私文書偽造罪は「嘘を書く罪」ではない|有印私文書偽造・同行使罪の基礎

1 「偽造」とは、内容が虚偽という意味ではない

文書偽造というと、虚偽の内容の書類を作成することをイメージされる方もいるかもしれません。
しかし、刑法上の偽造は、「内容」ではなく、「作成名義」を偽ることです。
例えば、Aさん名義の借用書を勝手にBさんが作成したという場合は、偽造に当たります。
借用書の内容が真実であった(Aさんは実際にお金を借りていた)としても、Bさんが勝手にその借用書をAさん名義で作成したのであれば、それは偽造だということになります。

2 代筆は偽造になるのか?

それでは、他人の名前を代わりに書いた場合には偽造になるのでしょうか。
これについて、他人の名前を書いたからといって、直ちに偽造になるものではなく、作成権限、名義人本人の承諾の有無、文書の性質などによって、結論が変わります。
例えば、契約書について、本人の手が不自由であったため、本人の承諾のもと、別の人が署名を代書したというような場合には、通常は偽造に当たらないと考えられます。

3 どのような文書でも私文書偽造罪になる?

私文書偽造罪が対象としているのは、「権利、義務若しくは事実証明に関する文書」です。
例えば、契約書、請求書、婚姻届、養子縁組届、履歴書、推薦状などがこれに該当します。
他方で、個人的な日記、時候の挨拶状などはこれに該当しません。

4 有印とは

私文書偽造罪には、有印私文書偽造罪と無印私文書偽造罪があります。
「他人の印章若しくは署名を使用」した偽造の場合は、有印私文書偽造罪となり、罪が重くなります。
有印私文書偽造罪の法定刑が「三月以上五年以下の拘禁刑」であるのに対し、無印私文書偽造罪の法定刑は「一年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金」とされています。

5 行使の目的が必要

私文書偽造罪が成立するためには、「行使の目的」が必要です。
真正な文書として他人に認識させる目的がなかった場合には、偽造文書を作ったとしても私文書偽造罪は成立しません。
例えば、ドラマ撮影のための小道具として他人名義の契約書を作ったような場合、実社会で本物の契約書として用いる意図ではないため、私文書偽造罪は成立しません。
弁護士が研修用の教材として他人名義の契約書の見本を作成することもありますが、これも実社会で本物の契約書として用いる意図ではないため、私文書偽造罪は成立しません。

6 偽造私文書等行使罪

私文書偽造罪とは別に、偽造私文書等行使罪という犯罪があります。
自分で私文書を偽造し、かつ、それを行使したというような場合には、両方の犯罪が成立しますが、偽造は自分でしていないというケースもあります。
例えば、闇サイトで入手した偽造の源泉徴収票を住宅ローン審査のために銀行に提出して融資を受けたという場合は、自分では偽造はしていませんが、行使はしているため、偽造私文書等行使罪が成立します(これとは別に詐欺罪も成立すると考えられます。)。

美人局と強盗・恐喝

先日、名古屋市内のホテルで殺人事件があり、警察が、実行役とみられる男女2人を強盗殺人容疑で逮捕し、指示役とみられる男1人が恐喝容疑で逮捕したとの報道がなされています。

なぜ逮捕の被疑事実が異なるのかについて、強盗と恐喝の違いにも触れつつ、考えてみたいと思います。

 

1 強盗と恐喝の違い

強盗と恐喝は、いずれも、暴行・脅迫によって相手から財物を交付させるという点で、類似する犯罪類型です。

両罪の違いは、相手の犯行を抑圧する程度の暴行・脅迫がなされたか否かです。

相手の犯行を抑圧する程度の暴行・脅迫がなされた場合には「強盗」、そこまでは至っていない場合には「恐喝」となります。

これを判断する際には、場所、時刻、周囲の状況、体格、年齢など様々な要素が考慮されます。

 

2 美人局は恐喝?強盗?

上記名古屋の事件でどのような行為がなされたのかは現時点で明らかにされていませんが、一般論として、「会社にバラす」「警察に通報する」などと脅したような場合には、通常、「恐喝」に当たるものと考えられます。

また、暴行がなされたとしても、犯行を抑圧する程度のものでなければ、「恐喝」に当たります。

 

3 実行役が相手を殺害してしまったらどうなるか?

指示役から実行役に対して、どのような指示がなされていたかがポイントとなります。

これについても、上記名古屋の事件でどのような指示がなされていたのかは現時点で明らかにされていませんが、例えば、指示役が、「金を出さなければ美人局について会社にバラすと脅せ。ただし、相手に怪我はさせるな。」と指示していたが、実行役が、自分の判断で、相手を殺害してしまったというような場合であれば、実行役には強盗殺人罪が成立するのに対し、指示役には恐喝罪しか成立しない可能性が高いと考えられます。

他方で、極端な例ですが、指示役が、「金を出さなければ美人局について会社にバラすと脅せ。それでも応じなければ殺せ。」と指示していたような場合であれば、実行役にも指示役にも強盗殺人罪が成立する可能性が高いと考えられます。

「大麻」に関する「麻薬及び向精神薬取締法」の改正

これまで、大麻の所持等については、大麻取締法で規制されていましたが、昨年12月の法改正により、今後は、「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されることになりました(施行時期は2024年中のようです。)。

改正された「麻薬及び向精神薬取締法」では、2条1号の麻薬の定義として「麻薬 別表第一に掲げる物及び大麻をいう。」と「大麻」が追加され、また、2条1号の2に「大麻 大麻草の栽培の規制に関する法律(昭和二十三年法律第百二十四号)第二条第二項に規定する大麻をいう。」と大麻の定義も追加されました。
麻薬及び向精神薬取締法66条1項は、「ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持した者(第六十九条第四号若しくは第五号又は第七十条第五号に規定する違反行為をした者を除く。)は、七年以下の懲役に処する。」とされており、この「麻薬」に、上記のとおり、「大麻」が含まれることになりましたので、今後は、大麻の所持等もこの条文が適用されることになります。
これまで、営利目的でない大麻の単純所持は、大麻取締法24条の2で「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」とされており、5年以下の懲役でしたが、改正された麻薬及び向精神薬取締法の施行後は、7年以下の懲役に厳罰化されることになります。

また、大麻の使用については、麻薬及び向精神薬取締法27条1項本文で「麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。」とされ、同法66条の2において、「第二十七条第一項(中略)に違反した者は、七年以下の懲役に処する。」とされていることから、単純所持と同じく7年以下の懲役になります。

大麻規制の背景については、「大麻使用罪の創設と若者の大麻蔓延」をご覧ください。

薬物関係の刑事事件については、刑事弁護に詳しい弁護士にご相談ください。

大麻使用罪の創設と若者の大麻蔓延

1 大麻使用罪の創設
2023年12月6日に、大麻取締法が改正され、「大麻使用罪」が創設されました。
これまで、大麻取締法では、「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」(大麻取締法24条の2第1項)とされ、「使用」自体は犯罪になっていませんでした。
もっとも、これまでも、大麻をみだりに、「所持」することが犯罪となっていましたので、使用するために所持した時点で犯罪となったのですが、今回の改正で、より直接的に、「使用」が犯罪となりました。
なお、施行は、2024年になるようです。

2 大麻取締法改正の背景
今回の法改正の背景には、大麻の広がり、特に若者の間での蔓延があります。
犯罪白書によると、大麻取締法違反で警察が検挙した人数は、2000年は1224人であったのに対し、2010年には2367人、2020年には5260人、2021年には5783人と増加傾向にあります(もう少し厳密にみると、2009年に3087人と一旦当時のピークを迎えてから、2013年に1616人まで減少しますが、その後再び増加に転じ、2017年には3218人と以前のピークを越え、その後も増加し続けています。)。
大麻取締法違反で警察が検挙した人数を年代別にみると、以下のとおり、20代以下の若者の間で、大麻が蔓延していることが窺えます。
20歳未満:81人(2011年)→ 994人(2021年)約12.3倍
20代:805人(2011年)→ 2823人(2021年)約3.5倍
30代:510人(2011年)→ 984人(2021年)約1.93倍
40代:185人(2011年)→ 507人(2021年)約2.74倍
50歳以上: 67人(2011年)→ 174人(2021年)約2.6倍
参考リンク:法務省・令和4年版犯罪白書

このように、若者を中心に大麻が広がっている中で、大麻所持で検挙された人の7~8割が、大麻の使用罪が無いことを認識していたという調査結果もあり、大麻の使用罪が無いことが「大麻を使用してもよい」というメッセージになっているという懸念があり、大麻使用罪が創設されたものと考えられます。
参考リンク:第210回国会厚生労働委員会第7号

3 大麻取締法改正による影響
まず、大麻使用罪の創設によって、大麻の使用が犯罪であるという明確なメッセージが出されたことで、大麻使用への心理的なハードルが上がり、大麻を使用する人が減るものと考えられます。
また、刑事実務上も、例えば、尿検査の結果から大麻の「使用」が明らかとなった場合、「所持」について明確な証拠がなくても、立件される可能性が高くなるなど、大麻に関して従来よりも広く処罰されるようになるものと考えられます。
さらに、法改正で、大麻について厳しく対処していくという国の姿勢が明確になったことにより、起訴・不起訴の判断、起訴された場合の執行猶予の有無、量刑などが従来よりも厳しくなると思われますので、弁護士としても対応に注意が必要です。