後遺障害と後遺障害逸失利益

交通事故により怪我を負い後遺障害が残ってしまった場合,後遺障害逸失利益(後遺障害がなければ将来にわたり得られたであろう利益)の損害評価が問題となるケースがあります。

後遺障害逸失利益の存在自体が争われる際によく問題となるのは,①後遺障害とされた残存症状による労働能力喪失が観念できるか,②症状固定後に事故前と比較し明らかな減収がない場合に損害が観念できるのか,という点です。

 

① 後遺障害とされた残存症状による労働能力喪失が観念できるか

残存症状による労働能力の低下は,「労働省労働基準局長通牒(昭和32.7.2基発第551号)別表労働能力喪失率表を参考とし,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況等を総合的に判断して具体例にあてはめ評価する。」とされています(赤い本2018年上89頁)。

多くのケースでは,上記労働能力喪失表を参考に労働能力喪失率が評価されますが,①外貌醜状,②脊柱変形,③鎖骨変形,④歯牙障害,⑤3cm未満の下肢短縮,⑥味覚・嗅覚障害,⑦脾臓喪失などの残存症状に後遺障害が認定されている場合は,後遺障害による労働能力による影響が労働能力喪失率表より少ないとして労働能力喪失率が低く認定されるケースがあります。

そのため,上記のような残存症状について後遺障害等級認定がなされている場合は,当該残存症状が被害者の収入などに将来的にどのような影響を与える可能性があるかを具体的事情にあてはめ検討主張することが重要となります。

 

② 減収がない場合

後遺障害等級が認定され,計算上は後遺障害逸失利益を計算できたとしても現実には減収がないことがあります。

このような場合,減収がない以上,後遺障害がなければ将来にわたり得られたであろう利益の喪失はないとして,後遺障害逸失利益の発生が否定されるケースがあります。

ただ,減収がない場合であっても,昇級等における不利益,転職時における不利益の可能性,事故前と比較した場合の本人の努力による収入の維持といった諸事情を考慮して後遺障害逸失利益が損害として認められているケースは多いです。

 

後遺障害逸失利益は争点の多い損害項目ですので,弁護士として具体的事情を踏まえた主張をしっかりと行っていきたいと思います。