破産や個人再生が会社に知られるか

1 自分が破産や個人再生をしたことが会社(勤務先)に知られるか心配される方も多いです。

実際、会社に知られる可能性はどれくらいあるのでしょうか。

2 会社からの借入れがある場合

まず、会社からの借入れがある場合、会社に知られることになります。

会社からの借入れは、手続の対象としなければならない債務だからです。

破産であれば破産債権に、個人再生であれば再生債権として扱われ、債権者一覧表に記載する必要があります。

裁判所は、手続きが始まると、債権者一覧表に記載された債権者に対して通知を送付するため、手続きをしていることが会社に知られてしまいます。

3 会社からの借入れが無い場合

会社からの借入れが無い場合は会社に知られないでしょうか。

この場合には会社に知られる可能性は低いです。

破産や個人再生をすると官報(政府が発行する機関紙)に掲載されますが、基本的に上司や同僚が官報を見る職場にいらっしゃる方はいません。

また弁護士に依頼した後は、通常、債権者から会社への督促は止まります。

4 退職金額を示す資料が必要

ただし、破産や個人再生では退職金額を示す資料の提出が必要となるので、この点で会社の担当者や担当部署から資料を出してもらうのに苦労される方もいらっしゃいます。

退職金規程を自由に閲覧できる状況であればそのコピーを提出すれば足りますが、退職金規程が無いなどの場合で、裁判所に必要であることを隠したままだと退職金額を示す資料の確保が難しいときには、ある程度事情を話さざるを得ないこともあるでしょう。

退職金額が多くない場合には、確定した金額を示す資料までは裁判所から求められないこともあるので、どうしても資料の提出が難しいときには弁護士にご相談ください。

書面による免責審尋

1 新型コロナ感染症の流行前における同時廃止における免責審尋

新型コロナ感染症が流行する令和2年よりも以前、名古屋地方裁判所での自己破産の同時廃止における免責審尋は、通常、破産者が裁判所に出頭し、直接裁判官から質問を受ける形で行われていました。

この場合、一つの部屋で数十人が同時に免責審尋期日を迎えていました。

2 新型コロナ感染症の流行後での同時廃止における免責審尋

新型コロナ感染症の流行後は、感染防止の観点から、破産者が裁判所に出頭することは求められなくなり、その代わりに「免責についての申述書」という書面を提出させる運用となりました。

日本で新型コロナ感染症が流行して丸4年が経ちましたが、この運用は続いています。

「免責についての申述書」では、以下の事項の記載が求められています。

⑴ 破産手続開始決定を受けるに至った事情、本人の本籍、住所、身分関係、家族、勤務先について、申立ての際に提出した書類に記載したとおりか。

⑵ 上記⑴に訂正、変更又は付け加える点があれば、その内容。

⑶ 破産手続開始決定を受けてから、債権者に対する返済や新たな借入れなどしたことがあるか。

⑷ 上記⑶で「ある」場合には、その時期、債権者名、使途など。

⑸ 免責申立てに関して、真実かつ正確で、漏れなく記載した債権者名簿を提出したか。

⑹ 再び破産の申立てをすることがないように、申立人が考えていること、実行していること。

破産前の不動産の名義変更

1 破産前の不動産売却に注意

破産すると、基本的に所有不動産を手放す必要があります。

これを避けるために、破産する前に自分の名義となっている不動産を他人に名義変更することを考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、借金の返済が困難となった「支払不能」以降に自分の財産を他人に名義変更することには注意が必要です。

 

2 不動産を安く売った場合

まず、返済が困難となってから、市場価格よりも安く不動産を売却すると、後の破産手続の中で不動産の売買契約が否認の対象となる可能性があります。

売買契約が否認されると、売買契約が無かったことになります。

少なくとも、破産手続の中で破産管財人(裁判所から選ばれる弁護士)が買主に不動産の名義を戻すよう接触するので、買主に迷惑をかけることになります。

また、ご自身が免責の判断に悪影響を及ぼす可能性もあります。

 

3 適正な金額で売った場合

一方で、適正な金額で不動産を売却して名義変更すること自体は認められています。

ただし、売却したことによって得た金銭を隠匿する等の意思があった場合には、その売買が否認の対象となる可能性があります。

そのため、弁護士に破産を依頼する前に不動産を売却した場合でも、売却して得た金銭はそのまま保管して、破産を依頼した際に弁護士に預けるのが無難です。

その金額が多い場合には破産手続の中で債権者に配当されます。

悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権と免責

破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は、非免責債権として、免責許可決定が確定しても支払の責任を免れることはできません(破産法253条1項2号)。

現在の破産法は平成16年に公布されていますが、それ以前の旧破産法にも上記と同様の規定がありました(旧破産法366条ノ12第2号)。

旧破産法では「悪意」とは、他人を害する積極的な意欲(=「害意」)であるとの考えと通常の「故意」であるとの考えとが争われていました。

いずれの考えを採用するかで、故意と評価しうる程の不注意な運転で人を死傷させた場合にも非免責債権となるかの結論が変わっていたようです。

しかし、現在の破産法において、「破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」も非免責債権とする規定(破産法253条1項3号)が新設されています。

3号で「故意」と定められていることとの差異から、2号の「悪意」は「害意」とするのが通説のようです。

「害意」も「故意」も、破産者の認識を問題にしており、一概に線引きをするのが困難な場面が多いです。

そのため、支払いが困難な状態に陥っている方は、ご自身が請求されている債務が非免責債権であるかについて早計に判断せず、弁護士にご相談ください。

犬神家の一族と遺留分(その1)

1 映画『犬神家の一族』

11月10日から11月23日まで、角川シネマコレクションの公式YouTubeチャンネルにて、映画『犬神家の一族』(1976年公開)が無料で公開されています。

横溝正史原作で名探偵金田一耕助が登場することや、これまで何度も映像化されてきたこと、スケキヨの白い仮面、湖から生える2本の脚などの一部の有名なシーン以外は知らなかったので、良い機会と思い、鑑賞しました。

2 物語の内容

物語は、犬神佐兵衛という大富豪が亡くなる場面から始まります。

その後、佐兵衛の全相続人が揃ったところで、犬神家の顧問の古舘弁護士から佐兵衛の遺言の内容が明かされますが、その内容を巡り事態が進展します。

3 遺留分制度の存在

この遺言の有効性や古舘弁護士の行動・発言に関しては、作品外で何点か法律的な疑問が挙げられています。おそらくインターネットが発達する前から指摘されていたと思われますし、現在では士業の方のブログで確認できます。

その中でも、とくに重大なものとして遺留分の存在を指摘するコメントを挙げることができます。

遺留分とは、遺言によっても侵害されない相続人の権利です。

『犬神家の一族』の物語の中では、古舘弁護士が遺言の内容が法的に全く問題ない旨を宣言し、遺留分が存在しない前提で話が進んでいきますが、遺留分の存在が示唆されていれば、その後の悲劇は発生していなかったのではないかとも思われます。

・・・と、ここまでなら、単に横溝正史が相続の制度を知らなかったことに起因するミスとも思われますが、事情はもう少し複雑なようです。

職業が不安定な人の個人再生の利用

弁護士の松山です。

1 個人再生の利用適格

小規模個人再生手続きを利用するには、申立人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」必要があります(民事再生法221条1項)。

「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」とはいえないことが明らかな場合には、個人再生手続開始申立ては棄却されてしまいます。

では、どのような人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」人であり、どのような人がそうでないのでしょうか。

ここでは、派遣社員、アルバイト、主婦、無職の人を例に説明いたします。

2 派遣社員

派遣社員の場合は,派遣先の雇用期間が短期間に限定されている場合、将来において継続的に収入を得ることができるかについて不安がありますが,契約延長や新たな派遣先の紹介を得る見込みを説明することで、個人再生を利用できる可能性があります。

3 アルバイト

これまで短期間のアルバイトを繰り返しているのみの場合であっても現、在働いており一定額以上を返済できる余裕があれば、将来の雇用継続が見込めないことが明らかでない限りは、利用適格がないことが明らかであるとはいえないと解されています。

4 主婦

主婦の場合、現在アルバイトやパートで収入を得ているかどうかで判断は異なってきます。

無職の場合、利用適格がないことが明らかですので、個人再生手続きを利用することはできません。

一方,アルバイトやパートに出ることで、一定額以上の収入を得ることができるようになれば、将来において継続的に収入を得ることができないことが明らかとはいえないとされる可能性があります。

5 無職

無職の場合は、基本的には利用適格がないことが明らかですので、個人再生手続きを利用することはできません。

しかし,現在たまたま失業中であり、既に内定を得ているなどの事情のため、近いうちに再就職することが確実である場合には、継続的な収入を得る見込みがないことが明らかでないとして、個人再生手続きを利用できる可能性があるという考え方があります。

保険金受取人の破産

日本弁護士連合会が発行する雑誌『自由と正義』の2023年9月号では、生命保険の基礎知識について特集が組まれていました。

生命保険は破産手続でも関わりがあります。

上記雑誌の25頁から嶋寺基「生命保険における債権保全・債権回収・破産の問題」という論文があり、そこでは保険金受取人の破産のトピックが扱われています。

上記論文では、破産手続終了後に保険事故が発生した場合、保険金請求権は自由財産に属するものとされるとした判例(最判平成5・6・25民集47巻6号4557頁)とともに、「破産手続終了までに保険事故が発生しなかった場合、保険金受取人たる破産者が有する保険事故発生前の(抽象的)保険金請求権は、それ自体に換価価値はないといえるため、破産管財人は、破産手続終了直前に(抽象的)保険金請求権を破産財団から放棄することになる」との考えが紹介されています。

この考えによった場合、破産管財人は破産者が契約者となっていない生命保険の存在や内容まで調査すべきなのか、申立代理人は破産管財人に放棄してもらうため、破産者が保険金受取人となっている保険について(抽象的)保険金請求権を財産目録に記載すべきことになるのか気になります。

 

自己破産をした場合の生活への影響

1 自己破産以外の債務整理でもありうる影響

自己破産は、自分の財産がお金に換えられて債権者に配当される代わりに、基本的に全ての債務を支払う必要がなくなる手続です。

自己破産をすることで、その手続に付随する生活への一定の影響がありますし、返済できない状態であること自体に基づく影響もあります。

返済できない状態であること自体に基づく影響には、以下のものがあります。

これらは自己破産以外の債務整理でもありうる事柄です。

⑴ ローンが残っている車の引き上げ

返済を数か月滞納したり弁護士に自己破産を依頼したりすると、基本的に、ローンがついている車はローン債権者に引き上げられます。

そのため、生活に車が必要であれば、その確保について検討する必要があります。

⑵ 銀行口座の凍結

借入先に銀行があり、その銀行で預金口座を持っている場合、通常、弁護士が債権者との窓口になった直後には当該預金口座が凍結されます。

大半の預金口座は、凍結されてもその約3か月に凍結が解除されて利用できるようになりますが、中には凍結後に強制的に口座解約となることもあります。

⑶ 信用情報機関への登録

信用情報機関へ事故情報として登録され、一定期間は新たな借入やクレジットカードの作成等が困難になります。

 

2 自己破産特有の影響

⑴ 破産管財人による財産の処分

所有する不動産については基本的に全て、所有する車については一定の場合に、破産管財人によって処分されることになります。

ですので、自宅不動産を所有していた場合には、通常、引っ越しをしなければなりません。

⑵ 転居・旅行の許可申請

破産手続開始決定が下ってから手続が終了するまでは、裁判所の許可が無ければ転居や旅行をすることができません。

不動産処分に伴う転居や仕事の出張などであれば、基本的に許可されるので、しっかりと許可申請をする必要があります。

⑶ 資格・職業の制限

破産手続開始決定から復権を得るまで、警備員・生命保険募集人等の一定の資格や職業が制限されます。

そのため、警備員をしている方は、破産手続開始決定前には警備員の仕事を辞めなければなりません。

どのような資格・職業に制限があるかは、その資格・職業について規律している法律に個別的に定められています。

 

3 自己破産をしても影響を受けないこと

⑴ 選挙権

自己破産と選挙権は関係がありませんので、自己破産をしたとしても選挙権への制限はまったくありません。

⑵ パスポートの制限

自己破産をすると海外渡航が一生できないとの誤解を聞くことが多いです。

自己破産をしてもパスポートに関する制約はありません。

たしかに手続中は、相応の理由が無ければ海外渡航は認められませんが、手続が終了してしまえば、自由に海外渡航が可能です。

⑶ 家族の財産

自己破産をした場合に、同居家族の財産への影響を心配なさる方もいらっしゃいます。

しかし、自己破産をした場合に、債権者に配当するためにお金に換えられる財産とは、破産者が所有する財産のうち一定のものです。

したがって、実質的には破産者の財産と言えるような特別な事情が無い限り、同居家族といえども破産者以外の人の財産は処分の対象ではありません。

以上

名古屋市における住民票等の取得

1 依頼者の方に資料をご準備いただく機会は多いです。

とくに、依頼者の方の住民票や所得証明書を裁判所に提出する場合、基本的にはご自身でご取得いただいています。

最近は、マイナンバーカードを利用することによって、多くの自治体で、コンビニで住民票や所得証明書を取得できます。

平日の日中に役所に赴くのが難しい場合、コンビニで各種書類の交付を受けられることは非常に便利と言えます。

しかし、名古屋市では、令和5年7月20日時点において、住民票や所得証明書のコンビニ交付を行っていないようです。

名古屋市の公式ウェブサイトでは、既存システムの改修が必要であるところ、市長判断として現時点では認められていないとのことです。

2 コンビニ交付に対応できない中で、名古屋市も証明サービスの拡充に取り組んでいるようです。

昨年から、中川区、南区及び守山区においてインターネットによる住民票の写し等の受取予約の実証実験が行われています。

令和4年7月14日から令和5年10月1日までの期間の土曜日・日曜日及び一部の祝日で証明書を受け取ることができ、受取予約は8日前から2開庁日前まで行うことができるようです。

現時点では、予約ができるのは、中川区、南区又は守山区に住民登録している方のみであることに注意が必要です。

名古屋市全域でインターネット予約ができれば市民としては便利になるので、今回の実証実験の結果に期待したいです。

個人再生における履行可能性の判断

1 履行可能性

個人再生では、3年から5年の間、返済計画に従って債務の返済を履行できるか(これを履行可能性といいます。)の判断が非常に重要です。

履行可能性の有無の判断にあたって、裁判所は、毎月の家計の状況及び弁済原資の積立ての状況を参照します。

たとえば、毎月一定額以上の積立てができなければ、今後返済を継続する見込みがないとの判断がなされます。

また、裁判所は過去の実績を重視する傾向にあります。

そのため、現在は履行可能性がないものの、今後、配偶者がパートに出るなどして収入が増えるために将来的には履行可能性が確保できるとの主張も、裁判所からは認めてもらえない可能性が高いです。

 

2 貯金の取り崩し

毎月一定額以上の積立てを弁護士の口座にしている場合でも、家計の状況が赤字となっていて貯金を取り崩しているような状態では、履行可能性はないと判断されます。

貯金がなくなった後の返済が困難なためです。

 

3 親族の援助

同居の家族とは生計が一つであるため、その者の収入や支出もあわせて履行可能性を判断されるのが通常です。

別居している親族から援助を受けることができるときは、それを申立人の世帯の収入として履行可能性が判断されます。

その場合、名古屋地方裁判所では、援助額及び援助を誓約する旨を内容とする援助者作成の誓約書や援助者の資力を裏付ける資料(給料明細書、源泉徴収票など)を求められます。

破産における慰謝料支払債務

弁護士の松山です。

 

破産をすると、基本的に全ての債務が免責され、法律上、債務を返済する責任が一切なくなります。

 

しかし、破産の申立てをして免責決定が下されたとしても、免責がなされない債権があります。

これを非免責債権といい、破産法253条1項に列挙されています。

 

では、誰かに対して慰謝料を支払う義務がある人について免責決定が下された場合、その慰謝料支払債務は免責の対象となるのでしょうか。

先程の破産法253条1項には、「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求」や「破産者が故意又は重過失により人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」が、非免責債権として挙げられています。

 

このうち、前者の「悪意で加えた不法行為」とは、積極的に相手を害することをもって加えた不法行為をいうと考えられています。

これによれば、単に相手に損害を与えると認識していたという事情のみでは非免責債権にあたりません。

一方で、人の生命や身体を害する不法行為の場合、重過失が認められれば、その慰謝料請求権も後者の「破産者が故意又は重過失により人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当するため、非免責債権となります。

生活保護と破産

生活保護を受けている方から債務整理のご相談を頂くことがあります。

その中には、生活保護を受けていると破産ができないと誤解されている方もいらっしゃいます。

しかしながら、生活保護は健康で文化的な最低限度の生活を保障するためのものです。

通常、生活保護費から返済に回す余裕はないと言えます。

そのため、ごく例外的なケースを除いては、生活保護を受けている方は個人再生や任意整理を利用することはできません。

また、無職だったり、生活保護者だったりしても、それだけを理由に破産ができなくなることはありません。

また、法テラスを利用すれば、生活保護を受けている方であれば、法テラスは、弁護士費用・実費に加えて、裁判所に支払う予納金を20万円(+官報公告費)まで立て替えてくれます。

さらに、通常は法テラスが立て替えた金銭を償還する必要があるところ、手続終了時にも生活保護を受けている方であれば、その償還が全額免除されます。

したがって、基本的には、生活保護を受けている方であれば、費用の心配をすることなく破産手続を進めることが可能です。

ですので、生活保護を受けている方で借金の請求にお悩みの方は弁護士に相談することをお勧めします。

2度目の債務整理

一度債務整理を行ったにもかかわらず、事情の変更等で支払が困難となったり、新たに債務を負担してしまったりして、再度弁護士に相談し、債務整理を検討しなければならない方もいらっしゃいます。

以下では、債務整理の種類に応じて、どのような場合に2度目の債務整理ができるのか等を見ていきます。

1 任意整理

任意整理は、典型的には債務を分割返済するとの和解をまとめる方法です。

一度和解をして返済中の債権者と、再度分割交渉を行うことも認められない訳ではありません。

しかし、一回目の和解による分割返済が失敗に終わったにもかかわらず、再度分割で返済が可能といえる事情の説明が合理的でないと和解ができない可能性があります。

これと関連して、一回目の和解をして数か月で返済ができなくなった場合には、再度の和解に対する反応は厳しいものとなりやすいです。

2 自己破産

自己破産は、以下の場合はそもそも、原則として自己破産して免責を受けることができないと法律上規定されています。

⑴ 自己破産して免責決定が確定してから7年以内の申立て

⑵ 給与所得者等再生における再生計画認可決定が確定してから7年以内の申立て

また、7年が経過している場合でも、2度目の自己破産では、免責を受けるに当たって、借金をすることに対する意識やお金の使途について厳しく審査される傾向にあります。

 

3 個人再生

⑴ 小規模個人再生の場合

以前に破産や個人再生をしていたとしても、小規模個人再生の申立ては制限されていません。

⑵ 給与所得者等再生の場合

以下の場合には、給与所得者等再生の手続が開始されないことが法律上規定されています。

ア 自己破産して免責決定が確定してから7年以内の申立て

イ 給与所得者等再生における再生計画認可決定が確定してから7年以内の申立て

個人再生における退職金の扱い

1 個人再生における財産の扱い

個人再生においては、総債務額が一定額まで減額されます。

個人再生の手続を定める民事再生法では、所有する財産の評価額よりも低い額には減額できないとのルールが定められています。

財産として扱われるものには、第三者に対する権利も含まれます。

そして、勤務先から将来支払われる予定の退職金も、その一部は財産として扱われます。

 

2 退職金の扱われ方

しかし、定年まで年月を要すると、退職金が将来必ず支払われるかは不明です。

そこで、名古屋地方裁判所では、退職までの期間が3年を超える場合、仮に現在自己都合で退職した場合に支払われるであろう退職金の8分の1相当額が財産として評価されます。

退職までの期間が3年以内の場合は、退職金の支払いが相当程度確実であることから、仮に現在自己都合で退職した場合に支払われるであろう退職金の4分の1相当額が財産として評価されます。

 

3 年金で受け取る場合

なお、最近は、退職金を一時金でなく年金で受け取るように定めた企業も多いです。

確定給付企業年金(DB)、企業型確定拠出年金(DC)を受給する権利は、それぞれの権利を定める法律によって差押えが禁止されているため、個人再生における財産としては評価しない運用となっています。

破産管財人との面談で行われること

1 破産管財人との面談

破産手続開始決定とともに破産管財人が選任された場合、基本的には、目安として2週間以内に破産管財人と面談することになります。

面談は、通常、破産管財人の事務所で、破産管財人の事務所の営業時間内に行われます。

名古屋地方裁判所に申し立てた場合は、破産の申立てを依頼した弁護士(申立代理人)も同席することが一般的です。

2 面談で行われること

⑴ 破産管財人からの質問

破産管財人は、申立ての際に裁判所に提出された申立書と証拠書類の写しを一式確認したうえで、債権・財産を調査したり、免責の相当性に関する事柄を調査したりする一環として、破産者に口頭で質問をします。

破産者としては、記憶のある範囲で、質問に回答することになります。

⑵ 財産等の引継ぎ

自由財産拡張が認められない車や建物を所有している場合、通常、車や建物の鍵を破産管財人に渡します。

他にも、宝石等を所有している場合には面談の際に持参するよう求められることがあります。

破産手続開始決定時点で、破産者の財産の管理処分権は破産管財人に移っているので、財産を誰が所持するか等の財産管理については破産管財人の指示にした月必要があります。

⑶ 郵便物の受け渡し方法の調整

破産手続開始後は、破産者に宛てられた郵便物は破産管財人のもとに転送されて、中を開封されることになります。

郵便物の中身を確認された後は、通常、破産者に郵便物が返却されるので、その返却方法を決める必要があります。

1か月に1回程度、破産管財人から郵送する方法や、破産者が破産管財人の事務所に赴いて直接受け取る方法が一般的です。

⑷ 次回面談の日程調整

確認事項が多くなかったり、お金の使い方が原因で破産に至ったりするわけでなければ、破産管財人と面談するのも1回のみで足りることがあります。

しかし、新たに財産が発覚して破産管財人に引き継ぐ必要があったり、破産手続開始後の生活状況を確認する必要があると破産管財人が判断したりした場合には、債権者集会までに複数回の面談を行うこともあります。

その場合には、面談の最後に次回の日程調整を行うことが多いです。

破産直前にする財産の名義変更

1 破産をすると、基本的に財産を手放さないといけないことは広く知られています。

そこで、もう借金を払うことができず破産をしなければならないと認識した時点で、自分が所有している不動産や自動車を親族名義に変更しようという気持ちになる方がいらっしゃいます。

しかし、破産直前に無償で財産を譲り渡す行為は、破産手続上大きな問題となる可能性があります。

 

2⑴ 本来、自分が所有している財産について、いつ・いくらで処分するかは自由です。

しかし、破産しないといけないような経済状態の方についてまで自由な財産処分を認めると、破産手続の中で債権者に配当すべき財産がなくなってしまいます。

そこで、一定の時期以降の一定の行為については、破産手続の中で破産管財人が否認して、なかったことにすることが認められています。

⑵ 特に、無償行為については、「破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる」と規定されています(破産法160条3項)。

通常、弁護士に破産を依頼すると弁護士から債権者に対して受任通知を送付しますが、受任通知の送付は「支払の停止等」に当たります。

すなわち、基本的には、弁護士に破産の依頼をする前6か月以内に自分の財産を無償で他人名義に変更しても、後で否認されます。

3 破産申立てに係る名古屋地方裁判所の書式において、不動産については期間を問わず、保険や車、株式等については過去1年間程の間の財産処分の記載が求められているのも、上記行為があるかの確認の趣旨と思われます。

否認の対象となる行為があれば、他の事情が問題なくても破産管財事件となり、多額の予納金を裁判所に入金しなければ破産手続が開始しませんし、事情によっては免責が許可されないおそれもあります。

支払いが困難になりそうと感じた時点で、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

預貯金と清算価値

1 個人再生における清算価値保障原則

個人再生について説明するウェブサイトをいくつか見ていますと、個人再生で返済すべき総額は債務額の5分の1との記載を見かけることが多いです。

たしかに、債務額が500万円から1500万円の間にある方であれば、これに該当することが多いでしょう。

しかし、所有する財産が多いと、個人再生で返済すべき総額も多くなる可能性があります。

個人再生では、所有する財産の評価額以上を返済しないといけないというルールが存在するためです(これを「清算価値保障原則」といいます)。

 

2 預貯金の扱い

清算価値として把握される財産とは、現金、預貯金、不動産、車、生命保険の解約返戻金等、一切のものが含まれます。

預貯金については、所有する全ての口座の残高を確認することになります。

この点に関して、名古屋地方裁判所では、個人再生の申立て前に債権者に弁済する原資とするため、弁護士の預り金口座に管理している場合には、「所持現金と合わせて99万円の範囲内」であれば、清算価値に含まれないものとして扱われています。

これは、破産手続において、現金99万円が自由財産として換価の対象から外れていることとのバランスを取ったものと思われます。

個人再生した後に支払が出来なくなったら

1 個人再生した後に支払が出来なくなった際の対処

個人再生した後、計画どおりの返済ができなくなってしまうこともあります。

そのような場合、自己破産を選択する方もいらっしゃいます。

しかし、自己破産をせずとも、次の方法を取ることができる場合があります。

2 再生計画の変更

個人再生においては、再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは、再生計画で定められた債務の期限を延長することができます。

この場合、変更後の債務の最終の期限は、再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定める必要があります。

3 ハードシップ免責

再生計画を遂行することが極めて困難である場合は、次の条件のもとで、裁判所は免責の決定をすることができ、これによって債務者は債務を支払う義務を免れます。

⑴ 再生計画を遂行することが極めて困難となったのは、債務者の責めに帰することができない事由によること

⑵ 再生計画で定められた債務の4分の3以上の額の返済を終えていること

⑶ 再生計画の認可決定時に破産した場合の配当総額以上の返済をし終えていること

⑷ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること

4 新たな個人再生手続きの申立て

基本的には、再度の個人再生手続きの利用が法律上妨げられているわけではないため、新たに個人再生手続きの申立てをすることも考えられます。

ただ、給与所得者等再生では、1回目の給与所得者等再生の返済計画の認可決定が確定した日から7年間は手続きを利用することはできません。

また、2回目の個人再生であるという点が債権者の同意の有無に影響を及ぼす可能性もあります。

5 弁護士への相談

いずれの方法をとるにせよ、お早めに弁護士に相談することをお勧めします。

破産した際の郵便物等の回送

1 破産者宛ての郵便物等が破産管財人へ送付される

破産手続において破産管財人が選任された場合、裁判所は破産管財人の職務の遂行のため必要があると認めるときは、破産者にあてた郵便物等を破産管財人に送付するように信書の送達の事業を行う者に対して嘱託することができます(破産法81条1項)。

条文上は「できる」と規定されていますが、少なくとも名古屋地方裁判所では、破産管財事件の全件について嘱託をしていると思われます。

そして、破産管財人は、破産者にあてた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができます(破産法82条1項)。

2 趣旨

破産者にあてた郵便物等からは様々なことが分かる可能性があります。

たとえば、固定資産税納付書が送付されていれば不動産を所有していることが分かりますし、株主総会招集通知が送付されれば当該会社の株式を所有していることが分かります。

また、友人からの手紙にお金の貸し借りについての記載がなされていれば、裁判所に知らせていない債権者が判明することもあります。

このように、郵便物等からは破産者の債務や財産等に関係する情報を得る可能性があり、破産管財人の職務の遂行を実効的なものとすることから、憲法で定められた通信の秘密が一定の限度で制限されています。

3 郵便物等の返却

裁判所の嘱託を受けて破産管財人に送付された郵便物等も、破産者にあてたものなので、破産者は、破産管財人に対し、破産管財人が受け取った郵便物等の閲覧又は当該郵便物等で破産財団に関しないものの交付を求めることができます(破産法82条2項)。

大多数のケースでは、ほとんど全ての郵便物等は、破産管財人が中身を確認した後は、月1回程度のペースで破産者に返却されていることが多いようです。

破産した場合の道路の補修代の扱い

1 名古屋の弁護士の松山です。

道路法58条は、「道路管理者は、他の工事又は他の行為により必要を生じた道路に関する工事又は道路の維持の費用については、その必要を生じた限度において、他の工事又は他の行為につき費用を負担する者にその全部又は一部を 負担させるものとする。」と規定しており、たとえば交通事故により道路を破損させた場合の工事費用を、交通事故の原因者に負担させています。

このような債務も破産によって免責を受けることができるでしょうか。

2 個人の方にとっては、破産する最大の目的は免責を受けることです。

免責によって、基本的に全ての債務について支払いをする責任が免れます。

しかし、破産手続について定めた破産法は、例外的に免責がなされない債権をいくつか定めています(このような債権を非免責債権といいます。)。

このうち租税等の請求権(破産法253条1項1号)とは、国税徴収法又は国税徴収の例によって徴収することのできる請求権です。

たとえば、滞納している住民税は、破産して免責決定が確定しても支払の責任は免除されません。

3 道路法73条1項は、「この法律、この法律に基づく命令若しくは条例又はこれらによつてした処分により納付すべき負担金、占用料、駐車料金、割増金、料金、連結料又は停留料金(以下これらを「負担金等」という。)を納付しない者がある場合においては、道路管理者は、督促状によつて納付すべき期限を指定して督促しなければならない。」と定め、同条3項前段は、「第一項の規定による督促を受けた者がその指定する期限までにその納付すべき金額を納付しない場合においては、道路管理者は、国税滞納処分の例により、前二項に規定する負担金等並びに手数料及び延滞金を徴収することができる」と定めています。

すなわち、道路法53条が規定する原因者負担金は、督促を受けた原因者によって期限までに納付されなければ、国税徴収の例により徴収することが可能な債権です。

したがって、基本的に、事故による道路の修理代は租税等の請求権にあたり、非免責債権となるため、免責を受けても支払わなければならない債務として残ってしまう可能性があります。