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遺留分侵害額請求の時効を止める方法

  • 文責:弁護士 上田佳孝
  • 最終更新日:2020年9月2日

1 遺留分とは

⑴ 遺留分とは、相続人のうちの一部の方について、相続財産のうち一定の割合を認めるものです。

相続人が最低限もらうことのできる財産を保証している制度であり、もし遺言書などで相続人以外の人に全財産を渡すと記してあった場合など、あまりにも不利益となることを避けるために決められています。

⑵ もらった遺産が遺留分に満たない場合は、遺留分が侵害されているといえます。

この場合、他の相続人に対して支払いを求めることができます。

この権利を遺留分侵害額請求権(令和元年6月30日までは遺留分減殺請求権)といいます。

⑶ もっとも、遺留分侵害額請求権には時効があり、一定の場合には、遺留分侵害額権が消滅してしまい、請求ができなくなります。

遺留分侵害額請求権が消滅してしまう具体的な場合については、以下を参考にして、必要に応じて弁護士等の専門家に相談してください。

2 遺留分はいつまで請求できるのか

⑴ 遺留分侵害額請求は、いつまでもできるというわけではありません。

遺留分侵害額請求ができる期間は、民法によって定められており、2つの期間制限があります。

⑵ 遺留分侵害額請求権が時効により消滅する場合があります。

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続の開始したとき及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年で、時効によって消滅します。

⑶ 相続開始時から10年を経過した場合も、遺留分侵害額請求権が消滅します。

こちらは、消滅時効ではなく、除斥期間であると解されています。

3 遺留分侵害額請求権の消滅時効

⑴ 消滅時効の期間等

ア 遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続開始を知ったとき及び遺留分を侵害する贈与・遺贈のいずれかがあったことを知った時から1年が経過すると、時効によって消滅してしまいます。

もっとも、あくまでも、相続が開始したときや遺留分を侵害する贈与・遺贈のいずれかを「知った時」からカウントすることになります。

そのため、遺留分権利者が、相続が開始されていたことや、減殺すべき贈与があることも、遺贈があったことも知らなければ、消滅時効期間は進行しません。

また、遺留分権利者が贈与や遺贈が自分の遺留分額を侵害し、侵害請求の対象となることまで認識していることが必要です。

仮に、相続開始等から1年以上が経過していたとしても、遺留分権利者が相続開始等を知らないままであれば、遺留分侵害額請求権は時効によって消滅することはないということになります。

ただし、相続開始から10年経過すると除斥期間によって消滅します。

この点は、後述の除斥期間の項で説明いたします。

イ 整理すると、「相続が開始したことを知ったとき」とは、通常は被相続人の死亡を知ったときと同時になります。

「遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったとき」とは、特定の人への贈与や遺贈によって遺留分が侵害されていることがわかった時点になります。

⑵ 遺留分侵害額請求権の行使方法

遺留分侵害額請求権は、請求や催告などによって、「遺留分侵害請求をする」との意思表示をすれば当然に請求の効果が生じることになります。

この意思表示は、必ずしも訴訟を提起してする必要はなく、裁判外での意思表示でも問題ありません。

このように、遺留分権利者が相続の開始したとき及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年以内に、1回でも遺留分侵害額請求権を行使しておけば、それ以降は、遺留分侵害額請求権が時効によって消滅することはなくなります。

⑶ 遺留分侵害額請求権の除斥期間

遺留分侵害額請求権には、消滅時効のほかに、除斥期間があります。

相続開始の時から10年を経過すると、遺留分侵害額請求ができなくなってしまいます。

除斥期間は、消滅時効ではないため中断がありません。

相続開始時から10年が経過してしまうと完全に請求ができなくなってしまいます。

ただし、遺留分侵害額請求権を相続開始時から10年以内に、1回でも遺留分侵害額請求権を行使しておけば除斥期間によって権利が消滅することはなくなります。

⑷ まとめ

遺留分が侵害されていることをいつ知ったかについては、ケースバイケースです。

また、それぞれの事情を客観的に証明することは難しいことが多いでしょう。

そのため、実際には、被相続人の死亡を知った時点から1年で時効を迎えると考えておく方が無難です。

4 遺留分の計算方法

最後に、遺留分の計算方法について説明いたします。

⑴ 遺留分割合について

ア 総体的遺留分の割合

民法では、遺留分権利者全体に残されるべき遺産全体に対する割合として定められています。

(ア) 直系尊属のみが相続人の場合

被相続人の財産の3分の1が遺留分となります。

(イ) それ以外の場合

被相続人の財産の2分の1が遺留分となります。

具体的には、以下のとおりです。

  1. ① 直系卑属のみの場合
  2. ② 直系卑属と配偶者の場合
  3. ③ 直系尊属と配偶者の場合
  4. ④ 配偶者のみの場合

(ウ) なお、兄弟姉妹には遺留分が認められていませんので、注意が必要です。

イ 個別的遺留分の割合

個別的遺留分とは、相続財産に占める遺留分の割合(総体的遺留分)に、遺留分権利者の法定相続分を掛けたものになります。

遺留分権利者が複数いる場合は、総体的遺留分を基礎として、法定相続分の算定式に従って算出します。

⑵ 遺留分額の算定

ア 遺留分算定の基礎となる財産額

(ア) 遺留分を計算する際、まずは、「遺留分の基礎となる財産」を確認します。

「遺留分の基礎となる財産」は、相続開始時に被相続人が有した積極財産の価額に、被相続人が贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して算定します。

(イ) 遺留分額の算定で重要な点は、以下のとおりです。

  1. ① 寄与分が考慮されません。
  2. ② 相続債務が控除されます。
  3. ③ 「遺留分の基礎となる財産」に算入される贈与の範囲は、「みなし相続財産」の場合のように、相続人への贈与に限られません。

すなわち、相続人以外への贈与も加えることになります。

イ 「遺留分の基礎となる財産」に算入される贈与

(ア) 過去に無条件にさかのぼって贈与を基礎財産に算入できるとすると、取引の安全が害されてしまいます。

そのため、算入される贈与は、時期的に限定されています。

(イ) 相続法改正前の計算方法

遺留分の計算上算入される贈与は、①相続開始前の1年間にされた贈与、②当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与、③当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知りながら不相当な対価でなされた有償処分及び④特別受益としての贈与があります。

①相続開始前の1年間にされた贈与について、時期の基準となるのは、贈与契約締結時であり、履行時でないことに注意が必要です。

また、④特別受益としての贈与については、特段の事情のない限り、相続開始前1年間であるか否かを問わず、また、損害を加えることの認識の有無を問わず全て算入されます。

さらに、持戻し免除の意思表示があってもその贈与は「遺留分の基礎となる財産」に算入されますので、注意が必要です。

(ウ) 改正法では、相続人に対する贈与は、特別受益に該当する贈与で、かつ、原則として相続開始前の10年間にされたものに限り、遺留分を算定するための財産の価額に算入することになりました。

ただし、遺留分侵害額を求める計算式においては、遺留分権利者の特別受益の額を相続開始前の10年間にされたものに限定せず、加算することになりました。

ウ 控除される債務

被相続人が負担した債務がこれに当たります。

私法上の債務だけでなく、税金や罰金等の公法上の債務も含まれます。

被相続人が他人の保証人であった場合などの保証債務については、常に控除される債務に含まれるわけではありません。

エ 遺留分算定の基礎となる財産の評価

相続開始時が基準となります。

5 弁護士に相談

以上のように、遺留分の計算方法は非常に複雑です。

そのため、自分の遺留分が侵害されているかどうか分からない方も多いと思います。

遺留分が侵害されていることがわかれば、できるだけ早く遺留分侵害額請求の手続を行うことが必要です。

そのため、相続案件に集中的に取り組み、遺留分制度に詳しい弁護士に相談するのがよいと思います。

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