職業が不安定な人の個人再生の利用

弁護士の松山です。

1 個人再生の利用適格

小規模個人再生手続きを利用するには、申立人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」必要があります(民事再生法221条1項)。

「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」とはいえないことが明らかな場合には、個人再生手続開始申立ては棄却されてしまいます。

では、どのような人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」人であり、どのような人がそうでないのでしょうか。

ここでは、派遣社員、アルバイト、主婦、無職の人を例に説明いたします。

2 派遣社員

派遣社員の場合は,派遣先の雇用期間が短期間に限定されている場合、将来において継続的に収入を得ることができるかについて不安がありますが,契約延長や新たな派遣先の紹介を得る見込みを説明することで、個人再生を利用できる可能性があります。

3 アルバイト

これまで短期間のアルバイトを繰り返しているのみの場合であっても現、在働いており一定額以上を返済できる余裕があれば、将来の雇用継続が見込めないことが明らかでない限りは、利用適格がないことが明らかであるとはいえないと解されています。

4 主婦

主婦の場合、現在アルバイトやパートで収入を得ているかどうかで判断は異なってきます。

無職の場合、利用適格がないことが明らかですので、個人再生手続きを利用することはできません。

一方,アルバイトやパートに出ることで、一定額以上の収入を得ることができるようになれば、将来において継続的に収入を得ることができないことが明らかとはいえないとされる可能性があります。

5 無職

無職の場合は、基本的には利用適格がないことが明らかですので、個人再生手続きを利用することはできません。

しかし,現在たまたま失業中であり、既に内定を得ているなどの事情のため、近いうちに再就職することが確実である場合には、継続的な収入を得る見込みがないことが明らかでないとして、個人再生手続きを利用できる可能性があるという考え方があります。

名古屋市における住民票等の取得

1 依頼者の方に資料をご準備いただく機会は多いです。

とくに、依頼者の方の住民票や所得証明書を裁判所に提出する場合、基本的にはご自身でご取得いただいています。

最近は、マイナンバーカードを利用することによって、多くの自治体で、コンビニで住民票や所得証明書を取得できます。

平日の日中に役所に赴くのが難しい場合、コンビニで各種書類の交付を受けられることは非常に便利と言えます。

しかし、名古屋市では、令和5年7月20日時点において、住民票や所得証明書のコンビニ交付を行っていないようです。

名古屋市の公式ウェブサイトでは、既存システムの改修が必要であるところ、市長判断として現時点では認められていないとのことです。

2 コンビニ交付に対応できない中で、名古屋市も証明サービスの拡充に取り組んでいるようです。

昨年から、中川区、南区及び守山区においてインターネットによる住民票の写し等の受取予約の実証実験が行われています。

令和4年7月14日から令和5年10月1日までの期間の土曜日・日曜日及び一部の祝日で証明書を受け取ることができ、受取予約は8日前から2開庁日前まで行うことができるようです。

現時点では、予約ができるのは、中川区、南区又は守山区に住民登録している方のみであることに注意が必要です。

名古屋市全域でインターネット予約ができれば市民としては便利になるので、今回の実証実験の結果に期待したいです。

債務整理が預金口座に与える影響

銀行や銀行の保証会社を相手方として債務整理をしたとき、その銀行に預金口座があると、その預金口座が凍結される可能性が高いです。

 

早いと弁護士に依頼して受任通知が送付された途端に預金口座が利用できなくなることもあります。

これは、債務整理をしなければならない程の経済状況であることが、銀行にとって債務者の信用に不安が生じたことによります。

このような状態に至れば、銀行は、普通預金規程等に基づいて口座残高から債権を回収します。

すなわち、銀行が持つ貸金等の債権と預金者が銀行に対する預金払戻請求権の相殺を行うのです。

銀行は、相殺する前に預金口座からお金を引き出されないよう、口座を凍結します。

 

銀行が口座を凍結するのは、基本的には上記の相殺のためなので、保証会社から代位弁済を受ければ凍結が解除されることが多いです(この場合、凍結期間は約2~3か月です)。

解除後は従前どおりに口座を利用することができます。

しかし、銀行によっては凍結後は、強制的に預金口座が解約されることもあります。

 

このような預金口座の凍結は、生活に多大な影響を及ぼす場合があります。

たとえば、給料口座として定めている口座の銀行から借入れしている場合、その銀行を対象に債務整理をすると、給料口座が凍結されるリスクがあります。

これを避けるには、その銀行を債務整理の対象から外すか、事前に給料口座を借入れのない銀行の口座に変更するのが適切です。

外食

報道によると、1日当たりのコロナ感染者数がかなり減ってきています。

それに合わせて久しぶりに外食しました。

事務所の周りの飲食店は1年半前と比べて相当程度様変わりしています。

最近の天候

暦の上では夏は終わったはずですが、日中はまだ暑い日も多く、サラリーマンと思しき人もワイシャツ姿で歩いている姿をよく見ます。

一方、日が沈めば、肌寒くなり秋を感じるようになりました。

あと1~2週間で一気に寒くなる予想もあり、体調には気を付けたいところです。

書籍購入

昨日、アマゾンから書籍数冊(法律書を含む。)が自宅に届きました。

HMVのオンラインショップで大型セールが行われた際、つい予約購入したものです。

段ボールを開き中身を確認しそれぞれの目次を眺めながら、現在積読となっている他の本に思いを馳せます。

官報について

債務整理の相談を受けていると、破産や個人再生をしたときに掲載される官報について質問を頂くことがあります。

 

官報とは政府が発行する機関紙であり、法律や政令の制定や改正の情報等が掲載されます。

また、破産の場合には破産手続開始決定や免責許可決定、小規模個人再生の場合には個人再生手続開始決定や再生計画案を債権者の書面決議に付する決定、再生計画認可決定が下された際に住所・氏名が官報に掲載されます。

官報に氏名が載ることで破産や個人再生をしたことが周囲に知られるのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、普段から官報をチェックしている人はほとんどいません。

ですので、官報に掲載されることで周囲に債務整理の事実が知られるリスクは非常に小さいと言えます。

 

官報はインターネットで直近30日分を無料で見ることができますが、検索機能は使用できません。

官報は「政府が発行する新聞のようなもの」と表現されることもありますが、普通の新聞と同じようにコンビニ等で買うことはできません。

官報は官報販売所にて購入することができます。

基本的には一つの都道府県に一つの官報販売所が存在しますが、愛知県内では例外的に名古屋市内に2か所の官報販売所が存在しています。

 

ギャンブルで増えた借金と債務整理

1 ギャンブルで増えた借金でも債務整理できます

債務整理は主に任意整理・個人再生・自己破産に分かれます。

このうち、任意整理と個人再生は借入れの理由は基本的に問われないので、ギャンブルで借金が増えたとしても問題なく解決ができる手続です。

自己破産ではギャンブルで返しきれない借金をしたことは免責不許可事由に当たりますが、その場合でも裁判所の裁量で借金を返済しなくてもよいとの決定(免責許可決定といいます。)が出されることが多いです。

2 任意整理や個人再生の場合

任意整理や個人再生では、基本的に借金の理由は問われることなく手続きを進めることができますので、

ギャンブルで増えた借金でも債務整理は可能です。

ただし、個人再生の場合はギャンブルを繰り返さず今後しっかりと返済を継続できると裁判所に示すために反省文を求められることがあります。

3 自己破産の場合

自己破産の場合、ギャンブルのために借金をすると免責不許可事由に該当し、原則として免責が許可されず借金が残ってしまいます。

ですので、破産管財人という弁護士の調査が必要な類型となりますが、実際に免責が許可されない事例は少ないです。

借金額が大きくないことや今後ギャンブルをしないと反省していること、現在は堅実な生活を送っていることなどを総合的に考慮した結果、裁判所から免責が相当と認められれば、例外的に免責許可の決定が下されます。

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借金に関して裁判所から通知が届いたら

1 裁判所から通知が届いたら

借金の返済の滞納が続いていると、裁判所から通知が届くことがあります。

これは通常、債権者がお金を一括で返すことを求める裁判を起こしたためです。

裁判所から通知が届いたら、すぐに弁護士に相談する等の対応が必要です。

2 裁判の種類

裁判にも種類があり、債権者からどのような裁判を起こされたかによって、裁判所から届く通知の種類も異なります。

通常は、訴訟か支払督促のどちらかの手続に基づいて通知が届きます。

訴訟の場合に届く書類は、訴状や答弁書、「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」という題の書面等です。

支払督促の場合は、支払督促状と支払督促異議申立書が届きます(両者が一体となっているハガキが届くことも多いです。)。

3 裁判所から届いた通知を放っておいた場合

⑴ 訴訟の場合

「口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」に第1回口頭弁論期日の年月日が指定されています。

多くの場合、第1回口頭弁論期日は訴状が届いてから1~2か月後に指定されます。

基本的には、指定された期日に裁判所に出頭せず、かつ、期日までに必要事項を適切に記載した答弁書を提出しないと、訴えた側の主張を全面的に認める判決が下されます。

判決が下されると、業者によっては判決前では可能だった長期の分割払いの和解が認められなかったり、給料の差押えを受けたりする可能性があります。

また、裁判所からの通知が自宅に届いたときに留守にしていて、ポストに不在票が入っていたときは、一定期間内に郵便局に取りにいかないと知らない間に裁判が進むおそれがあるので注意が必要です。

⑵ 支払督促の場合

支払督促状を受領してから2週間以内に異議申立てをする必要があります。

異議申立署は、期限内に異議申立書が裁判所に到着するように郵送するか、直接持参しなければなりません。

それをしない場合、債権者は給料の差押え等ができる立場に立ちます。

4 お早めに弁護士に相談を

裁判所からの通知を放置すると、給料の差押えや債務整理の方法が限定される等の不利益を被る可能性があります。

ですので、借金の返済に関して裁判所から通知を受け取った際にはすぐに弁護士に相談するべきです。

2回目の任意整理の可否

弁護士の松山です。

一度任意整理をした場合でも,入院や転職によって今まで通りの収入が途絶えてしまったり,急な出費が発生したりして途中で支払が出来なくなることがあります。

通常,任意整理だと,2回分以上滞納があると期限の利益を喪失するという条項がついた和解をすることが多く,数カ月にわたって返済ができないと一括で請求を受けることになります。

 

このような場合,2回目の任意整理をすることを検討することがあります。

任意整理は,債権者である貸金業者やカード会社と交渉をして和解をまとめる手続ですので,2回目の任意整理ができるかは,債権者の意向次第です。

たとえば,1回目の任意整理をしてから一度も返済をしていなかったり,1回目の任意整理をした直後だったりするときは,債権者からの信用を得られず2回目の任意整理ができない場合があります。

一方で,そのような事情が無ければ,2回目の任意整理の交渉自体が断られることは少ないです。

2回目の任意整理がまとまった場合は,その時点から分割払いとなって毎月の返済額を少なくすることや毎月の返済額は変えずに完済時期のみを遅らせることが可能となります。

たとえば,1回目の任意整理のときに債務額180万円を5年間(60回)で分割して支払う和解をしていて,ちょうど2年間返済したタイミングで支払が出来なくなったときを考えます。

このとき,1回目の任意整理では毎月3万円を返済することとなっており,2年間返済したタイミングでの債務額は108万円です。

支払が出来なくなった理由が入院等で一時的に収入がなくなったことであり,近いうちに退院の見込みがあって職場復帰すれば以前の収入を継続的に得る見込みがあれば,毎月の返済額はそのまま3万円として,支払ができなかった数カ月だけ返済期間をずらすという和解をすることになります。

一方で,支払が出来なくなった理由が,転職等で収入が減少したり子の進学等で支出が増大したりして,1回目の任意整理と比べて返済に回すことができるお金が少なくなったことであれば,以前と同じ返済額を支払うという和解はできません。

その場合は,たとえば,その時点からさらに5年分割での交渉を行うことで毎月の返済額を1万8000円に抑えることを狙うことが考えられます。

万が一,失職等で今後しばらくの間収入の見込みが無かったり,債権者との話し合いがまとまらなかったりすると,2回目の任意整理はできず,自己破産等を決断しなければならないこともあります。

破産と給料差押え


1 自己破産における給料の差押えの取扱い

破産手続開始決定が下される前に,債権者から訴訟を提起されて給料の差押えを受けてしまう場合があります。

その場合,基本的には手取り収入の4分の1の額が手元に入らなくなり,生活が苦しくなるおそれがあります。

また,一般的には弁護士が介入した後に差し押さえられたお金は,特定の債権者にされた返済(これを偏頗弁済といいます。)として,手続き上問題となる場合があります。

それでは,破産手続きの開始決定があったとき,給料の差押えはどのように扱われるのでしょうか。

2 同時廃止事件の場合

通常,自己破産を申し立てる際には,免責許可の申立ても同時に行われ,その場合,同時廃止決定が下されれば,差押えは中止します(破産法249条1項)。

この「中止」の状態は免責許可決定が確定して差押えが失効するまで継続し,その間,破産者は差し押さえられた給料の相当額を取得することができません。

この間は,勤務先が給料に相当する額のお金を供託して,破産者は免責許可決定の確定後に供託されたお金を受け取ることになります。

3 破産管財事件の場合

破産手続の開始決定がなされれば,破産財団に属する財産に対して既になされている強制執行は,破産財団に対してはその効力を失います(破産法42条2項)。

すなわち,破産手続開始決定時になされている給料の差押えは効力を失うこととなります。

しかしこのままでは,給料に対する差押えが当然に抹消するわけではないので,実務上,裁判所が選任した破産管財人という弁護士が,裁判所に対して執行取消の上申書を提出し,裁判所が差押えの執行命令の取消をするのが一般的な運用であり,これによって,破産者は給料の満額を手に入れることが出来ます。

 

弁護士法人心は,新たに四日市に「弁護士法人心四日市法律事務所」を開設いたしました。

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個人再生する際の退職金の扱い

名古屋の弁護士の松山です。

個人再生の際には,所有する財産の目録を作成する必要がありますが,財産の項目の中には退職金があります。

今回は,個人再生する際の退職金の扱いについて説明いたします。

1 清算価値保障原則

個人再生手続においては,破産したとすれば配当される金額よりも多くの金額を債権者に支払わなければならないというルールがあります。

これを清算価値保障原則といいます。

したがって,財産の評価額よりも多くの金額を債権者に支払う必要があります。

2 退職金の扱い

⑴ 既に退職金を受領している場合

既に退職していて,退職金を受領している場合には,受領した退職金全額を財産として計上します。

⑵ 近い将来退職する予定がない場合

多くの裁判所では,自己都合退職した場合の退職金額の8分の1が債務者の財産であると評価します。

これは,破産手続においては,法律上,自己都合退職した場合の退職金額の4分の1が配当に回すべき財産とされるところ,破産手続開始決定時において退職していない場合には,退職金は発生するか否かが不確実なため,その半分の額を配当に回せばよいとの運用がなされているためです。

したがって,このような運用をする裁判所では,退職金額の8分の1の額を財産として計上すればよいことになります。

⑶ 近い将来退職する予定がある場合

近い将来に退職する予定がある場合には,退職金が発生することが確実といえるため,退職金額の4分の1の額を財産として計上することになります。

3 退職金額を証明する書類

個人再生を申し立てるにあたっては,退職金見込額の根拠となる書類を裁判所に提出する必要があります。

勤務先から退職金見込額証明書を発行してもらう方法や,就業規則のうち退職金規程の部分のコピーと併せて,退職金額の計算結果を提出する方法があります。

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個人再生手続きが終わった後に支払えなくなった場合

1 再生計画に従った返済ができないとき

個人再生手続きにおいて再生計画の認可決定が確定した後,再生計画どおりに支払えなくなった場合には,どう対処すればよいでしょうか。

自己破産するというのも選択肢の一つですが,自己破産しなくてもよい場合もあります。

2 再生計画の変更

個人再生においては,再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは,再生計画で定められた債務の期限を延長することができます。

この場合,変更後の債務の最終の期限は,再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定める必要があります。

3 ハードシップ免責

再生計画を遂行することが極めて困難である場合は,次の条件のもとで,裁判所は免責の決定をすることができ,これによって債務者は債務を支払う義務を免れます。

⑴ 再生計画を遂行することが極めて困難となったのは,債務者の責めに帰することができない事由によること

⑵ 再生計画で定められた債務の4分の3以上の額の返済を終えていること

⑶ 再生計画の認可決定時に破産した場合の配当総額以上の返済をし終えていること

⑷ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること

4 新たな個人再生手続きの申立て

基本的には,再度の個人再生手続きの利用が法律上妨げられているわけではないため,新たに個人再生手続きの申立てをすることも考えられます。

ただし,給与所得者等再生では,1回目の給与所得者等再生の返済計画の認可決定が確定した日から7年間は手続きを利用することはできません。

また,2回目の個人再生であるという点が,債権者の同意の有無に影響を及ぼす可能性もあります。

5 自己破産手続きへの移行

以上の方法をとることができないときは,自己破産手続への移行を検討すべきです。

6 弁護士への相談

いずれの方法をとるにせよ,お早めに弁護士に相談することをお勧めします。

給料の差押えを受けた場合の自己破産

1 自己破産手続きにおける給料の差押えの取扱い

自己破産手続きの開始決定が下される前に,債権者から訴訟を提起されて給料の差押えを受けてしまう場合があります。

その場合,基本的には手取り収入の4分の1の額が手元に入らなくなり,生活が苦しくなるおそれがあります。

また,一般的には弁護士が介入した後に差し押さえられたお金は,特定の債権者にされた返済(これを偏頗弁済といいます。)として,手続き上問題となる場合があります。

それでは,破産手続きの開始決定があったとき,給料の差押えはどのように扱われるのでしょうか。

 

2 同時廃止事件の場合

通常,自己破産を申し立てる際には,免責許可の申立ても同時に行われ,その場合,同時廃止決定が下されれば,差押えは中止します(破産法249条1項)。

この「中止」の状態は免責許可決定が確定して差押えが失効するまで継続し,その間,破産者は差し押さえられた給料の相当額を取得することができません。

この間は,勤務先が給料に相当する額のお金を供託して,破産者は免責許可決定の確定後に供託されたお金を受け取ることになります。

 

3 破産管財事件の場合

破産手続の開始決定がなされれば,破産財団に属する財産に対して既になされている強制執行は,破産財団に対してはその効力を失います(破産法42条2項)。

すなわち,破産手続開始決定時になされている給料の差押えは効力を失うこととなります。

しかしこのままでは,給料に対する差押えが当然に抹消するわけではないので,実務上,裁判所が選任した破産管財人という弁護士が,裁判所に対して執行取消の上申書を提出し,裁判所が差押えの執行命令の取消をするのが一般的な運用であり,これによって,破産者は給料の満額を手に入れることが出来ます。

退職金と自己破産

1 自己破産において退職金の額が重要となる場面

自己破産においては,退職金債権も破産者の財産と扱われることになります。

破産者が所有している財産の額は,①同時廃止事件として扱われるか破産管財事件として扱われるかという事件の種類を決める場面と②どの財産をいくらまで残せるかを決める場面で重要となります。

 

2 同時廃止事件として扱われる条件

名古屋地方裁判所の運用ですと,現金及び普通預貯金以外の各個別の財産項目について財産項目ごとの合計額がいずれも20万円未満であり,かつ,現金及び普通預貯金についてそれらの合計額が50万円未満の場合には,原則として同時廃止事件として扱われます(ただし,この条件を充たしていても破産管財事件として扱われる例外があります)。

 

3 自由財産拡張の基準

破産管財事件となった場合は,破産者の財産をすべて手元に残すことができない場合があります

どの財産をいくらまで残せるかという自由財産拡張の基準の一つとして,名古屋地方裁判所では,預貯金・生命保険解約返戻金・自動車・賃借している家の敷金・電話加入権・退職金債権の財産であり,その評価額が20万円以下であるときは,原則として財産は手元に残せるという扱いをしています。

破産したからといって,必ずしも退職金債権を現金化するために勤務先を退職しなければならないわけではありません。

 

4 退職金の評価方法

原則として,今退職したらもらうことになる退職金の額の8分の1の額が退職金の評価額と考えられています。

ただし,退職間近の方については,今退職したらもらうことになる退職金の額の4分の1で評価されることがあります。

 

5 退職金の額を示すために裁判所に提出する書類

今退職したらもらうことになる退職金の額を示す資料として,通常,退職金見込額証明書か退職金規定の提出が要求されます。

 

自己破産における退職金の取り扱いについては,こちらもご覧ください。

破産前後に相続があった場合

破産を申し立てた前後で相続が開始した場合,どのような手続を採ればよいでしょうか。

1 相続を開始したのが破産手続開始決定の後の場合

まず,相続を開始したのが破産手続開始決定の後の場合,相続は破産手続とは関係しません。

破産手続において考慮される財産及び債務は,破産手続開始決定時に決せられるため,破産者は相続した財産を自由に処分できますし,債務が多いときには相続放棄をすることも自由です。

2 相続を開始したのが破産手続開始決定の前の場合

次に,相続を開始したのが破産手続開始決定の前の場合はどうなるでしょうか。

財産を相続すると,これは基本的には破産財団を構成しますので,最終的には破産手続において換価され,各債権者に配当すべきものとなります。

それでは,相続放棄をしたらどうなるでしょうか。

破産法では,破産手続開始決定前に破産者のために相続の開始があった場合において,破産者が破産手続開始決定後にした単純承認及び相続放棄は,破産財団に対して限定承認の効力を有すると定めています(破産法238条1項)。

ただし,破産管財人(裁判所から選任される弁護士です。)は,相続放棄を承認することもできます(破産法238条2項)。

破産と居住制限

破産すると,裁判所の許可なしに引越しできないと説明されることがあります。

すなわち,破産手続中,破産者はその申立てにより裁判所の許可を得なければ,その居住地を離れることができません(破産法37条1項)。

これは破産者の説明義務などを尽くさせるため,裁判所が破産者の所在を把握することを趣旨とするものです(伊藤眞『破産法・民事再生法[第4版]』(2018年,有斐閣))。

一時的な外出は,居住地から「離れる」ことに該当しません。

一般的には2泊以上の宿泊を含む旅行がこれにあたり,海外については1泊でもあたると解されています。

破産を依頼するとき,又は,破産の申立ての前後に,弁護士から旅行や出張をする場合は事前の連絡を入れるよう伝えられることがありますが,これは裁判所の許可を得るための申立てに必要となるのです。

裁判所が破産者の所在を把握することが趣旨ですから,居住地を離れる目的と許可の申立てが必要であることに関係はありません。

したがいまして,旅行とは観光目的に限らず,別居する家族の看病を目的とする場合等も含まれます。

通常,破産管財人の同意を得て,裁判所に上申し,破産手続の進行に支障がないと認められれば,許可されます。

自己破産に関するホームページはこちら

個人再生の実務Q&A120問の刊行

きんざいから全倒ネット実務Q&Aシリーズとして,『個人再生の実務Q&A120問』が刊行されました。

 

『個人再生の実務Q&A100問』が刊行されたのが平成20年であり,この10年間の判例・実務の動きをとりいれた書物となっているようです。

 

目次を見る限り,新たに追加された項目は,次のとおりです。

 

1 個人再生手続の流れ・個人の自己破産申立てと比較した場合の留意点

2 5000万円要件③

3 個人事業者の小規模個人再生申立ての留意点

4 債権者一覧表の記載②

5 債権の二重譲渡があった場合の取り扱い

6 住宅に住宅ローン以外の抵当権が設定されている場合の別除権協定の可否

7 マンション滞納管理費の別除権協定,住宅資金特別条項との関係

8 否認対象行為と清算価値保障原則

9 個人事業者の財産の清算価値の算定

10 給与所得者等再生の要件

11 100%弁済と清算価値保障原則

12 弁済期間3年未満の再生計画,再生計画認可確定後の繰り上げ一括弁済

13 再生債権額の減少届出

14 「住宅資金貸付債権」の範囲②

15 住宅資金特別条項の不履行と不足額の取扱い

16 個人再生委員の職務②③

17 災害の被災者に関する特例的運用

 

この他の項目でも内容のアップデートがなされ,特に巻末の事項索引がより使いやすくなっています。

自動車の引き揚げ

自己破産や個人再生をお考えの方が,ローンが残っている自動車を所有している場合,その自動車は業者に引き揚げられてしまう可能性があります。

しかしながら,自動車がなくなってしまうと生活が非常に不便になることが多いので,対策を考える必要があります。

 

すなわち,早ければ,弁護士に依頼して受任通知が送付された1~2週間後には自動車が引き揚げられてしまいます。

債務者本人が自動車ローンを組むことはできませんので,自動車引き揚げ後の自動車確保のための対応としては次の方法を挙げることができます。

①自分の預貯金から一括で安い自動車を購入する。

一定額以上であると裁判所から浪費と判断されるおそれがあります。

②家族や親族に一括で自動車を購入してもらう。

自分に預貯金がないときは,家族や親族の預貯金から自動車を購入してもらって,それを使わせてもらうことも考えられます。

もっとも,生計を同一としている家族の預貯金から購入する場合は,浪費と判断されないような安い自動車である必要があります。

③家族や親族に自動車ローンを組んでもらう。

家族にもまとまった預貯金がない場合は,自動車ローンを組んでもらい,それで購入した自動車を使わせてもらうことも考えられます。

個人再生で計画どおり支払えないとき

1 個人再生で計画どおり支払えないとき

個人再生において再生計画の認可決定が確定した後に,再生計画どおりに支払うことができなくなる事態が生じることも考えられます。

そのような場合,どうすればよいのでしょうか。

民事再生法は,以下のような制度を定めています。

2 再生計画の変更

個人再生においては,再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは,再生計画で定められた債務の期限を延長することができ,この場合においては,変更後の債務の最終の期限は,再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定める必要があります(民事再生法234条1項,244条)。

たとえば,再生計画に従って返済を継続していたものの,病気で大きな出費が発生した等のやむを得ない事由によって,計画どおりの返済が出来なくなったときには,2年までなら期間の延長が可能です。

3 ハードシップ免責

また,再生計画を遂行することが極めて困難である場合は,次の条件のもとで,裁判所は免責の決定をすることができ,これによって債務者は債務を支払う義務を免れます(民事再生法235条)。

⑴ 再生計画を遂行することが極めて困難となったのは,債務者の責めに帰することができない事由によること

⑵ 再生計画で定められた債務の4分の3以上の額の返済を終えていること

⑶ 再生計画の認可決定時に破産した場合の配当総額以上の返済をし終えていること

⑷ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること

4 上述の制度を使えないとき

再生計画の変更もハードシップ免責も,一定の条件を充たさないと利用することができません。

したがって,どちらの制度も利用することができないという事態が生じる可能性があります。

このような場合には,自己破産手続へと移行するべきです。

もっとも,給与所得者等再生における再生計画が遂行されていた場合には,当該再生計画認可の決定が確定した日から7年以内の自己破産の申立ては,免責不許可事由に該当し(破産法252条1項10号ハ),当該期間内に破産申立てをすると免責が許可されない可能性が高いです。

どのような制度をとるにせよ,再生計画どおりの返済が難しくなった場合には,まず個人再生を依頼した弁護士に早急に相談した方がよいでしょう。

弁護士法人心では個人再生に力を入れて取り組んでいます。