収入が不安定な人の個人再生の利用

1 個人再生の利用適格

小規模個人再生手続きを利用するには,申立人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」必要があります(民事再生法221条1項)。

「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」とはいえないことが明らかの場合には,個人再生手続開始申立ては棄却されてしまいます。

では,どのような人が「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがある」人であり,どのような人がそうでないのでしょうか。

ここでは,派遣社員,アルバイト,主婦,無職の人を例に説明いたします。

2 派遣社員

派遣社員の場合は,派遣先の雇用期間が短期間に限定されている場合は,将来において継続的に収入を得ることができるかについて不安がありますが,契約延長や新たな派遣先の紹介を得る見込みを説明することで,個人再生を利用できる可能性があります。

3 アルバイト

これまで短期間のアルバイトを繰り返しているのみの場合であっても,現在働いており,一定額以上を返済できる余裕があれば,将来の雇用継続が見込めないことが明らかでない限りは,利用適格がないことが明らかであるとはいえないと解されています。

4 主婦

主婦の場合は,現在アルバイトやパートで収入を得ているかどうかで判断は異なってきます。

無職の場合は,利用適格がないことが明らかですので,個人再生手続きを利用することはできません。

一方で,アルバイトやパートに出ることで,一定額以上の収入を得ることができるようになれば,将来において継続的に収入を得ることができないことが明らかとはいえないとされる可能性があります。

5 無職

無職の場合は,基本的には利用適格がないことが明らかですので,個人再生手続きを利用することはできません。

しかし,現在たまたま失業中であり,既に内定を得ているなどの事情のため,近いうちに再就職することが確実である場合には,継続的な収入を得る見込みがないことが明らかでないとして,個人再生手続きを利用できる可能性があるという考え方があります。

 

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個人再生手続きが認可されない場合その2

前回の記事の続きです。

 

5 計画弁済総額が一定の額を下回っているとき(民事再生法231条2項3号,同項4号,241条2項5号)

6 再生債務者が債権者一覧表に住宅資金特別条項を定めた再生計画案を提出する意思がある旨の記載をした場合において,再生計画に住宅資金特別条項の定めがないとき(民事再生法231条2項5号)

7 再生計画が住宅資金特別条項を定めた場合で,債務者が住宅の所有権又は住宅の用に供されている土地を住宅の所有のために使用する権利を失うこととなると見込まれるとき(民事再生法231条1項,241条2項3号,202条1項3号)

第3 小規模個人再生特有の不認可事由

1 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき(民事再生法231条1項,174条2項3号)

2 再生債務者が将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがないとき(民事再生法231条2項1号)

第4 給与所得者等再生特有の不認可事由

1 給与所得者等再生における再生計画が遂行された場合に,再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号イ)

2 個人再生において再生計画を遂行することが極めて困難となった場合の免責決定が確定した場合に,当該免責決定に係る再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号ロ)

3 自己破産手続における場合に,再生計画の認可決定確定の日から7年以内に給与所得者等再生を求める申述がなされたこと(民事再生法241条2項6号,239条5項2号ハ)

第5 さいごに

前回の記事から,個人再生手続きが認可されない場合について説明してきました。

弁護士としては,このような不認可事由が判明し次第,個人再生手続きがとれないことを依頼者の方に説明しなければなりません。

その場合には,自己破産など方針変更を検討せざるを得ないでしょう。

 

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個人再生手続が認可されない場合その1

第1 個人再生計画の不認可

個人再生手続において裁判所から再生計画の認可決定を得れば,債務を圧縮したうえで,原則3年での分割返済をすることが可能です。

しかし,再生手続開始決定が下されたからといって必ずしも再生計画が認可されるとは限りません。

民事再生法では個人再生手続における再生計画の不認可事由を定めており,不認可事由に該当する場合には再生計画不認可の決定がなされます。

個人再生手続には,小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの手続があり,次のとおり2つの手続に共通する不認可事由と各手続に特有の不認可事由が存在します。

第2 個人再生に共通する不認可事由

1 再生手続又は再生計画が法律の規定に違反し,かつ,その不備を補正することができないものであるとき(民事再生法231条1項,241条2項1号,174条2項1号)

この場合には再生計画不認可決定がなされますが,例外として,再生手 続が法律の規程に違反する場合において,当該違反の程度が軽微であるときは,不認可事由には該当しません。

2 再生計画が遂行される見込みがないとき(民事再生法231条1項,241条2項1号,174条2項2号)

再生計画が遂行される見込みがないときも不認可事由にあたります。

具体的には,債務者の毎月の収入からすれば返済できる見込みがない再生計画では,不認可の決定がされます。

3 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき(民事再生法231条1項,174条2項4号,241条2項2号)

再生債権者の一般の利益とは,破産手続がなされたならば得られたであろう利益のことをいいます。

破産手続では原則として債務者の全ての財産が換価されて配当に充てられるので,債務者の財産の合計額よりも低い額しか返済しないような再生計画については,不認可決定がなされます。

4 債権の総額が5000万を超えるとき(民事再生法231条2項2号, 241条2項5号)

再生債権の総額が5000万円を超えるときは,不認可事由となります。

ただし,ここでの再生債権の総額について,住宅資金貸付債権の額,別除権の行使によって弁済を受けることができると見込まれる再生債権の額等が除かれています。

 

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信用情報機関

1 信用情報機関とは

信用情報機関とは,そこに加盟する会員に対し,加盟会員が加盟会員の顧客と与信取引をする際の判断のための資料として,個人の信用情報を提供する機関のことをいいます。

信用情報とは,年収や勤務先等の情報やクレジットカード・ローン等の申し込みや契約,支払いに関する情報のことをいいます

信用情報機関の加盟会員は,信用情報機関から信用情報を取得することで,ローンやクレジットカードといった与信取引の審査の判断に役立てることとなり,このような信用情報機関からの情報提供によって,加盟会員は消費者の返済能力に応じた信用供与をすることが可能となり,過剰な貸し付けを防ぐ可能性が高まるということが謳われています。

 

2 種類

代表的な信用情報機関は,株式会社シー・アイ・シー(通称「CIC」),株式会社日本信用情報機構(通称「JICC」),全国銀行個人情報信用センター(通称「KSC」)の3つであり,複数の信用情報機関に加盟する金融機関や貸金業者も多いです。

CICは,クレジット会社の共同出資によって設立された信用情報機関であり,主な会員は,クレジットカード会社,信販会社等です。

JICCは,国内で唯一全業態を網羅する国内最大の信用情報機関であり,主な会員は,消費者金融,信販会社等です。

KSCは,一般社団法人全国銀行協会が設置した信用情報機関であり,主な会員は,銀行,信用金庫,農協等です。

これらの信用情報機関は,提携して情報交流を実施しており,加盟会員は,各機関に登録されている信用情報のうち,延滞に関する情報等を利用することができます。

 

3 信用情報の開示方法

自分がどこかから借入れをしていたこと自体は記憶にあるものの,それが具体的にどこなのか,また,いくら借りていたか思い出せない場合,自分の信用情報を取寄せることで,それらの情報が判明することがあります。

自分の信用情報を取寄せる方法としては,パソコン・スマートフォン・郵送・窓口での開示等の方法があります。

詳細な手続きは,各信用情報機関のホームページを参照されるのがよいでしょう。

 

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共有名義人が自己破産した場合

自己破産をする方が他の人と共有する財産を持っている場合,手続きはどのようになるのでしょうか。

たとえば,兄弟の共有名義で住宅を2分の1ずつ持っている場合に,兄が自己破産したら,住宅はどうなるでしょうか。ここでは住宅ローンはない(既に完済している)場合を考えてみます。

まず,破産手続において換価の対象となるのは,あくまで破産者の財産ですから,競売にかけられるのは兄の共有持分の2分の1のみで,住宅の全部が競売にかけられるわけではありません。

しかしながら,競売によって兄の2分の1の共有持分が他人に落札されたときには,共有物分割請求がなされるおそれがあります。

住宅について共有物分割請求がなされた場合,物理的に分割することが困難であるため,住宅の全部について競売にかけられることになります。

それを避けるには,共有者である弟が兄の分の共有持分を買い取ることが必要となりますが,その際には,破産手続開始決定後に,破産管財人から相場価格で買い取るのが無難です。

債務整理における直接面談義務

1 概要

債務整理における直接面談義務とは,債務整理事件については,原則として,弁護士が,依頼者の方に対して直接面談して,重要事項の説明等をしなければならないという義務のことをいいます。

債務整理事件とは,簡単に言うと借金の整理に関する事件であり,そのうち直接面談義務があるのは,任意整理,個人再生,自己破産及び約定残債務のある過払い金返還請求です。

この義務は,日弁連が制定した「債務整理事件処理の規律を定める規程」第3条に規定されています。

2 経緯

以前は,大量の広告を打って,全国から多くの問い合わせを受けて,事務員などを使い,電話のみで債務整理事件を受任し,不適切な事案処理を繰り返すような弁護士が一定数いました。

このような不適切な事案処理は,違法すれすれと評価されるものではありましたが,違法とまではいえず,不適切な事案処理をする弁護士を処分することが容易ではなかったようです。

上述した「債務整理事件処理の規律を定める規程」の第1条にも,「この規程は,過払金返還請求事件を含む債務整理事件が多量に生じている状況において,債務整理事件について一部の弁護士(弁護士法人を含む。…)によって,不適切な勧誘,受任及び法律事務処理並びに不適正かつ不当な額の弁護士報酬の請求又は受領がなされているとの批判がある」と,制定の背景が述べられています。

そこで,平成23年に,債務整理事件において弁護士による直接面談義務が規定されることになりました。

3 直接面談しない弁護士に依頼したときは

しかし,未だに直接面談義務の規定を無視して,債務整理事件の処理を事務員任せにしたり,電話等のみで依頼を受けて依頼者と直接面談しなかったりして,不適切な事案処理を繰り返している弁護士等もいるようです。

そのため,債務整理を依頼する際には十分に注意する必要があります。

直接面談義務を果たさない弁護士は,事案処理が不適切であるなどの問題がある可能性が高いため,自己破産,個人再生,任意整理,残債務がある場合の過払い金返還請求などを,弁護士と直接面談せずに電話等のみで依頼してしまった方は,速やかに他の弁護士に相談するべきでしょう。

 

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自己破産で残すことができる財産

1 自己破産

自己破産がどういう制度か説明するに際して,めぼしい財産を手放す代わりに借金をゼロにする手続きであるとの説明が行われることがあります。

自己破産というと,財産を取られるというイメージをお持ちの方が多いかとは思いますが,法律上及び裁判所の運用上,ある程度の範囲の財産については換価配当の対象とはされていません。

上記の説明では,「ある程度の範囲」を超える財産を指して「めぼしい財産」という言葉を使っています。

 

2 自由財産

それでは,「ある程度の範囲の財産」や「めぼしい財産」とは,具体的にはどのような財産をいうのでしょうか。

破産手続上,換価配当の対象とならない財産のことを自由財産といい,その範囲は破産法で規定されています。

⑴ 現金

まず,99万円以下の現金が自由財産として認められています。

ここで留意すべきは,預貯金の形で持っているお金は,現金ではないという点です。

⑵ 差押禁止財産

つぎに,差押禁止財産も自由財産として認められています。

差押禁止財産は,民事執行法やその他の特別法で定められています。

具体的には,生活に欠くことができない衣服,寝具,家具,台所用品等や技術者等の業務上必要な器具類がこれにあたります。

また,生活保護受給権や失業等給付受給権等も差押禁止財産です。

⑶ 自由財産の拡張

以上が法律で定められている自由財産ですが,個々の破産者の状況によってはこれらに限らず,柔軟に自由財産の範囲を定めるのが相当な場合があります。

そこで,破産法では裁判所が自由財産の範囲を拡張することができると規定しています。

どの範囲まで拡張するかについては,破産者の状況ごとに異なりますが,各裁判所は自由財産の拡張についての原則的な運用の基準を定めていることが一般的です。

たとえば,名古屋地方裁判所では,①預貯金,②生命保険解約返戻金,③自動車,④居住用家屋の敷金債権,⑤電話加入権,⑥退職金債権については,その評価額が20万円以下であった場合には,原則として拡張相当として換価等を行わないとの運用です。

このうち,自動車の評価額については,メーカーが発表している車両本体価格が300万円以下の国産車のうち,初年度登録後7年を経過しているときは,原則として無価値とみなす運用がなされています。

外国産の自動車であったり,初年度登録から年数がそれほど経過していなかったりする場合には査定書等によって評価額を算定し,それが20万円を超えるときは,原則として換価等の対象となります。

 

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自己破産する前に一部の債権者にのみした返済

1 一部の債権者に対する返済

名古屋の弁護士の松山です。

自己破産をして免責許可決定が下りると借金の支払義務がなくなります。

そのため,親族や知人等から借入れしている場合,その債権者に迷惑をかけたくないとの思いから,一部の債権者にだけ返済をしてしまうことがあります。

しかし,全ての債務を十分に返済することのできない資力しかない状況で,一部の債権者のみに返済を行うこと(これを偏頗行為といいます。)は,返済を受けなかった債権者にとっては,返済しなかったならば破産手続で平等に分配されたであろう部分を得ることができなくなることを意味する行為です。

2 否認権

偏頗行為は,上述したような意味で債権者を害するため,破産法上,否認権行使の対象となっています。

否認権とは,破産手続開始前の一定の行為を破産手続開始後に破産財団のために失効させ,流出した財産を破産財団に回復し,また,債権者間の公平を図る制度です。

否認権の対象行為となる返済があった場合,破産手続開始決定後に,破産管財人から返済を受けた相手方に対して,返済を受けた分の返還請求がなされます。

3 偏頗行為の否認

偏頗行為の否認は,大きく二つの類型があります。

まず,破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした返済等の行為です(破産法162条1項1号)。

この場合,否認権行使の対象となるには,返済が支払不能後になされたときには,債権者が破産者の支払不能又は支払停止の事実を知っていたこと(同項1号イ),返済が破産手続開始の申立て後になされたときには,債権者が破産手続開始の申立ての事実を知っていたこと(同項1号ロ)が必要です。

次に,破産者の義務に属せず,又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって,支払不能になる前30日以内にされたものです(破産法162条1項2号)。

4 否認権の対象となる偏頗行為の具体例

破産者が自ら積極的に一部の債権者にだけ返済する場合の他,銀行口座からの自動引き落としを利用していたときや勤務先からの借入について給料から天引きされていたときで,債権者への受任通知到達後に自動引落としや天引きがあった場合にも,偏頗弁済となって否認権の対象となります。

 

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倒産手続におけるリース契約

倒産手続において,倒産した人が契約しているリース契約がどのように扱われるかについては,リース契約の種類によって異なってきます。

1 フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約

判例は,フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約について次のように述べています。

フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約は,リース期間満了時にリース物件に残存価値はないものとみて,リース業者がリース物件の取得費その他の投下資本の全額を回収できるようにリース料が算定されているものであって,その実質はユーザーに対して金融上の便宜を付与するものであるから,右リース契約においては,リース料債務は契約の成立と同時にその全額について発生し,リース料の支払いが毎月一定額によることと約定されていても,それはユーザーに対して期限の利益を与えるものにすぎず,各月のリース物件の使用と各月のリース料の支払とは対価関係に立つものではない(最高裁平成7年4月14日)。

上記判例は,会社更生事件に関するものであり,上記説示を理由として,未払のリース料債権は全額更生債権となるとしました。

また,同判例の趣旨からして残リース料は,リース目的財産を担保目的物とする更生担保権と解されています。

破産手続において,更生手続と別異に解すべき特段の事情がないため,破産手続では,リース会社は別除権を有すると解されています(伊藤眞他『条解破産法(第2版)』522頁)。

2 ノンフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約

リース期間終了後に残存価値があるものがノンフルペイアウト方式のファイナンス・リース契約です。

リース物件の見積残存価値を控除し,その控除後の金額をリース期間に配分して全額回収できるように,リース料の総額が設定され,そのようなリース料総額がリース物件の使用の有無にかかわらずリース業者に支払われることが約定されているような場合には,リース契約時に,このような リース料債権が全額発生していると解されるため,リース料債権全額が倒産債権となります(伊藤眞他『担保・執行・倒産の現在』340頁)。

3 メンテナンス・リース契約

リース業者がリース物件の修繕・整備・保守の義務を負う形態のリース契約です。

修繕・整備・保守の義務は,リース契約締結後にリース業者が履行することで初めて代金債権が発生するものであり,当該代金債権と履行義務は対価関係に立つので,双方未履行双務契約としての性質を有します。

破産手続開始後の履行部分は,財団債権となると解されます。

 

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住宅の所有権が移転した場合の住宅資金特別条項

個人再生手続においては,住宅ローンが付されている住宅を残す方法として,住宅資金特別条項の利用があります。

住宅資金特別条項にいう「住宅」とは,「個人である再生債務者が所有し,自己の居住の用に供する建物であって,その床面積が2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されるもの」をいいます(民事再生法196条1号)。

ここでは,再生債務者が所有する建物であることが要求されているため,住宅ローンが付されている建物であっても,それが個人再生手続開始申立て時点において自己の所有でなければ,住宅資金特別条項を利用することはできません。

それでは,申立て前に建物の所有権が再生債務者に移転した場合は,住宅資金特別条項を利用することができるのでしょうか。

たとえば,建物を建てた時点では親が所有していたが,申立て前に子である再生債務者に建物の所有権が移転した場合には,住宅資金特別条項を利用することができるのかが問題となります。

条文の文言を重視し,原則として建設,購入又は改良の時点で再生債務者の所有であることが必要であるとする見解があります。

他方で,住宅ローンの債務者が住宅を手放さずに経済的再生を果たすことができるようにするという住宅資金貸付債権に関する特則の趣旨からして,対象建物が再生債務者の生活の本拠と認められる限り,広く住宅資金特別条項の利用を認めるべきであり,申立ての時点で建物が再生債務者の所有となっていれば,住宅資金特別条項の利用が可能であるとする見解もあります。

ただし,前者の見解においても①申立ての時点において,対象建物の所有権が再生債務者にあり,②当初から自己の居住の用に供する目的で建物の建築等をし,そのための資金の借入れを行っているという特段の事情がある場合においては,住宅資金特別条項の利用ができるとしており,当初から自分で住む目的で住宅ローンを組んでいる場合にはどちらの見解も住宅資金特別条項を利用できる点では一致しています。

 

柏駅法律事務所(その2)

当法人の柏駅法律事務所が今月1日に開設されました。

柏駅東口から徒歩2分の場所に位置しておりますので,柏市近郊にお住まいの方は,お気軽にご相談ください。

以下は,当法人の各事務所へのアクセス情報です。

http://www.bengoshi-kashiwa.pro/access/

柏駅法律事務所

私が所属する弁護士法人心では,6月に柏駅法律事務所を開設いたしました。

以下に事務所のホームページのリンクを付しておきますので,よろしかったらご覧になってください。

http://www.bengoshi-kashiwa.pro/

自己破産しても免責されない場合

1 免責とは

免責手続とは,債務がゼロとなる手続のことをいいます。

自己破産をすると,破産者は,基本的には免責許可決定を受け,それが確定すれば,それまでの債務から解放され,経済的に新たなスタートを切ることができるようになります。

2 免責不許可事由

⑴ 免責不許可決定

しかし,自己破産をすれば必ず免責許可決定を受けられるわけではなく,場合によっては免責不許可決定を受けることがあります。

免責不許可決定を受けると,破産者は全ての債務について支払う義務が残ります。

免責不許可決定を受ける可能性がある事項は,免責不許可事由といい,破産法で定められています。

以下では,代表的な免責不許可事由を説明します。

もっとも,免責不許可事由は以下に限定されるものではありません。

⑵ 財産の隠匿,損壊,債権者に不利益な処分

債権者を害する目的で,自分が所有する財産を隠匿,損壊,債権者に不利益な内容での処分をした場合,免責不許可事由となります。

⑶ 信用取引により買い入れた商品の著しく不利益な条件での処分

たとえば,自己破産の申立ての直前に,クレジットカードで買った商品を安く換金することは免責不許可事由となります。

⑷ 偏頗弁済

一部の債権者に対する債務についてのみ返済することを偏頗弁済といい,債権者間の平等を害することから,免責不許可事由となります。

⑸ 浪費又は賭博

浪費や賭博等によって,著しく財産を減少させたり,過大な債務を負ったりした場合にも,免責不許可事由となります。

3 非免責債権

免責不許可事由に該当する事由がなければ,免責許可決定がなされ,原則として全ての債務について免責されます。

しかし,免責許可決定があっても,例外的に免責されない債権が存在します。

これを非免責債権といい,たとえば,租税等の請求権,婚姻費用分担請求権,養育費,罰金等は,非免責債権にあたります。

これらの非免責債権については,破産手続及び免責手続を経ても,返済し続けなければならない債務となります。

 

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給与所得者等再生における可処分所得

個人再生手続には,小規模個人再生と給与所得者等再生の二つの手続が存在します。

先日は,両者の違いを説明いたしましたが,今回は給与所得者等再生において重要となる可処分所得について,例を挙げつつご説明したいと思います。

給与所得者等再生においては,最低でも可処分所得の2年分以上の額を総額として返済しなければなりません。

可処分所得とは,以下の計算式で導かれる金額をいいます。

収入―(税金+社会保険料+最低生活費)

ここで問題になるのは,最低生活費がいくらになるかです。

最低生活費は,民事再生法第二百四十一条第三項の額を定める政令によって決まっており,①個人別生活費の額,②世帯別生活費の額,③冬季特別生活費の額,④住居費の額,⑤勤労必要経費の額を合計した額です。

①から⑤までのそれぞれの額は,住んでいる場所や年齢等によって異なります。

以下では,具体例を挙げて説明したいと思います。

名古屋市在住・1人暮らし・40歳・年収300万円の人の最低生活費はいくらになるでしょうか。

まず,個人別生活費の額ですが,名古屋市は,第一区と定められているので,別表第二の一の年齢の区分に従うこととなり,40歳ですと48万8000円となります。

次に,世帯別生活費の額は,別表第三の一の一人の欄を見ることになり,52万7000円です。

また,冬季特別生活費の額は,別表第四の一の一人の欄から,1万6000円です。

また,住居費の額は,原則として,別表第六の名古屋市,第一区,一人の欄から,43万円となります。

また,勤労必要経費の額は,年収が300万円ですので,基本的には別表第七の一の二百五十万円以上の欄を見て,55万5000円となります。

以上の5つの額を合計すると,名古屋市在住・1人暮らし・40歳・年収300万円の人の最低生活費は,1年当たり201万6000円です。

一年当たりの手取り収入が300万円とすれば,300万円から201万6000円を控除した98万4000円が1年当たりの可処分所得と計算されます。

給与所得者等再生では,可処分所得の2年分以上を支払う必要があるため,最低でも196万8000円を支払うという再生計画を立てる必要があります。

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小規模個人再生と給与所得者等再生

1 個人再生手続における2つの手続

個人再生手続は,個人である債務者を対象として,住宅ローン等の債務を除いた債務の総額を圧縮した上で,原則として3年の分割弁済をする計画を裁判所に認可してもらう手続です。

この個人再生手続きには,小規模個人再生と給与所得者等再生という2つの手続が存在しています。

この2つの手続は,以下の点で異なります。

1 要件

小規模個人再生では,「将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあ」ることが手続開始の要件となっている(民事再生法221条1項)のに対して,給与所得者等再生では,「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者であって,かつ,その額の変動の幅が小さいと見込まれるもの」が手続開始の要件となっています(民事再生法239条1項)。

このように給与所得者等再生の方が厳格な要件となっています。

2 返済額

⑴ 小規模個人再生においては,住宅ローン債務等を除いた債務額の合計に応じて最低弁済額が次のとおり定められています。

ア 債務が100万円未満であるとき

債務総額

イ 債務が100万円以上500万円未満であるとき

100万円

ウ 債務が500万円以上1500円未満であるとき

債務の5分の1の額

エ 債務が1500万円以上3000万円未満であるとき

300万円

オ 債務が3000万円以上5000万円未満であるとき

債務の10分の1の額

⑵ 一方で,給与所得者等再生においては,可処分所得の2年分を返済する必要があります。

可処分所得は,手取り収入から税金と最低生活費を控除する方法で計算され,最低生活費は,居住地域,家族構成,年齢等によって変動します。

たとえば,名古屋は居住地域の区分が第一区にあたるので,名古屋にお住まいですと,個人別生活費や世帯別生活費の額が他の地域よりも大きく算出されます。

通常,給与所得者等再生の方が小規模個人再生よりも返済総額が大きくなります。

⑶ もっとも,いずれの手続においても,⑴,⑵で上述した額よりも所有する財産の額の方が大きい場合には,財産の総額を計上した額が返済総額となります。

3 債権者による決議

また,2つの手続は,債権者による再生計画案の決議の要否が異なります。

小規模個人再生では,債権者の同意が必要であり,不同意の意思表明をした債権者が債権者総数の半数に達するか,不同意の意思表明をした債権者の債権額が総債権額の過半数に達するときは,否決されます。

一方で,給与所得者等再生では,債権者による決議は不要です。

 

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給料の取立てに対する否認権行使の可否

1 事例

次のような事例を考えてみます。

① 弁護士による受任通知

② 債権者による債務者の給料債権差押え及び取立て

③ 破産手続開始申立て

④ 破産手続開始決定

このような事例においては,破産管財人は,債権者による給料の取立てに対して否認権を行使できるでしょうか。

2 検討

⑴ 執行行為に対する否認

ア 否認しようとする行為が執行行為に基づくものであるとき

「否認しようとする…行為が執行行為に基づくものであるとき」(破産法165条)とは,①執行行為に基づく債権者の満足を否認の対象とする場合及び②執行行為により生ずる権利移転等を否認する場合をいいます(『条解破産法(第2版)』(2014)1124頁)。

本件は,破産債権者が給料債権を取り立てた行為について否認を行う場合なので,執行行為に基づく債権者の満足を否認の対象となる場合です。

したがって,「その行為が執行行為に基づくものであるとき」に該当します。

イ 行為性の要否

偏頗行為否認においては,詐害意思が不要とされることから,効果において破産者の行為と同視される第三者の行為も否認の対象行為に含まれると解されています(『条解破産法(第2版)』1126頁)。

旧法下ではありますが,判例は,故意否認について破産者の「害意ある加功」を要求する一方で,危機否認については,執行行為に基づく場合,強制執行を受けるにつき破産者の「害意ある加功」を要求していません(最判昭和57年3月30日判時1038号286頁,最判昭和48年12月21日判時733号52頁)。

ウ したがって,本件のような給料取立て行為にも否認権の行使は可能です。

⑵ 偏頗行為否認(162条1項1号イ該当性)

ア 既存の債務についてされた債務の消滅に関する行為(162条1項柱書)

破産債権者が給料債権を取り立てる行為は,既存の債務についてされた債務の消滅に関する行為です。

イ 破産者が支払不能になった後(同項1号柱書本文)

支払停止による推定規定(162条3項)があり,受任通知送付によって,支払不能が推定されます。

ただし,推定は,申立て前1年以内の支払停止にのみ適用されます。

ウ 支払不能又は支払停止について悪意(162条1項1号イ)

破産債権者は,受任通知の送付を受けているので,支払停止について悪意です。

ただし,166条の規定が存在し,破産手続開始の申立ての日から一年以上前にした行為は,支払停止の事実を知っていたことを理由として否認することができません。

エ 結論

以上より,冒頭に挙げた事例では,基本的には,偏頗行為否認ができます。

ただし,手続開始申立ての時期によっては,立証のハードルがあるということになりそうです。

 

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住宅資金特別条項と諸費用ローン

1 住宅資金特別条項とは

住宅ローンを利用する場合においては,融資の際に,住宅に抵当権を設定するのが通常です。

住宅に付されている抵当権を有する者は,民事再生手続において,別除権者として再生手続によらないで抵当権を実行できるのが原則です。

この原則によると,民事再生を利用とする住宅ローンの債務者は,基本的に,住宅に対する抵当権の実行を避けることができず,生活の本拠を失うこととなってしまいます。

住宅資金特別条項は,住宅ローンの債務者が,住宅を残したまま経済的に再生できるようにするため,再生計画中に定めるものです。

2 住宅資金特別条項を利用できる場合

住宅ローンの債務者だとしても,必ずしも住宅資金特別条項を利用して,住宅を残すことができるわけではありません。

住宅資金特別条項を利用するには一定の要件を満たす必要があります。

まず,住宅資金特別条項の対象となるのは,「住宅資金貸付債権」です。

これは,住宅の建設若しくは購入に必要な資金又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払いの再生債権であって,当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいいます(民事再生法196条3号)。

また,住宅の上に住宅資金特別条項の対象とならない担保権が設定されている場合には,住宅資金特別条項を定めることができません(198条1項ただし書)。

3 諸費用ローンとは

住宅を購入する際には,保証料や登記費用等の諸費用がかかります。

住宅ローンの融資を受けるとき,同時に諸費用ローンを勧められることも少なくありません。

諸費用ローンにおいて対象となる諸費用としては,以下に挙げるものを含むことがあります。

たとえば,印紙税,登録免許税,火災保険料,保証料,融資事務取扱手数料,司法書士手数料,不動産仲介手数料,土地家屋調査士手数料,不動産取得税,引越費用,固定資産税清算金,水道工事負担金などです。

諸費用は,住宅の購入や建設の際に必要な費用ですが,諸費用ローンは,住宅ローンよりも金利が高く,住宅ローンの減税の対象とならず,住宅金融支援機構の支援対象でない等の点から,実務上,住宅ローンとは違うものとして扱われています。

したがって,諸費用ローンであれば直ちに住宅資金特別条項の対象となる「住宅資金貸付債権」に該当するということはできません。

4 住宅に諸費用ローンの抵当権が設定されている場合

諸費用ローンの額と使途によっては,住宅資金特別条項を定めることが許される場合があるとして,諸費用ローンの額と使途を総合考慮して,住宅資金特別条項を定めることが許されるかを審査する例があります。

そのような例においては,諸費用ローンの使途が契約書上明確であったり,諸費用ローンの額が小さかったりすると,住宅資金特別条項を設けることが許されやすくなる傾向にあるようです(森純子ほか編『はい6民ですお答えします』482頁参照)。

個人再生手続における否認対象行為

個人再生手続においては,否認規定の適用が除外されています(民事再生法238条,245条)。

したがって,否認対象行為(無償で他人に財産を譲り渡したり,個人再生手続直前に特定の債権者に対して債務を弁済したりする行為は,否認対象行為となる可能性があります。)を行っていたとしても,否認権の行使によって既に行った否認対象行為が取り消されるという事態には陥りません。

しかし,否認対象行為があったことが個人再生手続開始決定前に判明していた場合は,否認権が行使されるのを回避する目的で個人再生手続を申し立てたとして,民事再生法25条4号に該当し,申立てが棄却される可能性があります。

 

民事再生法

(再生手続き開始の条件)

25条 次の各号のいずれかに該当する場合には,裁判所は,再生手続開始の申立てを棄却しなければならない。

四 不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき,その他申立てが誠実にされたものでないとき。

 

また,否認対象行為があったことが判明したのが個人再生手続開始決定後である場合には,再生計画案を作成する際に注意が必要です。

小規模個人再生と給与所得者等再生の両手続において,再生計画の不認可事由の一つとして「再生計画(の決議)が再生債権者の一般の利益に反するとき」が定められており,破産によって債権者が得られる経済的利益よりも,再生計画によって得られる経済的利益が大きくなければならないというルールが存在します(民事再生法民再231条1項、174条2項4号、241条2項2号)。

これを清算価値保障原則といいます。

破産手続においては,否認対象行為は否認されて,その分破産者の財産が回復します。

そのため,清算価値保障原則からは,現在ある財産の額に,否認権の行使によって回復するであろうと想定される財産の額を上乗せした額を上回る返済をする必要があり,これに反する再生計画については,裁判所は不認可の決定をします。

財産分与と否認権

弁護士として仕事をしていると,夫婦の一方が破産する場合,破産の前後に離婚してしまうというケースを見ることが多いです。

これに関連して,離婚に伴う財産分与があった後間もなく,分与した側が破産した場合,財産分与が否認権の対象となって,財産移転が取り消されるかという問題があります。

財産分与は,①婚姻後の実質上の共同財産の清算分配,②離婚後の相手方への扶養,③慰謝料という3つの要素を持つとされています。

最高裁は,不動産の分与について詐害行為取消権(民法424条)の行使が問題となった事案において,上記3つの要素を挙げたうえで次のように判示しています。

「財産分与の額及び方法を定めるについては、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮すべきものであることは民法七六八条三項の規定上明らかであり、このことは、裁判上の財産分与であると協議上のそれであるとによって、なんら異なる趣旨のものではないと解される。したがって、分与者が、離婚の際既に債務超過の状態にあることあるいはある財産を分与すれば無資力になるということも考慮すべき右事情のひとつにほかならず、分与者が負担する債務額及びそれが共同財産の形成にどの程度寄与しているかどうかも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解すべきであるから、分与者が債務超過であるという一事によって、相手方に対する財産分与をすべて否定するのは相当でなく、相手方は、右のような場合であってもなお、相当な財産分与を受けることを妨げられないものと解すべきである。そうであるとするならば,分与者が既に債務超過の状態にあって当該財産分与によって一般債権者に対する共同担保を減少させる結果になるとしても、それが民法七六八条三項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為として、債権者による取消の対象となりえないものと解するのが相当である。」(最判昭和58年12月19日民集37巻10号1532頁)

この判例は,直接的には詐害行為取消権の行使について判示したものであり,その趣旨が否認権の行使についてもそのまま妥当するかについては議論がありますが,不相当に過大な財産分与は財産減少行為として否認権の対象となると解されています。