小規模個人再生と給与所得者等再生

1 個人再生手続における2つの手続

個人再生手続は,個人である債務者を対象として,住宅ローン等の債務を除いた債務の総額を圧縮した上で,原則として3年の分割弁済をする計画を裁判所に認可してもらう手続です。

この個人再生手続きには,小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの手続が存在しています。

この2つの手続は,以下の点で異なります。

1 要件

小規模個人再生では,「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあ」ることが手続開始の要件となっている(民事再生法221条1項)のに対して,給与所得者等再生では,「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれるもの」が手続開始の要件となっています(民事再生法239条1項)。

このように給与所得者等再生の方が厳格な要件となっています。

2 返済額

⑴ 小規模個人再生においては,住宅ローン債務等を除いた債務額の合計に応じて最低弁済額が次のとおり定められています。

ア 債務が100万円未満であるとき

債務総額

イ 債務が100万円以上500万円未満であるとき

100万円

ウ 債務が500万円以上1500円未満であるとき

債務の5分の1の額

エ 債務が1500万円以上3000万円未満であるとき

300万円

オ 債務が3000万円以上5000万円未満であるとき

債務の10分の1の額

⑵ 一方で,給与所得者等再生においては,可処分所得の2年分を返済する必要があります。

可処分所得は,手取り収入から税金と最低生活費を控除する方法で計算され,最低生活費は,居住地域,家族構成,年齢等によって変動します。

たとえば,名古屋は居住地域の区分が第一区にあたるので,名古屋にお住まいですと,個人別生活費や世帯別生活費の額が他の地域よりも大きく算出されます。

通常,給与所得者等再生の方が小規模個人再生よりも返済総額が大きくなります。

⑶ もっとも,いずれの手続においても,⑴,⑵で上述した額よりも所有する財産の額の方が大きい場合には,財産の総額を計上した額が返済総額となります。

3 債権者による決議

また,2つの手続は,債権者による再生計画案の決議の要否が異なります。

小規模個人再生では,債権者の同意が必要であり,不同意の意思表明をした債権者が債権者総数の半数に達するか,不同意の意思表明をした債権者の債権額が総債権額の過半数に達するときは,否決されます。

一方で,給与所得者等再生では,債権者による決議は不要です。

 

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給料の取立てに対する否認権行使の可否

1 事例

次のような事例を考えてみます。

① 弁護士による受任通知

② 債権者による債務者の給料債権差押え及び取立て

③ 破産手続開始申立て

④ 破産手続開始決定

このような事例においては,破産管財人は,債権者による給料の取立てに対して否認権を行使できるでしょうか。

2 検討

⑴ 執行行為に対する否認

ア 否認しようとする行為が執行行為に基づくものであるとき

「否認しようとする…行為が執行行為に基づくものであるとき」(破産法165条)とは,①執行行為に基づく債権者の満足を否認の対象とする場合及び②執行行為により生ずる権利移転等を否認する場合をいいます(『条解破産法(第2版)』(2014)1124頁)。

本件は,破産債権者が給料債権を取り立てた行為について否認を行う場合なので,執行行為に基づく債権者の満足を否認の対象となる場合です。

したがって,「その行為が執行行為に基づくものであるとき」に該当します。

イ 行為性の要否

偏頗行為否認においては,詐害意思が不要とされることから,効果において破産者の行為と同視される第三者の行為も否認の対象行為に含まれると解されています(『条解破産法(第2版)』1126頁)。

旧法下ではありますが,判例は,故意否認について破産者の「害意ある加功」を要求する一方で,危機否認については,執行行為に基づく場合,強制執行を受けるにつき破産者の「害意ある加功」を要求していません(最判昭和57年3月30日判時1038号286頁,最判昭和48年12月21日判時733号52頁)。

ウ したがって,本件のような給料取立て行為にも否認権の行使は可能です。

⑵ 偏頗行為否認(162条1項1号イ該当性)

ア 既存の債務についてされた債務の消滅に関する行為(162条1項柱書)

破産債権者が給料債権を取り立てる行為は,既存の債務についてされた債務の消滅に関する行為です。

イ 破産者が支払不能になった後(同項1号柱書本文)

支払停止による推定規定(162条3項)があり,受任通知送付によって,支払不能が推定されます。

ただし,推定は,申立て前1年以内の支払停止にのみ適用されます。

ウ 支払不能又は支払停止について悪意(162条1項1号イ)

破産債権者は,受任通知の送付を受けているので,支払停止について悪意です。

ただし,166条の規定が存在し,破産手続開始の申立ての日から一年以上前にした行為は,支払停止の事実を知っていたことを理由として否認することができません。

エ 結論

以上より,冒頭に挙げた事例では,基本的には,偏頗行為否認ができます。

ただし,手続開始申立ての時期によっては,立証のハードルがあるということになりそうです。

 

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