任意整理の条件緩和

3月に入り、ある債権者から、今月中に和解が成立するのであれば、任意整理の和解条件の緩和するという連絡がありました。年度末ということもあり、債権者の方も任意整理の和解が終わっていない案件について整理したかったのだと思われます。

任意整理を取り扱っているすべての弁護士事務所に対して、条件緩和の連絡をしているかどうかは分かりませんが、弁護士法人心には、たびたび条件緩和の連絡が入ります。これは、名古屋地域に限らず、全国的に事務所全体で多くの任意整理案件を取り扱っていることから、そのような連絡をした際に多くの案件を和解に進めることができると見込まれるためであると思います。

和解条件の緩和の内容は、債権者ごとにまちまちですが、分割回数を通常3年~5年(36~60回)分割が目安になるところを100回分割まで延長してもらえたり、経過利息や将来利息をなしにしてもらえることもあります。

任意整理案件を多く取り扱っている事務所に依頼すると、任意整理に関する豊富な知識・経験を用いて、スピーディーに、最大限有利となるような交渉ができるメリットがありますが、債権者側からも和解条件の緩和を打診してくれることがある点も、メリットの一つとして挙げられるかもしれません。

偏頗弁済とは

あけましておめでとうございます、というには少し時間が経ち過ぎましたが、年が明けて最初のブログ更新となります。

今年は年が明けてすぐに能登半島で地震が発生したり、航空機の炎上事故が起きるなど、不安な幕開けとなってしまいましたが、本年も皆様のお力になれるよう、尽力してまいりたいと思います。

さて、今回は、偏頗弁済(へんぱべんさい)についてお話ししようと思います。

自己破産や個人再生の手続きにおいては、すべての債権者を平等に取り扱わなければならないというルール(債権者平等の原則)があります。偏頗弁済とは、この原則に反し、一部の債権者のみ優先的に返済をしてしまうことをいいます。

親・きょうだいなどの親族や、友人・知人から借入れがあり、それらの人には迷惑をかけたくないとして、返済を続けてしまっていた、という場合、偏頗弁済をしたとして問題になります。

偏頗弁済をしてしまった場合、自己破産の手続きでは、破産管財人という弁護士が選任され、返済を受けた人に対して、返済を受けた額の返還請求がなされることがあります。

個人再生の手続きでは、偏頗弁済によって減った財産が清算価値に計上されることになります。

また、偏頗弁済の程度、悪質性によっては、自己破産や個人再生が認められなくなってしまうこともあり得ますので、偏頗弁済はしないように注意しましょう。

良いお年をお迎えください。

2023年も残るところあと少しになりました。今年は、名古屋地区だけではなく、岐阜地区での債務整理案件も多数担当させていただきました。

名古屋と岐阜は、距離的には近いですが、裁判所の運用が異なっている部分もありました。例えば、名古屋地裁であれば、破産・再生を受任した直後の段階で債権者から届いた債権調査票(現在の債務額が取引の履歴が開示された書類)を提出すれば問題ありませんが、岐阜地裁では、申立前6か月以内に発行された債権調査票を提出する必要があります。そのため、依頼してから申立てまでに6か月以上要する場合には、申立直前に再度、各債権者から債権調査票を送ってもらう必要がある場合があります。最近では、債権調査票を開示するために手数料を請求してくる債権者もちらほら出てきていますので、金銭的な負担が増える場合もありますし、弁護士としても再度債権調査票の発行を依頼する手間がかかります。

また、破産管財事件における債権者集会において、裁判官から破産する方に対して質問がされることがあり、破産に至った原因をどう考えているか、二度と破産しないようにどのようなことを気を付けているかなどについて質問されることがあります。名古屋地裁の裁判官は、比較的穏やかな聞き方をしてきますが、岐阜地裁は割と深く突っ込んだ質問をしてくる印象があります(※あくまで個人的な印象ですし、裁判官によっても異なるとは思います。)。ただ、これも債権者集会の場でしっかりと反省を促して、二度と借金等をしないようにさせたいという親心なのだろうと思います。

2024年も多くの人の助けとなるべく、尽力してまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

個人再生における清算価値③

個人再生における清算価値を計算する上で、漏れが生じやすい財産があります。その一例を紹介していきます。

⑴名義預金

例えば、親が子供名義で銀行口座を開設し、そこに少しづつ貯金を貯めているという場合があります。このような預金を名義預金と呼びます。名義預金については、親が口座を管理していて、子供がその口座の存在を知らないという場合もあるため、清算価値を計算する上で漏れやすい財産になりますが、個人再生をする方名義の預金であれば、基本的には清算価値として計上すべきものということになります。

⑵名義変更未了の相続不動産

親が亡くなり、その親が不動産を持っていたが、遺産分割協議をしておらず、親名義のままになっている不動産が見つかることがあります。この場合、相続放棄の手続きをしてある、又は親の死亡を知ってから3か月以内に相続放棄の手続きをとれば問題ありませんが、相続放棄の手続きをとっていない場合、法定相続分に従ってその不動産の持ち分を持っていることになります。したがって、不動産の持ち分に相当する価値が、清算価値に加算されますので、注意が必要です。

⑶親が加入している保険

⑴の名義預金と似たような話ですが、親が子供のために保険に加入していることがあります。掛け捨ての保険であれば問題ないですが、積立て型も保険の場合、解約した際に返戻金というお金が戻ってくることがあります。親がお金を払っていたとしても、基本的には個人再生をする方名義で加入した保険であれば、清算価値に含めるよう裁判所に指示される可能性が高いです。

個人再生を申立てする際には、このような財産に漏れがないか、場合によっては親御様に聞いていただくなどして確認するのが無難です。

名古屋市内で弁護士をお探しの方は、当法人までご相談ください。

 

個人再生における清算価値②

前回に引き続き、個人再生における清算価値について触れていきます。今回は、清算価値を算出するための資料について説明していきます。

⑴現金・預貯金

現金については、あまり資料を提出することはなく、自己申告であることがほとんどです。しかし、直前の家計の収入・支出の状況からみて、所持していると考えられる金額と、申告された金額との間に乖離がある場合には、裁判所から財産隠しを疑われてしまうので、正確に申告するようにしましょう。

預貯金については、通常、通帳のコピーや銀行のスマホアプリ等の画面を提出して、現時点で残っている金額の資料とします。

⑵ 不動産

不動産の資料としては、登記簿謄本、固定資産税評価証明書が必要となります。また、不動産の価値をより細かく算定する必要がある場合には、不動産業者の査定書を提出する場合もあります(当職を含め、債務整理を良く取り扱っている弁護士であれば、不動産屋さんの知り合いが複数いるので、弁護士経由で査定を依頼することもできます)。

⑶保険解約返戻金

保険の解約返戻金額については、保険証券の中に記載がある場合もありますが、記載がなければ保険会社に問い合わせて、返戻金額の証明書を発行してもらう必要があります。

⑷自動車

名古屋地方裁判所の運用では、初年度登録から7年以上経っている国産車で、新車価格が300万円以下の車の価値はゼロと評価されます。それ以外の車については、中古車業者の発行する査定書、日本自動車査定協会(有料)の発行する査定書、ネット上の中古車市場で似たような車を探して資料として提出する、などの方法で、自動車の価値を算出します。

⑸退職金

退職金については、会社に退職金支給見込額証明書を作成してもらい、資料として提出するか、退職金規定など退職金の額を計算できるものを資料として提出する必要があります。

このように、個人再生では様々な資料の提出を求められます。個人再生をお考えの方は、弁護士にご相談ください。

個人再生における清算価値①

小規模個人再生事件では、100万円、借金の金額の5分の1(※借金額が1500万円~3000万円以下の場合は300万円、3000万円を超え5000万円以下の場合は10分の1)、清算価値のうち最も高い金額まで借金が減額されます。

ここにいう清算価値とは、全財産に相当する金額のことを意味します。

では、清算価値にはどのようなものが含まれるのでしょうか。名古屋地方裁判所の運用をもとに説明します。

⑴ 現金、預貯金

現金、預貯金として持っている金額は、清算価値に含まれます。

⑵ 不動産

土地、建物等の不動産を持っている場合、その評価額が清算価値に含まれます。ただし、住宅ローンが残っていて、住宅を残しつつ個人再生を行う場合は、不動産の価値が住宅ローンの残額を上回っていた場合(いわゆるアンダーローンの場合)に、差額部分が清算価値に含まれます。他方で、住宅ローン残額の方が不動産の価格よりも多い場合(オーバーローンの場合)、不動産の価値はゼロと評価されます。

⑶ 保険解約返戻金

生命保険等の中には、解約する際に返戻金というお金が戻ってくるタイプの保険があります。このような保険に加入している場合、現時点で解約した際に支払われる返戻金の金額が清算価値に含まれます。

⑷ 自動車

自動車もその時価額が清算価値に含まれます。ただし、初年度登録から7年以上経過している国産車で、新車価格が300万円未満の車であれば、その価値はゼロと評価する運用がとられています。

⑸ 退職金

仮に現時点で退職したとしたら支払われるであろう退職金の金額も、清算価値に含まれます。ただし、現時点での退職金の金額の8分の1(※直近3年以内に定年退職が見込まれる場合には4分の1)の金額が、清算価値として計上される運用となっています。

このように、清算価値には様々なものが含まれます。次回は、清算価値の資料としてどのようなものを提出する必要があるか、その資料の集め方等も含めてお話ししていきたいと思います。

差押えについて②

前回に続き、差押えについてお話していきたいと思います。今回は、差押えの対象となりやすい財産について解説していきます。

①給料の差押え

債務名義がとられた場合、よく狙われるのが給料です。給料が差し押さえられると、基本的には手取り収入の4分の1(手取り収入が44万円を超える場合には、33万円を超える部分)が差押えの対象となります。債権者から見れば、給料を差し押さえると、毎月の給料から確実に回収をすることができる点で非常に有効な回収手段となりますので、債権者に勤務先を知られている場合には、給料の差押えがされる危険が高いといえます。

他方で、勤務先を特定しなければ給料の差押えはできませんので、債権者に勤務先を知られていない場合、給料の差押えがなされる危険性は低くなります(とはいえ、探偵による調査や、銀行口座の履歴の開示手続がなされるなどして、勤務先を知られる可能性はありますので、絶対に安心とは言い切れません。)。

②預金の差押え

銀行等の預金も差押えの対象となりやすいです。預金が差押えされると、債務額によってはその時の預金残高が全額差押えとなってしまいます。債権者にとっては、債務者がどこに銀行口座を持っているかを調べなければ、差押えをすることはできませんが、ゆうちょ銀行やメガバンクなど、口座を持っている可能性が高そうな銀行は、狙われる可能性が高いです。

預金が差し押さえられる可能性が高い場合には、給料や年金など、入金があったらすぐに引き出しておき、口座の中身を空にしておくと、差押えのリスクを最小限に抑えることができます。

③動産の差押え

裁判所の執行官が自宅等を訪問し、現金や財産的価値のある物(動産)を差し押さえる手続きです。昔のドラマなどで、「差押」と書いた紙を家中の動産に張り付けるシーンを見たことがある人は、差押えと聞くとこの動産の差押えがされるのではないかとイメージする方もいらっしゃるかもしれません。

もっとも、生活必需品としての家具・家電や衣類、寝具などは差押禁止動産とされていますので、差し押さえられることはありません。また、債権者としても、借金の支払ができなくなった債務者の自宅等に現金や高額な動産がある可能性は低いためか、あまり動産の差押えがされるケースは少ないです。

以上、差押えについて簡単に触れましたが、差押えのリスクが避けられるに越したことはありませんので、支払いに困ったら早めに弁護士に相談して、解決策を探ることをお勧めします。

差押えについて①

借金問題でお悩みの方の中には、借金の支払ができなくなるとすぐに財産が差し押さえられてしまうのか?、差押えがなされると家に債権者が押しかけてきていろいろなものを持っていかれてしまうのか?(急に家に来て周り近所に知られてしまうのか?)など、差押えに関する不安を抱えている方は少なくないでしょう。

そこで、今回は借金の支払ができなくなった際に行われる差押えまでの流れついて解説していきます。

借金の支払ができなくなると、まずは債権者から訴訟(裁判)を提起されたり、支払督促といった裁判所の手続きが行われることがあります。それを無視してしまったり、適切に反論をしないと、訴訟の場合は判決が、支払督促の場合は仮執行宣言付支払督促の申立てがなされ、それらが確定してしまうと、債権者は財産の差押えなどの強制執行をすることができるようになります。

このように、強制執行をすることができるようになる確定判決や仮執行宣言付支払督促の確定などを、「債務名義」と呼びます。

債権者からの督促状や法的手続予告通知書等の書面には、この一連の流れを「支払をしない場合、訴訟などの法的手続をとって財産を差押えします。」とさらっと記載してあることが多いです。おそらく、あえてそのように記載することで、支払しないとすぐに差押えが来るから大変だと思わせて、支払を促したいという思惑があるのだと思います。しかし、実際は裁判を起こしてから、初回期日まで1~2か月ほどかかる場合もありますし、支払督促の場合は受け取ってから2週間以内に督促異議を出せば、債権者は訴訟に移行せざるを得なくなるため、債権者が債務名義を獲得するまで、少し時間がかかります。

とはいえ、訴訟等の手続きがなされると、早ければ数か月程度で差押えがなされる危険性がありますので、支払いに困ったら、訴訟や支払督促などされる前に、弁護士に相談した方がよいでしょう。

次回は、差押えの対象となる財産について触れたいと思います。

債務整理と相続財産

債務整理の相談に乗っていると、まれに、亡くなった親の名義のままの不動産が残っている、という場面に出くわすことがあります。例えば、お父様が亡くなったが、お父様名義の実家にそのままお母様が住み続けることに相続人間で争いがなかったため、特に遺産分割協議等をすることもなく、名義変更もしなかった、ということがあります。

しかし、自己破産や個人再生をする際にこのような財産が残っていると、処理が非常に大変になります。

遺産分割協議や名義変更をしていない財産がある場合、法定相続分通りの財産を持っているとみなされてしまいます。

自己破産の場合は、名古屋地裁の運用では、その財産価値が20万円を超えると処分しなければならなくなります。そして、その処分のために破産管財人という別の弁護士が裁判所によって選任されるため、裁判所に収める予納金が、個人の破産ですと22万円~42万円ほどかかります。

個人再生の場合は、清算価値(=個人再生する方の全財産)に、その財産価値が加算されますので、借金の減額幅が少なくなってしまう可能性もあります。

遺産分割協議や名義変更をしていない財産がある場合、手続きに大きな影響があるため、忘れずに申告するようにしましょう。

トイレ使用制限に関する最高裁判例

昨日、最高裁で注目の判例が出されました。

戸籍上は男性であるが、医師により性同一性障害の診断を受けている方(国家公務員)が、女性トイレを使用したい旨を経済産業省の職員へ申し出ました。これを受け、経済産業省では、同じ部署の職員に対し、性同一性障害に関する説明会を行い、女性トイレの使用について意見を求めたところ、数名の女性職員の態度から違和感を感じているように見えたため、勤務するフロア及びその上下階の女性トイレの使用は認められず、それ以外の階の女性トイレを使う処遇が実施されました。その後、人事院に対して、他の女性職員と同等の処遇を行うよう求めましたが、その要求が認められなかったため、人事院の判定の取り消しを求めた、というのが今回の事案です。

最高裁は、女性トイレの使用制限について見直さなかった人事院の判断は、裁量の範囲を逸脱又は濫用したものとして違法であると判断しました。

①性同一性障害について説明会が開かれた際、女性トイレを使用することについて明確に異議を唱えた職員はいなかったこと、②説明会の後、2階以上離れた女性トイレを使用していたが、トラブルが生じたことはないこと、③説明会から、人事院の判定が出るまでの約4年10か月の間、女性トイレを使用させることについて、特段の配慮をすべき他の職員の存在も確認されていないこと、などの事情を挙げ、離れた階の女性トイレを使用しなければならない不利益を正当化する事情はないとしました。

補足意見の中には、説明会後の暫定的な措置として、女性トイレの使用について一定の制限を設けたこと自体はやむを得ないものとして理解を示すものもあり、説明会から人事院の判定が出るまでの約4年10か月の間に、女性トイレの使用について緩和措置を講じるとか、より理解を得られるための研修を行うなどの措置を講じることなく、女性トイレの使用を制限し続けたことを問題視しているような意見もありました。

このように、この判例は、個別具体的な事情をもとに判断されたもので、事例判断の要素が強いと思われますが、社会としてトランスジェンダーをどのように尊重していくかを考える上で、大きな影響を与える可能性があります。また、弁護士目線からしても、例えば顧問先の会社からトランスジェンダーの従業員の取り扱いについて相談を受ける場面も想定されますので、その際は参考になる判例となりそうです。

自殺の動機に「奨学金の返済苦」が追加

ネットニュースを見ていて、気になった記事を見つけました。

朝日新聞の報道によると、2022年の自殺者の中で、奨学金の返済苦がその原因の一つとなっている方が、10名いたそうです。この数字は、自殺と判断された事案について、警察による遺族等からの聞き取り調査の結果、自殺原因を複数の選択肢から選択した統計から明らかになったようです。

もっとも、統計で明らかになった10名以外にも、遺族等からの聞き取り調査で明らかにならなかっただけで、「奨学金の返済苦」が自殺原因の一つになっている方が他にもいた可能性は否定できません。また、もっと広く「借金の返済苦」を原因とするものととらえると、さらに多くの人が該当することになるでしょう。

奨学金には、一定の条件を満たせば、減額返還や返済猶予等の制度がありますので、返済に困ったらそのような制度を利用できないか検討してみるのがよいと思います。また、弁護士に相談して、個人再生や自己破産をすることで、債務額を減額したり、ゼロにすることも可能です。

奨学金を含む借金の返済に苦しんでいる方は、一人で抱え込まず、弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。解決の糸口が見つかるかもしれません。

コロナ第5類に移行

新型コロナウイルスが、5月8日より、季節性のインフルエンザと同等の第5類感染症に移行しました。これにより、外出自粛や行動制限等はなくなり、感染症対策も個人の判断に委ねられることとなりました。

これに伴って、気になるのが、破産手続における裁判所の運用が変わるかどうかです。

名古屋地裁(本庁)では、コロナ前には、免責審尋の手続きが行われていました。名古屋地裁の免責審尋では、破産をする方が何名か集まり、裁判官から手続きの説明、今後二度と破産をしないようにという注意喚起、申立て書類に嘘偽りや変更がないかなどの確認などが行われていました。

しかし、コロナの流行に伴い、大勢の人が裁判所に集まるのは感染リスクが高いためか、免責審尋は省略されるようになりました。

3月にマスク着用が個人の自由となった以降に破産開始決定を受けた方も、免責審尋の手続きは省略されていましたが、第5類に移行した以降は従前の運用が再開するのか、あるいはコロナ後の運用が維持されるのか、気になるところです。

個人的には、免責審尋の手続きを実施していない裁判所も多いですし、平日の日中に裁判所に行かなければならない負担は、(場合によっては仕事を休まなければならず)破産をする方にとっても重いと思いますので、免責審尋が省略される運用が維持されるとありがたいなあと思います。

税金の滞納と債務整理

4月になり暖かい気候となりました。先日、名古屋市内にある鶴舞公園にお花見に行きました。人出も多く、出店もたくさん出ていて、コロナ前のような活気を少し取り戻したように感じました。

さて、今回は税金の滞納と債務整理の関係をお話ししたいと思います。

まず、税金については、自己破産や個人再生をしても免除・減額されることはありませんので、滞納している金額全額を支払っていかなければなりません。

もっとも、裁判所が滞納税金についてどこまで気にするかは、手続きによって違いがありそうです。

例えば、自己破産の場合には、滞納税金を今後どのように支払うかについて、裁判所はそこまで深く追求してこないことが多いです。これは、自己破産が認められれば、借金の支払義務がなくなるため、今まで返済に回していたお金で滞納税金の支払いは可能であろうと考えているからかもしれません。

他方で、個人再生の場合には、減額された借金の支払いと、生活費の支出、滞納税金の支払いを両立できるかが重視されます。個人再生では、減額後の借金をちゃんと返済できる能力があるか(再生計画の履行可能性があるか)、という点がとても重要になりますので、滞納税金についても、役所等と協議の上、月々いくらずつ支払って滞納を解消する計画かを、書面にて提出することが求められます。

税金の滞納がある方は、債務整理の相談をされる際には、滞納している税金をどのようにしたらよいか、弁護士にお尋ねください。

家計の状況の作り方

自己破産や個人再生など、裁判所の手続きによって借金の金額を減額・免除してもらう場合、月ごとに収入・支出の状況をまとめた家計の状況を作成し、裁判所に提出しなければなりません。

しかし、今まで家計簿等を付けたことがない方にとっては、どのように作成したらよいか分からないという場合もあると思います。そこで、家計の状況をどのように作成していったらよいかについてお話しします。

①毎月1日から末日までに購入した物、支払ったものについてレシートや領収証をとっておき、月末に食費・日用品等に分けて足し合わせます。②レシート等がないものについては、何にいくら使ったかのメモを残しておき、①との合計額を家計の状況に反映させます。③家賃、水道光熱費、電話代、保険料などが通帳から引落しになる場合、通帳の記載を参照して家計の状況に反映させます。④収入については、給与明細の支給金額や通帳に入金のあった金額を収入欄に記入します。⑤収入の合計額から支出の合計額を差し引いて、翌月への繰越額を計算します。

このようにして家計の状況を作成するのが理想的ではありますが、実際は一つのレシートの中に食費と日用品、その他が混在していて分けて計算することが困難な場合もあります。その場合、すべてのレシートの合計額から、日用品のだいたいの金額(5000円とか1万円とか、丸い数字でよいです。)を引いた金額を食費として計上することもあります。

また、レシート等をとっていなかった場合は、収入の金額と、通帳から見てとれる支出の金額、月末時点で残っている預金額等から、食費、日用品の額を逆算してだいたいの金額を割り出す、ということもあります。

家計の状況の作り方が分からないという方は、適宜弁護士にアドバイスを求めて進めていきましょう。

自己破産と損害賠償義務

最近のニュースで回転寿司屋さんで醤油の注ぎ口をなめる、レーン上の寿司に唾液を付けるなどの迷惑行為が行われ、その様子を撮影した動画が拡散されています。各回転寿司チェーン店は、民事、刑事両面で厳格に対処する旨のコメントを出しています。

では、民事事件で、不法行為による損害賠償請求訴訟が提起され、損害賠償義務が認められた場合、不法行為者が「そのような金額は払えない」と自己破産をした場合、その支払い義務は免除されるのでしょうか。

破産法では、破産によっても免責されない(=支払い義務が免除されるない)債務として、税金の支払い義務、悪意によって加えた不法行為に基づく損害賠償義務、故意または重大な過失により人の生命・身体に対して加えられた不法行為に基づく損害賠償請求権などが挙げられています。

店舗に対する迷惑行為の場合、悪意によって加えられた不法行為に該当すれば、自己破産をしても免責されないことになります。なお、「悪意」とは、故意よりも強く、相手方へ害を加えてやろうという意図を意味すると考えられています。

飲食店では、安全・安心な食事の提供が求められており、特にコロナ禍では食事の際の感染を予防するための様々な対策が取られるなど、日々企業努力が重ねられています。そのなかで、不衛生な行為を行い、かつその様子を動画に撮影してネット上にアップする行為は、飲食店の信頼を害し、多大な損害を与えることが容易に想像できますので、「悪意」ありと判断され、自己破産をしても免責されない可能性があります。

もっとも、店舗に対する迷惑行為が、悪意によって加えられた不法行為に該当するか否かは、弁護士や裁判所によって見解が分かれるかもしれません。実際に裁判で争われた場合、どのような判断となるのか、注目していきたいところです。

個人再生委員が選任される場合②

2023年が始まりました。今年もよろしくお願いいたします。

さて、今回は、個人再生委員が選任された場合の手続きの流れについてお話しします(名古屋地裁での運用、当職の経験上のお話です。)。

個人再生委員が選任されると、通常は申立代理人の弁護士と、個人再生を申し立てた本人が揃って個人再生委員の事務所へ出向き、面談をすることになります。そこで、財産や履行可能性(返済能力があるかどうか)、裁判所からの確認事項等についての質問・確認があります。特に履行可能性に疑義がある場合には、家計の収支バランスの改善を指示され、今後の家計の状況において改善が図られているかチェックされることもあります。

そして、面談における回答内容を踏まえて、再生委員が手続開始が相当であると考えれば、その旨の意見が裁判所に対して出され、それを受けて裁判所が開始決定を出します。

開始決定が出ると、いつまでに再生計画案を提出しなければならないかが決まります。

通常は、再生計画案を裁判所に提出する前に、再度再生委員と面談をし、再生計画の内容や、その履行が可能かどうかの確認を行ったうえで、裁判所に再生計画案を提出します。

それ以降の流れは、通常の個人再生と同様で、(小規模個人再生の場合には債権者の多数決を経て、)認可決定、認可決定確定へと進んでいきます。

個人再生委員が選任される場合①

個人再生を裁判所に申し立てた場合、個人再生委員という弁護士が選任されることがあります。

個人再生委員は、①再生計画の履行可能性に疑義がある場合、②清算価値を正確に把握する必要がある場合に選任されることがあります。

①再生計画とは、個人再生の手続きにおいて法律誌にたがって減額された後の金額の分割払いの計画のことをいいます。個人再生の手続きにおいて、裁判所は、「減額された後の借金を分割で支払う能力があるか」という点を重視します。収入、支出のバランスから見て、分割で支払う能力がないのではないか?と疑義を持たれた場合には、個人再生委員が選任され、収支バランスの改善を指示されたりします。

②清算価値とは、個人再生をする方の全財産に相当する金額のことをいいます。個人再生によって減額される金額につき、清算価値の基準が採用される場合、清算価値の金額がどこまで借金の減額がなされるかという結論に直結します。したがって、清算価値基準が採用される場合には、その金額を正確に把握する必要性が高いことから、個人再生委員が選任されることがあります。

もっとも、名古屋地方裁判所では、個人再生委員が選任される事案はさほど多くありませんし、個人再生を依頼した弁護士の方で十分に返済能力や清算価値についての調査・報告が尽くされていれば、個人再生委員が選任されないこともあります。

次回は、個人再生委員が選任された場合の手続きの流れについてご説明します。

破産・再生における債権の取り扱い

11月に入り肌寒い季節になってまいりました。また、新型コロナウイルスについても第8波になることが予想されていますので、体調にはお気を付けください。

さて、自己破産や個人再生をしようとする方が、例えばAさんにお金を貸しているような場合、Aさんに対してお金を返してと請求する権利(貸金返還請求権)を持っていることになります。このような債権も、破産・再生をする方の財産に含まれることになります。

自己破産の場合、債権の金額が20万円以上であれば、破産管財事件となる可能性があり、破産管財人からAさんに対して、破産者が貸していたお金を返すよう請求することがあります。

個人再生の場合、Aさんに貸していた金額も清算価値に含まれることになりますから、金額次第では借金がいくらまで減額されるかに影響が及ぶこともありえます。

なお、Aさん自身も金銭的な余裕がなく返済能力がない場合や、Aさんとは音信不通であり連絡も取れないし居場所もわからないということもあります。そのような場合には、Aさんに対する貸金返還請求権は回収の可能性がないから、財産的価値はないとの主張をすることも考えられます。

ただし、裁判所に対してそのような主張をするのであれば、Aさんが生活保護を受けているとかAさん自身も破産の申立て準備中であるといった具体的な事情を説明する、弁護士がAさんの住民票を取得するなどしてAさんの住所の調査を尽くしたが見つからなかったことを報告する、などの対応が必要になる場合もあります。

破産・再生をお考えの方で、第三者に対して債権を持っている場合には、弁護士に対応方法を相談すべきでしょう。

自己破産の際の財産隠し

最近急に寒くなってまいりました。季節の変わり目には体調を崩しやすいですので、お気を付けください。

さて、先月、自己破産の申し立てをした人が、ビットコインなどの暗号資産を裁判所に報告せずに隠していたことから、詐欺破産の疑いで逮捕されたというニュースが出ました。

詐欺破産罪は、破産法265条に規定されており、債権者を害する目的で、財産の隠匿や譲渡、安価で処分するなどした場合に、適用される可能性があります。

破産をしようとする方が高額の財産(名古屋地裁の運用だと、20万円を超える価値のあるもの)を持っていた場合、財産を処分(換価)して、債権者への配当に回す必要があります。それにもかかわらず、その財産を隠匿、譲渡、安価での処分等をしてしまうと、債権者が配当によって得られる金額が減少してしまい、債権者が害されてしまうため、許されません。

したがって、そのような行為をした場合には、刑事罰が科される可能性があるのです。

詐欺破産罪が適用されるケースはさほど多くはないですし、今回ニュースになったケースでも起訴されたかどうかは分かりません。とはいえ、破産をしようとしている場合に、財産の隠匿等をしてしまうことは、詐欺破産罪に該当する可能性がありますし、免責不許可事由に該当する可能性もありますので、絶対にしないようにしてください。

自己破産をする際には、自分の持っている財産は包み隠さず、弁護士に報告し、裁判所にも申告するようにしましょう。

リボ払いの恐怖

債務整理の相談をしていると、「支払が厳しくて、カードをリボ払いしていた。そうしたら、気付いた時には返済ができないほど借金が膨らんでいたため、債務整理をしたい。」というような方が非常に多くいらっしゃいます。

リボ払いとは、月々の返済金額を一定の金額に固定して、毎月その金額を返済していくような支払方法をいいます。一定の金額に固定されると、大きな買い物をした場合でも返済金額が少ないため、生活が安定すると思ってリボ払いにされる方もいらっしゃるのですが、実際は借金がどんどん膨れ上がっていくだけの状態になってしまうことが多いです。

具体的に言うと、例えば、生活費として5万円をカード決済したとして、リボ払いで毎月の返済金額を1万円に設定したとします。すると、毎月の返済額は1万円で済みますが、残りの4万円は借金として残ります。そして、次の月もまた生活費で5万円カード決済をしたとすると、借金の残額が9万円となり、1万円返済しても借金が8万円残ることになります。このように、継続的にカードの利用を続けながらリボ払いにした場合、毎月ちゃんと返済できていたとしても借金の金額がどんどん膨らんでいくのです。さらに、今の例ではわかりやすくするために省略しましたが、当然借金には利息や手数料がかかりますから、1万円返済しても借金の金額は利息や手数料を引いた金額分しか減りません。つまり、思っている以上に借金の金額が増えるペースが速いのです。

リボ払いは、1回限りの大きな買い物をした場合に、分割払いをする方法としては便利な側面もあるかもしれませんが、借金を大きく増やしてしまうきっかけになってしまうケースを多く見てきました。

借金の支払が多く、リボ払いをしようか迷っているという方は、リボ払いにする前に弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。借金の金額が少なければ、債務整理の選択肢も広がりますので、早めに手を打った方がよい場合もあります。また、すでにリボ払いをしていて、完済の目途が立たないという方も、弁護士に相談してみることをお勧めします。