通勤中や勤務中に交通事故に遭ってしまうことがあります。
通常,交通事故に遭った場合に登場する保険の種類には,①事故の相手方強制加入の保険(自賠責保険),②事故の相手方任意加入の保険(任意保険),③事故に遭った本人加入の人身傷害保険,④健康保険(第三者行為による傷病届提出が必要)などがあります。
通勤中や勤務中の交通事故の場合は,上記のうち④健康保険は登場しませんが,その代わりに⑤労災保険(第三者行為災害届提出が必要)が登場します。
交通事故の相手方が任意保険に入っている場合,労災保険を利用して治療を受けるのが良いのだろうかと疑問に思われる方もいると思います。。
以下では,被害者側にも過失がある場合の労災保険利用のメリットを見ていきたいと思います。
まず,交通事故でけがをした場合に生じる主な損害の項目は,治療費,通院交通費,休業損害,傷害慰謝料になります。
仮に以下のような損害が発生したとします。
1 治療費 60万0000円
2 通院交通費 6000円
3 休業損害 50万0000円
4 慰謝料 120万0000円
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5 合計額 230万6000円
被害者側にも過失があると,生じた損害の合計額のうち,被害者側の過失部分は相手へ請求できません。
たとえば,被害者側に3割の過失がある場合は,以下のとおり,相手へ請求できる損害合計額は161万4200円となります。
1 治療費 60万0000円(42万0000円)
2 通院交通費 6000円( 4200円)
3 休業損害 50万0000円(35万0000円)
4 慰謝料 120万0000円(84万0000円)
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5 合計額 230万6000円(161万4200円)
他方で,労災保険を利用している場合は,労災保険からは,まず,治療費60万円と休業損害36万円(概算)の支払いがなされることになります。
労災保険には,過失がある場合の調整は,損害合計額ではなく各損害項目内でなされるという特徴があります。
そのため,労災保険を利用している場合は,以下のとおり,被害者が受け取れる損害合計額は180万4200円となります。
1 治療費 60万0000円(60万0000円・労災保険費拘束)
2 通院交通費 6000円( 4200円)
3 休業損害 50万0000円(36万0000円・労災保険費目拘束)
4 慰謝料 120万0000円(84万0000円)
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5 合計額 230万6000円(180万4200円)
以上のように被害者側にも過失があるような場合は,労災保険には費目拘束というメリットがあります。
弁護士として各保険の仕組みをしっかりと把握しておきたいと思います。