労災保険と交通事故

通勤中や勤務中に交通事故に遭ってしまうことがあります。

 

通常,交通事故に遭った場合に登場する保険の種類には,①事故の相手方強制加入の保険(自賠責保険),②事故の相手方任意加入の保険(任意保険),③事故に遭った本人加入の人身傷害保険,④健康保険(第三者行為による傷病届提出が必要)などがあります。

通勤中や勤務中の交通事故の場合は,上記のうち④健康保険は登場しませんが,その代わりに⑤労災保険(第三者行為災害届提出が必要)が登場します。

 

交通事故の相手方が任意保険に入っている場合,労災保険を利用して治療を受けるのが良いのだろうかと疑問に思われる方もいると思います。。

以下では,被害者側にも過失がある場合の労災保険利用のメリットを見ていきたいと思います。

 

まず,交通事故でけがをした場合に生じる主な損害の項目は,治療費,通院交通費,休業損害,傷害慰謝料になります。

仮に以下のような損害が発生したとします。

1 治療費   60万0000円

2 通院交通費    6000円

3 休業損害  50万0000円

4 慰謝料  120万0000円

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5 合計額  230万6000円

被害者側にも過失があると,生じた損害の合計額のうち,被害者側の過失部分は相手へ請求できません。

たとえば,被害者側に3割の過失がある場合は,以下のとおり,相手へ請求できる損害合計額は161万4200円となります。

1 治療費   60万0000円(42万0000円)

2 通院交通費    6000円(   4200円)

3 休業損害  50万0000円(35万0000円)

4 慰謝料  120万0000円(84万0000円)

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5 合計額  230万6000円(161万4200円)

他方で,労災保険を利用している場合は,労災保険からは,まず,治療費60万円と休業損害36万円(概算)の支払いがなされることになります。

労災保険には,過失がある場合の調整は,損害合計額ではなく各損害項目内でなされるという特徴があります。

そのため,労災保険を利用している場合は,以下のとおり,被害者が受け取れる損害合計額は180万4200円となります。

1 治療費   60万0000円(60万0000円・労災保険費拘束)

2 通院交通費    6000円(   4200円)

3 休業損害  50万0000円(36万0000円・労災保険費目拘束)

4 慰謝料  120万0000円(84万0000円)

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5 合計額  230万6000円(180万4200円)

 

以上のように被害者側にも過失があるような場合は,労災保険には費目拘束というメリットがあります。

弁護士として各保険の仕組みをしっかりと把握しておきたいと思います。

警察車両との交通事故

警察車両が車両を追跡などしているときに第三者の車両に衝突し,事故を起こしてしまうことがあります。

このような場合,第三者の車両に乗車していた人は,どのような法的根拠に基づき警察から損害の賠償を受けられるのでしょうか。

 

通常の交通事故の場合は,事故の相手方に対し不法行為に基づく損害賠償請求を行いますが(民法709条など),警察車両との事故の場合は,事故を起こした警察を所轄している都道府県を相手に国家賠償請求を行う必要があります(国家賠償法1条1項)。

国家賠償請求が認められるためには,①公務員が,②その職務を行うことについて,③故意または過失によって,④違法に他人に損害を加えたことを立証する必要があります。

特に④「違法に」との要件を満たすかが問題となることが多いです。

裁判例は,「違法に」との要件を満たすためには,追跡行為などが当該職務目的を遂行する上で不必要であるか,又は,逃走車両の逃走の態様及び走路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし,追跡の開始・継続若しくは追跡の方法が不相当である場合には「違法に」と言えるとしています。

そのため,「違法に」との要件を満たしていないとして国家賠償請求は認められない場合も多いです。

 

 

ただ,警察車両も自賠責保険には加入していますので自賠責保険へ被害者請求を行い治療費や慰謝料などを受け取ることが可能です。

そのため,まずは,自賠責保険から治療費や慰謝料を受け取っていただくのが良いと思われます。

 

交通事故の相手方,警察車両などの公用車の場合は,根拠法や過失割合の考え方も異なるところがあります。

弁護士としてしっかりと対処していきたいと思います。

健康保険利用とリハビリ

交通事故に遭ってしまい怪我をした場合は,病院で治療を受けることになります。

被追突事故など被害者側に全く過失がなく,事故の相手方が任意保険に入っていれば,悩むこともなく,自由診療で治療を受けることが多いと思います。

問題は,被害者側にも一定の過失があるような場合に悩まずに自由診療で治療を受けて良いのかということです。

弁護士として,被害者の方から健康保険の利用について質問を受けることも多いです。

 

 

被害者側にも過失がある場合,治療費などの損害合計額のうち過失割合部分は被害者側の負担になります。

例えば,被害者側に3割の過失がある場合に,治療費が自由診療で300万円もかかったとなると300万円のうち90万円は被害者で負担しなければいけません。

保険会社が,直接病院へ治療費を支払っているような場合は,最終的な賠償の段階で,慰謝料から上記90万円を精算することになります。

そのため,過失がある場合は,健康保険を利用し,治療費の総額を抑えることで,最終的な賠償段階で慰謝料などからの差し引かれる金額を減らす方法を検討する必要があります。

なお,被害者が人身傷害保険に加入しているような場合は,また別です。

 

ただ,反対に過失がある場合に健康保険を利用した方が全てのケースで良いのかというとそうではないと思っています。

健康保険では,上下肢のような運動器に対するリハビリを行う場合は,算定日数の上限が原則150日と定められています(なお,健康保険でもリハビリ継続の必要性があれば上限を超えてリハビリを受けることは可能とされています。)。

そのため,健康保険を利用した通院の場合,通院を開始してから5カ月程度経過したときに,リハビリをこれ以上受けることができないと病院から言われてしまい,回復には,まだリハビリが必要であるにもかかわらず十分なリハビリを受けられなくなるおそれがあります。

したがって,過失割合があったとしても割合が少なく,リハビリをしっかりと行いたいような場合は,健康保険を利用しないことも考えられます(過失がない場合は,健康保険を利用しない方が良いことになります。)。

後遺障害逸失利益2

後遺障害逸失利益は,基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数という計算式が用いられています。

 

基礎収入は,原則として事故前の現実収入が基礎となります。

事業所得者の基礎収入は,事故前年度の確定申告書記載の所得金額を参考にします。

ただ,事業所得者の場合は,申告額と実収入額が異なることがあります。

そのような場合は,実収入額を立証し,実収入額を基礎収入であるととして後遺障害逸失利益を算定することもあります。

 

裁判などでは,確定申告書記載の所得金額が重視されますので,確定申告記載の所得金額が実収入と異なる場合やそもそも確定申告をしていないような場合は,しっかりとした実収入を基礎付ける資料がないと実収入額の立証は難しいことが多いです。

神戸地裁平成29年9月8日判決は,確定申告をしていなかった原告の基礎収入に関し,「売上高や営業利益が判然としない」「事故前,原告の事業は,経費が上回るいわゆる赤字の状態が続いていたことが窺がわれる。」「原告は,月額60万円程度の売上高があり,25%程度の原価等を差し引いて月額平均40万円程度の利益があった旨供述するが,・・・・納品書,領収書,通帳以外に上記供述を裏付ける的確な証拠はなく,上記供述は採用できない。」として,事故前の収入を認定することはできないとし,後遺障害逸失利益の発生を否定しました。

ただ,当該判決は,事業の維持・存続に必要やむを得ない固定経費の支出は休業損害に該当すべきであるとして,事業所の家賃÷30日×休業日数の休業損害を認定しています。

 

事業所得者の基礎収入や休業損害をどのように捉えるかは事業の内容によっても変わってきます。

確定申告書記載の所得金額が実収入と異なる場合は,実収入の立証が難しいことが多いですが,交通事故被害者の方には,実際に実収入を基礎とした損害が生じていますので,事業所得者の方にも適切な賠償金を受け取っていただけるよう努めたいと思います。

交通事故による逸失利益については,弁護士法人心のこちらのサイトもご覧ください。

後遺障害逸失利益

交通事故により負った怪我が治りきらず症状が残ってしまう場合,自賠責で後遺障害等級認定を受けられることがあります。

自賠責で後遺障害等級が認定されると,交通事故の相手方に対する後遺障害慰謝料や後遺障害逸失利益の請求が認められやすくなります。

後遺障害逸失利益とは,後遺障害がなければ将来にわたって得られたであろう利益をいいます。

 

 

一般的に後遺障害逸失利益を計算する場合には,基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数

という計算式が用いられています。

 

基礎収入は,原則として事故前の現実収入が基礎となります。

ただ,後遺障害逸失利益は,将来にわったて得られたであろう利益を問題とするため,将来,現実収入額以上の収入を得られる立証があれば,その金額を基礎収入とすることもできます。

労働能力喪失率については,認定された後遺障害等級によりある程度基礎となる率が決まっています。

例えば,後遺障害等級12級が認定された場合には,労働能力喪失率は14%が一応の目安となります。

 

 

なお,自賠責保険で後遺障害等級が認定されたとしても,必ず後遺障害逸失利益が認定されるわけではありません。

実際には症状が残ったことに起因する減収がない場合や,具体的事情から労働能力が失われていない場合は,後遺障害逸失利益が否定される場合もあります。

千葉地裁平成28年5月17日判決は,自賠責で右足関節機能障害に関し後遺障害等級12級が認定されていた男性について,出張先等にもロードバイクを持参しトレーニングを積んでいたことをもって,継続的に運動をこなしている状況をみると関節痛のために十分に仕事ができないとか,将来にわたり仕事が長続きしないとかの事実は認められないとして行為障害逸失利益を否定しています。

 

弁護士として,後遺障害逸失利益が生じているか案件ごとに丁寧な検討を心がけたいです。

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個人事業主の休業損害と逸失利益

先日,事務所内で交通事故に関する研修がありました。

今回の研修では,発表担当弁護士が,個人事業主の休業損害と逸失利益をどのように把握するかについて発表をしました。

(弁護士法人心では定期的に各分野を取り扱う弁護士ごとに集まり研修を行っています)

 

個人事業主の休業損害や逸失利益は,原則として,確定申告書に基づき算定されます。

確定申告書には,個人事業主の方の所得が全て反映されているはずであるからです。

 

しかしながら,様々な理由から申告していない所得がある場合があります。

このような場合,確定申告書に基づき休業損害や逸失利益を算定したのでは,個人事業主の方に実際に生じた損害を把握できていないことになります。

そのため,個人事業主の方としては,当然,確定申告書に基づいてではなく,実際の所得に基づき休業損害や逸失利益を賠償してもらいたいと考えられる方もおられます。

 

確定申告書記載の所得以上の所得があったと認定されるためには,所得があったことを裏付ける資料が必要となります。

また,単に裏付ける資料があるだけでは足りず,その資料が信用性がある認められるものであることが必要となります。

 

裁判例の中には,確定申告書記載の所得以上の所得を認定したものもありますが,所得があれば申告することが原則のため,確定申告書記載以上の所得があったと簡単には認定されません。

 

今回の研修では,確定申告外の所得を認めた裁判例の発表があり,どのような資料がある場合に確定申告外の所得が認定されるのかの参考にでき,良かったです。

交通事故による休業損害については,こちらもご覧ください。

繊維筋痛症と交通事故

繊維筋痛症診療ガイドライン2013において,繊維筋痛症は,「原因不明の全身疼痛を主症状とし,不眠,うつ病などの精神神経症状,過敏性腸症候群,逆流性食道炎,過活動性膀胱などの自律神経系の症状を随伴」すると説明されています。

 

繊維筋痛症の発症原因は今だ医学的に明らかではありません。

また,繊維筋痛症の診断基準としては米国リウマチ学会が提唱する,繊維筋痛症分類基準(1990)や予備診断基準(2010)といったものがありますが,繊維筋痛症の症状の主体は,自覚症状であり,繊維筋痛症を他の疾患と鑑別し,適切に診断することは難しいことが多いです。

 

そのため,交通事故後に全身疼痛の症状が現れ,繊維筋痛症との診断がなされた場合は,①そもそも繊維筋痛症を発症しているか,②繊維筋痛症を発症しているとして交通事故に遭ったことで発症したのかという点が大きな問題となります。

したがって,交通事故に遭ったことと繊維筋痛症を発症したこととの間に相当因果関係があることを立証することは容易ではありません。

 

交通事故と繊維筋痛症発症との因果関係が争点となった判例のうち,相当因果関係を否定したものとしては名古屋地裁平成26年4月22日判決などがあり,相当因果関係を肯定したものとしては京都地裁平成22年12月2日判決などがあります。

 

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TFCC損傷

交通事故に遭った際,転倒するなどして手首に強い外力が加わるとTFCC(三角繊維軟骨複合体)を損傷することがあります。

手首に強い外力が加わった後,手首の腫れ,握力の低下,持続する手首の運動時痛,手首を外側にひねった時に痛みが生じるといった症状がある場合は,TFCCが損傷している可能性がありますので,注意が必要です。

 

 

TFCCは,それ自体は軟骨で構成されているため,レントゲンには写りません。

そのため,レントゲンしか撮っていない場合,TFCCに損傷が生じていることに気づかないことが多いです。

 

 

手首等の関節部分に生じた痛みは,器質的損傷がないと自賠責で後遺障害が認められ難い傾向があります。

そのため,交通事故により負った傷害により残存してしまった症状について適切な後遺障害の認定を受け,生じた損害に見合った賠償を受けるためには,MRI等の検査を受け手首にTFCC損傷といった器質的損傷が生じているかを確認しておくことが重要となります。

 

なお,TFCC損傷は,交通事故以外の要因でも生じることがあるため,MRI検査の結果TFCCの損傷が発見されたとしても,事故態様等により交通事故とTFCCの損傷との間の相当因果関係が否定される可能性があることには注意が必要です。

 

弁護士として,交通事故被害者の方が適切な損害の賠償を受けられるよう活動していきたいです。

橈骨遠位端骨折

橈骨遠位端骨折は交通事故に遭い転倒したときなどに手をつき負うことが多い怪我です。

橈骨(手首の骨)の遠位端骨折を負った場合に,骨折自体以外に手関節の稼働域と握力の回復にどの程度時間かかるのかが問題となる場合があります。

手関節の稼働域の回復には受傷後(術後)3から6カ月間程度要することが多く,握力の回復には1年程度かかることも少なくないようです(橈骨遠位端骨折診療ガイドライン2012参照)。

 

弁護士として交通事故案件を扱っていると治療期間等が問題となることがあります。適切な治療期間の確保に努めたいです。

事業所得者の休業損害

事業所得者の休業損害は,「現実に収入減があった場合に認められる。」とされています(赤い本)。

 

事業所得者の場合は,収入減がいくらあるのか把握するのが難しいことが多いですが,基礎収入額は事故前年の確定申告所得額によって認定されることが多いです。

ただ,固定費を基礎収入に含めるかといった問題があります。

 

また,事故前年の確定申告所得額から減少した額の全てが,休業損害として認められるのかという問題もあります。

名古屋地裁平成29年1月16日判決では,「売り上げの減少全てが本件事故によるものとは認め難く」「全てが本件事故によるものとは認め難い」として事故前年の確定申告所得額との差額の30パーセントを休業損害と認定しています(自保ジャーナルNo.1996)。

 

事業所得者の休業損害の把握には,様々な問題点があるため,交通事故被害者に被った損害を少しでも回復していただくために更に努めていきたいと思います。

ドアミラー同士の接触と怪我

自動車のドアミラー同士が接触した交通事故の場合,その交通事故と怪我との因果関係が問題となることが多いです。

ドアミラーのみの接触の場合,ドアミラーが折れるなどすることで,車両内の運転手には大きな衝撃が加わらないと考えられています。

そのため,ドアミラー同士の接触しかない交通事故の場合,事故と怪我の因果関係が否定されることが多いです。

 

また,和歌山地裁平成28年12月26日判決では,ドアミラー同士のみ接触した交通事故について,衝突を避けるためにハンドルを切った際に首及び腰に過伸展の動きが生じ,頸椎捻挫及び腰椎捻挫当の傷害を負ったという主張について,ハンドル操作が身体に大きな負荷をかけるものであったとは認められないと判断されています。

 

車両の損傷が軽微な場合は,交通事故と怪我の発生の因果関係を立証できるのか慎重に判断する必要があります。

 

MTBI(軽度外傷性脳損傷)

交通事故に遭うなどして脳に外傷を負った場合,高次脳機能障害が生じることがあります。

高次脳機能障害が認められるためには,①脳損傷があること②高次脳機能障害を疑わせる症状の存在③同症状が脳損傷に起因することが必要です。

 

自賠責保険では,後遺障害に該当するか否かは「労災認定必携」に準拠して判断されています。
「労災認定必携」では,高次脳機能障害に該当する脳損傷があるといえるためには,「脳の器質的病変に基づくものであることから,MRI,CTなどによりその存在が認められることが必要」とされています。
ただ,自賠責保険では「労災認定必携」に準拠して後遺障害等級認定を行っているもののMRI,CTなどにより脳の器質的病変が認められないと絶対に高次脳機能障害に該当する脳損傷があると認定しないとまではされていません。
①事故後の意識障害の有無とその程度,②画像所見,③因果関係の判定(他の疾患(非器質性精神障害等)との識別)という観点を総合して高次脳機能障害に該当する脳損傷が存在するかを判断するとされています。
しかしながら,脳外傷による高次脳機能障害は,脳の器質的損傷の存在が前提となるため,やはり脳の損傷が画像上認められることが非常に重要となります。

 

高次脳機能障害の中で特に問題になるのが,頭部外傷が比較的軽度であるにもかかわらず,高次脳機能障害としての典型的な症状(認知障害,情動障害)が認められるという場合です。
意識障害の程度が軽微であるなど頭部外傷が比較的軽度の場合に発生する脳損傷は,MTBI(軽度外傷性脳損傷)と総称されています。
MTBIについての判断基準としてWHOが2004年に発表した基準があります。
外傷後30分の時点あるいはそれ以上経過している場合は,診察の時点でのグラスコー昏睡尺度得点は13-15(意識レベル軽症)の場合に,①混乱や失見当識②30分またはそれ以下の意識喪失,③24時間以下の外傷健忘期間,④その他の一過性の神経学的異常(けいれん,手術を要しない頭蓋内病変)うちの1つ以上を満たした場合は,MTBIに該当するとされています。

 

しかし,WHOの基準に照らしMTBIに該当するとされたとしても,それのみでは高次脳機能障害であるとは現状では,認定されません。
MTBIについては,裁判上においてもほぼ脳外傷による器質的脳損傷が否定されています。

 

交通事故によって負う傷害は多種多様です。
弁護士として法的な知識のみならず,傷害についても日々学んでいきたいと思っています。

 

弁護士法人心の高次脳機能障害サイトはこちらになります。

中間利息控除

「交通事故に遭い,治療は終了したが重い後遺障害等が残ってしまった。治療中に被った損害だけではなく,交通事故に遭い後遺障害が残らなければ将来的に稼げたであろう金銭も賠償してもらいたい。」と考えられる方も多いかと思います。

 

交通事故に遭わなければ将来にわたって得られたであろう利益のことを逸失利益といいます。
逸失利益は,相手方から損害として賠償を受けることができます。

 

逸失利益は,原則として,「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除係数」という式で計算されます。
今回は,同計算式のうちの中間利息控除係数というものに注目してみたいと思います。

 

逸失利益を計算するに当たり中間利息が控除されるのは,将来において受領するはずの金員を現在受領することから,現在から本来受領するときまでの間に付されるであろう利息分を控除すべきと考えられているためです。
中間利息控除の仕方には,主なものとして複式ホフマン方式と複式ライプニッツ方式という考え方があります。
複式ホフマン係数とは,将来取得する債権額を一定時期ごとに取得するというように考える方式であり,複式ライプニッツ係数とは,将来取得する債権額を一定時期ごとに取得するものとし,利息計算に複利を用いるものをいいます。
現在,実務上ではライプニッツ方式が採用されており,利息は年5%とされています。

 

しかしながら,現在の低金利が続いていることを考えると年5%の中間利息を控除することが妥当なのか疑問が生じます。
改正民法案では今までになかった中間利息控除の条文が設けられています。
また,これまで年5%であった法定利率が3%に変更する内容となっています。

こうした民法上の法定利率の変更や低金利の流れを考慮すると,現状の民法が法定利率を年5%としているからといって中間利息控除を年5%で算定している実務は本当に良いのでしょうか。
民法改正前後で受け取れる逸失利益が大きく異なる結果になるのは不公平な気がします。

 

今後の中間利息控除の考え方について弁護士として注意深く見ていきたいと思います。

通院付添費

交通事故に遭い怪我をしたために通院が必要になったが,1人で通院することができず家族に付き添ってもらった。
家族が付き添いのために時間を使ったことについて事故の相手方に何か請求できないのか?

 

といったように家族が通院に付き添ったことについて事故の相手方に何か請求できないのかと考えられる方も多いと思います。

 

上記のような請求は,一般的に通院付添費という損害として相手方に請求することができます。
ただ,通院付添費を請求した場合に全て損害として認められるわけではありません。家族等の通院への付添の「必要性」が認められた場合に限り損害として認められ支払われることになります。
では,どのような場合に「必要性」があると認められるのでしょうか。

 

幼児・児童は一人で通院できないため,多くの場合通院付添費が認められます。
その他の場合は,医師の指示,傷害の内容,程度等を総合的に判断して付添が必要かどうか判断されます。

 

裁判例の中には,成人した女性が頸部挫傷,左上肢外傷性末梢神経障害等からRSDを発症した事案で,症状や処置の影響で身体がふらつくなどの症状があったと認定して通院日数のうちの一部に付添が必要と判断したものなどがあります。
ちなみに付添看護料は1日2000円から3000円程度とされることが多いです。

 

交通事故に関する弁護士法人心のサイトはこちらをご覧ください。

後遺症と後遺障害

弁護士として多くの交通事故の相談に乗る中で,「医師に後遺症は残るだろうと説明を受けたので,申請すれば後遺障害の認定を受けられますよね。」という質問を受けることがあります。
この質問に対しては,「事故対応や通院状況,怪我の程度を確認しないと後遺障害の認定を受けられるかは,わかりませんと。」としか答えられません。

 

なぜ,医師に後遺症が残ると説明されたのに後遺障害の認定を受けられる可能性が高いと言えないのか疑問に思われる方も多いと思います。
これは,後遺症と後遺障害の定義が異なるからです。

 

 

まず,後遺症は,交通事故によって負った傷害が完全に回復せずに身体等に残った機能障害等の症状を意味します。

 

一方,後遺障害は,交通事故によって負った傷害が完全に回復せずに身体等に残った機能障害等について交通事故との関連性や整合性が認められ,その機能障害等の存在が医学的に証明または説明できるものであり,労働能力の低下が伴い,その程度が自賠責施行令の等級に該当するものを意味します。

 

このように後遺症と後遺障害の定義が異なることから,後遺症が残るとの説明を受けたからと言って,後遺障害の等級の認定を受けられるとは限りません。
後遺障害等級の認定を受けるためには,残ってしまった機能障害等について交通事故との関連性や整合性等が必要になります。
そのため,医師の後遺症が残るとの説明からだけでは,「では,後遺障害の認定を受けられる可能性が高いですね。」と答えられないのです。

後遺障害に関して弁護士をお探しの方は,弁護士法人心にご相談ください。

脳脊髄液漏出症の画像所見等

脳脊髄液漏出症について平成22年度厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業の脳脊髄液減少の診断・治療法確立に関する研究班が脳髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準というものを公表しています。

脳髄液漏出症が疑われる場合には,同基準を参考にして適切な検査を受けると良いと思います。

CRPS

CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは,神経損傷等の後に疼痛が蔓延する症候群のことをいいます。

CRPSか否かの判定は,世界的には,浮腫,皮膚温度異常,発汗異常のいずれかが罹病期間のいずれかの時期に認められればCRPSと判定するとの指標が示されています。
しかしながら,上記指標はCRPSに特異的にあらわれるものではないため外傷性変化等との区別はできずCRPSの疑いのある人を判定する指標にしかならないといわれています。
そこで,日本では厚生労働省CRPS研究班が,日本におけるCRPSの判定指標について研究し報告をしています。
興味がある人は,目を通してみても良いと思います。

なお,CRPS症候群と判定されているか否かは後遺障害の有無の判定の指標ではありません。
後遺障害の判定において重要なのは,傷病名ではなくあくまでも残存している症状になります。

事故と因果関係のある整骨院治療期間は10日ないし14日と認定した裁判例

自保ジャーナルN01977に「高速道路で落下物を避けスピンして受傷した柔道整復師らの事故と因果関係のある整骨院治療期間は10日ないし14日と認定した」裁判例が紹介されていました。

同裁判例では,「柔道整復師による施術費を損害として請求できるためには,原則として,施術を受けることについて医師の指示を要するが,医師の指示がない場合には,施術の必要性・有効性があり,施術内容が合理的であり,施術期間が相当であることの各要件を充足することを要する」とされ,被害者が負った怪我は,頸椎・腰椎等の捻挫・打撲であり「神経学的検査及びレントゲン検査の結果異状は認められず,その症状は専ら自覚症状に止まり,医療機関に受診したのも初診時だけに止まり,受けた治療も消炎鎮痛外用塗布剤の処方に止まること,医師の診断は診断時から10日というものに過ぎなかったことが認められる」として,整骨院での施術費について10日分についてのみ,損害として認定されました。

整骨院への通院は7カ月間に渡っていたものの7カ月間もの施術期間を要した理由は証拠によって明らかでないとして,初診時の診断書に基づいて事故と因果関係のある整骨院治療期間が認定されています。

事故と因果関係のある施術期間はどの程度なのかを立証するためにも整形外科等へも通院し医師診断を定期的に受けることが重要と言えそうです。

加害未成年運転者と同居扶養する父親賠償責任を認めた裁判例

事故ジャーナルNo.1977に「加害未成年運転者と同居扶養する父親に無免許・居眠り逸走事故の賠償責任を認めた」裁判例が載っていました。

未成年者の親に監督義務違反に基づく損害賠償責任が認めらるのは,(1)親が未成年者が交通事故を発生させることを具体的に予見することが可能であり,(2)親が未成年者の子を指導監督することで事故の発生を回避可能であったにもかかわらず,(3)十分な指導監督をしなかった場合です。

紹介されていた裁判例では,父親は,(1)子が自動車の運転に強い関心があり,かつ,無免許運転に対する関心が低いこと,子が昼夜問わず遊びに耽って頻繁に外泊していたことなどを認識していたことからすると本件交通事故を起こすことを具体的に予見できたにもかかわらず,(2)子に対して運転をしてはならないなどを指導しなかったとして父親の監督義務違反を認めました。

未成年者の子が事故を起こした場合には,その親も賠償責任を負うことがありますので,注意が必要です。

骨挫傷

交通事故の案件で診断書をみていると,たまに「骨挫傷」という診断がされている方がいます。

骨挫傷とは,骨内で微細な浮腫・出血・骨折を起こしている状態をいいます。
骨挫傷の特徴としては,単純X線検査写真では描出されず,MRI撮影をして画像上はじめて確認されます。

交通事故に遭われ,強い痛みが続くようであればMRI検査を受けられても良いかと思います。
MRI検査において骨内の微細な浮腫・出血・骨折が発見されれば,他覚所見がある怪我といえ慰謝料を算定する際の有利な事情となりえます。

交通事故に会った際には,適切な検査を受けることが重要となります。

弁護士として適切なアドバイスをできるよう努めていきたいと思っています。