弁護士会の研修

2月ですが、日中はコートを着る必要もないぐらい暖かい日が続いていますね。

大阪弁護士会では、年度ごとに10単位(10時間)の研修を受けることを義務付けられています。

年度ごとに10時間というのは、負担として大きくはありませんが、日々、事務所の仕事に追われていると、ついつい研修の受講が後回しになってしまうことがあります。

 

どのようなテーマの研修に参加するかは、自由に選べます。

大阪弁護士会の会員専用ページから、自身の興味があるテーマの研修に申し込みをし、開催される日に参加します。

ただ、興味があるテーマの研修の日に相談など別の予定が入っている場合は、興味があるテーマでも参加できないことも多いです。

時間の都合上、普段の自身の業務内容とはあまり関係のないテーマの研修に参加することもあるのですが、それはそれで新しい知識を得られ、良い機会になっています。

私は、事務所の案件として交通事故や労災事故を多く扱っているのですが、先日は、相続土地国庫帰属制度等に関する研修に参加しました。

相続を多く扱っていれば、日頃の業務に関わってくることもある制度ですが、交通事故や労災事故では通常関わることのない制度です。

また、法務局が土地の管理不全化を防止するために行っていることなどについても知れ、興味深い研修でした。

 

一括対応終了後の治療費について

交通事故でケガをし、治療が必要な場合、加害者側の任意保険会社が治療費を直接医療機関へ支払ってくれることが多いです。

加害者側の任意保険会社が直接医療機関に治療費を支払い、被害者が窓口で治療費を負担せずに済む対応を「一括対応」と呼びます。

「一括対応」は、当事者間で争いがない範囲で加害者側保険会社が任意で行う対応のため、保険会社に「一括対応」の継続を法的に強制する方法はありません。

 

そのため、まだ治療の必要性がある場合でも「一括対応」が打ち切られてしまうことがあります。

このような場合、被害者側は、打ち切られた後の治療費を窓口で負担しながら治療を継続し、後から加害者側に賠償請求を行うことになります。

「一括対応」が打ち切られた後は、社会保険などを利用して窓口負担を抑えながら通院を継続することになります。

なお、ここで注意が必要なのが、打ち切られた後も通院が必要であれば自身の健康保険を利用して通院を継続してくださいと保健会社などから案内を受けることが多いですが、「一括対応」の打ち切りから症状固定までの間について、通勤災害・業務災害の場合は労災保険を利用する必要があり、健康保険を利用できないことです。

そのため、交通事故の治療として通院を継続する場合は、健康保険を利用できるケースか、労災保険を利用すべきケースか確認する必要があります。

また、健康保険を利用する場合でも労災保険を利用する場合でも第三者行為による傷病届などの提出を忘れないように注意する必要があります。

 

弁護士として、どのような保険が利用できるかしっかりと把握するよう気を付けていきたいです。

2023年

2023年も残すところ僅かとなりました。

今年はいつまでも暖かいと思っていましたが、最近ぐっと寒くなりましたね。

年末に向けて、バタバタしていますが、風邪などひかないように気を付けながら、あともうひと頑張りして、年末を迎えたいと思います。

この1年間を思い返せば、弁護士法人心大阪法律事務所に所属する弁護士やスタッフの人数も増え、いろいろ環境にも変化はあったものの、今年もあっという間に1年が終わるなとの印象です。

 

来年は年女です。

自分の干支が回ってくるとなんだか嬉しい気持ちになります。

ただ、もう12年も経過したと思うと歳をとるスピードは早いなと思ったり、自身の精神年齢の成長は追い付いていないなと思ったり、いろいろな感情が沸き上がります。

毎年の目標など立てると良いのかもしれませんが、何を目標とするのか、なかなか思いつかないところです。

ひとまず、毎年代わり映えしないですが、目の前の問題などに丁寧に向き合い、一つ一つ乗り越えていくことで、その先に成長があればいいなと思います。

 

弁護士として働き始めてから、主に交通事故などで怪我をした人の損害賠償請求事件を担当していますが、まだまだ力不足を実感することがあります。

日々作業をこなすだけにならないよう、気を付けつつ、来年も過ごしたいと思います。

交通事故紛争処理センター

交通事故について、相手方保険会社などと話し合いで解決に至らない場合に利用できる手続きとして、裁判以外にも交通事故紛争処理センターというものあります。

交通事故の当事者が、紛争処理センターを利用するには、まず紛争処理センターに電話をして法律相談の予約をとる必要があります。

そして、予約した法律相談日に紛争処理センターの法律相談担当弁護士が当事者から話を聞き、和解あっ旋が必要と判断すれば、交通事故の相手方保健会社などに出席を要請し、相手方保健会社などが出席すれば和解あっ旋が進められます。

通常3回から4回の期日で担当弁護士があっ旋案を提示し、あっ旋案に当事者双方が同意するとあっ旋成立となります。

あっ旋が成立しない場合は、審査会による審査に進むことがあります。

交通事故紛争処理センターは、令和5年11月20日時点で、全国11か所に拠点が設けており(東京の本部、高等裁判所の所在地に7カ所の支部、さいたま市、金沢市、静岡市の3カ所に相談室)、各拠点で相談やあっ旋が行われています。

交通事故紛争処理センターを利用する利点は、3回から5回程度の手続きで終わるため、裁判に比べて早い解決につながることが多いことです。

ただ、交通事故紛争処理センターは自動車以外の事故の場合は利用できなかったり、双方の主張する事実に大きな差異がある場合は、最初から訴訟を提起した方が良い場合もあったりします。また、時効は中断されませんので注意が必要です。

大阪法律事務所

今年も残すところ2か月と少しかと思うと、あっという間に1年が終わるなとの印象です。

気付けば夏も終わり、秋ですね。

日中はまだ暑い日もありますが、夜は冷えるようになりましたし、さつま芋や栗を使った商品が店頭に並んでいるのを見て、秋を実感しています。

年末に向けて忙しくなることが多いので、気付けば秋も終わり、あっという間に冬になっていそうですが、季節の移ろいなども感じながら過ごしたいですね。。

 

弁護士法人心の大阪法律事務所には、令和5年10月から新しく弁護士が1名増えました。

これで弁護士法人心大阪法律事務所に所属している弁護士は5名となりました。

弁護士だけではなくパラリーガルの人数も徐々に増えてきており、今後ますます大阪法律事務所の環境が整っていくのではないかと思っています。

 

新しく入った弁護士は、私と一緒に交通事故の案件を主に担当する予定です。

前の事務所でも交通事故の案件を扱っていたそうで、大阪法律事務所で一緒に交通事故の案件を取り扱う弁護士が増えて嬉しい限りです。

 

季節の変わり目なので体調を崩さないように気を付けながら、今年もあと少しですので、年内にすべきことは済ませられるよう、年末に向けて、頑張って行こうと思います。

 

最高裁平成8年4月25日判決

最判平成8年4月25日判決は、交通事故で後遺障害が残存したあと、当該交通事故とは別の原因で死亡した場合に、後遺障害逸失利益の算定の際に死亡したことを考慮できるかについて判断した判決になります。

同判決は、「逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。」として、考慮すべきではないとの判断を示しました。

その理由としては、「労働能力の一部喪失による損害は、交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているものであるから、交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではない」こと、また、「交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故に寄り生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは、衡平の理念に反することになる。」ことを挙げています。

 

なお、最高裁令和2年7月9日判決は、後遺障害逸失利益の定期賠償を認めるとの判断を示しています。

同判決は、「後遺障害の逸失利益は、不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり、その額の算定は、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないものであるから、将来、その算定の基礎となった後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きな乖離が生ずることもあり得る」とし、「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる」との判断を示しました。

 

上記理由からすると後遺障害逸失利益について定期賠償が認められた後、67歳になるまでに被害者の方が亡くなった場合はどのような扱いになるのか平成8年4月25日判決との関係が気になるとこですが、同判決は、その点について、「上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。」として、平成8年4月25日判決を前提にした判断を示しています。

 

様々な判例があるため、弁護士としてしっかりと把握していきたいと思います。

自動車の修理費

交通事故で自動車が破損した場合、被害者は加害者に対して、自動車の修理費または時価額を比較して低い方の金額の賠償を請求できます。

自動車の時価額は、レッドブックや中古車市場での流通価格を参考に判断されることが多いです。

修理費については、修理工場の見積もり金額をもとに判断されることが多いですが、修理工場からの見積もりどおりの金額を加害者の保険会社が支払ってくれるとは限りません。

そのため、修理後に相当な修理費がいくらなのかが問題にならないよう実務上では、交通事故被害者が修理工場に自動車を入庫した後、修理に着手する前に加害者の保険会社が自動車の損傷状況について確認し、修理工場と加害者の保険会社とで相当な修理費について打ち合わせをして修理費の協定金額を決めることが多いです。

協定金額の打ち合わせが行われることで、実際の修理費と保険会社から支払われる賠償金に差が生じ、被害者に負担が生じることを防ぐことができます。

しかしながら、修理工場と加害者の保険会社で協定金額を決められず双方の金額が一致しないこともあります。

このような場合は、相当な修理費はいくらなのかを弁護士に依頼して裁判所などで決めてもらう必要があるケースもあります。

交通事故の治療で利用できる保険

交通事故で利用できる保険には、大きく分けると相手方の保険と自分の保険があります。

相手方の保険としては、任意保険と自賠責保険があります。

相手方が任意保険に入っていれば、被害者の治療費は相手方の任意保険が病院に直接支払ってくれるため、被害者は窓口で治療費を支払わなくても良いことが多いです。

相手方が任意保険に入っていない場合や自分の過失割合が大きい場合は、相手方の任意保険は治療費を病院へ直接支払ってくれません。

そのような場合は、自分が加入している自動車保険の人身傷害保険を利用すれば、自分の保険会社が病院へ直接治療費を支払ってくれます。

また、人身傷害保険が利用できない場合でも、相手方が自賠責保険に加入していれば、100%の加害者でない限り相手方の自賠責保険へ負担した治療費を請求すると上限金額はありますが自賠責保険から治療費の支払いを受けることができます。

 

上記の保険の利用に加えて、交通事故の治療でも健康保険や労災保険を利用することができます。

自分にも一定の過失がある場合や相手方が任意保険に入っていない場合は、交通事故でも健康保険又は労災保険を利用して治療を受けた方が良いケースが多いです。

通勤途中や仕事中の事故の場合は労災保険、それ以外の場合は健康保険を利用できます。

詳しくは、弁護士にご相談ください。

「郵便の転居届に係る情報の弁護士会への提供の開始」の件

 交通事故の相手方などに賠償請求を行いたい場合、相手方の居場所を把握する必要がありますが、相手方が交通事故証明書に記載の住所から引っ越しをし、かつ、住民票を引っ越し先に移していない場合などは、相手方の居場所を把握するのは困難なことが多かったのですが、新たに、相手方の居場所を確認する方法として、令和5年6月1日から、弁護士が、弁護士会を通じて、日本郵便に対して、転居届に係る新住所の情報を照会した場合、相手方の転居届に係る新住所の情報の提供を受けられるようになりました。

 

 もちろん、弁護士会を通じた新住所の情報の照会が全て認められるわけではなく、弁護士会が弁護士の照会の申出内容を審査し、DV・ストーカー・児童虐待の事案と関連が疑われるようなケースや照会を通じて新住所の情報を得ることが適当でないと判断した場合は、情報の提供は受けられない手続きとなっています。

 

 交通事故の相手方の居場所が交通事故証明書や住民票で把握できない場合、新住所を確認する手段が新たに増えたことは良いことだと思います。
今後、交通事故証明書や住民票などからでは、相手方の居場所を把握できないような場合は、日本郵便に対する転居届に係る新住所の照会を行ってみたいと思います。

弁護士法人心大阪法律事務所開設2年

弁護士法人心大阪法律事務所が開設して2年が経ちました。

私は、事務所の開設に合わせて、名古屋から関西に戻ってきたのですが、この2年はあっという間でした。

この2年の間に弁護士法人心大阪法律事務所は、弁護士4名、パラリーガル8名の計12名体制となり、4名の弁護士は、借金問題、相続、刑事、交通事故とそれぞれの主な取扱い分野に違いがあり、良いバランスになっているのではないでしょうか。

 

 

弁護士法人心に所属するにあたって、関西から名古屋に引っ越したばかりの頃は、話せばイントネーションで関西出身であることにすぐに気付かれていました。

それが、名古屋で働くうちに関西のイントネーションがすっかり抜けてしまい、今では関西出身であることを指摘されることが少なくなりました。

関西に戻ってきて2年経ち、名古屋で働く前の関西のイントネーションに徐々に戻っていますが、まだ完全には戻ってません。

世の中には、イントネーションを使い分けられる人もいるようですが、私には難しいようです。

どのぐらいの期間をあと大阪で過ごせば関西のイントネーションに戻るのでしょうか、、、

 

 

関西のイントネーションに完全に戻れるようこれからも弁護士法人心大阪法律事務所が存続発展するよう頑張っていきたいと思います!

弁護士法人心大阪法律事務所のホームページはこちら

民事訴訟手続きのオンライン化

令和5年3月1日から民事裁判でWeb会議を利用できる範囲が広がりました。

今までは、民事裁判におけるWeb会議は、当事者双方がWebで参加する場合には、法的には書面による準備手続であったため、準備書面の陳述や証拠調べなどを行うことができませんでした。

Web会議で弁論準備手続きを行うためには、当事者の一方が裁判所に実際に出頭しなければいけまでんでした。

 

令和5年3月1日以降は、当事者双方がともに裁判所に出頭しなくともWeb会議で弁論準備手続を実施できるようになりました。

また、和解期日にも当事者双方がWeb会議で参加することができるようになりました。

 

今回の改正で、当事者が遠隔地に居住していない場合でもWeb会議を利用して裁判手続きに参加できることも明確になりました。

弁護士が事務所などから弁論準備手続などに参加できる幅が広がったことは、裁判所までの移動時間を省くことができるため、業務の効率化につながりますし、移動時間を考慮すると期日の調整が先の日程にしか入らないといったことを防げます。

当事者双方がWebで参加するWeb会議で弁論準備手続や和解期日を実施できるようになったことは、良かったと思います。

 

労災部会

弁護士法人心では、取り扱っている分野ごとに部会があります。

私は、交通事故部会や労災部会などに入っています。

通勤中や仕事中に交通事故に遭った場合は、自賠責保険と労災保険の両方が関わってくるため両方の部会に入っていると労災保険と自賠責保険の両方をカバーできます。

 

先日の労災部会では、「心理的負荷による精神障害の認定基準」について取り扱われました。

私自身は、労災の中でも勤務中や通勤中に怪我をしたケースを扱うことが多く、業務中の心理的負荷により精神障害を発病したといった労災のケースはあまり扱ったことがありません。

そのため、先日の労災部会で心理的負荷による精神障害の認定基準や業務による心理的負荷の評価法について改めてしっかりと把握できたのは良かったです。

 

労災は、勤務中の事故で怪我をした場合や心理的負荷による精神障害以外にも、いわゆる職業病(腰痛、騒音性難聴、化学物質等による疾病)や過労死(脳・心臓疾患)など多岐に認定されます。

それぞれについて労災の認定基準は定められているため、どのような要件を充たしている場合に労災の認定を受けられるのか正確に把握し、労災について適切に対応できるようにしておきたいです。

判例・裁判例を調べる

交通事故で過失割合などについて争いになっている場合、別冊判例タイムズ38号で似た事故類型の過失割合を確認することに加えて、似た事故態様の裁判例がないか調べることがあります。

裁判例を調べるのは、別冊判例タイムズ38号だけでは、過失割合の検討に不十分であったり、裁判所の判断の傾向や類似の事故状況で依頼者に有利な判断をしている裁判例があれば、どのような理由付けで有利な判断がなされたのかを確認し、依頼者に何か有利な主張ができないか検討する際の参考にしたりするためです。

 

裁判例を調べる際は、判例検索サービスを利用しています。

弁護士法人心では、判例秘書、TKCローライブラリー、D1-LAW、westlawjapanなどの複数の判例検索サービスを利用できるようになっています。

それぞれの検索システムで掲載されている裁判例が異なることもあるため、一個の判例検索サービスだけではなく、他の判例検索サービスで似た事故態様の裁判例がないか調べることもあります。

 

交通事故の発生状況ごとに、過失割合は、ある程度類型化されていますが、個別具体的な事故について、事案に即した主張を行うためには、裁判例の調査も重要となります。

大阪で交通事故で弁護士をお探しの方はこちらをご覧ください。

交通事故の慰謝料の算定基準

交通事故でケガをし、治療を受けた場合、加害者側から慰謝料の賠償を受けることができます。

慰謝料は、実務上、通院期間、ケガの程度などを慰謝料算定基準にあてはめて目安金額を算定しています。

慰謝算定基準として良く利用されている基準に、赤い本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)、緑本(大阪地裁における交通損害賠償の算定基準)に掲載されいる基準などがあります。

赤い本は、日弁連交通事故相談センター東京支部が作成しているものであり、緑本は、大阪地裁民事交通訴訟研究会が作成しているものになります。

赤い本の算定基準と緑本の算定基準は異なる部分もあるため、同じ通院期間とケガの程度であったとしてもどの算定基準が採用されるかによって慰謝料の目安金額が異なる場合があります。

大阪では、緑本の基準で慰謝料が算定されることが多く、むち打ちで3か月通院した場合の慰謝料の目安は、赤い本だと53万円ですが、緑本だと48万円程度となります。

賠償額の算定基準が被害者相互間の平等を保つために設けられた趣旨からすると地域によって、慰謝料の目安額が異なる合理的な理由はないように思いますが、地域により採用されている基準が異なっているのが実情となっています。

刑事記録について

交通事故の発生状況に争いがある場合、入手する資料として刑事記録があります。

刑事記録は、捜査中は入手することができませんが、不起訴か起訴かが決まれば、23条照会(弁護士照会)などで入手することができます。

 

民事事件において、入手できる刑事記録の範囲は、不起訴か起訴事件かで異なります。

起訴事件であれば、実況見分調書に加えて、供述調書なども入手できますが、不起訴事件であれば、基本的には、実況見分調書しか入手することはできません(人身事故に切り換えを行っていない場合は、実況見分調書ではなく物件事故報告書が作成されているため、入手できる刑事記録は、実況見分調書ではなく物件事故報告書になります。物件事故報告書は、実況見分調書に比べると事故発生時の状況について詳しく記載されていないため、事故状況を確認する資料としてはあまり役に立たないことが多いです。)。

 

不起訴事件の場合は、基本的には、実況見分調書しか入手できませんが、例外的に民事裁判所から特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされ、かつ、以下の要件を充たす場合は、通達により入手できるとされています。

1 供述調書の内容が、民事裁判の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠である等その証明に欠くことができない場合であること

2 供述者が死亡、所在不明、心身の故障若しくは深刻な記憶喪失等により、民事裁判においてその供述を顕出することができない場合、又は当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること

3 当該供述調書を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障又は関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない場合であること

 

起訴事件か不起訴事件かや人身事故扱いか物件事故扱いかで入手できる刑事記録は異なるため注意が必要です。

 

過失相殺について

交通事故の賠償請求時に、当事者の過失相殺が問題となることがあります。

交通事故被害者は、被害者側にも交通事故の発生について過失があるときは、加害者からは、発生した損害から自身の過失分を差し引いた額しか賠償を受けることができません。

例えば、交通事故により100万円の損害が発生した場合、交通事故の発生について自身に30%の過失がある場合は、交通事故の相手方からは、70万円の賠償しか受けることはできません。

 

交通事故の賠償において過失相殺は、交通事故から発生した損害について、相手方にどの程度負担させるのが「公平」であるのかといった視点で問題とされます。

この点、過失相殺の考え方には、被害者と加害者の事故発生に対する責任(過失)の対比により判断しようとする考え方(相対説)と被害者と加害者の対比ではなく被害者の過失の大小のみを考慮して過失相殺を判断しようとする考え方(絶対説)があります。

相対説の立場に立てば、四輪車と歩行者の間で発生した交通事故について歩行者に4割の過失がある場合には、歩行者が賠償請求する際は4割の過失相殺がなされ、四輪車が損害賠償請求する際は6割の過失相殺がなされますが、絶対説の立場に立てば、歩行者に4割の過失があったとしても四輪車が損害賠償請求する場合に直ちに過失相殺率は6割と決まらないことになります。

 

交通事故の過失相殺は、概ね相対説の立場に立っていると考えられていますが、交通事故の過失相殺を検討する際に実務上利用されている別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」では、歩行者といった弱者と四輪車の間での交通事故の場合は、歩行者の損害について3割の過失相殺がなされた場合に、四輪車の損害について7割の過失相殺率が直ちに妥当するわけではないとしています。

 

過失相殺率をどのように検討するかは、具体的な事故発生状況によっても異なるため、弁護士としては、交通事故被害者の方に適切な賠償を受けてもらえるようしっかりと検討してきたいと思います。

 

最高裁令和4年3月24日判決

交通事故において、自身が契約する人身傷害保険会社から先に保険金を受領した場合、当該保険金を支払った人身傷害保険会社は、交通事故の相手方が加入する自賠責保険に対し求償し、自社が支払った保険金相当額を回収します。

人身傷害保険会社が交通事故の相手方の自賠責保険から受領した自賠責保険金は、交通事故の相手方が負担すべき損害賠償額から控除されるのかという争点について、交通事故の相手方が負担すべき損害賠償額から、人身傷害保険会社が保険金の支払により保険代位することができる範囲を超えて自賠責保険金に相当する額を控除することはできないというべきであるとの最高裁で判決が出ました。

最高裁令和4年3月24日判決は、人身傷害保険の具体的な約款の文言を解釈して判断を示しているため、今後の全てのケースにあてはまるわけではありませんが、人身傷害保険会社の求償の範囲と自賠責保険の問題について、交通事故被害者に寄り添った最高裁の考え方が示されて良かったです。

交通事故には様々は保険の種類が登場し、保険会社等によっても約款の文言が異なる場合もあります。

控除について適切に算定しないと交通事故被害者の方が不利益を被ることになるため気を付けていきたいです。

詳しくは弁護士法人心へご相談ください。

交通事故での健康保険の利用

交通事故で怪我をしたときは、病院で治療を受ける際に健康保険は利用できないと思っている方がいますが、加入している健康保険組合などに「第三者行為による傷病届」を提出するのであれば、交通事故でも健康保険を利用して治療を受けることができます。

 

ただし、交通事故の被害者は、交通事故の相手方から治療費の賠償を受けられるため、あえて健康保険を利用する必要性は乏しいです。

骨折後などに長期のリハビリが必要な場合、健康保険を利用していると手術をした日を起算日として150日で健康保険上の標準的算定日数の上限に達したとしてリハビリが打ち切られてしまうことがあるため(医師が150日以降も状態の改善が期待できると医学的に判断する場合は、リハビリの継続は可能です)、健康保険の利用は慎重に判断する必要があります。

交通事故被害者の方が健康保険を利用した方が良いケースは、交通事故被害者の方にも交通事故発生に関する過失がある場合です。

過失がある場合は、発生した治療費のうち交通事故被害者自身の過失分は被害者自身の自己負担となるため(自賠責保険の120万円の範囲内であれば自己負担とならないケースもあります。)、健康保険を利用せずに自由診療で治療を受けると自己負担額が多くなり、交通事故の相手方から賠償される慰謝料などからの精算額が多くなり、受け取れる賠償額が減ってしまうことがあるためです。

 

保険会社から健康保険の利用を打診され、利用して良いか迷う場合は、弁護士までご相談ください。

なお、通勤途中や勤務中の交通事故の場合は、利用できる社会保険は、労災保険となり、健康保険は利用できませんので、保険会社から健康保険の利用を打診されても誤って健康保険を利用しないよう注意する必要があります。

評価損について

新車で交通事故に遭った場合、車両の機能や外観が修理により元通りになったとしても、事故歴により車の価値が下落した分も損害として賠償してもらいたいと考えることが多いと思います。

上記のような損害は、一般的に「評価損」と呼ばれています。

 

評価損は、交換価値の下落がある場合に認められるため、裁判所の判断の傾向としては、①車両の骨格部分に損傷が及んでいる、②初年度登録からあまり時間が経過していない、⓷走行距離が長くない場合に評価損を認めています。

損傷が骨格部分に及んでいる場合や初年度登録からの時間が経過していない場合は、評価損の請求を検討する必要があります。

なお、評価損の算定は、事故発生直前の車両時価額と修理後の車両時価額の差額を算定できれば一番ですが、当該車両の事故発生直前や修理後の時価額を立証することは困難なため、裁判所では、修理費を基準として評価損が認定している例が多くみられ、おおむね修理費の10パーセントから40パーセントといった評価損を認めています。

 

新車で交通事故に遭い、機能や外観は元通りになったものの、それだけでは納得がいかない場合は、「評価損」を請求できる可能性があります。

ぜひ、弁護士に相談してみてください。

後遺障害等級認定に関する研修②

事務所内で交通事故を担当している弁護士・スタッフ向けに後遺障害等級14級9号に関する研修が再びありました。

今回の研修の講師は、損害保険料率算出機構の元職員ではなく、自賠責調査事務所の職員として実際の認定業務に携わり、後遺障害等級認定業務の豊富な経験を有する当法人の後遺障害申請専任スタッフが担当しました。

 

後遺障害等級認定の申請について、資料を受け取った自賠責調査事務所の担当者は、どのような点に着目して提出された資料を確認しているかなど貴重な話が聞け、とてもためになりました。

加えて、捻挫・打撲による痛みなどの症状が将来的に回復困難な後遺障害といえる状態に至っているかの判断との関係で、治療中に症状の改善傾向がみられたことを自賠責調査事務所の担当者としてどのように捉えているかなどについて興味深い話が聞けて良かったです。

今後の後遺障害等級認定のサポートに活かしていきたいと思います。

 

後遺障害等級認定の研修は、この後も、定期的に開催が予定されています。

後遺障害等級認定業務に携わっていた損害保険料率機構や自賠責調査事務所の元職員から様々な話を詳しく聞ける貴重な機会のため、今後の研修の内容も楽しみです。