後遺障害逸失利益の定期金賠償

最高裁令和2年7月9日判決において,従来の裁判例でも比較的,定期金賠償の方法が認められてきていた将来介護費用に加えて後遺障害逸失利益についても定期金賠償の方法が認められました。

 

最高裁令和2年7月9日判決は,被害者が後遺障害逸失利益について定期金賠償の方法を求めており,被害の原状回復と損害の公平な分担という不法行為に基づく損害賠償制度の目的及び理念に照らして「相当」と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となるものと解されるとしています。

ただ,どのような場合に「相当」といえるかは本最高裁判決では明らかにされているとはいえません。

本最高裁判決の原審である札幌高裁平成30年6月29日判決は,個々の事案において定期金賠償を認めることが相当といえるかは,①被害者の年齢や後遺障害の性質や程度,介護状況などに照らし,後遺障害逸失利益については将来の事情変動の可能性が比較的高いといえるか否か,②被害者側が定期金賠償によることを求めており,その求めが,後遺障害や賃金水準の変化への対応可能性といった定期賠償の特質を踏まえた正当な理由によるものであると理解できるか否か,⓷将来の介護費用についても長期にわたる定期賠償が認められており,後遺障害逸失利益について定期賠償を認めても,加害者側において損害賠償債務の支払管理等において特に過重な負担にならないと考えられるか否かなどの事情を総合的に考慮して,定期金賠償を認める合理性があり,これを認めるのが相当といえるかで判断されるとしており,参考となります。

 

後遺障害逸失利益において定期金賠償の方法が認められると,一時金賠償ではなされる「中間利息控除」がなされなくなり,支払われる賠償金の総額が増えるとのメリットがあります。

他方で,判決後の事情の変化により場合によっては途中で賠償額を減額されたり(不利ばかりでなく有利に事情は変化することもあります),長い賠償期間中に加害者の支払い能力が不足したり,若年者の場合,就労可能年齢に達するまで定期賠償が受け取れなかったりするデメリットがあります。

 

交通事故に遭い,重度の後遺障害が生じた場合,後遺障害逸失利益を賠償金を一時金賠償の方法で受け取るのか,定期金賠償の方法で受け取るのか慎重な判断が必要となります。

弁護士として,定期金賠償の方法がどのような事案で「相当」といえるのかしっかりと検討していきたいと思います。