定の指標ではありません。
後遺障害の判定において重要なのは,傷病名ではなくあくまでも残存している症状になります。

事故と因果関係のある整骨院治療期間は10日ないし14日と認定した裁判例

自保ジャーナルN01977に「高速道路で落下物を避けスピンして受傷した柔道整復師らの事故と因果関係のある整骨院治療期間は10日ないし14日と認定した」裁判例が紹介されていました。

同裁判例では,「柔道整復師による施術費を損害として請求できるためには,原則として,施術を受けることについて医師の指示を要するが,医師の指示がない場合には,施術の必要性・有効性があり,施術内容が合理的であり,施術期間が相当であることの各要件を充足することを要する」とされ,被害者が負った怪我は,頸椎・腰椎等の捻挫・打撲であり「神経学的検査及びレントゲン検査の結果異状は認められず,その症状は専ら自覚症状に止まり,医療機関に受診したのも初診時だけに止まり,受けた治療も消炎鎮痛外用塗布剤の処方に止まること,医師の診断は診断時から10日というものに過ぎなかったことが認められる」として,整骨院での施術費について10日分についてのみ,損害として認定されました。

整骨院への通院は7カ月間に渡っていたものの7カ月間もの施術期間を要した理由は証拠によって明らかでないとして,初診時の診断書に基づいて事故と因果関係のある整骨院治療期間が認定されています。

事故と因果関係のある施術期間はどの程度なのかを立証するためにも整形外科等へも通院し医師診断を定期的に受けることが重要と言えそうです。

加害未成年運転者と同居扶養する父親賠償責任を認めた裁判例

事故ジャーナルNo.1977に「加害未成年運転者と同居扶養する父親に無免許・居眠り逸走事故の賠償責任を認めた」裁判例が載っていました。

未成年者の親に監督義務違反に基づく損害賠償責任が認めらるのは,(1)親が未成年者が交通事故を発生させることを具体的に予見することが可能であり,(2)親が未成年者の子を指導監督することで事故の発生を回避可能であったにもかかわらず,(3)十分な指導監督をしなかった場合です。

紹介されていた裁判例では,父親は,(1)子が自動車の運転に強い関心があり,かつ,無免許運転に対する関心が低いこと,子が昼夜問わず遊びに耽って頻繁に外泊していたことなどを認識していたことからすると本件交通事故を起こすことを具体的に予見できたにもかかわらず,(2)子に対して運転をしてはならないなどを指導しなかったとして父親の監督義務違反を認めました。

未成年者の子が事故を起こした場合には,その親も賠償責任を負うことがありますので,注意が必要です。

骨挫傷

交通事故の案件で診断書をみていると,たまに「骨挫傷」という診断がされている方がいます。

骨挫傷とは,骨内で微細な浮腫・出血・骨折を起こしている状態をいいます。
骨挫傷の特徴としては,単純X線検査写真では描出されず,MRI撮影をして画像上はじめて確認されます。

交通事故に遭われ,強い痛みが続くようであればMRI検査を受けられても良いかと思います。
MRI検査において骨内の微細な浮腫・出血・骨折が発見されれば,他覚所見がある怪我といえ慰謝料を算定する際の有利な事情となりえます。

交通事故に会った際には,適切な検査を受けることが重要となります。

弁護士として適切なアドバイスをできるよう努めていきたいと思っています。

脳脊髄液減少症

交通事故に遭った後,めまい,耳鳴り,起立性の頭痛などの症状が出た場合に脳脊髄液減少症が疑われることがあります。
そのような病態のなかでも、CTやMRIなどで脊髄液の漏出が確実に認められる場合は「脳脊髄液漏出症」と定義しされています。

脳脊髄液減少症を発症したとして後遺障害等級認定などを受けるためには,起立性頭痛の症状が出ていると診断されている必要があります。
起立性頭痛とは,日本神経外傷学会による「外傷に伴う低髄液圧症候群」の診断基準では「頭部全体および・または鈍い頭痛で,座位または立位をとると15分以内に増悪」する頭痛とされています。
したがって,医師に対し頭が痛いと訴え,それを診断書やカルテに記載してもらっているだけでは,脳脊髄液減少症とは認められない可能性が高いです。
起立性頭痛の症状がある場合には,座位または立位で増悪することまでしっかりと伝えておいた方がよいでしょう。

自保ジャーナル(No1967)で紹介されていた大阪地裁平成27年11月11日判決でも,起立性頭痛が認められないとして脳脊髄液漏症の発症が否定されています。

高次脳機能障害

最近相談者から高次脳機能障害についての質問を受けました。

高次脳機能障害とは,事故などで脳に損傷を受け,知覚,記憶,学習,思考,判断などの認知過程に障害が起きた状態をいいます。

交通事故と高次脳機能障害の因果関係は,主に意識障害の有無や画像所見有無から判断されることになります。

交通事故時に頭部を強打され意識を失い,MRI等を撮影した結果脳出血等が発見され,事故前と比べて人格や認知機能に変化が生じたと不安に思っておられる方は,早い段階で一度弁護士に相談してみるといいと思います。

物損

最近,交通事故のご相談の中でも物損についてのご相談受ける機会が多いです。

物損のご相談を受ける中で,悩ましく思うのが,ご相談者様のお車に対するお気持ちをなかなか損害賠償額に反映させられないことです。
物損に関連する慰謝料は,原則として,認められていないため,お車に対するお気持ちが傷つけられたことに対する慰謝料は認められないことが多いからです。

ご相談者様に満足していただけるいい方法がないのか最近特に考えさせられます。

保険会社との示談成立後の請求

「保険会社と示談してしまったが,金額に不満がある。」と相談に来られる交通事故被害者の方がおられます。

示談の内容を見させていただくと,もう少し高い金額で示談できたのではと思うことも多いです。

ただ,一度示談してしまうと示談した金額以上を相手方に請求することは難しいです。
示談する際,双方で交わす書面には通常,「その余の請求は放棄するとともに,示談金額以外に何ら権利・義務関係の無いことを確認する。」といった文言が記載されています。
このような文言が記載された書面に署名捺印をした場合,示談した金額以上を請求しないといった内容の合意が相手方と成立していることになるからです。

保険会社から示談案が送られてきた場合には,じっくりと考えてから署名捺印する必要があります。

また,示談後に症状が悪化した場合には,例外的に示談成立後でも請求できる場合などもあります。

迷われた場合には,弁護士などの専門家に相談してみるのも一つの手だと思います。