不動産取引における心理的瑕疵について②

暑さもかなり和らいだように思いますが、名古屋でもまだまだ暑い日も続いていますね。

季節の変わり目は体調を崩しやすくもありますし、今の季節は台風にも警戒が必要でしょうから、みなさまもくれぐれもご用心いただきたいと思います。

 

前回から引き続き、不動産取引における心理的瑕疵について取り上げたいと思います。

 

国土交通省が令和3年10月に策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、人の死の事案について「告げなくてもよい場合」が明示されていることが特徴的です。

 

告知義務のない類型の一つ目として、「対象不動産において自然死又は日常生活の中での不慮の死が発生した場合」があげられています。

この類型は、賃貸借取引と売買取引の双方が念頭におかれています。

「自然死」とは、老衰や持病による病死などのことをいい、このような人の死亡が発生することは居住用不動産において当然に予想され、一般的な死因であることから、取引判断に重要な影響を及ぼさないと考えられています。

「日常生活の中での不慮の死」とは、たとえば、階段からの転落や入浴中の溺死、食事中の誤嚥などのことをいい、これについても自然と同様に扱ってよいだろうとされています。

ただし、上記のような死因であっても、いわゆる孤独死などによって特殊清掃などが必要になったケースについては、取引判断に重要な影響を及ぼす可能性があることから、告知義務があるものと考えられています。

 

告知義務のない類型の二つ目として、「告知義務がある場合であっても、それが判明した後に概ね3年が経過した場合」があげられています。

この類型は、賃貸借取引が対象で、売買取引は対象外です。

心理的瑕疵は、時間の経過とともに希釈され、やがて消滅するとも考えられているところではあり、では、この期間がどのくらいであるのかが問題となります。

この問題に関する過去の裁判例を参考にして、賃貸借契約においては、原則として、概ね3年が経過した場合には告知義務が消滅するとされています。

ただし、例外的に、人の死の事案の事件性や周知性、社会に与えた影響等が特に大きい事案については、上記の期間の経過では足りず、告知義務がないとはいえないとされています。

 

告知義務のない類型の三つ目として、「対象不動産の隣接住戸又は借主若しくは買主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分で生じた死の事案」があげられています。

これも、第一の類型と同じく、賃貸借取引と売買取引の双方が念頭におかれています。

対象不動産そのもので生じたものではなくても、その周辺で生じたものも心理的瑕疵になりうると考えられますが、では、どのような場合がこれにあたるかが問題となります。

「対象不動産の隣接住戸」とされているので、周囲の住居で起きた死の事案については、原則として、告知義務の対象外とされています。

「通常使用しない集合住宅の共用部分」とされているので、マンションなどの共用部分のうち、居住者が通常使用しない部分で起きた死の事案も、原則として対象外とされています。

ただし、この類型でも、第二の類型と同様、人の死の事案の事件性や周知性、社会に与えた影響等が特に大きい事案については、例外として扱われています。

 

ガイドラインでは上記のとおりとされているのですが、みなさまの感じ方はいかがでしょうか。

前回のブログでも指摘しましたが、何を心理的瑕疵と考えるかは人それぞれであるといえますので、告知義務の対象外としてよいのかは慎重に考えるべきでしょう。

とはいえ、不動産の客観的な価値を評価する場合には、「一般的な視点」というものが必要になりますし、これに対する一つの考え方が明示されていることは有意義だといえます。

これは今後の社会の状況や人々の認識によって変わり得るものであろうとも思いますが、弁護士や不動産取引に関わる者としては、このような一般的な視点を理解しておく必要があるとはいえるでしょう。