マンション(共同住宅)の部屋の賃貸人が失火により、自室、共用部、他の居室を焼失させた場合の責任

最終更新日2026年9月11日

1 本記事で検討する問題

賃借人が自室から出火し、共用部又は他室に損害を生じさせた場合、賃借人は貸主に対してどのような損害賠償責任を負うのでしょうか。

また、責任を負う場合、賃借人が加入する借家人賠償責任保険によっててん補されるのでしょうか。

2 賃貸人の責任

⑴ 不法行為責任

賃借人が失火で、自室や共用部、他の居室を焼失させてしまった場合、民法709条に基づく損害賠償義務を負わないかが問題となりますが、これについては、失火責任法が適用され、重過失がない限り責任を負いません。

失火責任法

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

参考リンク:失火責任法は不合理か?

⑵ 債務不履行責任

ア 失火責任法の適用はない

債務不履行に基づく損害賠償については、失火責任法の適用はありません(最判昭和30年3月25日民集第9巻3号385頁)。

イ 責任の範囲

賃借人は、失火により賃借している部屋を焼失させ、返還することができなくなっているため、少なくとも、その部屋については、債務不履行責任を負います。

それでは、廊下や他の居室についてはどうでしょうか。

この点について、木造の共同住宅での失火につき、「本件のようなその部屋だけが構造上独立して存在しない共同住宅の部屋の賃貸借の場合には、火災による右賃借物返還義務の履行不能による損害賠償としては、当該賃借部屋のみに限られず、これを維持存立せしめる上において不可分の一体をなす隣接の部屋、廊下等の部分その他階下の部分に対する損害についてもその賠償をなすべき義務あるものと解するのが相当である。」とした裁判例があります(東京高判昭和40年12月14日判例タイムズ188号159頁)。

他にも、東京地判昭和47年12月20日判例時報708号63頁、大阪地判昭和54年7月20日判例タイムズ394号121頁などは、その趣旨の判断を示したものと理解されます。

これに対し、債務不履行責任は賃借部分に限られ、賃借部分外の損害には失火責任法が類推適用されるとする裁判例(東京地判昭和51年3月31日判例タイムズ341号197頁)もありますが、店舗建物の具体的事案に関する下級審判決であり、共用部一般についての確立した基準とまではいえないと考えられます。

結局のところ、共用部の損害の責任範囲は、賃貸借契約の目的物、共用部の利用・管理関係、建物の構造及び損害部位を踏まえて判断せざるを得ないものと考えられます。

3 火災保険

ア 借家人賠償責任保険

借家人賠償責任保険は通常、借用戸室の損壊について貸主に負う法律上の損害賠償責任を対象としています。

民事上の責任が不可分一体の共用部まで及んだ場合、その共用部については、約款上の「借用戸室」には該当せず、その損害は填補されないものと考えられます。

イ 賃貸人側の火災保険

賃貸人が火災保険に入っている場合は、その保険会社が賃貸人に保険金を支払えば、保険会社が、賃貸人から賃借人に対する損害賠償請求権を代位行使できるのですが(保険法25条)、実務上は、約款により、この代位行使がなされないケースが多いものと考えられます。

これについて、各社の約款では以下のとおり定められています。

損保ジャパンの個人用火災総合保険普通保険約款(2026年10月版)では、第2章・第6節・第4条3項において、「被保険者から反対の意思表示があったときは、当会社は、これを行使しないものとします。ただし、借家人(注)の故意または重大な過失によって生じた損害に対し保険金を支払った場合は、当会社は、これを行使します。」としています。

東京海上日動・住まいの保険普通保険約款(2026年10月以降始期用)では、第2章・第7節・第2条3項において、「賃貸借または使用貸借契約に基づき被保険者以外の者が占有する建物を、保険の対象とする場合」について、「被保険者が借家人に対して有する権利を、当会社が取得した場合は、当会社は、これを行使しないものとします。ただし、借家人の故意または重大な過失によって生じた損害に対し保険金を支払った場合は、その権利を行使することができます。」としています。

三井住友海上・住まいの火災保険普通保険約款(2024年10月改訂)では、第3章・第23条3項において、「保険契約者から反対の意思表示がないかぎり、当社はこれを行使しないものとします。ただし、借家人の故意または重大な過失によって発生した損害に対し保険金を支払ったときを除きます。」としています。