素因減額

弁護士として交通事故の相談を被害者の方から受けていると,「保険会社から素因減額の話をされて困っている。」とのお話を伺うことがあります。

 

素因減額とは,交通事故に遭った被害者の方の体質的又は心因的要因が損害の発生や拡大に寄与している場合に,被害者に存在する体質的又は心因的要因を考慮・斟酌して,加害者の賠償額を減額するというものです。

 

どのような要因があれば,被害者の素因が寄与して損害の発生や拡大があったと判断されるのかが問題となります。

体質的要因について参考となる裁判例としては,「被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有していたとしても,それが疾患にあたらない場合には,特段の事情がない限り,被害者の身体的特徴を損害賠償の額を定めるにあたり斟酌できない」としたものがあります(最判平成8年10月29日判決)。

つまり,病的でない身体的特徴は素因減額の対象とならないとの一定の判断基準が示されています。

ただ,ケースによっては,身体的特徴なのか疾患なのか区別が困難なものもあります。

 

さらに心因的要因については,その定義があいまいであることに加え,交通事故に遭った場合,被害者は当然に何らかのストレスを負います。

そのストレスに被害者は影響を受けますが,ストレスに対する反応は人によって多種多様です。

そのため,交通事故により生じたストレスにより何らかの反応が見られる全ての場合に心因的要因があるとして素因減額とするのは適切ではありません。

ストレスに対す反応が多種多様であることを前提に想定される心因的な反応の範囲を外れる例外的な心因的反応のみを心因的要因として捉え素因減額の判断がなされるべきであると個人的には考えます。