遺留分についての最新判例

今年も暑かった夏が終わって秋になりましたが,近ごろの朝晩は冷え込むようになりましたね。
弁護士の江口潤です。

 

今回は,遺留分に関する最高裁判所の判例(平成30年10月19日第2小法廷判決)が出ましたので,ご紹介したいと思います。

このケースで問題となったのは,被相続人が,生前,共同相続人の一人に対して相続分を無償で譲渡としていた場合に,この譲渡が遺留分算定の基礎となる財産額に算入すべき「贈与」(民法1044条,903条1項)にあたるかどうかということです。

遺留分について,簡単に説明します。
亡くなった方が,遺言書を書いていたり,他の相続人などに生前贈与をしたりしていた場合,相続する分が減ってしまった相続人には,遺産の一定割合について,たくさんもらっている人から取り戻すことができることがあります。
この取り戻すことのできる部分のことを遺留分といいます。
遺留分について詳しくはこちらもご覧ください。

今回のケースでは,亡くなった方は,生前,夫の相続において,子どもの一人に対して自らの相続分を譲渡しました。
相続分とは,相続における積極財産と消極財産とを包括した遺産全体に対する割合的な持ち分のことをいい,これは他の人に譲渡することができます。
この譲渡が,亡くなった方の相続において,遺留分がどの程度侵害されたかの算定の基礎となる財産額に入れる「贈与」にあたるかどうかが争われたのです。

この点について,原審の東京高等裁判所は,この譲渡は「贈与」にはあたらないと判断しました。
その理由としては,相続分の譲渡は遺産分割が終了するまでの暫定的なものであって,遺産分割が確定した時点で相続開始時に遡って直接相続したことになることや,相続分の譲渡が必ずしも経済的利益をもたらすものとはいえないということでした。

しかしながら,前者の理由については,遺産分割の効果についての民法の規定という形式的なものに過ぎませんし,後者の理由については,相続分の譲渡に財産的な価値があることが判明した場合には,これを理由とするのは妥当とはいえません。

最高裁判所は,「共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる」と判断しました。

最高裁判所の判断は妥当なものだとは思いますが,実務的には様々な問題も残っているように感じます。
一つには,相続分の譲渡の財産的な評価額をどのように算定するかということです。
相続分の対象となった不動産の財産的な額をどのように評価するか等については,通常の遺留分減殺請求でも問題となるところですので,特に新たな問題が生じるとは考えられないと思われます。
ただ,遺産分割においては,それぞれの相続人には法定相続分があるものの,協議の結果,それどおりに分割がされない場合もあります。
理屈で言えば,譲渡された相続分の客観的な評価額が算定の基準となるのでしょうが,実際に遺産分割協議によって相続した分も考慮されることにもなりそうです。
他にも,有償であるが客観的な評価額よりも低廉な額で譲渡した場合,共同相続人以外に譲渡した場合,遺産分割協議において実質的に譲渡したのと同じ内容の合意がなされた場合等,この判例の射程がどこまで及ぶのかについて検討する必要があるように思います。