最高裁平成8年4月25日判決

最判平成8年4月25日判決は、交通事故で後遺障害が残存したあと、当該交通事故とは別の原因で死亡した場合に、後遺障害逸失利益の算定の際に死亡したことを考慮できるかについて判断した判決になります。

同判決は、「逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。」として、考慮すべきではないとの判断を示しました。

その理由としては、「労働能力の一部喪失による損害は、交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているものであるから、交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではない」こと、また、「交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故に寄り生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは、衡平の理念に反することになる。」ことを挙げています。

 

なお、最高裁令和2年7月9日判決は、後遺障害逸失利益の定期賠償を認めるとの判断を示しています。

同判決は、「後遺障害の逸失利益は、不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり、その額の算定は、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないものであるから、将来、その算定の基礎となった後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きな乖離が生ずることもあり得る」とし、「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる」との判断を示しました。

 

上記理由からすると後遺障害逸失利益について定期賠償が認められた後、67歳になるまでに被害者の方が亡くなった場合はどのような扱いになるのか平成8年4月25日判決との関係が気になるとこですが、同判決は、その点について、「上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。」として、平成8年4月25日判決を前提にした判断を示しています。

 

様々な判例があるため、弁護士としてしっかりと把握していきたいと思います。