企業倒産が増える要因

企業の倒産件数が増加していることがよく報道されていますが、実際、弁護士への相談も増加しているように思います。
倒産が増える要因としては、①コロナ前と比べて売上が伸びていない(企業が多い)、②コストが増加した、③コロナ融資を返済しなければならないという3点が大きいのではないかと思います。
まず、①コロナ前と比べて売上が伸びていない(企業が多い)という点については、例えば飲食業においては、「コロナ禍で常連さんが離れてしまい戻って来ない」「忘年会などの飲み会が以前よりも減った」など、コロナによる影響が残っているケースも少なくありません。
次に、②コストが増加したという点についてですが、円安や戦争、燃料価格の高騰等により物価が上がっていることに加えて、最近は人件費も上がっており、商品・サービス価格に転嫁ができていない企業にとっては、大きな負担になっています。
最後に、③コロナ融資を返済しなければならないという点については、上記のように、売上が伸びていない一方で、コストが増加している企業も多く、返済が厳しい状況です。
今年4月にコロナ融資の返済が始まるという企業も多く、倒産の更なる増加が懸念されます。

相続登記の義務化について

2024年4月から相続登記が義務化されますので、以下にまとめました。
やや複雑な制度になっていますので、ご不明な点等がありましたら、弁護士等の専門家にお尋ねください。

1 2つの登記

⑴ 登記①

「自己のために相続の開始があったこと」かつ「当該所有権を取得したこと」を知った日から3年以内に、所有権移転の登記の申請(登記①)が必要とされています(改正不動産登記法76条の2第1項)。

⑵ 登記②

遺産分割があったときは、遺産分割の日から3年以内に登記の申請(登記②)が必要とされています(同条第2項)。

⑶ 小括

相続から3年以内に遺産分割ができる場合には、遺産分割後に登記をすれば、1つの登記で登記①、登記②を兼ねられます。
他方で、相続から3年以内に遺産分割ができない場合には、まず、法定相続分で登記①をした上で、その後、遺産分割が完了してから更に登記②をすることになりそうですが、この場合には、登記①の申請義務を免れることができる申出制度があります。

2 申出制度について

登記①の申請に代えて、登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨及び自らが当該所有権の登記名義人の相続人である旨を申し出ることで、登記①の申請義務を履行したものとみなされます(同法76条の3第1項、2項)。
この申出は、共同相続人がいる場合でも単独で行うことが可能です。
また、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要です。
なお、申出後に、遺産分割がなされたら、遺産分割の日から3年以内に登記の申請(登記②)が必要です(同法76条の3第4項)。

3 相続登記を怠った場合の過料

相続登記に関して、「正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する」とされています(同法164条)。
もっとも、法務局から登記申請義務違反者に対して「催告」がなされ、催告に従って登記申請をすれば、過料は科されないという運用がなされるようです(改正不動産登記規則187条(不動産登記規則等の一部を改正する省令(令和5年法務省令第33号)より改正))。
※上記はあくまでも当記事執筆時点での規則で、変更がなされる可能性がありますので、ご注意ください。

4 正当な理由

また、「正当な理由」の有無については、認められる類型として以下の場合が想定されていますが、これらに限られるものではありません(法務省民二第927号令和5年9月12日)。
・相続登記等の申請義務に係る相続について、相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
・相続登記等の申請義務に係る相続について、遺言の有効性や遺産の範囲等が相続人等の間で争われているために相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
・相続登記等の申請義務を負う者自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
・相続登記等の申請義務を負う者が配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(平成13年法律第31号)第1条第2項に規定する被害者その他これに準ずる者であり、その生命・心身に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
・相続登記等の申請義務を負う者が経済的に困窮しているために、登記の申請を行うために要する費用を負担する能力がない場合

「大麻」に関する「麻薬及び向精神薬取締法」の改正

これまで、大麻の所持等については、大麻取締法で規制されていましたが、昨年12月の法改正により、今後は、「麻薬及び向精神薬取締法」で規制されることになりました(施行時期は2024年中のようです。)。

改正された「麻薬及び向精神薬取締法」では、2条1号の麻薬の定義として「麻薬 別表第一に掲げる物及び大麻をいう。」と「大麻」が追加され、また、2条1号の2に「大麻 大麻草の栽培の規制に関する法律(昭和二十三年法律第百二十四号)第二条第二項に規定する大麻をいう。」と大麻の定義も追加されました。
麻薬及び向精神薬取締法66条1項は、「ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持した者(第六十九条第四号若しくは第五号又は第七十条第五号に規定する違反行為をした者を除く。)は、七年以下の懲役に処する。」とされており、この「麻薬」に、上記のとおり、「大麻」が含まれることになりましたので、今後は、大麻の所持等もこの条文が適用されることになります。
これまで、営利目的でない大麻の単純所持は、大麻取締法24条の2で「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」とされており、5年以下の懲役でしたが、改正された麻薬及び向精神薬取締法の施行後は、7年以下の懲役に厳罰化されることになります。

また、大麻の使用については、麻薬及び向精神薬取締法27条1項本文で「麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。」とされ、同法66条の2において、「第二十七条第一項(中略)に違反した者は、七年以下の懲役に処する。」とされていることから、単純所持と同じく7年以下の懲役になります。

大麻規制の背景については、「大麻使用罪の創設と若者の大麻蔓延」をご覧ください。

薬物関係の刑事事件については、刑事弁護に詳しい弁護士にご相談ください。

大麻使用罪の創設と若者の大麻蔓延

1 大麻使用罪の創設
2023年12月6日に、大麻取締法が改正され、「大麻使用罪」が創設されました。
これまで、大麻取締法では、「大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。」(大麻取締法24条の2第1項)とされ、「使用」自体は犯罪になっていませんでした。
もっとも、これまでも、大麻をみだりに、「所持」することが犯罪となっていましたので、使用するために所持した時点で犯罪となったのですが、今回の改正で、より直接的に、「使用」が犯罪となりました。
なお、施行は、2024年になるようです。

2 大麻取締法改正の背景
今回の法改正の背景には、大麻の広がり、特に若者の間での蔓延があります。
犯罪白書によると、大麻取締法違反で警察が検挙した人数は、2000年は1224人であったのに対し、2010年には2367人、2020年には5260人、2021年には5783人と増加傾向にあります(もう少し厳密にみると、2009年に3087人と一旦当時のピークを迎えてから、2013年に1616人まで減少しますが、その後再び増加に転じ、2017年には3218人と以前のピークを越え、その後も増加し続けています。)。
大麻取締法違反で警察が検挙した人数を年代別にみると、以下のとおり、20代以下の若者の間で、大麻が蔓延していることが窺えます。
20歳未満:81人(2011年)→ 994人(2021年)約12.3倍
20代:805人(2011年)→ 2823人(2021年)約3.5倍
30代:510人(2011年)→ 984人(2021年)約1.93倍
40代:185人(2011年)→ 507人(2021年)約2.74倍
50歳以上: 67人(2011年)→ 174人(2021年)約2.6倍
参考リンク:法務省・令和4年版犯罪白書

このように、若者を中心に大麻が広がっている中で、大麻所持で検挙された人の7~8割が、大麻の使用罪が無いことを認識していたという調査結果もあり、大麻の使用罪が無いことが「大麻を使用してもよい」というメッセージになっているという懸念があり、大麻使用罪が創設されたものと考えられます。
参考リンク:第210回国会厚生労働委員会第7号

3 大麻取締法改正による影響
まず、大麻使用罪の創設によって、大麻の使用が犯罪であるという明確なメッセージが出されたことで、大麻使用への心理的なハードルが上がり、大麻を使用する人が減るものと考えられます。
また、刑事実務上も、例えば、尿検査の結果から大麻の「使用」が明らかとなった場合、「所持」について明確な証拠がなくても、立件される可能性が高くなるなど、大麻に関して従来よりも広く処罰されるようになるものと考えられます。
さらに、法改正で、大麻について厳しく対処していくという国の姿勢が明確になったことにより、起訴・不起訴の判断、起訴された場合の執行猶予の有無、量刑などが従来よりも厳しくなると思われますので、弁護士としても対応に注意が必要です。

時効の完成後に支払督促や裁判上の請求を受けたが放置し、仮執行宣言付支払督促や判決が確定した場合

1 時効の完成猶予・更新
時効完成前に、債権者から「裁判上の請求」や「支払督促」などを受けた場合には、その事由が終了するまでの間は、時効は完成せず(民法147条1項)、これを「時効の完成猶予」といいます。
また、上記の場合において、「確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したとき」は、上記事由が終了した時から新たに時効が進行することになり(同条2項)、これを「時効の更新」といいます。
また、債務者が、債務の存在を認めたり、一部の弁済をしたような場合にも、「権利の承認があった」として、時効が更新されます(同法152条1項)。
ここでのポイントは、これらの条文は、時効の完成前であることを前提としているという点で、時効の完成後には、これらの条文は適用されません。
それでは、時効の完成後に、①債務を承認した場合、②債権者から支払督促がなされ、放置していたところ、仮執行宣言付支払督促が確定してしまった場合、③債権者から裁判上の請求を受けたものの対応せず、判決が確定してしまった場合は、それぞれどうなるのでしょうか。
以下、順に考えていきます。

2 ①時効の完成後に、債務を承認した場合
この場合は、 最判昭和41年4月20日民集第20巻4号702頁において、「その債務についてその完成した消滅時効の援用をすることは許されない」とされており、その理由として、「時効の完成後、債務者が債務の承認をすることは、時効による債務消滅の主張と相容れない行為であり、相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えるであろうから、その後においては債務者に時効の援用を認めないものと解するのが、信義則に照らし、相当であるからである」とされています。

3 ②時効完成後に、債権者から支払督促がなされ、放置していたところ、仮執行宣言付支払督促が確定してしまった場合
このような場合には、債務者としては、請求異議の訴えにおいて、時効の援用をすることが考えられます。
これが信義則に反して許されないのではないかという点が問題となり得ますが、宮崎地判令和2年10月21日では、支払督促の手続きの中で時効の援用をしなかったことについて、「そのような消極的対応は、時効による債務消滅の主張と相容れないものとまではいえず、それゆえ、本件貸金債権の消滅時効の援用は、信義則に反するとはいえない」として、消滅時効の主張を認めています。

4 ③時効完成後に、債権者から裁判上の請求を受けたものの対応せず、判決が確定してしまった場合
この場合には、債務者としては、債務不存在確認訴訟や請求異議の訴えにおいて、時効の援用をすることが考えられます。
しかし、この場合は、支払督促の場合とは異なり、債務者の主張は認められません。
なぜなら、確定判決には「既判力」(民事訴訟法114条1項)があり、前訴の訴訟物である権利義務関係についてはもはや争うことができないからです。
なお、支払督促について、民事訴訟法396条は、仮執行宣言付支払督促が確定したときは、「確定判決と同一の効力を有する」としているのですが、ここでいう効力に「既判力」は含まれないと解釈されますので、支払督促の場合には既判力による遮断が生じず、時効の主張ができるという結論を導き出すことが可能です。

5 消滅時効に関するご相談
消滅時効に関しては、制度を理解するのが必ずしも容易ではなく、判断を誤った場合の不利益も多いですので、具体的な問題でお悩みの際は、弁護士にご相談されるのがよいかと思います。

孤独死と相続放棄

近年、一人暮らしの高齢者が増加していることもあってか、「孤独死」の問題がメディア等でよく取り上げられています。
孤独死について、弁護士が関わることが多いものとして、「相続放棄」があります。
孤独死であっても、法律上、相続人がいれば相続がなされますが、相続人が相続をしたくないというケースがあります。
例えば、亡くなった方が財産よりも負債の方を多く抱えていたというケースや、また、亡くなった方が賃貸アパート等に住んでいて、孤独死のため発見が遅れてしまい、高額な特殊清掃費用を請求されるというケースなどがあります。
相続人は、遺産を処分等してしまうと、相続を「単純承認」したとして、もはや相続放棄ができなくなってしまう恐れがありますので、相続放棄をしようとする場合には要注意です。
参考リンク:相続放棄が認められないケース
孤独死の場合、警察や賃貸アパートの大家さん等から相続人に突然連絡が来ることがありますが、相続放棄をする可能性がある場合には、早めに弁護士に相談するなど慎重な対応をすることをおすすめいたします。

消滅時効に関する注意点

「時効」というと、「窃盗罪は7年で時効になる」というように、刑事上の時効を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、民事上も時効の制度があり、その一つが「消滅時効」です。
消滅時効というのは、一定期間、権利を行使していないと、権利が消滅するというものです。
借金をしている方からすると、借金を返さずに一定期間経過すれば、借金を返さなくてもよくなることがあるということです。
ただ、気を付けなければならないのは、消滅時効については、「更新」(以前は「中断」といわれていました。)があり、例えば、債権者から裁判上の請求を受けた場合には、消滅時効は更新され、また、時効期間のカウントがゼロからスタートすることになります。
また、時効の「完成猶予」というのもあり、例えば、債権者から催告を受けると、そこから6か月間は時効の完成が猶予されます。
さらに、時効の利益の放棄というのもあり、一定期間が経過し、時効が完成したとしても、返済等をしてしまうと、時効の利益を放棄したとして、もはや時効を主張することが認められなくなってしまう可能性があります。
債務者側が、時効を主張する際には、慎重に検討する必要がありますので、弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

「及び」と「並びに」の違い

法律の条文には、「及び」と「並びに」が頻繁に登場するため、弁護士としてはよく目にする単語です。
今回は、その意味の違いについて見ていきたいと思います。
ポイントは、「並びに」が大きい括りで、「及び」が小さい括りという点です。

「A及びB並びにC」という場合、大きい括りとして「A及びB」と「C」が並列関係にあり、小さい括りとして「A」と「B」が並列関係にあります。

具体例として、使用貸借の解除に関する民法598条について考えます。
「当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも契約の解除をすることができる。」
これは、まず、大きい括りとして、「使用貸借の期間」と「使用及び収益の目的」が「並びに」で並列に括られています。
そして、後者の「使用及び収益の目的」は、小さい括りとして、「使用」と「収益」が「及び」で並列に括られています。

次に、もう少し複雑な構造になっている憲法7条5号について考えます。
憲法7条5号は、天皇の国事行為として、以下の事項を定めています。
「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。」
まず、大きな括りとして、「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免」「全権委任状及び大使及び公使の信任状」があり、これら2つが「認証すること」に係っています。
そして、「国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免」には、小さな括りとして、「国務大臣」「法律の定めるその他の官吏の任免」があり、また、「全権委任状及び大使及び公使の信任状」には、「全権委任状」「大使及び公使の信任状」があります。
さらに、「大使及び公使の信任状」は、「大使」「公使」が及びで括られており、これらが「信任状」にかかります。

ちなみに、英訳を見ると、
Attestation of the appointment and dismissal of Ministers of State and other officials as provided for by law, and of full powers and credentials of Ambassadors and Ministers.
となっており、「及び」「並びに」の計4つがすべて”and”になり、さらに「任免」も”appointment and dismissal”と”and”が用いられることから、合計5つの”and”が登場して、難解です。

エスカレーターでの歩行禁止【名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例】

1 エスカレーターでの歩行禁止の条例制定の背景

2023年10月1日から、「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が施行され、名古屋市内ではエスカレーター上で歩くことが条例上禁止されることになります。

⑴ 全国のエスカレーター事故の状況

エスカレーター事故に関しては、一般社団法人日本エレベーター協会が、5年ごとにエスカレーターの事故等について調査をしており、直近に行われた2018年1月~2019年12月の2年間において、全国で発生した1,550件のエスカレーター事故のうち805件が乗り方不良によるものとされています。

乗り方不良には、「手すりを持たずに転倒する」、「踏段の黄色の線から足をはみ出し挟まれる」、「踏段上を歩行しつまずき転倒する」、「手すりから体をはみ出し挟まれる」、「逆走して転倒する」といったものがあります。

参考リンク:一般社団法人日本エレベーター協会・エスカレーターにおける利用者災害の調査報告(第9回)

⑵ 名古屋市のエスカレーター事故の状況等

名古屋市では、2021年には、エスカレーター関係での救急隊出動事案が133件発生しています。

また、名古屋市が実施した市内10か所における実態把握調査によると、エスカレーターを歩いて又は走って利用している割合は21.3%であったとのことで、エスカレーターで立ち止まることが十分には根付いていないものと考えられます。

一方で、市民等から、「歩行をやめさせてほしい」、「歩いてきた人がぶつかり転落しそうになった」などの意見等が名古屋市に寄せられていることもあり、エスカレーターの安全利用に関する意識向上や、関係者一丸となった取り組みの促進などのために、条例制定に至ったものと考えられます。

参考リンク:名古屋市・エスカレーターの安全な利用の促進について(答申)

2 条例の概要

条例の条文について見てみますと、第8条で「利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの踏段(人を乗せて昇降する部分をいう。)上に立ち止まらなければならない。」として利用者の義務が定められ、第9条で「管理者等は、利用者に対し、前条に規定する方法によりエスカレーターを利用するよう周知しなければならない。」として管理者の周知義務が定められ、第10条で「市長は、エスカレーターの安全な利用の促進のため必要があると認めるときは、管理者等に対し、必要な指導又は助言を行うことができる。」として市長による指導・助言が定められています。

参考リンク:名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例

この条例には、罰則がないことから、どこまで実効性があるのかが難しいところですが、これを機に市などによる啓発活動が行われ、それが報道等されることにより、エスカレーターでの歩行の危険性の認識が広がっていくことが期待できるのではないかと思います。

刑事事件における自首について

1 自首とは
犯罪に該当する行為をしてしまった方から、弁護士に、自首を考えているというご相談が時々あります。
「自首」というのは、日常でも使われる言葉ですが、刑法の条文でも用いられている法律用語でもあり、刑法上の「自首」は、日常用語として用いられる場合よりも狭いのではないかと思います。
刑法上の「自首」といえるためは、「犯罪事実」か「犯人」が捜査機関に発覚する前に行う必要があります。
犯罪事実が発覚する前というのは、例えば、他人の現金を盗むという窃盗事件をしてしまったとして、そのことが捜査機関に発覚していないような場合です。
犯人が発覚する前というのは、同じ事件の例で、誰かにお金が盗まれたということ自体は発覚しているが、それを誰がやったのかはわからないというような場合です。
つまり、犯罪事実も犯人も発覚しているが、逃走中であるため、まだ捕まっていないという場合には、捜査機関に出向いて自らが犯人である旨を申告しても、刑法上の「自首」にはなりません。

2 自首した場合の効果
刑法42条は、「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。」とされており、自首すると刑を「減軽」することが「できる」とされます。
その意味ですが、まず、「減軽」については、刑法68条に刑の種類ごとに規定されていますが、例えば、有期の懲役刑の場合には、「その長期及び短期の2分の1を減ずる」とされています。
また、減軽することが「できる」というのは、裁判官の判断で「できる」というものであり、法律上、必ず減軽されるというものではありません。

遺言作成の件数

1 遺言を作成する人は増えているのか?
近年、「相続対策」や「終活」に関する意識が高まっており、弁護士としては遺言を作成する人は増加しているように感じられますが、実際にはどうなのかを入手可能なデータをもとに考えてみます。
まず、遺言には、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類があるのですが、③秘密証書遺言は件数が少ないため除外して、ここでは、①自筆証書遺言、②公正証書遺言の件数についてみていきます。

2 ①自筆証書遺言について
自筆証書遺言は、自分で作成できるものですので、作成しただけの段階では、すぐには件数として把握できません。
もっとも、自筆証書遺言について、法務局による保管制度ができましたので、その保管件数については把握できます。
また、自筆証書遺言のうち、法務局で保管していなかったものについては、遺言者が死亡した後に、遺言の保管者又は遺言を発見した相続人が、家庭裁判所において遺言の検認をしなければならないため、その検認の件数についても把握することができます。
そこで、以下、法務局での保管件数と検認の件数についてみていきます。

⑴ 法務局での保管件数
法務局における自筆証書遺言保管制度は、2020年7月に開始されたものですので、それ以前の統計はありませんが、2022年に保管された件数は、1万6954件でした。
参考リンク:法務省民事局・遺言書保管制度の利用状況

⑵ 検認の件数
遺言の件数は、裁判所が公表している司法統計によると、2012年には1万4996件であったのに対し、2021年には1万9576件と約30.5%増加しています(2022年の数値は現時点では公表されていないため、2021年の数値を記載しています。)。
注意点としては、検認は、死亡後の手続きですので、遺言作成からタイムラグがあるということと、死者数が増加すれば検認の件数も増加しやすいということです。
後者について、2012年と2021年の死者数の増加率についてみてみると、厚生労働省の人口動態統計月報年計(概数)の概況によると、2012年は125万6254人であるのに対し、2021年は143万9809人であり、その増加率は約14.6%で、検認の増加率の方が倍以上であることがわかります。
参考リンク:平成24年人口動態統計月報年計(概数)の概況令和3年人口動態統計月報年計(概数)の概況

3 ②公正証書遺言について
公正証書遺言については、日本公証人連合会が統計を出しており、遺言公正証書の作成件数が、2012年には8万8156件であったのに対し、2022年には11万1977件と約27%増加しています。
参考リンク:令和3年の遺言公正証書作成件数について令和4年の遺言公正証書の作成件数について

4 まとめ
以上からすると、遺言を作成する人は増加している可能性が高そうです。
ただ、検認については、上記のとおりタイムラグがあることに加えて、法律に違反して検認がなされないケースや、そもそも作成した遺言が発見されずに検認に至らないケースもあると思いますし、また、公正証書遺言については、同一の人が何度も作成しているケースもあると思いますので、完全に上記数字のとおりに遺言を作成する人の数が推移しているとは限らない点に注意が必要です。

伊藤塾「明日の法律家講座」

今日は、弁護士法人心代表の西尾有司弁護士が、司法試験予備校「伊藤塾」の「明日の法律家講座」で講演し、私も参加しました。
伊藤塾では、資格試験に合格するだけではなく、「合格後を考える」というのを大切にされており、定期的に、法律実務家や政治家などを講師とした「明日の法律家講座」を開催されています。
私も学生時代に、伊藤塾で勉強していましたので、かなり久しぶりに伊藤塾の校舎に行くことができ、懐かしく感じました。
今回の講演は、「法律実務家として活躍するために大切な考え方」というテーマで、参加者の方からはたくさん質問を頂くなど、とても熱心に聞いていただきました。
試験勉強をしている時は、どうしても早く合格することに意識が行きがちですが(私自身そうでした)、実際は、実務に出てから活躍できることが大切ですので、このような取り組みはとても素晴らしいと思います。
明日の法律家講座は、伊藤塾生だけでなく、一般の方も参加できるようですので、ご興味のある方は、ぜひ、参加してみてはいかがでしょうか。
また、本日の講演は、録画されたものが後日配信されるようで、こちらは、伊藤塾生限定になりますが、ぜひ、多くの方に聞いていただければと思います。
明日の法律家講座についてのホームページはこちら

刑法における「違法性」とは?

刑法上、明文の規定はありませんが、「違法性」がない場合には、犯罪が成立しないと考えられています。

例えば、相手を殴って怪我をさせてしまった場合、傷害罪が成立しそうですが、「相手が急に襲い掛かってきて、自分自身を守るために、やむを得ずに反撃した結果、相手を怪我させてしまった」という場合であれば、「正当防衛」となり、犯罪が成立しない可能性があります。

正当防衛については、こちらをご覧ください。

このような正当防衛など違法性がなくなる事由を法律用語では「違法性阻却事由」といいます。

他にも、例えば、名誉毀損について、違法性が阻却される場合があります。

「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合には、名誉棄損罪が成立しそうですが、刑法230条の2は、名誉棄損行為が「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない」としており、これは、違法性が阻却されるからであると考えられます。

刑法の分野に関しては、難解な概念も多くありますので、お困りの際は、弁護士にご相談ください。

未成年者は契約を取り消せる?

未成年者は、契約を締結すること自体はできるのですが、未成年者保護の観点から、民法上、成年者と異なるルールが設けられています。

未成年者は、契約などの法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならないとされています。

そのため、例えば、未成年者が弁護士に依頼するような場合には、法定代理人の同意が必要です。

そして、未成年者が法定代理人の同意を得ないでした契約については、「取り消すことができる」とされています。

このようなルールは、未成年者は、成年者に比べて、知識や経験、判断能力等が不足しているため、保護しなければならないという発想に基づくものであると考えられます。

未成年者と取引する相手方からすると、契約しても、法定代理人の同意を得ていないものであれば、後で取り消される可能性があるため、同意の有無をしっかりと確認することが大切です。

もっとも、実際の取引で、未成年者が契約をする際に、常に、法定代理人の同意を得なければならないかというと、そうではありません。

例えば、未成年者が、お小遣いで、コンビニなどでお菓子を買う際に(これも売買契約です)、毎回、法定代理人の同意を得ているわけではないと思います。

そうだとすると、未成年者はその売買契約を取り消せるのかというと、お小遣いで、お菓子を買っているような場合には、取り消せないものと考えられます。

これは、民法で、「法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。」とされているためです。

このように、未成年者については、原則として、法定代理人の同意が必要としながらも、一定の類型については例外を設けることで、円滑な取引ができるようになっているといえます。

相続放棄をした場合の相続財産の管理義務に関する民法改正

相続人が相続放棄をした場合の義務に関して、改正前民法940条1項は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」としていました。

これについては、管理継続義務の発生要件、管理継続義務の内容等について、見解が分かれ、どのような場合にどのような義務を負うのかが明確ではありませんでした。

民法改正によって、同条項は、「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」と改正されました(施行は2023年4月1日)。

この改正によって、相続放棄をした人が義務を負うのは、「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限られることが明確となりました。

また、義務の内容について、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と規定されました。

ただ、この保存義務がどこまでしなければならないものなのか(財産の現状を維持するために必要な行為をする義務まであるのか)は、必ずしも明らかでないように思いますが、法制審議会の民法・不動産登記法部会では、「相続放棄によって相続人となった者を含む他の相続人のために必要最小限の義務を負わせるものとする観点から、財産を滅失させ、又は損傷する行為をしてはならないことのみを意味している」とされています。

参考リンク:法制審議会-民法・不動産登記法部会

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損害賠償請求が認められる範囲

1 問題となる事例
契約の相手方が債務の履行をしてくれないという場合、損害賠償請求をすることが考えられます。
その際、どこまでが損害として賠償を受けることができるのかが問題になることがあります。
例えば、以下の事例において、XのYに対する損害賠償請求は、いくら認められるのかについて、考えてみたいと思います。
Xが、Yとの間で、不動産を2000万円で買うという契約をしていたのに、Yが債務を履行してくれなかった。
Xは、Yから不動産を買うことができれば、それをAに2500万円で転売することを予定していたが、Yの債務不履行によりこれができなくなってしまった。
Xは、Yに対して、不動産を転売していたら得られたはずの500万円の利益を損害として請求することができるのでしょうか?

2 民法416条のルール
債務不履行があった場合の損害賠償請求の範囲について、民法416条は、以下のとおり定めています。
1項:債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2項:特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

3 検討
今回の事例では、XがAに転売して得られたはずの500万円が得られなかったというのは、民法416条1項の「通常生ずべき損害」にはあたらず、同2項の「特別の事情によって生じた損害」であると判断される可能性が高いといえます。
そうすると、「当事者がその事情を予見すべきであった」といえるかどうかが問題となります。
ここで、民法416条2項の「当事者」については、債務者であると解釈するのが一般的で、ここでは、Yになります。
また、「予見すべきであった」といえるか否かについては、債務不履行時を基準にして考えるのが一般的です。
そうすると、Xが、Yに対して、Aに2500万円で転売することを予定していると話していたにもかかわらず、Yが債務不履行をしたというような場合においては、Yは、「その事情を予見すべきであった」といえ、XのYに対する500万円の損害賠償請求は認められるものと考えられます。
どこまで損害賠償請求が認められるかは、具体的な事情によって変わってきますので、お困りの際は、弁護士にご相談されるとよいかと思います。

刑事上の「故意」とは?

犯罪が成立するためには、「故意」が必要です(例外的に、過失致死罪など故意がなくても過失があれば成立する犯罪もあります。)。
このことは、刑法38条1項に、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」と規定されています。
故意というと、「わざとやった」「知っていてやった」などというイメージかと思いますが、厳密には、犯罪が成立するための要件(構成要件)に該当する事実の認識・認容があることをいいます。
ここで、「認容」が必要とされているというのがポイントです。
つまり、認識はしているけれども、認容していないという場合には、故意はなかったということになるのです。
一体どのような場合かというと、例えば、医師がリスクの高い手術をする際に、医師は、自分が手術をすることによって患者を死なせてしまうかもしれないと思っていれば殺人罪の「認識」はありますが、そうなってもよいとは思っていないので「認容」はなく、故意がないことになります。

弁護士法人心では、刑事事件も取り扱っておりますので、お困りの際は、ご相談ください。
刑事事件に関する弁護士法人心のサイトはこちらをご覧ください。

不可抗力条項の注意点と記載例

1 不可抗力条項とは?

契約書で、債務者が不可抗力によって債務の履行ができない場合に、債務者が債務不履行責任を負わないことなどを規定する条項のことを不可抗力条項といいます。

例えば、大地震により工場が壊れてしまい、期限までに商品を納品できなかった場合、不可抗力条項によって免責されるということが考えられます。

 

2 不可抗力条項が無いとどうなる?

日本法が準拠法である場合、民法415条1項は、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」としており、原則として、債務者に帰責性がなければ、債務者は損害賠償責任を負いません。

この「債務者の責めに帰することができない事由」と不可抗力条項との関係は必ずしも明らかではありませんが、実務上は、前者には該当しないが、後者には該当するという場合があり得るということを想定して、不可抗力条項が入れられているものと考えられます。

 

3 不可抗力条項の注意点

不可抗力条項を入れる一つの意義としては、不可抗力事象を具体的に列挙することにより、どのような場合に免責されるのかをある程度明確化することにあるように思いますので、単に「不可抗力」と記載するだけでなく、「火災、地震、津波・・・」などと想定される事象を具体的に記載することが重要です。

また、記載していない事象については、不可抗力事象から除外されていると解釈されるおそれがあるため、想定されている事象について網羅しておくことも重要かと思います。

ただ、このあたりは、準拠法や交渉戦略によっても変わってくるかと思いますので、お悩みの際は弁護士にご相談ください。

 

4 不可抗力条項の記載例

私が以前に作成した不可抗力条項は以下になります。

「天変地異(火災、地震、津波、風水害、落雷、塩害等を含むがこれらに限られない)、戦争(宣戦布告の有無を問わない)・暴動・内乱・テロリズム、法令の改廃制定、公権力による命令処分、ストライキその他の労働争議、輸送機関の事故、疫病、ロックアウトその他甲乙双方の責に帰し得ない事由による本契約の全部又は一部の遅滞、不履行は、本契約の違反とせず、甲乙双方その責を負わないものとする。」

どのような記載が適切かはケースによって異なりますので、あくまでも一例とお考えください。

精神障害と労災

労災というと、転落事故や転倒事故、重機や機械へのはさまれ、巻き込まれ等による死亡や怪我というイメージが強いかもしれませんが、それだけでなく、精神障害に関する労災の相談も多くあります。
職場でのパワハラやセクハラ等のハラスメント、長時間労働等が原因で、うつ病などの精神障害を負ってしまう方も少なくありません。
厚生労働省の発表によると、令和3年度の精神障害に関する請求件数は2346件で、令和2年度よりも295件も増えており、当法人への精神障害の労災のご相談も増えています。
労災においては、労災保険の適用を受けるだけでなく、会社に過失があるような場合には、会社に対する損害賠償請求をすることも可能です。
当法人では、労災問題に詳しい弁護士が、社会保険労務士法人心の社労士とも連携して、労災申請および会社に対する損害賠償請求の対応をしております。
労災問題でお困りの際は、お気軽にご相談ください。
労災に関する専門サイトはこちら

相続で弁護士に依頼するのは争いがある場合?

1 「弁護士=争いごと」は誤り

弁護士というと、法廷で依頼者のために闘っているイメージが強く、弁護士に依頼するのは争いがある場合に限られるとお考えの方も少なくありません。

確かに、弁護士は、親族間で揉めている遺産分割、遺留分侵害額請求といった争いのある事案を対応することもあるのですが、それだけではありません。

 

2 生前の相続対策

生前の相続対策として、遺言や民事信託などあります。

例えば、遺言においては、せっかく作成しても、記載内容が不明確な場合や、遺言作成時において遺言者の意思能力があったのかが不明確な場合には、かえって争いを招いてしまうこともあり得ます。

弁護士は、どのような場合に争いになるのかを把握しているため、その知識を活かして、争いが起こらないための遺言を作成することも可能です。

 

3 相続手続

生前対策だけでなく、相続が発生した後の各種相続手続等についても、弁護士が関与することがよくあります。

故人の預金の払い戻し、車の名義変更、相続登記などは、争いごとがなくても相続の際に必要になってくる手続きですが、これらも弁護士が行うことができます。

 

4 相続に詳しい弁護士にご相談を

相続に詳しい弁護士であれば、争いのある案件の交渉等から、各種手続業務までしっかりと対応できますので、お気軽にご相談ください。

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