労災保険と確定遅延損害金

交通事故に遭った場合、交通事故の被害者は加害者に対し、不法行為による損害賠償請求を行うことができます。

加害者が負う損害賠償債務は、不法行為の時に発生し、かつ、何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解されています(最判昭和37年9月4日判決)。

そのため、不法行為の時から遅延損害金は発生します。

 

他方で、仕事中や通勤中に事故に遭い、労災保険から治療費、休業損害、障害(補償)給付などの支給を受けた場合、上記不法行為の時から労災保険から保険金が給付されるまでの間の遅延損害金は原則発生しないと考えられています(最判平成22年9月13日判決)。

労災保険から保険金が給付されるまでの間の遅延損害金が発生しないと考えられる理由は、「被害者が不法行為によって傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合においては、不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害につき、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に、不法行為の時におけるその額を算定せざるを得ない。その額の算定に当たっては、一般に、不法行為の時から損害が現実化する時までの間の中間利息が必ずしも厳密に控除されるわけではないこと、上記の場合に支給される労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額をてん補するために、てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、これらが支給され、又は支給されることが確定することにより、そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地からみて相当というべきである。」とされています。

 

上記のように労災保険と自賠責保険のどちらから支払いを受けているかで、確定遅延損害金が発生するか否かの判断が異なります。

それ以外にも各種保険から給付を受けている場合、充当関係、損益相殺などの判断がそれぞれの保険で異なることが多いため、賠償請求時には誤らないよう弁護士として注意していきたいです。