土地や建物を所有する方の破産

1 自己破産すると,不動産は手元に残せない

不動産をお持ちの方が自己破産した場合,ほとんどの場合,その不動産を手放さなければなりません。

⑴ 競売

まず,不動産に住宅ローン等を担保する抵当権が設定されている場合,破産によって住宅ローン等の返済を滞納することになりますので,不動産に設定されている抵当権が実行され,競売手続が進行してしまいます。

⑵ 破産管財人による売却

また,競売手続とならなくても,裁判所から選任された破産管財人が不動産の売却手続を行って,債権者に対し,売却益からできるだけお金を配当することを狙います。

もっとも,買い手がつかなければ破産管財人も売却しようがなく,ある程度の期間を待っても買い手が現れなければ,破産管財人は不動産を放棄することになり,その場合は自己破産しても不動産を手元に残せることになります。

 

2 同時廃止か破産管財事件か

⑴ 原則

1⑵で説明したとおり,不動産をお持ちの方が自己破産すると,基本的には破産管財人が不動産を売却して,売却益を債権者に配当することになります。

ですので,不動産を所有したまま自己破産をすると,不動産売却等のために破産管財人が選任されます(自己破産のうち破産管財人が選任される類型を破産管財事件と言います。)。

⑵ 例外

ア 名古屋地方裁判所の運用では,原則として,①現金及び普通預貯金以外の個別財産について,財産項目ごとの合計額が20万円未満の場合,かつ,②現金及び普通預貯金の合計額が50万円未満の場合,破産管財人の選任されない同時廃止事件となります。

イ 不動産の評価額は,原則として処分価格の合計額です。

固定資産税評価証明書のみを裁判所に提出したとき,①建物ですと,その担保する被担保債権額が固定資産税評価額の1.5倍以上である場合,②土地ですと,その担保する被担保債権額が固定資産税評価額の2倍以上である場合には無価値とみなすことができます。

また,固定資産評価証明書のみでは,上記の基準を満たさないときでも,当該不動産の被担保債権額が複数の不動産業者の査定額の平均値の1.5倍以上であるときにも,無価値とみなすことができます。

2回目の任意整理の可否

弁護士の松山です。

一度任意整理をした場合でも,入院や転職によって今まで通りの収入が途絶えてしまったり,急な出費が発生したりして途中で支払が出来なくなることがあります。

通常,任意整理だと,2回分以上滞納があると期限の利益を喪失するという条項がついた和解をすることが多く,数カ月にわたって返済ができないと一括で請求を受けることになります。

 

このような場合,2回目の任意整理をすることを検討することがあります。

任意整理は,債権者である貸金業者やカード会社と交渉をして和解をまとめる手続ですので,2回目の任意整理ができるかは,債権者の意向次第です。

たとえば,1回目の任意整理をしてから一度も返済をしていなかったり,1回目の任意整理をした直後だったりするときは,債権者からの信用を得られず2回目の任意整理ができない場合があります。

一方で,そのような事情が無ければ,2回目の任意整理の交渉自体が断られることは少ないです。

2回目の任意整理がまとまった場合は,その時点から分割払いとなって毎月の返済額を少なくすることや毎月の返済額は変えずに完済時期のみを遅らせることが可能となります。

たとえば,1回目の任意整理のときに債務額180万円を5年間(60回)で分割して支払う和解をしていて,ちょうど2年間返済したタイミングで支払が出来なくなったときを考えます。

このとき,1回目の任意整理では毎月3万円を返済することとなっており,2年間返済したタイミングでの債務額は108万円です。

支払が出来なくなった理由が入院等で一時的に収入がなくなったことであり,近いうちに退院の見込みがあって職場復帰すれば以前の収入を継続的に得る見込みがあれば,毎月の返済額はそのまま3万円として,支払ができなかった数カ月だけ返済期間をずらすという和解をすることになります。

一方で,支払が出来なくなった理由が,転職等で収入が減少したり子の進学等で支出が増大したりして,1回目の任意整理と比べて返済に回すことができるお金が少なくなったことであれば,以前と同じ返済額を支払うという和解はできません。

その場合は,たとえば,その時点からさらに5年分割での交渉を行うことで毎月の返済額を1万8000円に抑えることを狙うことが考えられます。

万が一,失職等で今後しばらくの間収入の見込みが無かったり,債権者との話し合いがまとまらなかったりすると,2回目の任意整理はできず,自己破産等を決断しなければならないこともあります。

現金化と免責不許可事由

1 免責とは

免責手続とは,債務がゼロとなる手続のことをいいます。

自己破産をすると,破産者は,基本的には免責許可決定を受け,それが確定すれば,それまでの債務から解放され,経済的に新たなスタートを切ることができるようになります。

2 免責不許可事由

⑴ 免責不許可決定

しかし,自己破産をすれば必ず免責許可決定を受けられるわけではなく,場合によっては免責不許可決定を受けることがあります。

免責不許可決定を受けると,破産者は全ての債務について支払う義務が残ります。

免責不許可決定を受ける可能性がある事項は,免責不許可事由といい,破産法で定められています。

⑵ 信用取引により買い入れた商品の著しく不利益な条件での処分

免責不許可事由の中には,信用取引により買い入れた商品の著しく不利益な条件での処分が定められています。

たとえば,換金目的でクレジットカードを利用して商品を購入し,その商品を安く換金することは免責不許可事由となります。

このような現金化は,ブランド物のバッグや新幹線のチケットの購入・売却によってなされることが多いです。

クレジットカードの利用明細にそのような商品の購入が多数見受けられる場合には,現金化の疑いがあるため,購入目的等を詳しく聞かれることになります。

弁護士法人心千葉法律事務所のサイトは以下です。

https://www.chiba-saimuseiri.com/

破産と給料差押え


1 自己破産における給料の差押えの取扱い

破産手続開始決定が下される前に,債権者から訴訟を提起されて給料の差押えを受けてしまう場合があります。

その場合,基本的には手取り収入の4分の1の額が手元に入らなくなり,生活が苦しくなるおそれがあります。

また,一般的には弁護士が介入した後に差し押さえられたお金は,特定の債権者にされた返済(これを偏頗弁済といいます。)として,手続き上問題となる場合があります。

それでは,破産手続きの開始決定があったとき,給料の差押えはどのように扱われるのでしょうか。

2 同時廃止事件の場合

通常,自己破産を申し立てる際には,免責許可の申立ても同時に行われ,その場合,同時廃止決定が下されれば,差押えは中止します(破産法249条1項)。

この「中止」の状態は免責許可決定が確定して差押えが失効するまで継続し,その間,破産者は差し押さえられた給料の相当額を取得することができません。

この間は,勤務先が給料に相当する額のお金を供託して,破産者は免責許可決定の確定後に供託されたお金を受け取ることになります。

3 破産管財事件の場合

破産手続の開始決定がなされれば,破産財団に属する財産に対して既になされている強制執行は,破産財団に対してはその効力を失います(破産法42条2項)。

すなわち,破産手続開始決定時になされている給料の差押えは効力を失うこととなります。

しかしこのままでは,給料に対する差押えが当然に抹消するわけではないので,実務上,裁判所が選任した破産管財人という弁護士が,裁判所に対して執行取消の上申書を提出し,裁判所が差押えの執行命令の取消をするのが一般的な運用であり,これによって,破産者は給料の満額を手に入れることが出来ます。

 

弁護士法人心は,新たに四日市に「弁護士法人心四日市法律事務所」を開設いたしました。

四日市で自己破産をお考えの方はこちら

再生計画中の履行中に退職する場合

1 弁護士の松山です。

個人再生では,圧縮された債務額を3~5年間かけて返済するという再生計画を裁判所に認可してもらう必要があります。

通常は,現在の収入から生活費を差し引いて,返済に回す余裕がどれくらいあるのかを計算して,返済計画が実行できることを資料とともに示すことになります。

 

2 それでは,再生計画を実行中に定年等で退職が見込まれる場合,それ以降の収入について,どのようなことを裁判所に示す必要があるでしょうか。

まずは,退職した後も継続的に収入があることを示すものとして,再就職の有無が挙げられます。

勤務先に再就職の例が多いか少ないかや,再就職した場合の収入の見込みを上申書等で説明することとなります。

また,退職金が出る場合に,退職金を返済に充てても生活ができることを示したうえで,退職時に一括で返済するという内容で計画を立てることも考えられます。

 

3 再就職しなかったり,今まで再就職の例がなかったりする場合でも,年金を得ることが出来るなら,その金額の見込みをもって再生計画を履行できることを示すことも考えられます。

いずれにせよ,再生計画を履行している間に退職する見込みがある場合,今後の生活の見込みを検討したうえで,複雑な考慮が必要となる場合がありますので,弁護士と相談して計画を立てるのがよいでしょう。

債権者名簿に記載しなかった債権

名古屋の弁護士の松山です。

1 破産をし,免責許可決定を得ても免責の効力が及ばない債権を非免責債権と言います。

破産法253条には非免責債権が列挙されており,その中の一つに破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった債権があります(破産法253条1項6号)。

2 債権者名簿に記載されなかった債権者は,免責に対する異議申立の機会を奪われ,免責に対する防御の機会が完全に失われることから,このような債権を保護する趣旨とされています。

3 上記の趣旨から,破産者があえて債権者名簿に記載しなかった場合だけでなく,破産者が過失によって記載しなかった場合も含むと考えられています。

4 過失の有無の認定には,様々な要素を考慮されますが,破産者が調停調書による債権を債権者名簿に記載することを失念したまま免責許可決定を得た事件について,債権者が当該債権につき調停調書作成以後免責許可決定から4年ほど経過するまで一度も請求しておらず,原告の債務不履行後免責申立の時まで六年が経過していたこと,破産の原因は当該債権の発生日以後の債権がほとんどであり,当該債権について免責不許可事由がないこと,当該債権は破産債権全体からするとほんの一部であること等を指摘して,非免責債権とした裁判例が存在します(神戸地裁平成元年9月7日)。

自己破産に対する誤解

弁護士として,できるだけ自己破産をしたくない方のご相談をお受けすることも多いですが,その理由を聞いてみると,自己破産手続について誤解をしているケースが少なくありません。

1 基本的に会社や親戚に知られることはありません。

自己破産をしても,戸籍や住民票に破産の事実が記載されることはありません。

また,政府が発行する「官報」に氏名が載りますが,一般の人が官報を目にすることはめったにありません。

したがいまして,滞納が続いて給料の差押えがなされたり,親戚と同居していたりする場合でなければ,会社や親戚に自己破産を知られる可能性は低いです。

2 必ず仕事をやめないといけないわけではありません。

自己破産をすると,手続きをしている間は,警備員や生命保険募集人等の一定の資格・職業に就くことが制限されます。

しかし,制限があるのは手続中のみですし,そのような資格・職業に就いていたり就く予定があったりするわけでなければ,自己破産による影響はありません。

3 選挙権はなくなりません。

自己破産をしても選挙権が制限されることはありません。

4 破産手続き終了後は,海外旅行の制限はありません。

自己破産の手続中は,転居や宿泊を伴う出張をするには裁判所の許可を得る必要があり,海外旅行の許可がなされないことも多いです。

しかし,上記の許可が必要なのは自己破産の手続中だけですし,自己破産をしてもパスポートに制限が加えられるわけではありませんので,自己破産の手続きが終了した後は海外旅行をすることができます。

会社の破産につきましては,こちらもご覧ください。

債権者に対する返済と破産

1 一部の債権者に対する返済

自己破産をして免責許可決定が下りると借金の支払義務がなくなります。

そのため,親族や知人等から借入れしている場合,その債権者に迷惑をかけたくないとの思いから,一部の債権者にだけ返済をしてしまうことがあります。

しかし,全ての債務を十分に返済することのできない資力しかない状況で,一部の債権者のみに返済を行うこと(これを偏頗行為といいます。)は,返済を受けなかった債権者にとっては,返済しなかったならば破産手続で平等に分配されたであろう部分を得ることができなくなることを意味する行為です。

2 否認権

偏頗行為は,上述したような意味で債権者を害するため,破産法上,否認権行使の対象となっています。

否認権とは,破産手続開始前の一定の行為を破産手続開始後に破産財団のために失効させ,流出した財産を破産財団に回復し,また,債権者間の公平を図る制度です。

否認権の対象行為となる返済があった場合,破産手続開始決定後に,破産管財人という弁護士から返済を受けた相手方に対して,返済を受けた分の返還請求がなされます。

3 偏頗行為の否認

偏頗行為の否認は,大きく二つの類型があります。

まず,破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした返済等の行為です(破産法162条1項1号)。

この場合,否認権行使の対象となるには,返済が支払不能後になされたときには,債権者が破産者の支払不能又は支払停止の事実を知っていたこと(同項1号イ),返済が破産手続開始の申立て後になされたときには,債権者が破産手続開始の申立ての事実を知っていたこと(同項1号ロ)が必要です。

次に,破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたものです(破産法162条1項2号)。

4 否認権の対象となる偏頗行為の具体例

破産者が自ら積極的に一部の債権者にだけ返済する場合の他,銀行口座からの自動引き落としを利用していたときや勤務先からの借入について給料から天引きされていたときで,債権者への受任通知到達後に自動引落としや天引きがあった場合にも,偏頗弁済となって否認権の対象となります。

破産前の債権者の一部のみに対する返済

1 一部の債権者に対する返済

自己破産をして免責許可決定が下りると借金を支払う責任がなくなります。

そのため,破産をしようとしている人が親族や知人等から借入れしている場合,その債権者に迷惑をかけたくないとの思いから,一部の債権者にだけ返済をしてしまうことがあります。

しかし,全ての債務を十分に返済することのできない資力しかない状況で,一部の債権者のみに返済を行うこと(これを偏頗行為といいます。)は,返済を受けなかった債権者にとっては,返済しなかったならば破産手続で平等に分配されたであろう部分を得ることができなくなることを意味する行為です。

2 否認権

偏頗行為は,上述したような意味で債権者を害するため,破産法上,否認権行使の対象となっています。

否認権とは,破産手続開始前の一定の行為を破産手続開始後に破産財団のために失効させ,流出した財産を破産財団に回復し,また,債権者間の公平を図る制度です。

否認権の対象行為となる返済があった場合,破産手続開始決定後に,破産管財人という弁護士が返済を受けた相手方に対して,返済を受けた分の返還請求がなされます。

迷惑をかけたくないからこそ特定の借入を返済したにもかかわらず,そのような偏頗行為をすることで,相手方は破産管財人からの返還請求を受ける等,かえって迷惑をかけてしまう場合もあるのです。

3 偏頗行為の否認

偏頗行為の否認は,大きく二つの類型があります。

まず,破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした返済等の行為です(破産法162条1項1号)。

この場合,否認権行使の対象となるには,返済が支払不能後になされたときには,債権者が破産者の支払不能又は支払停止の事実を知っていたこと(同項1号イ),返済が破産手続開始の申立て後になされたときには,債権者が破産手続開始の申立ての事実を知っていたこと(同項1号ロ)が必要です。

次に,破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたものです(破産法162条1項2号)。

4 否認権の対象となる偏頗行為の具体例

破産者が自ら積極的に一部の債権者にだけ返済する場合の他,銀行口座からの自動引き落としを利用していたときや勤務先からの借入について給料から天引きされていたときで,債権者への受任通知到達後に自動引落としや天引きがあった場合にも,偏頗弁済となって否認権の対象となります。

勤務先の借入についての給与天引き

1 勤務先からの借入について給与天引きされている人が破産や個人再生を行った場合は,給与天引きされている事実はどのように扱われるのでしょうか。

 

2 破産の場合,勤務先からの借入も破産債権ですので,弁護士が受任通知を送付した後になされた給与天引きは偏頗弁済にあたり否認対象行為です(破産法162条1項1号)。

破産手続開始前までに勤務先が天引き分を任意に返還しなければ,裁判所から選任された破産管財人という弁護士が勤務先に対して天引き分のお金の返還請求を行うこととなります。

破産管財人が選任される事件類型だと,裁判所に納める予納金も最低20万円以上となることが通常です。

 

3 個人再生では否認という制度はありませんが,故意に否認対象行為を行うと,不当な目的による申立てとされ,申立てが棄却されるおそれがあります(民事再生法25条4号)。

また,破産したとすれば債権者に配当されたであろう金額以上の金額を返済するという計画案でなければ裁判所に認可されません(清算価値保障原則)。

したがって,弁護士が受任通知を送付した後の給与天引きは否認対象行為となることから,その分の金額は個人再生をする方の財産に上乗せされて計算され,それ以上の金額を返済する計画案を立てることとなります。

自己破産した場合の財産の帰趨

1 自己破産手続の開始決定があると,破産者の財産は原則としてすべて破産管財人という弁護士が管理処分権を持ちます。

破産管財人が管理処分権を有する財産は,破産財団に属する財産といいます。

 

2 しかしながら,破産者が所有する財産でも,破産財団に帰属しない財産が存在します。

こういった財産を自由財産といい,破産者は手元に残すことができます。

 

3 まず,破産手続開始決定後に取得した財産は,自由財産です。

4 次に,個別の法律で差押えが禁止されている財産も自由財産となります。

たとえば,破産者の生活に欠くことができない衣服や寝具,家具がこれにあたります。

また,確定拠出年金も差押えが禁止されているため,本来的には自由財産となります。

5 99万円以下の現金についても,自由財産となります。

これら,新たに取得した財産,差押えが禁止された財産及び99万円以下の現金は,本来的自由財産と呼ばれます。

6 本来的自由財産以外でも,裁判所が認めた財産については自由財産となります。

すなわち,本来は破産財団に帰属する財産であっても,破産者の生活の状況,破産者の財産の種類及び額,破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して,裁判所が認めると,自由財産とされる財産の範囲が拡張されます。

自己破産に関する弁護士法人心のサイトはこちら

障害年金受給者の個人再生

障害年金を受給している方が個人再生をすることができるのでしょうか。

個人再生の手続のうち,利用者が多い小規模個人再生を例に説明します。

小規模個人再生では,手続を開始させるために「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」(民事再生法221条1項)が必要です。

これに該当する限り,年金を受給している方も個人再生を利用することが可能です。

老齢年金なら,基本的に年金額が減ることはないので,問題ありません。

しかしながら,障害年金の場合は特別な考慮が必要となります。

すなわち,障害年金のうち一部は,一度認定されても一定年数毎の申請が必要となるのです。

したがって,一度障害を認定されて障害年金を受給したとしても,それが生涯継続するとは限らないのです。

そのため,障害年金を受給していることから当然に「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があるとは判断できず,これまでの障害年金を受給してきた実績や現在の障害の状態,通院歴等から再生計画の終了時に支給停止となる見込みが小さいと判断されたとき,「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込み」があるとは判断されて個人再生が利用できることになります。

実際,支給停止となる見込みが小さいと弁護士が説明することで,障害年金を受給している方が個人再生を利用できるようになった経験があります。

個人再生に関する弁護士法人心のサイトはこちら

住宅資金特別条項とマンション管理費

1 個人再生と住宅資金特別条項

弁護士の松山です。

個人再生では,原則としてすべての債権者を平等に扱う必要があります。

しかしながら,住宅ローンの返済を滞ると住宅についている抵当権が実行され,債務者は自宅を手放さざるを得なくなります。

それでは,生活の本拠を失った債務者の経済的な再生が困難になってしまいます。

そこで民事再生法は,一定の条件を満たす場合に,特別に住宅ローンを今まで通り返済して住宅を残して個人再生をすることを認めています。

このように,住宅を残すために再生計画案に付す条項を住宅資金特別条項といいます。

 

2 マンション管理費を滞納しているとき

住宅資金特別条項は一定の条件が満たされていないと再生計画案に付けることができません。

たとえば,自宅のマンションをローンで購入している方が個人再生を考えているとき,そのマンションの管理費を滞納している場合には,住宅資金特別条項は認められません。

すなわち,住宅の上に住宅ローン以外の担保権がある場合は住宅資金特別条項を定めることができないところ(民事再生法198条1項但書),区分所有者は,マンション管理費請求権について債務者の区分所有権の上に先取特権が認められており(建物の区分所有等に関する法律7条1項),住宅の上に住宅ローン以外の担保権があることになります。

家計の状況作成の注意点

個人再生や自己破産を行うとき,数か月分の家計の状況を作成して裁判所に提出する必要があります。

家計の状況では,1カ月ごとの世帯全体での収入と支出を記載しますが,漫然とした記載では不適切となる場合があります。

以下では,名古屋地方裁判所での運用を前提に,家計の状況作成における注意点をご説明します。

 

1 まずは,その1カ月の間に実際に動いた金額を記入します。

すなわち,2月分の電話代を3月に支払った場合には,3月の家計の状況に支払った額を記入します。

2 次に,家賃や電話料金,水道代等の公共料金は領収書や通帳の記載を確認して,1円単位で正確な額を記入する必要があります。

特に公共料金について,紙の請求書をもとにコンビニ払いをしているような場合,領収書の提出を求められることがあります。

3 また,どの項目に入れてよいのか一概にはわからない支出は,「その他」の項目を利用したり,余白に金額をメモしたりして記入すべきです。

むやみに「食費」や「日用品・雑費」という項目に振り分けて記入すると,その項目のみ高額となってしまい,どのようなお金の使い方をしているのか検証しにくくなったり,浪費をしていると誤解されたりする可能性があります。

 

弁護士法人心のホームページの集合写真を変更いたしました。

リンクからご覧になることができます。

 

 

任意整理とクレジットカード

任意整理を弁護士に依頼しようか検討している方にとって,任意整理をしたら現在使用しているクレジットカードを引き続き使えるかが気になる点かと思われます。

使い続けようとしているクレジットカードが,任意整理の対象とした借入先の業者のクレジットカードか,任意整理の対象としていない借入先の業者のクレジットカードかによって異なります。

⑴ 任意整理の対象とした借入先の業者のクレジットカードの場合

任意整理の対象とした業者のクレジットカードの場合,そのクレジットカードを使い続けることはできないと考えた方がいいでしょう。

弁護士が任意整理の受任通知を業者に対して送付した段階で,クレジットカードの返還を求められることも多いです。

⑵ 任意整理の対象としなかった借入先の業者のクレジットカードの場合

任意整理の対象としなかった業者のクレジットカードの場合,支払いを遅延しない限りは,一定期間,引き続きクレジットカードを使用できる可能性があります。

もっとも,借入先のどこか1社でも任意整理をしたときは,その事実が信用情報機関に登録されるのが通常ですので,クレジットカード会社が与信審査をする際に信用情報機関に信用情報の照会をしたときには,任意整理した事実が発覚し,与信審査が通らず,それ以降クレジットカードを使い続けることができない可能性があります。

クレジットカード会社が行う与信審査は,クレジットカードの作成時のほか,クレジットカードの更新時の与信審査や途上与信があります。

途上与信とは,クレジットカードの利用中にクレジットカード会社が設定している基準に適合しているかの審査を行うことで,基準に達していなければ,基本的にはクレジットカードが利用停止になります。

任意整理についてはこちらもご覧ください。

否認対象行為と個人再生における清算価値

1 個人再生手続きでの清算価値

個人再生手続きでは,再生計画の不認可事由の一つとして「再生計画(の決議)が再生債権者の一般の利益に反するとき」が定められています(民事再生法民再231条1項、174条2項4号、241条2項2号)。

つまり,個人再生では,破産によって債権者が得られる経済的利益よりも,再生計画によって得られる経済的利益が大きくなければならないのです。

このことを清算価値保障原則といいます。

 

2 否認対象行為の扱い

⑴ 否認対象行為とは,たとえば,全社に対して今後支払うことができない状態になってから行った財産の贈与や債務者がそのような状態に陥っていることを知っている一部の債権者のみに返済すること等を指します。

⑵ ある行為が否認対象行為に該当するとき,破産手続きにおいてはその行為が破産管財人という弁護士から否認されることで,その分破産者の財産が回復します。

そのため,個人再生では,破産によって債権者が得られる経済的利益よりも,再生計画によって得られる経済的利益が大きくなければならないという清算価値保障原則からは,現在ある財産の額に,否認権の行使によって回復するであろうと想定される財産の額を上乗せした額を上回る返済をする必要があり,これに反する再生計画案は不認可となります。

個人再生する際の退職金の扱い

名古屋の弁護士の松山です。

個人再生の際には,所有する財産の目録を作成する必要がありますが,財産の項目の中には退職金があります。

今回は,個人再生する際の退職金の扱いについて説明いたします。

1 清算価値保障原則

個人再生手続においては,破産したとすれば配当される金額よりも多くの金額を債権者に支払わなければならないというルールがあります。

これを清算価値保障原則といいます。

したがって,財産の評価額よりも多くの金額を債権者に支払う必要があります。

2 退職金の扱い

⑴ 既に退職金を受領している場合

既に退職していて,退職金を受領している場合には,受領した退職金全額を財産として計上します。

⑵ 近い将来退職する予定がない場合

多くの裁判所では,自己都合退職した場合の退職金額の8分の1が債務者の財産であると評価します。

これは,破産手続においては,法律上,自己都合退職した場合の退職金額の4分の1が配当に回すべき財産とされるところ,破産手続開始決定時において退職していない場合には,退職金は発生するか否かが不確実なため,その半分の額を配当に回せばよいとの運用がなされているためです。

したがって,このような運用をする裁判所では,退職金額の8分の1の額を財産として計上すればよいことになります。

⑶ 近い将来退職する予定がある場合

近い将来に退職する予定がある場合には,退職金が発生することが確実といえるため,退職金額の4分の1の額を財産として計上することになります。

3 退職金額を証明する書類

個人再生を申し立てるにあたっては,退職金見込額の根拠となる書類を裁判所に提出する必要があります。

勤務先から退職金見込額証明書を発行してもらう方法や,就業規則のうち退職金規程の部分のコピーと併せて,退職金額の計算結果を提出する方法があります。

名古屋で個人再生のご相談をお考えの方はこちら

個人再生手続きが終わった後に支払えなくなった場合

1 再生計画に従った返済ができないとき

個人再生手続きにおいて再生計画の認可決定が確定した後,再生計画どおりに支払えなくなった場合には,どう対処すればよいでしょうか。

自己破産するというのも選択肢の一つですが,自己破産しなくてもよい場合もあります。

2 再生計画の変更

個人再生においては,再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは,再生計画で定められた債務の期限を延長することができます。

この場合,変更後の債務の最終の期限は,再生計画で定められた債務の最終の期限から2年を超えない範囲で定める必要があります。

3 ハードシップ免責

再生計画を遂行することが極めて困難である場合は,次の条件のもとで,裁判所は免責の決定をすることができ,これによって債務者は債務を支払う義務を免れます。

⑴ 再生計画を遂行することが極めて困難となったのは,債務者の責めに帰することができない事由によること

⑵ 再生計画で定められた債務の4分の3以上の額の返済を終えていること

⑶ 再生計画の認可決定時に破産した場合の配当総額以上の返済をし終えていること

⑷ 再生計画の変更をすることが極めて困難であること

4 新たな個人再生手続きの申立て

基本的には,再度の個人再生手続きの利用が法律上妨げられているわけではないため,新たに個人再生手続きの申立てをすることも考えられます。

ただし,給与所得者等再生では,1回目の給与所得者等再生の返済計画の認可決定が確定した日から7年間は手続きを利用することはできません。

また,2回目の個人再生であるという点が,債権者の同意の有無に影響を及ぼす可能性もあります。

5 自己破産手続きへの移行

以上の方法をとることができないときは,自己破産手続への移行を検討すべきです。

6 弁護士への相談

いずれの方法をとるにせよ,お早めに弁護士に相談することをお勧めします。

給料の差押えを受けた場合の自己破産

1 自己破産手続きにおける給料の差押えの取扱い

自己破産手続きの開始決定が下される前に,債権者から訴訟を提起されて給料の差押えを受けてしまう場合があります。

その場合,基本的には手取り収入の4分の1の額が手元に入らなくなり,生活が苦しくなるおそれがあります。

また,一般的には弁護士が介入した後に差し押さえられたお金は,特定の債権者にされた返済(これを偏頗弁済といいます。)として,手続き上問題となる場合があります。

それでは,破産手続きの開始決定があったとき,給料の差押えはどのように扱われるのでしょうか。

 

2 同時廃止事件の場合

通常,自己破産を申し立てる際には,免責許可の申立ても同時に行われ,その場合,同時廃止決定が下されれば,差押えは中止します(破産法249条1項)。

この「中止」の状態は免責許可決定が確定して差押えが失効するまで継続し,その間,破産者は差し押さえられた給料の相当額を取得することができません。

この間は,勤務先が給料に相当する額のお金を供託して,破産者は免責許可決定の確定後に供託されたお金を受け取ることになります。

 

3 破産管財事件の場合

破産手続の開始決定がなされれば,破産財団に属する財産に対して既になされている強制執行は,破産財団に対してはその効力を失います(破産法42条2項)。

すなわち,破産手続開始決定時になされている給料の差押えは効力を失うこととなります。

しかしこのままでは,給料に対する差押えが当然に抹消するわけではないので,実務上,裁判所が選任した破産管財人という弁護士が,裁判所に対して執行取消の上申書を提出し,裁判所が差押えの執行命令の取消をするのが一般的な運用であり,これによって,破産者は給料の満額を手に入れることが出来ます。

退職金と自己破産

1 自己破産において退職金の額が重要となる場面

自己破産においては,退職金債権も破産者の財産と扱われることになります。

破産者が所有している財産の額は,①同時廃止事件として扱われるか破産管財事件として扱われるかという事件の種類を決める場面と②どの財産をいくらまで残せるかを決める場面で重要となります。

 

2 同時廃止事件として扱われる条件

名古屋地方裁判所の運用ですと,現金及び普通預貯金以外の各個別の財産項目について財産項目ごとの合計額がいずれも20万円未満であり,かつ,現金及び普通預貯金についてそれらの合計額が50万円未満の場合には,原則として同時廃止事件として扱われます(ただし,この条件を充たしていても破産管財事件として扱われる例外があります)。

 

3 自由財産拡張の基準

破産管財事件となった場合は,破産者の財産をすべて手元に残すことができない場合があります

どの財産をいくらまで残せるかという自由財産拡張の基準の一つとして,名古屋地方裁判所では,預貯金・生命保険解約返戻金・自動車・賃借している家の敷金・電話加入権・退職金債権の財産であり,その評価額が20万円以下であるときは,原則として財産は手元に残せるという扱いをしています。

破産したからといって,必ずしも退職金債権を現金化するために勤務先を退職しなければならないわけではありません。

 

4 退職金の評価方法

原則として,今退職したらもらうことになる退職金の額の8分の1の額が退職金の評価額と考えられています。

ただし,退職間近の方については,今退職したらもらうことになる退職金の額の4分の1で評価されることがあります。

 

5 退職金の額を示すために裁判所に提出する書類

今退職したらもらうことになる退職金の額を示す資料として,通常,退職金見込額証明書か退職金規定の提出が要求されます。

 

自己破産における退職金の取り扱いについては,こちらもご覧ください。