預金と貯金について

名古屋でも,外の暑さがだいぶ和らぎ,過ごしやすい季節となってきました。

外出や遠出をしたくなる時期ではありますが,コロナの感染予防のため,十分な対策をしたうえで行動したいと思います。

 

今回は,金融機関の預貯金口座について取り上げたいと思います。

弁護士として相続案件を扱ううえで,預貯金が関係することがほとんどです。

 

ところで,貯金と預金の違いをご存知でしょうか。

貯金とは,ゆうちょ銀行,農業協同組合,漁業協同組合に預けたお金のことをいい,預金とは,それ以外の銀行,信用金庫,信用組合などの金融機関に預けたお金のことをいいます。

ゆうちょ銀行は,郵政民営化によって,日本郵便公社から郵便貯金事業を引き継ぎましたが,以前と同じく,貯金という名称が用いられ続けています。

 

この名前の違いが生じる理由は,それぞれの事業の根拠となる法律における名称に違いがあるからです。

たとえば,銀行法では「預金」の文言が,農業協同組合法では「貯金」の文言が用いられているため,このような名称となっています。

 

このような名称の違いが生じるに至った沿革については,銀行などに預ける預金が,商人がビジネス目的で利用することが想定されていたのに対して,郵便局などに預ける貯金は,一般の庶民が財産を形成していくことに用いられることが想定されていたことによるそうです。

現在,貯金と預金とは,ほぼ同じように利用されていると思いますし,このように使い分けていらっしゃる方はおられないのではないでしょうか。

 

現在は,ゆうちょ銀行の貯金についても,法律上は預金として扱われることになっています。

銀行では支店名や口座番号で各口座が管理されていますが,ゆうちょ銀行では,記号・番号というものがあります。

ゆうちょ銀行の口座を振込先とするためには,この記号番号から振込用の「店名,預金種別,口座番号」に変換しなければなりません。

振込用の「店名,預金種別,口座番号」は通帳に記載されていることもありますが,これが分からない場合には,ゆうちょ銀行のホームページを使って,記号・番号から調べることもできます。

ブログのアカウントは相続できるのか

名古屋でも暑い日が続いています。

残暑というよりも,夏本番の暑さが続いているような印象です。

弁護士の仕事の関係で外に出る機会も多いため,暑さに負けない体力作りに励みたいと思います。

 

今回は,少し変わったところで,「ブログのアカウントを相続できるか」についてとりあげたいと思います。

 

個人が純粋に趣味でブログを書いており,その方が亡くなった場合,相続人にとっては,そのブログを引き継ぎたいという要望を持つことはほとんどないでしょう。

相続人にとっては,新たにブログを開設さえすればよく,わざわざそのブログを引き継ぐ必要はないと考えられるからです。

しかし,ブログの中には,アフィリエイト広告収入を得られるものも存在するため,相続人としては,これを相続によって引き継ぎたいと考えるかもしれません。

 

では,ブログのアカウントを「相続」することはできるのでしょうか。

 

ブログ開設者とブログサービスの提供元との間には,ブログについての契約関係が存在していると考えられます。

この契約内容の中に,契約関係の相続を認める規定があるもの,相続を認めない規定があるもの,相続を認めるかどうかを規定していないものがあるようです。

 

相続を認める規定がある契約の場合には,この規定に従って,提供元への手続きをしていただければよいでしょう。

他方,相続を認めない規定がある契約の場合には,相続をするのは事実上困難だと考えられます。

このように,相続に関する規定がある場合にその規定どおりの取扱いになるであろうことは,契約による私的自治が及ぶと考えられるためです。

 

では,相続に関する規定がない場合はどうなのかとう考えると,非常に難しい問題だといえます。

ブログに関する契約が特定の者に専属して帰属すべきものなのか,これを承継することを許容する性質のものなのかは考え方の分かれるところであろうと思われます。

この点が問題になった場合には,これからの業界の慣行も踏まえながらとはなるでしょうが,判断がなされるものと考えられます。

Youtube大学と弁護士ブログ

名古屋でもコロナの感染が広まってきています。

みなさんの中にも外出を控えられて,ご自宅にいらっしゃる方も多いかと思います。

私も以前よりは家にいる時間が長くなった気がしますが,家では掃除したり,スマートフォンで動画を観たりすることが多いです。

 

中田敦彦氏のYoutube大学という動画コンテンツを視聴することもあります。

「大学」という名前からは堅苦しいものを想像されるかもしれませんが,動画配信者はお笑い芸人の方で,随所に面白い箇所が散りばめられ,楽しみながら気軽に観ることができます。

この動画コンテンツでは,日本史や世界史,神話等のほか,世界情勢なども解説されています。

その他にも,文学作品,ビジネス書から漫画まで,さまざまな書籍も紹介されています。

 

各動画の時間はそれほど長くないため,当然ながら,コンテンツではあらすじを紹介するにとどまっています。

ただ,中田氏がこの動画配信で目指していることの一つは,動画視聴をきっかけに歴史や書籍に興味を持ってもらい,「しっかり勉強してみたい」「この本を読んでみたい」と思ってもらうことにあるようです。

もちろん,中田氏の視点や切り口が斬新ですので,あらすじを聴くだけでも十分に楽しめるものになっています。

 

私も,このブログを書くときは細かな法律上の手続きを解説するよりも,制度の概要をご紹介して,関係のありそうな方に興味を持っていただくことを意図していることが多いです。

そういう意味では,中田氏の動画と目指すところが同じであるように感じています。

 

私のブログは中田氏の動画のクオリティーにまだまだ及びませんが,少しでも有用な内容を伝えられるように精進していきたいと思います。

 

 

なお,弁護士法人心に新たに千葉法律事務所が開設されました。

よりお客様にご利用していただきやすくなると思いますので,お気軽にご相談等にご利用ください。

 

弁護士法人心千葉法律事務所のホームページはこちら

https://www.chiba-bengoshi.pro/

 

それではまた。

自筆証書遺言の保管制度の開始

コロナの影響でテレワークが進んでいるようです。

弁護士の業界でも,以前にご紹介した民事裁判のIT化等が進んできていますが,まだまだ紙ベースでの業務が多く,印鑑文化についても当分無くならないように感じています。

とはいえ,自らの弁護士としての職印を押す際には,その文書の内容に責任を持つという独特の重みがあるように感じていますし,これがデータのみでやりとりされるようになった場合には,便利にはなるものの,自らの創作物に対する責任をどのような形で確認しようかと考えています。

 

さて,今回は,いよいよ7月10日から始まる法務局による自筆証書遺言の保管制度について取り上げたいと思います。

法律の内容自体は,以前から決まっていたのですが,すでに細かな運用まで決まっています。

 

まず,予め作成していた遺言書の保管の申請は,管轄の法務局に対してする必要があります。

管轄は,遺言者の住所地,本籍地,所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所となります。

たとえば,名古屋市であれば名古屋法務局の本局が管轄となります。

それぞれの市町村の管轄については,法務省のホームページで確認することができます。

 

また,保管の申請等を行う際には,予め予約を取っておく必要があります。

予約は,予約専用のホームページがあるほか,電話で取ることもできるようです。

制度開始に先駆けて,予約については7月1日からできるようになるそうです。

 

必要な費用も決まりました。

たとえば,遺言書の保管の申請であれば,一件について3900円,遺言書情報証明書の交付請求であれば,一通について1400円となっています。

 

自筆証書遺言を作成する場合に,このような選択肢が広がったことは望ましいことだと思います。

公正証書遺言にするかどうかは,それぞれにメリットとデメリットがありますので,お気軽にご相談いただきたいと思います。

 

なお,弁護士法人心に新たに四日市法律事務所が開設されました。

よりお客様にご利用していただきやすくなると思いますので,お気軽にご相談等にご利用ください。

 

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死亡届について

緊急事態宣言も解除され,名古屋市でも徐々に人出が増えたように感じています。

第2波,第3波の危険も指摘されているところでもあり,再度の感染拡大に注意しながら,日頃の行動を律していきたいと思います。

 

今回は,死亡届について取り扱おうと思います。

死亡届については,みなさまにはあまり馴染みがないかもしれませんが,相続を扱う弁護士にとってはまれに問題になることがあります。

 

まず,死亡届には届出義務者が定められており,死亡の事実を知った日から7日以内(国外での死亡の場合は3か月以内)に届け出をしなければなりません。

 

届出義務者には順序があり,「同居の親族」,「その他の同居者」「家主,地主又は家屋若しくは土地の管理人」の順序で届出義務を負っています。

 

法律上,届出義務を負っている届出義務者のほかに,届出を提出することができる届出資格者というのがあります。

上記の届出義務者は,その順序に関わらず届出をすることができるとされていますから,届出資格者でもあるといえます。

そのほかの届出資格者としては,同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人があります。

 

それでは,死亡届の届出資格者がいない場合にはどうすればよいのでしょうか。

死亡届が誰からも提出できるというのは妥当ではないかもしれませんが,他方で,その方が亡くなったことが明らかであるにも関わらず,これが戸籍に反映されないことも問題です。

そのため,死亡届が届出資格者以外からなされた場合には,これを死亡したことを戸籍に反映することを申し出る「死亡記載申出書」として扱ってもらえることがあります。

 

家族の在り方の変化に伴って,独居で亡くなる方も増えてきているようです。

そのような方々が亡くなった後もトラブルとならないように,また,亡くなった後の面倒をみる方がスムーズに手続きを進められるように,さまざまな工夫が必要であると感じています。

 

コロナ下での弁護士業務

新型コロナウイルスの影響がさまざまなところで拡がっています。
なかなか先が見通せない状況の中,健康面,経済面に対するご不安を抱えていらっしゃる方も多いかと思います。

歴史上も,人間社会は細菌やウイルスの脅威に幾度となく見舞われてきました。
社会が環境の変化に対してどのように対応できるかは,一人ひとりが環境の変化に対応できる能力にかかっていると思います。
できる限り情報の収集に努めていただき,冷静に分析をして,賢明な行動を取っていただきたいと思います。

私の勤務する名古屋地区でも,裁判所の期日が取消しになり,裁判手続きが停止してしまっています。
事件が長引けば長引くほど,依頼者様にとっては精神的な苦痛が長引くということであり,私自身も心苦しい限りです。

ただ,この状況下においても,進めることができる手続きはあります。
たとえば,裁判手続きになっている事件でも,裁判外での和解の話合いはできますし,裁判に向けての準備作業等もできます。
裁判になっていない事件についても,コロナの影響での制約はありますが,それぞれの事件で進められる手続きはあります。

争いになっている事件以外でも,法律分野でできることはあります。
前回のブログでも遺言について触れさせていただきましたが,先が見えない世の中だからこそ,万一の事態に備えて遺言を書いておかれるべきだろうと思います。
ただ遺言の中でも公証人が作成する公正証書遺言については,公証役場のなかには,現在,不要不急以外のものを公証役場で作成することを避けてほしいとしているところがあります。
公正証書遺言でのご作成を考えておられる方も,まずは自筆証書遺言をご作成しておかれて,後日,改めて公正証書遺言をご作成されるという方法もありますので,ご検討ください。

コロナの影響で,わたしたちの周囲の環境も予断を許さない状況になっています。
必要以上に悲観的になる必要はないと思いますが,私自身も,弁護士としてどのように社会に対する貢献ができるのかを考えていきたいと思います。

配偶者居住権について

先月のブログでも触れましたが,コロナウイルスの感染がさらに拡がっているようです。
私の勤務地の名古屋駅周辺でも,この影響で平日,休日を問わずに行き交う人の数が非常に減少していますし,経済への影響は避けがたいものがあると思われます。

例年であれば,この時期には花見を楽しめたのでしょうが,今年はそういうわけにもいかなさそうです。
古来,季節を愛でてきた日本人の一人として,今年も美しく咲き誇ってくれている桜を観ると,少し寂しい気持ちになります。

コロナウイルスの影響で,みなさまそれぞれに行動の制限がかかってしまっているでしょうが,どうかできる限りの対策をしていただいて,この危機を乗り切っていただきたいと思います。

今回は,来月から施行される配偶者居住権をとりあげたいと思います。

配偶者居住権とは,配偶者に相続によって居住建物に無償で住み続けることを認める権利です。
高齢社会の進展によって,配偶者が亡くなった時の相続人が高齢であるケースが増えてきているといえますが,そのような相続人にとっては,長年住み慣れた住居に住み続けたと考えることが通常であるはずですし,近年は高齢者が住居を借りることが難しくなってきています。

しかし,たとえば,遺産のほとんどが自宅で,ほかに遺産がない場合には,配偶者が自宅を相続してしまうと,ほかの預貯金等の財産を相続することができなくなってしまいます。
そうずると,配偶者にとっては,自宅は相続できたものの,老後の備えとなる資金が不足し困った事態となりまねませんし,自宅を相続することすら叶わないかもしれません。

このような場合に,「自宅の所有権」を取得するのではなく,「自宅に住み続ける権利」を取得するのにとどめておけば,その分について他の財産を取得することができることになります。

この権利は相続人の協議によって設置することができますが,必ずしもすべての相続人がこの権利の設定に応じてくれるとは限りません。
そのため,この権利は遺言によっても設定することができますから,後の相続における紛争を防ぐためにも,遺言で決めておくことがよいでしょう。

配偶者居住権は,相続でもめることを防ぐだけでなく,相続税の対策にも有効です。
また,この権利を設定するためには要件がありますので,この要件を満たすかどうかを確認しておくことも重要です。
さまざまな可能性のある制度ですので,専門家のアドバイスも受けながら,検討してほしいと思います。

社会的な危機が訪れた際には,人は自らの人生について見つめなおすといいますし,万一のことがあった場合に備える機会になると思います。
自宅で家族とともに過ごされる時間が増えた方も多いでしょうが,これをきっかけにして,パートナーや家族を守るための検討をされてみてはいかがでしょうか。

自治体への土地の寄附について

コロナウイルスが世界的に流行しているようです。

愛知県内でも多くの感染者が確認されているため,名古屋でもマスクを着けながら行動している方が多いです。

 

今後,この件で社会にさまざまな影響が出ることが懸念されます。

それぞれの人が,それぞれの立場で,予防と対策をすべきですが,過度な混乱を招かないように冷静に行動をしてほしいと思います。

 

以前にブログで土地の所有権放棄について取り上げたことがあります。

今回は,これに関する資料が公表されておりましたので,お伝えしたいと思います。

 

私が,弁護士として相続案件に携わっていて非常に困るケースとして,相続財産に山林や農地が多く含まれており,相続人がすでに遠方に住んでいるなどしているために,その管理が困難というものがあります。

このような場合,相続人の誰もがその取得を望まないために,当該不動産についてはむしろマイナスの財産として評価したうえで,相続人の一人が引き受けるという扱いをすることがあります。

 

このような事情の背景として,不動産については所有権の放棄が容易ではないことは,以前のブログで取り上げました。

 

他方,不動産を自治体に寄付するという手段が考えられるかと思います。

ただし,「自治体は,容易には寄付を受け付けてくれない」という事情があることは,私も承知しておりました。

 

この点について,法務省の法制審議会「民法・不動産登記法部会」で自治体の土地に寄附に関する対応状況が明らかになりました。

 

全国市長会によると,全国の91都市に対して,土地の寄附の申出件数および受理件数を照会したところ,81都市から回答を得られ,申出自体はある程度の件数があるものの,受理をされたのは0件であったとのことでした。

ただし,上記の対象には,道路や水路などの公共施設の用地取得に係る寄附は除かれています。

 

土地の寄附を受理しない理由としては,「行政目的のない土地は受け取らない」,「維持管理コストの負担の増加」が挙げられています。

 

このような現状からすると,利用価値に乏しく,維持管理コストが高い土地については,引き続き,取得の負担が大きいということがいえます。

 

上記法制審議会では,国土の有効活用のため,一定の要件の下で,土地所有権の放棄を認める制度の創設について議論がされています。

このような制度が整備されることは,国策上も有用だと思いますし,遺産分割の内容にも影響すると考えられますので,引き続き,議論の経過を追っていきたいと思います。

 

養育費,婚姻費用の新算定方式について

今年最初の投稿です。

去年1年を振り返ってみても,平成の最後の年を迎えた時には,令和の最初の年がこのような1年になろうとは思ってもみませんでした。

1年の計を立てるには元旦がよいなどと言われますが,1年の計画の立てることの難しさを感じています。

これからも,明確な目標を設定し,しっかりと日々の計画を立てながら,弁護士としての職務にあたっていきたいと思います。

 

今回は,新たに発表された養育費,婚姻費用に関する報告を採りあげたいと思います。

 

昨年12月23日,養育費,婚姻費用に関する司法研修所の研究が発表されました。

ここで新たな養育費,婚姻費用に関する算定表も発表され,最高裁判所のホームページでも公開されています。

詳しい研究内容は『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』(司法研修所編)という書籍に記載されています。

まず,基礎収入の算定方法は,最新の税率・統計資料に基づいて基礎収入割合が算出されただけで,従来の算定方式との間で特段の変更点はないようです。

 

子どもの生活費指数については,15歳前後で区分するという点には変更がありませんでしたが,0~14歳区分が従来の「55」から「62」に増加し,15歳以上が従来の「90」から「85」に低下しました。

前者の理由は,学校教育費等の考慮すべき生活費の割合上昇によるもの,後者の理由は,国公立高等学校の学費が下がったことによるものだと説明されています。

 

成人年齢の引下げの法改正の影響については,結論としてはないこととされています。

 

このように,今回の新算定方式は従来の算定方式が依拠していた統計資料等を最新のものに更新しただけで,考え方や内容に大きな変更点はありません。

その理由としては,従来の算定表がこれまで実務で広く受け入れられてきたにも関わらず,これに大きな変更を加えることは実務の混乱をもたらすおそれがあるため,法的な安定性の観点からも,必要最小限の修正に留められたのでないかと思われます。

また,研究発表では,「本研究発表は,養育費等の額を変更すべき事情変更には該当しない」と明記されていますので,この点も非常に大事でしょう。

 

新算定方式はこのような内容ですから,少なくとも実務上は,名古屋を含めて全国の家庭裁判所に受け入れられるものと考えられます。

 

裁判手続きのIT化について

令和の最初の年も,もうすぐ終わろうとしています。
私自身も,今年1年でできたことと,できなかったことをしっかり見直して,また来年からより一層頑張っていきたいと思います。
これからも,みなさまのご指導とご鞭撻をお願いいたします。

今回は,民事訴訟のIT化の話題を採りあげたいと思います。

日本の裁判手続きにおいては,以前からIT化の遅れが指摘されて久しいものがあります。

民事裁判を提起する訴状や,裁判での主張内容を記載する準備書面といった書面は,現在はすべて紙で提出する必要があります。
訴訟係属中の準備書面等はFAXによって提出していますが,枚数が多い場合にはFAXによらず郵送をする必要がありますし,郵送には費用や手間が非常にかかってしまっています。

司法当局が参加する民事司法制度改革推進に関する関係省庁連絡会議は,今月,民事裁判制度の改革の骨子案をまとめました。
骨子案によると,民事訴訟手続きを段階的にオンライン化し,最終的には全面的なオンライン化を図るというもののようです。
訴訟代理人弁護士には,裁判関係書類のオンライン提出を義務付けることで,民事訴訟手続きのオンライン化を推進するとされています。

上記のようなオンライン化が進めば,口頭弁論期日をオンラインで行うことや訴訟記録をオンラインで閲覧・謄写することも可能になるでしょう。
実際に,愛知県弁護士会では,名古屋地方裁判所との間で,ウェブ会議による争点整理手続を想定した合同模擬裁判も開かれています。

裁判手続きがオンライン化されれば,弁護士業務の効率化にもつながるため,私としてはこれに期待するところが大きいです。

他方で,訴訟代理人が就かない,いわゆる本人訴訟による場合には,なかなか弁護士以外の方がオンラインに対応することは難しく,これまでもハードルが高いとされてきた訴訟手続きにアクセスすることがより困難になるのではないかという懸念もあるでしょう。
また,オンラインでのデータのやりとりとなる場合には,情報漏洩等のリスクがより高まることも予想されますし,弁護士としても守秘義務の観点からの対応が要請されるケースもありそうです。

司法制度に関わる一員として,これらの問題点を適切に克服しながら,より効率的な紛争解決に努めていきたいと思います。

婚姻費用・養育費に関する新たな研究結果の発表について

「もう12月も差し迫っているのに,今年はあまり寒くならないなあ」と思っていたところ,ここ数日で急に寒くなった気がします。

特に,朝晩の時間帯は非常に冷え込むようになりましたので,みなさまもご体調にはお気をつけていただければと思います。

 

今回は,婚姻費用や養育費についての話題を採りあげたいと思います。

 

私は,相続や離婚などの家族関係の事件を多く取り扱っているため,婚姻費用や養育費が問題となることも多いのです。

最高裁判所の司法研修所が,12月23日に,婚姻費用や養育費に関する新たな研究結果を発表することが分かっています。

これまでの実務では,平成15年に東京・大阪の裁判官によって発表されていた簡易算定表を参考にして,名古屋の裁判所でも計算がされていました。

ただし,上記算定表によって計算した婚姻費用や養育費が低すぎるのではないかという批判が以前からあり,日本弁護士連合会も独自の算定方法を提案していましたが,なかなか実務での浸透はしていませんでした。

このような状況のもとで,上記のような新たな研究発表がされるということになりましたので,これによると婚姻費用や養育費は増額されることになるのではないかという予想がされています。

まだ研究発表内容が明らかになっているわけではありませんので,これがただちに実務に反映されるのかどうかも不透明ではあります。

ただ,私が現在担当している調停中の事件でも,上記研究の発表内容を踏まえてから婚姻費用や養育費の額を決めたいという考えが当事者や裁判所でもあり,すでにこのようなかたちで実務に対する影響はでているといえます。

 

いったいいかなる算定方法が婚姻費用や養育費として妥当なのかというのは,規範的な考慮を必要とするため,非常に難しい問題だと思います。

また,個々のケースの事情にきめ細かく配慮しつつ,他方で,できる限り簡易に算定が可能な方法としても使えるものとしなければならないという要請もあります。

婚姻費用や養育費の事件に関わる弁護士としては,今回発表される研究結果を十分に理解したうえで,検討する必要があります。

その結果については,今後,このブログでも採りあげていきたいと思います。

名古屋圏の地価について

10月に入り,一気に涼しくなりましたね。

過ごしやすい季節となったのはいいのですが,夏の暑い時期にさぼっていたベランダの掃除などにもしっかりと取り組まないといけないなと感じているところです。

 

これまで法律に関する堅い話が多かったので,今回のブログは名古屋圏の地価について取り上げたいと思います。

 

私は相続の案件を多く扱っており,遺産の中に不動産が含まれていることも多く,不動産がどのくらいの価値があるのかは常に気にしながら弁護士業務を行っています。

 

国土交通省が今年9月19日に発表した地価調査によると,名古屋圏の商業地の地価は3.8パーセント上昇し,名古屋市内の全区で上昇したとのことです。

栄地区では百貨店「丸栄」跡地などでの再開発が進んでいますし,リニアの開通を控えた開発などで名古屋駅周辺などでも,これらの事情が地価を大きく押し上げる要因となっているようです。

また,知立市,刈谷市,安城市といった名古屋への通勤圏の自治体でも地価の上昇がみられているようですね。

 

当法人の事務所もある名古屋駅周辺のオフィスの空き室率は1パーセント台ということで,このように好調な需要が周辺地域での開発を後押ししているようです。

 

このように相続財産の中に高い価値のある不動産がある場合,もちろん遺産の額が大きいことは相続人にとっては喜ばしいことなのですが,一方で考えなければならない問題も生じます。

 

たとえば,相続財産のほとんどが不動産の場合,でこのように高い地価の土地が含まれているとすると,相続人は多額の相続税を支払う必要が生じてきます。

相続税は,原則として,被相続人が亡くなってから10か月以内に申告と納付をしなければなりませんので,価値の高い不動産が遺産に含まれている場合,相続税の納付にあてる預貯金等の資金が足りないおそれが生じます。

その場合には,相続人が共同して不動産を売却してその資金に充てることも考えられますが,相続人の間で売却についての考え方が分かれてしまったり,売却を慌てて行うことで低い売却代金で妥協してしまったりということがありえます。

 

このような事態にならないように,ご生前中からしっかりと相続対策をされることをアドバイスする機会も多くあります。

不動産に関する最新の情報もしっかり収集しながら,みなさまに適切なアドバイスができるように日々精進していきたいと思います。

 

相続放棄の最高裁判例について(2)

もう9月も終わろうとしていますが,あまり秋という感じがしないですね。
名古屋では朝の早い時間帯や夜は涼しいなと感じることもありますが,日中はまだまだ蒸し暑く感じます。

前回に引き続き,今回のブログでも再転相続に関する判例について取り上げたいと思います。

(前回の続き)
5.原審判断の理由とは
それでは,なぜ原審は民法916条の適用ではなく,民法915条を適用するとの判断に至ったのでしょうか。
そもそも,相続放棄の熟慮期間の起算点については,民法915条の解釈によって,相続の開始原因事実のみではなく,自らが相続人であることも知ったときと解されています。
第1相続のみを相続放棄することも現在の判例上は認められていますから,相続放棄をするかどうか確定していない再転相続においては,再転相続人が,自らが第1相続の相続人であることを認識した時点のみを問題にすればよいと考えるのが自然です。
ただし,これは過去のブログでも指摘したとおりですが,そのように解すると,民法915条のみを再転相続も含めた事案に適用すればよいのであり,これとは別に民法916条を規定した意義がどこにあるのかが分からなくなります。
言い換えると,再転相続人の認識を問題にするというは民法915条からも明らかであり,わざわざ民法916条を規定する必要はないのではないかという疑問です。
原審が,民法916条の適用の余地を限定したうえでも残し,当該事案で民法915条を適用するとしたのも,このあたりに理由のひとつがあったのかもしれません。

6. 再転相続における相続放棄の理論的根拠
ここで,再転相続において再転相続人がなぜ第1相続の相続放棄をすることができるのかということの理論的な側面に触れておきたいと思います。
有力な考え方によると,すでに亡くなっている相続人は,みずからが相続をするかどうかを判断していませんので,相続放棄をするかどうかを判断する権利を有していることになります。
そして,その相続人が亡くなったときには,再転相続人が,その相続するかどうかを判断する権利を相続人から承継することになります。
これが,再転相続人が,再転相続において第1相続の相続放棄をすることができることの理論的な理由です。
この点を踏まえて原審の判断をみてみると,「相続人が,被相続人の相続人であることを知っていたが,相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合」に民法916条を適用するとしており,相続人がすでに相続放棄をするかどうかの判断をする機会を得ていた場合に限って適用していることになります。
つまり,相続人は相続放棄をするかどうかを判断しなければならない地位にあり,再転相続人がその地位をそのまま受け継ぐのであれば,再転相続人も第1相続についての認識の有無に関わらず,相続放棄をするかどうかの判断をしなければならない地位にあるといえます。
そして,そのように処理をすると,第2相続の開始時期によっては熟慮期間が短かすぎ,再転相続人にとって酷といえる場合がありうるため,民法916条でその熟慮期間を伸長したと考えることができます。
このような理論面からしても,原審の判断は理にかなったものではあったと,私は考えています。

3.最高裁判所の判断について
しかし,それでも私は今回の最高裁判所の判断を支持したいと思います。
弁護士として相続に関する案件を多く扱っていて思うのですが,やはり自らが認識していない相続に関する負債を不意打ち的に負うことになるのは相続人にとって酷だといえますし,法定単純承認にあたるような行為をしていた相続人は別ですが,そうではない相続人の財産を債権者が責任財産としてあてにするというのもおかしいのではないかと思うからです。
原審の判断内容を実質的に考えても,相続人が判断をする機会があったことは確かだとは思いますが,結局,熟慮期間内に判断をしなかったのであれば,十分な判断の機会が保証されていたとはいえないでしょうし,再転相続人にあたらめて判断の機会をあたえるとすることが公平だといえると思います。
ただ,結論としては最高裁のように考えることが妥当だとはいえても,理論的にはそのような解釈をすることは難しい面があるのではないかと考えますが,今回の判断内容は最高裁にのみ許される解釈であると思いますし,私は今後の裁判実務の明確な指針となる判決を出してくれたことを歓迎したいです。

4.最後に
実は,民法916条は,再転相続人に相続放棄をするかどうかの機会をあたえ,保護する面とともに,債権者やそのほかの利害関係人にとっては法的な安定性を与えられるという面もあり,これとの調整を図ったものであると指摘されてきました。
後者の面については今回の判例では触れられていませんが,債権者らにとっては,再転相続人に対して相続人であることを通知すればよいのですから,それほど配慮しなければならないものとはいえないのかもしれません。
(前回,今回と難しい話をしてしまったので,次回は簡単な話題を取り上げたいと思います)

名古屋で相続放棄をお考えの方はこちらをご覧ください。

相続放棄についての最高裁判例について(1)

こんにちは。
名古屋でもだいぶ暑さが和らいでくれた気がします。

今月,相続放棄についての最高裁判所の判例が出されました。
相続放棄については,弁護士としてご相談やご依頼を受けることが多い分野ですし,以前にもこのブログでとりあげたことのある再転相続の熟慮期間に関するものですので,今回のブログでとりあげたいと思います。

1.再転相続とは
再転相続とは,相続人となった者が熟慮期間中に相続の承認も放棄もしないまま死亡し,その相続人の地位をさらに相続した場合のことをいいます。
以前のブログと同じように,先に死亡した者を「被相続人」,後に死亡した者を「相続人」,それらを相続した者を「再転相続人」と呼ぶことにします。

2.最高裁判例の結論
今回の最高裁判所の判例(令和元年8月9日第二小法廷判決)の事案では,再転相続における熟慮期間の起算点が問題となりました。
最高裁判所は,結論として,再転相続人が,相続人からの相続により,相続人が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時が,熟慮期間の起算点となると判断しました。
結論としては妥当なものですし,これまでの判例,裁判例の考え方にも沿うものだといえます。

3.原審の判断
実は,原審でも,当該事案での相続放棄の熟慮期間の起算点については,まったく同じ結論になっていました。
原審は,当該事案では民法916条を適用しないと判断したうえ,民法915条を適用したのに対し,最高裁は,そのような原審判断を違法としたうえ,民法916条を適用しています。
それでは,原審は,なぜ916条を適用しなかったのでしょうか。
原審は,民法916条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義について,再転相続人が相続人の相続を知ったときと解しており,これは従来の通説と同じ考え方ではありました。
しかし,このように解すると,再転相続人の相続放棄をするかどうかの判断の機会を狭めてしまうことになってしまいます。
そのため,原審は,「相続人が,被相続人の相続人であること(正確には,相続の開始の原因事実および自己が法律上相続人となった事実)を知っていたが,相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合」にのみ916条が適用されるとして,同条の適用範囲を限定しました。
そのうえで,本事案は上記の場合にはあたらないため,915条を適用したうえで,熟慮期間内になされた相続放棄の効力を認めたのです。

4.最高裁の判断
最高裁判所は,原審の判断に対し,「民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始を知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうと解すべき」としたうえで,ストレートに民法916条を適用しました。
すなわち,原審の判断の場合,限定的ではあるにしろ,915条をそのまま適用した場合と比べて,再転相続人の判断の機会が狭められてしまう可能性がありますが,最高裁判所はそのような場合すらも相続放棄をするかどうかの判断の機会を再転相続人に保障するとの立場を取ったということになります。

今回の判例の結論としての価値はこのようなものとはなりますが,理論的な面から考えていくといろいろな分析も可能なところです。
続きについては,次回とりあげたいと思います。

なお,事務所の集合写真が更新されました。

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「寄与分」と「特別寄与料」について

前回のブログでは,相続法の改正で新たに導入された「特別寄与料」の制度について簡単に説明しました。
私が名古屋で弁護士をしていて,お客様からのご相談でもこの制度について触れられることが多いので,今回も取り上げてみたいと思います。

今回は,これまでも遺産分割の制度として認められてきた「寄与分」と,新たに導入された「特別寄与料」の違いという視点から,説明してみたいと思います。
(以下では,「寄与分」の制度を「前者」,「特別寄与料」の制度を「後者」と呼ぶことにします)

両者の違いは,なんといっても,前者が被相続人の財産形成に寄与してきた共同相続人にのみ認められてきた権利であるのに対し,後者が共同相続人以外の親族にも認められた権利であるということです。
たとえば,亡くなった方の息子の奥さんが,介護等で生前の面倒を看てきたというケースは多く見られますが,その奥さんは共同相続人ではないため,前者の制度では考慮することができませんでした。
しかし,後者の制度では,奥さんは親族にあたるため,その貢献に応じた権利が認められるということになります。

両者の条文の違いも見てみましょう。
前者では,「共同相続人の中に,被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付,被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」と規定されています(民法904条の2第1項)。
後者では,「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族」と規定されています(民法1050条)。
両者の条文を比べてみると,後者では「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付」は含まれていないことがわかります。
そこで,これまで寄与分の類型のうち,「療養看護型」が後者でも認められることは分かりますが,その他の類型はどうなのかを検討してみましょう。

「家業従事型」については,たしかに「被相続人の事業に関する労務の提供」が後者では文言上は含まれてはいませんが,後者の制度が,被相続人の親族が無償でこのような労務の提供をした場合についてまで排除する趣旨とは読み取れませんので,「その他の労務の提供」として認めることができるでしょう。
「財産管理型」の場合についても,それが被相続人に対する「労務の提供」として認められる限りは,後者においてもその対象となると考えることができそうです。

それでは,「財産出資型」では,どうでしょうか。
後者では,あくまで「労務の提供」が対象となっているため,財産出資型の寄与については認められないと考えることができるでしょう。
もちろん,事務管理や不当利得返還請求権などの法律構成によって権利が認められる場合については,請求することもできるでしょう。

このように「特別寄与料」の制度は,「寄与分」の制度と似てはいますが,このほかにも細かな点も含めて多くの違いがあります。
また,その請求の方法についてみても,むしろ遺留分侵害額請求権に近いと感じることもあります。

これらについても,触れられる機会がありましたらブログで取り上げていきたいと思います。

相続法の改正について

令和元年7月1日という日は,私のような名古屋で相続案件を多く扱っている弁護士にとって,特別なものです。
というのも,この日は,平成30年7月6日に成立した相続法の改正のうちの多くの規定の施行日なのです。

これまでも法改正の内容について十分に研究をしてきたつもりでいますが,その細部までしっかりと理解して,お客様に最善のアドバイスをしなければなりません。
また,しばらくは法改正の適用前と後の案件が混在するため,この点にも注意をしなければならないと考えています。

法改正に実務がどのように対応していくのかについても,しっかり注視していく必要があります。
たとえば,預貯金の仮払い制度の新設については,各金融機関でもこれをどのように取り扱うのか,これからの各金融機関の動きについても調査しておかなければなりません。

相続法の大きな改正が約40年ぶりとあって,ある程度メディアでも取り上げられていますが,みなさまにはその内容についても正確に理解をしておいていただきたいと思います。
相続法の改正前から,お客様から改正内容についてご相談を受けることがありましたので,今回は少しだけ法改正の内容に触れたいと思います。

相続法の改正によって,相続人以外の者の貢献が相続において考慮されることになりました。
この権利は,貢献をした者から相続人に対して請求できるものであり,このようにして請求できる金銭を特別寄与料といいます。

ただ,この権利を請求するにあたっては,何点か注意が必要です。

ひとつは,この権利を請求できるのが被相続人の親族に限られるということです。
親族ではない者について,この権利が認められるわけではありません。

また,特別寄与料の支払いを請求するうえで,当事者間で協議ができなかった場合には,家庭裁判所に協議に代わる処分を請求しなければなりませんが,これには期間制限があり,特別寄与者が相続の開始及び相続人を知ったときから6か月以内か,相続開始から1年以内に請求をする必要があります。

法文上は,「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」場合に,特別寄与料の請求ができることとなっています。
従来の相続人の寄与分が認められるためのハードルは高かったわけですが,今後,この権利がどの程度裁判所から認められるのかについても研究していく必要があります。

 最後に,今回の相続法の改正のすべての規定が7月1日に施行されるわけではありません。
 私自身が最も注目している配偶者居住権については,来年4月1日が施行日となっていますので,ご注意ください。

ホームロイヤー契約について

令和となってから,初の投稿です。
すでに1ケ月近くが経ちますが,私の中では令和という言葉がすでに馴染んできたように感じています。

令和の時代が良い時代になって欲しいという思いはありますが,社会の抱える問題というのはどの時代においても無くなることはないのだろうと思います。
弁護士という仕事は,社会問題に常に直面しながら,問題の解決にあたるものであると感じます。

今回は,令和の時代でも最も問題になるのではないかと考られる高齢者についての問題を取り上げたいと思います。

高齢者についての問題は,医療や介護の分野でも重要性を増していますが,法律の分野でもそれに対する対策・対応が進んでいます。

そのひとつとして,ホームロイヤー契約という契約が注目されています。

ホームロイヤー契約とは,明確な定義があるわけではないのですが,高齢者の見守りやその財産管理等について,法律の専門家である弁護士が,継続的かつ総合的に高齢者の日常生活を支援するために締結される契約の総称です。
医療の世界でかかりつけの医師が「ホームドクター」と呼ばれているように,「ホームロイヤー」という言葉には,個人の相談に対応するかかりつけの弁護士という意味が込められているとされています。

高齢者が自らの財産管理をする能力に不安を抱えていたり,その能力が現実に低下したりしてしまった場合に,法律家がその財産管理に携わることには,さまざまな意義があります。
もちろん,「本人の財産を守る」という意義があることは間違いがありません。
成人後,親と同居をしない家庭が多くなり,もはや核家族化という言葉も古めかしくなってきましたが,そもそも高齢者の財産の管理を任せられる家族がいないという方もいらっしゃいます。
また,たとえ財産管理をする能力と意思がある家族が見つかったとしても,その家族が使い込みをしてしまうおそれや,他の家族から使い込みを疑われることもあります。
財産管理をしていた家族による使い込みがあった場合,法的には,相続の際に他の相続人が取り戻す手段もありますが,使い込みについての十分な証拠を集めることは困難なケースが多いです。
他方で,財産管理をしていた家族による使い込みがなかった場合にも,他の家族から使い込みを疑われた場合,きちんと帳簿を作成し,領収書を保管するなどしておかないと,「使い込みがなかったこと」を証明するのも困難な面があります。
そこで,専門家である弁護士が本人の財産管理に携わり,家族による使い込みの機会をそもそも作らないこと,財産管理が適正に行われていることについてもしっかり証拠を残すことで,後日のこのような紛争を未然に防ぐことができるという意義があるのです。

実際に紛争になってしまった場合は,当事者には経済面でのコストだけでなく,精神面でも多大な負担がかかってしまいます。
普段からこのような紛争に関わることの多い弁護士としては,これを未然に防ぎたいと常日頃から思っています。

医療の世界でも「予防医学」の重要性が謳われて久しいですが,私も法律の世界での「予防法学」において社会に貢献していきたいと感じています。

令和と書面の作成年月日

平成も残りわずかとなり,令和という新しい時代も目前に迫ってきました。
元号が新しくなるという経験は自分の人生では2回目ですが,前回の改元の記憶はあまりありませんので,新しい時代をどのように迎えることになるのか楽しみではあります。
裁判所では現在でも事件番号等に元号が用いられていますから,私たちの弁護士業務でも元号を使うことが多く,前向きな気持ちになれるような元号が選ばれてよかったと思っています。

今回は,このことに関連して,以前に自筆証書遺言について記載したことを補足したいと思います。

以前の記事で,相続法の改正にともなって,自筆証書遺言の方式が緩和されるという話を取り上げました。
すなわち,これまで遺言書を自筆で作成する場合には,そのすべてについて自書する必要があったのですが,財産部分について目録を添付する形で作成することも認められるようになりました。
ただし,施行日以前に作成された遺言書において,この方式が用いられていても無効ですので,後日の争いを避けるためには,施行日以後に作成されたことの証拠もしっかりと残しておくことが必要だということを,以前のブログで指摘しました。

この点について補足しますと,自筆証書遺言には作成年月日の記載が要件となっているところ,この作成年月日に新しい年号である令和を記載しておけば,少なくともそれ以降に作成されたことが確実であるといえるため,上記についての対策は十分だといえるでしょう。
なお,作成年月日には,必ずしも和暦を用いる必要はなく,西暦を用いることもできます。
私が遺言書の作成に携わる際にはすべて和暦で作成していますが,これも新しい年号を選ぶルールである「これまでに使用されたことのないもの」という条件が無ければ使用することに抵抗があり,今回の令和もこの条件を満たしています。

作成日に新しい年号が使用されていれば,同じようなことが契約書等のほかの書面にも言えるかと思われます。
書面の証拠の作成年月日が裁判等で争われることは少なくないのですが,新しい年号が用いられていれば,新しい年号発表以後に作成されたことが確実であるとはいえるでしょう。
逆に,たとえば書面に「平成35年」などと記載されており,新しい年号を使うことができたにも関わらず,合理的な理由もないのに使われていなかった場合には,新しい年号の発表以前に作成されたものである可能性が高いとはいえるでしょう。

新しい年号の発表では,政府の情報管理も徹底されていました。
元号が新しくなった場合,みなさまの中でもいろいろな対応をしなければならなかったり,社会ではビジネスにつなげようとしたりする動きがあると思われますし,その動きはすでにかなり進んでいるようです。

改元は時代の節目ではあるため,気持ちよく新たな時代を迎えられればと思っています。

遺言の自由と制限について

弁護士の江口潤です。

 

先日,名古屋市の鶴舞公園に行ってまいりましたが,桜の開花もかなり進んできました。

なかなか心行くまで花見酒とはいかない身としては,心の置けない方たちとともに愉しまれている方々が羨ましく見えます。

 

今回は,遺言について,ちょっと変わった視点から見てみようと思います。

つまり,日本以外ではどのような遺言の制度となっているのかについて紹介し,日本の遺言や,それにまつわる相続制度の特徴を考えてみたいと思います。

 

遺言者は,自分の死後に自分の財産をどのように処分したいかを遺言をすることで決めます。

自分の財産なのですから自分の好きなようにできるはずではあるのですが,法律上はそうではなく,遺留分という制限が存在します。

 

遺留分は,配偶者や子,親などの相続人に認められている「権利」であるとされており,遺言者の側から見ると,遺言による財産処分の権利が制限されているということになります。

なぜこのような遺留分が認められているかについては,相続人の相続に対する期待を保護するためであるとか,相続人が経済的に困窮することを防ぐためであるなどと説明されています。

 

法学の世界で大陸法系と言われる国は遺言の自由を制限する傾向にあり,日本は大陸法系の国に属していますので,遺言の自由が比較的制限されています。

遺言の自由を広く認めているといわれる英米法系の国では,子らには遺留分が認められていないことがほとんどです。

ただ,英米法系の国であっても,配偶者や扶養を必要としている子に対しては一定の財産的な権利が確保されています。

 

実は,相続人が相続において財産の確保するための法制度上の手段は,遺留分だけではありません。

日本は,婚姻後も夫婦それぞれが財産を形成する「夫婦別産制」を採っていますが,「夫婦共有制」といって,婚姻後取得した財産についてはそれぞれの名義のものであっても均等の持分を持つものとしている国では,夫婦の一方が死亡した場合,夫婦の共有財産の半分は配偶者が取得することになります。

そのため,夫婦共有制の国では,初めから夫婦の財産の半分は配偶者が確保しており,遺言者は残った半分についてだけ,遺言で自由に処分することができるということになります。

 

相続法の改正作業においても,遺留分の制度についてはさまざまな議論がされました。

ただ,この制度が残されたことにはそれなりの意味があるわけですし,私たちは,この制度があることを前提にして,自分が望むことに最も近い結果を実現できるように対応していかなければならないでしょう。

 

そのうえで,法律家として,ご依頼者様がこのような結果を実現することの手助けができるよう,研鑽を積んでいきたいと思います。

 

成年後見制度について

弁護士の江口潤です。

 

寒さもだいぶ和らいできました。

この冬は,前年に比べるとあまり寒くなかった印象がありましたが,やはり全国的に暖冬傾向だったようですね。

 

私の住む名古屋でも,降雪はほとんどありませんでしたし,過ごしやすかった気がします。

 

 

さて,私が,先日,成年後見事務に関する研修を受けてきましたので,今回は成年後見に関して取り上げたいと思います。

 

私は,普段から相続に関する案件を取り扱うことが多く,成年後見制度を利用することも多いです。

たとえば,遺言書を作成したいというお客様から任意後見制度のご利用をアドバイスしたり,遺産分割協議をする中で相続人の一人に成年後見人を就ける必要があったりということで,成年後見制度に携わっています。

 

成年後見人とは,認知症や精神疾患などにより十分な判断ができなくなった方にかわって,本人の財産を管理し,その身上を監護する者をいいます。

このようにサポートを必要とする人のために成年後見人をつけるには,家庭裁判所に成年後見開始の審判を申し立てる必要があります。

裁判所の資料によると,後見開始の審判の申立件数は,平成28年で2万6836件であったのが,平成29年では2万7798件となり,約3.6パーセント増加しているようです。

日本は高齢化社会ですから,今後も後見開始の審判の申立ては,この程度の件数が維持されるものと見込まれます。

 

裁判所から選任される成年後見人には,本人の親族がなるケースと弁護士等の専門家が選任されるケースとがあります。

成年後見の申立時に,親族を成年後見人の候補者としていても,財産が多かったり,遺産分割の必要があったり,親族が財産管理に適していなかったりした場合には,裁判所の判断で専門家が成年後見人に選任されることになります。

 

しばしば問題となるのは,親族に対する支出が許されるかということです。

成年後見人は,あくまで本人のために本人の財産の管理義務を負っていますから,親族に対する贈与や貸付は,財産の減少行為にあたるため,原則として認められません。

ただし,配偶者や未成熟子に対して,必要な扶養の範囲内での扶養義務の履行としてであれば許される余地がありますが,これも厳格に考えられる傾向にあります。

 

また,相続税対策のために,土地の上に居住用や収益目的での建物を建てることも問題となります。

まず,相続税対策というのであれば,本人のためではなく相続人のためということになりますので,成年後見人は行うことはできません。

居住用の建物建設といった場合にも,その真の目的は相続税対策ではないというためには,居住のために真に必要であったといえなければならないでしょう。

収益目的の建物建設の場合には,本人のために真に必要があるといえるのかどうかが,より厳格に考えられることになります。

 

このように,成年後見の事務には難しい問題も多く,専門家以外を候補者として考えておられる場合には,しっかりと対策をしておかれる必要がありますので,ご注意ください。