滞納税金の支払いと偏頗弁済

1 偏頗弁済

自己破産をする際に気をつけなければいけない点として,偏頗弁済(,特定の債権者に対して債務を弁済すること)が挙げられます。

すなわち,少なくとも破産の直前期以降は,特定の債権者に対して債務を弁済してはいけないのが原則となります。

たとえば,他の借入れについては返済することを止める一方で,親族からの借入れについては優先的に返済することは許されません。

このようなことをすると,破産手続開始決定後に破産管財人から否認されたり,場合によっては免責が認められなくなったりする可能性があります。

2 税金を滞納している場合

滞納している税金がある場合は,「租税等の請求権」として非免責債権にあたり(破産法253条),自己破産をしても免責されませんので,税金を支払う必要があります。

それでは,税金についても,自己破産の直前に支払ってはいけないのでしょうか。

この点について,破産法163条3項は,「(偏頗弁済の否認を定めた162条1項の規定は,)破産者が租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)又は罰金等の請求権につき,その徴収の権限を有する者に対してした担保の供与又は債務の消滅に関する行為には,適用しない。」と規定しており,租税等の請求権における偏頗弁済の規定の例外が定められています。

したがって,滞納している税金を支払っても,偏頗行為にはあたりません。

なお,破産法でいう「租税等の請求権」とは,国税,地方税,国民健康保険,国民年金,厚生年金,保育料,下水道使用料などをいいます。

3 税金を立て替えてもらっていた場合

他人(勤務している会社を含みます。)が税金を立て替えている場合,立て替えてもらった他人に対しては,自己破産の直前に支払ってはいけません。

本人としては,実質的に税金分のお金という感覚かもしれませんが,あくまで債権者は立替をした他人であり,立替金は租税等の請求権には当たらず,偏頗弁済の例外規定が適用されないからです。

 

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国民健康保険税の納税義務者

国民健康保険税とは,国民健康保険を行う市町村が,国民健康保険に要する費用に充てることを目的とした税金です。

国民健康保険税を納税するのは,被保険者の属する世帯の世帯主です(国民健康保険法76条1項但書,地方税法703条の4第1項)。

したがって,世帯主が夫の場合,妻や子が国民健康保険税を納付していないときには,世帯主である夫が国民健康保険税を納付する必要があります。

妻や子に自分の分の国民健康保険税の納付を任せていたところ,実際は納付されておらず,納税義務者である世帯主が多額の滞納となっていたというケースもありますので,注意が必要です。

住宅ローン債権が譲渡されたとき

1 住宅資金貸付債権

個人再生では,再生計画に住宅資金特別条項を定めることによって,住宅ローン以外の債権を圧縮しつつ,住宅を残すことが可能です。

住宅ローンは,法律上は「住宅資金貸付債権」という言葉で示されています。

住宅資金貸付債権は,住宅の建設若しくは購入に必要な資金(住宅の用に供する土地又は借地権の取得に必要な資金を含む。)又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払いの定めのある再生債権であって,当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものと定められています(民事再生法196条3号)。

もっとも,住宅資金貸付債権であっても住宅資金特別条項を利用できない例外が存在します。

すなわち,住宅資金貸付債権が法定代位により取得されたときは,再生計画に住宅資金特別条項を定めることはできません(民事再生法198条1項本文括弧書)。

法定代位とは,弁済をするについて正当な利益を有する者が,弁済によって当然に債権者に代位することをいいます(民法500条)。

弁済をするについて正当な利益を有する者としては,連帯債務者や保証人が代表的です。

 

2 住宅ローン債権が譲渡された場合

個人再生を弁護士に依頼して受任通知が発送された後に,住宅ローン債権が別の会社に譲渡されて,住宅ローン債権者が変わることがあります。

この場合は,住宅資金特別条項を利用することができるのでしょうか。

債権譲渡は,代位弁済による債権の取得には当たらないと解されています。

そのため,住宅資金貸付債権が譲渡されても上記の例外規定に該当せず,債権譲渡の場合には住宅資金特別条項を利用できると解されており,したがって,住宅ローン債権が証券化されているような場合でも,住宅資金特別条項を定めることができると解されています。(『条解民事再生法(第2版)』928頁)。

 

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勾留に代わる観護措置

1 少年法の目的・理念

少年法1条では,「この法律は,少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに,少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。」と定められています。

このように,少年法は,目的として「少年の健全な育成」を明確化し,非行少年に対して,再非行を防止するため,教育的・福祉的処遇を行うことを原則としており,このような少年法の理念は保護主義と呼ばれています。

 

2 勾留に代わる観護措置

少年の被疑事件における制度も,少年法の理念に沿うよう設計されています。

少年に配慮した形で,成人と異なる制度設計がなされている例の一つとして,勾留に代わる観護措置があります。

成人の場合,逮捕されると,その後は勾留へと手続が進みます。

しかし,少年の被疑事件においては,検察官は,勾留の請求に代えて観護措置を請求することができますし(少年法43条1項本文,17条1項),やむを得ない場合でなければ,勾留を請求することができないと定められています(少年法43条3項)。

このように法律のたてつけとしては,少年に対する勾留は例外的な措置とされていますが,実際には少年鑑別所の収容能力の関係から収容できない等の理由で「やむを得ない場合」に当たるとして,成人同様の勾留がなされる例が圧倒的に多いです。

勾留に代わる観護措置では,期間は10日間であり,更新は認められておりません。

 

3 家裁送致後

家裁送致とは,捜査書類が家庭裁判所に送られることをいいます。

勾留されている少年が家裁送致される場合は,家裁送致日に身柄ごと家庭裁判所に送致され,その後,場合により,少年鑑別所に収容されることになります。

一方で,勾留に代わる観護措置を受けている少年は,家裁送致前から少年鑑別所に収容されていますので,家裁送致日には記録のみが家庭裁判所に送致され,少年の身柄は少年鑑別所から離れることはありません。

 

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収入が不安定な人の個人再生の利用

1 個人再生の利用適格

小規模個人再生手続きを利用するには,申立人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」必要があります(民事再生法221条1項)。

「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」とはいえないことが明らかの場合には,個人再生手続開始申立ては棄却されてしまいます。

では,どのような人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」人であり,どのような人がそうでないのでしょうか。

ここでは,派遣社員,アルバイト,主婦,無職の人を例に説明いたします。

2 派遣社員

派遣社員の場合は,派遣先の雇用期間が短期間に限定されている場合は,将来において継続的に収入を得ることができるかについて不安がありますが,契約延長や新たな派遣先の紹介を得る見込みを説明することで,個人再生を利用できる可能性があります。

3 アルバイト

これまで短期間のアルバイトを繰り返しているのみの場合であっても,現在働いており,一定額以上を返済できる余裕があれば,将来の雇用継続が見込めないことが明らかでない限りは,利用適格がないことが明らかであるとはいえないと解されています。

4 主婦

主婦の場合は,現在アルバイトやパートで収入を得ているかどうかで判断は異なってきます。

無職の場合は,利用適格がないことが明らかですので,個人再生手続きを利用することはできません。

一方で,アルバイトやパートに出ることで,一定額以上の収入を得ることができるようになれば,将来において継続的に収入を得ることができないことが明らかとはいえないとされる可能性があります。

5 無職

無職の場合は,基本的には利用適格がないことが明らかですので,個人再生手続きを利用することはできません。

しかし,現在たまたま失業中であり,既に内定を得ているなどの事情のため,近いうちに再就職することが確実である場合には,継続的な収入を得る見込みがないことが明らかでないとして,個人再生手続きを利用できる可能性があるという考え方があります。

 

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個人再生手続きが認可されない場合その2

前回の記事の続きです。

 

5 計画弁済総額が一定の額を下回っているとき(民事再生法231条2項3号,同項4号,241条2項5号)

6 再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において,再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき(民事再生法231条2項5号)

7 再生計画が住宅資金特別条項を定めた場合で,債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれるとき(民事再生法231条1項,241条2項3号,202条1項3号)

第3 小規模個人再生特有の不認可事由

1 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき(民事再生法231条1項,174条2項3号)

2 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき(民事再生法231条2項1号)

第4 給与所得者等再生特有の不認可事由

1 給与所得者等再生における再生計画が遂行された場合に,再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号イ)

2 個人再生において再生計画を遂行することが極めて困難となった場合の免責決定が確定した場合に,当該免責決定に係る再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号ロ)

3 自己破産手続における場合に,再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号ハ)

第5 さいごに

前回の記事から,個人再生手続きが認可されない場合について説明してきました。

弁護士としては,このような不認可事由が判明し次第,個人再生手続きがとれないことを依頼者の方に説明しなければなりません。

その場合には,自己破産など方針変更を検討せざるを得ないでしょう。

 

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個人再生手続が認可されない場合その1

第1 個人再生計画の不認可

個人再生手続において裁判所から再生計画の認可決定を得れば,債務を圧縮したうえで,原則3年での分割返済をすることが可能です。

しかし,再生手続開始決定が下されたからといって必ずしも再生計画が認可されるとは限りません。

民事再生法では個人再生手続における再生計画の不認可事由を定めており,不認可事由に該当する場合には再生計画不認可の決定がなされます。

個人再生手続には,小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの手続があり,次のとおり2つの手続に共通する不認可事由と各手続に特有の不認可事由が存在します。

第2 個人再生に共通する不認可事由

1 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し,かつ,その不備を補正することができないものであるとき(民事再生法231条1項,241条2項1号,174条2項1号)

この場合には再生計画不認可決定がなされますが,例外として,再生手 続が法律の規程に違反する場合において,当該違反の程度が軽微であるときは,不認可事由には該当しません。

2 再生計画が遂行される見込みがないとき(民事再生法231条1項,241条2項1号,174条2項2号)

再生計画が遂行される見込みがないときも不認可事由にあたります。

具体的には,債務者の毎月の収入からすれば返済できる見込みがない再生計画では,不認可の決定がされます。

3 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき(民事再生法231条1項,174条2項4号,241条2項2号)

再生債権者の一般の利益とは,破産手続がなされたならば得られたであろう利益のことをいいます。

破産手続では原則として債務者の全ての財産が換価されて配当に充てられるので,債務者の財産の合計額よりも低い額しか返済しないような再生計画については,不認可決定がなされます。

4 債権の総額が5000万を超えるとき(民事再生法231条2項2号, 241条2項5号)

再生債権の総額が5000万円を超えるときは,不認可事由となります。

ただし,ここでの再生債権の総額について,住宅資金貸付債権の額,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額等が除かれています。

 

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信用情報機関

1 信用情報機関とは

信用情報機関とは,そこに加盟する会員に対し,加盟会員が加盟会員の顧客と与信取引をする際の判断のための資料として,個人の信用情報を提供する機関のことをいいます。

信用情報とは,年収や勤務先等の情報やクレジットカード・ローン等の申し込みや契約,支払いに関する情報のことをいいます

信用情報機関の加盟会員は,信用情報機関から信用情報を取得することで,ローンやクレジットカードといった与信取引の審査の判断に役立てることとなり,このような信用情報機関からの情報提供によって,加盟会員は消費者の返済能力に応じた信用供与をすることが可能となり,過剰な貸し付けを防ぐ可能性が高まるということが謳われています。

 

2 種類

代表的な信用情報機関は,株式会社シー・アイ・シー(通称「CIC」),株式会社日本信用情報機構(通称「JICC」),全国銀行個人情報信用センター(通称「KSC」)の3つであり,複数の信用情報機関に加盟する金融機関や貸金業者も多いです。

CICは,クレジット会社の共同出資によって設立された信用情報機関であり,主な会員は,クレジットカード会社,信販会社等です。

JICCは,国内で唯一全業態を網羅する国内最大の信用情報機関であり,主な会員は,消費者金融,信販会社等です。

KSCは,一般社団法人全国銀行協会が設置した信用情報機関であり,主な会員は,銀行,信用金庫,農協等です。

これらの信用情報機関は,提携して情報交流を実施しており,加盟会員は,各機関に登録されている信用情報のうち,延滞に関する情報等を利用することができます。

 

3 信用情報の開示方法

自分がどこかから借入れをしていたこと自体は記憶にあるものの,それが具体的にどこなのか,また,いくら借りていたか思い出せない場合,自分の信用情報を取寄せることで,それらの情報が判明することがあります。

自分の信用情報を取寄せる方法としては,パソコン・スマートフォン・郵送・窓口での開示等の方法があります。

詳細な手続きは,各信用情報機関のホームページを参照されるのがよいでしょう。

 

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共有名義人が自己破産した場合

自己破産をする方が他の人と共有する財産を持っている場合,手続きはどのようになるのでしょうか。

たとえば,兄弟の共有名義で住宅を2分の1ずつ持っている場合に,兄が自己破産したら,住宅はどうなるでしょうか。ここでは住宅ローンはない(既に完済している)場合を考えてみます。

まず,破産手続において換価の対象となるのは,あくまで破産者の財産ですから,競売にかけられるのは兄の共有持分の2分の1のみで,住宅の全部が競売にかけられるわけではありません。

しかしながら,競売によって兄の2分の1の共有持分が他人に落札されたときには,共有物分割請求がなされるおそれがあります。

住宅について共有物分割請求がなされた場合,物理的に分割することが困難であるため,住宅の全部について競売にかけられることになります。

それを避けるには,共有者である弟が兄の分の共有持分を買い取ることが必要となりますが,その際には,破産手続開始決定後に,破産管財人から相場価格で買い取るのが無難です。