過料?

新型コロナウィルスの蔓延防止のため、昨今、特措法の改正がニュースなどで取り沙汰されています。

入院指示に従わない個人等に対して、「過料」という形で制裁を加える形になる見込みだと聴きます。

言うこときいたら補助金・給付金というアメを与え、言うことを聞かなければ過料によるムチを与えるという、

アメとムチによる統制は、非常に古典的で伝統的な統制方法であるといえます。

感染予防も個人の自由も、ともに重要な価値ですから、改正には賛否両論が出てきて当然なのだと思います。

このブログでは、今回の改正の是非を論じることはいたしません。

ただ、賛成するにしても反対にするにしても、そもそもその対象がなんであるかを知っていなければなりません。

この「過料」というのは、そもそも何なのでしょうか?「罰金」とは何が違うのでしょうか?あるいは、「過料」をかされたひとは、犯罪者となるのでしょうか?

こういった、「過料」に関する基本的な話をご紹介したいと思います。

「過料」という言葉を、辞典などで調べてみると、いろんな説明が書いてありますが、大きなポイントとして挙げられるのが、「刑罰ではない。」という点です。

よく似た制度として、「罰金」というものがあり、これは「刑罰」の一種だと紹介されています。

両方とも、ルールに違反した人に対して、制裁としてお金を払いなさいという制度である点では同じです。

この「刑罰」にあたるのかどうか?という区別は、法律になじみのない方には、あまりピンとこないのではないかと思います。

まず、これを理解する前提として、法律には、いろんなジャンル分けがあるのだということを知っておく必要があります。

ちょうど、TSUTAYAにいけば、洋画コーナーと、邦画コーナーと、韓流コーナーが分けられているように、法律にも、グループがあるのです。

そして、代表的なグループ分けが、民事法(民法や会社法など)・刑事法(刑法など)・公法(憲法や各種の行政法規)という三種類の分類です。

例えば、「交通事故で人をケガさせたら賠償金を払わないといけませんよ。」というルールは、一般の民間人同士のお金のやり取りに関わる話であり、民法にその根拠があります。つまり、民事法の領域だということになります。

これに対して、「交通事故で人を死なせたり、怪我をさせた人は罰せられる。」」というのは、刑法の過失運転致死傷罪などに関わる話であり、刑事法の話になります。そもそも、「刑法とは何か?」という議論自体が、法学部の授業で大きなテーマになるぐらい難しい問題なので、ここで、あまり詳細に論じることはできませんが、法律の専門家の方以外に、なんとなくイメージをつかんでもらうという意味では、「刑事法というのは、悪いことして誰かに実際に迷惑をかけた時に、どのよう処罰されるのか」に関する話なのだというぐらいに、理解していただくのがいいのではないかと思います。

このように、刑事罰の対象となるルール違反は、人の命や健康、財産などを危険にさらす行為が中心です。

これに対して、ルールを破っても、誰かがすごく危険な思いをするわけではないけど、でも社会のみんなが守った方が良いルールというのもあります。

例えば、引越ししたら住民票はちゃんと新しい住所で届け出てくださいねというようなルールがそれにあたります。

別に、住民票の届出を怠っていたからといって、誰かの命が危険にさらされるわけではありませんが、みんなで住民票を届出することで、

住民サービスが円滑に行われ、社会全体の利益となります。

住民票については、住民基本台帳法に届出義務が定められており、こういったものが公法上のルールの一つです。

そして、「罰金」と「過料」の区別について話を戻しますと、「罰金」というのは、刑事法の領域でルール違反をした場合の制裁です。他方で、「過料」というのは、公法や民事法の領域で、ルール違反があった場合の制裁であるという点で、両者の区別がなされます。

例えば、住民票の届出についても、これを怠っていた場合、「過料」の制裁がなされる可能性があります。

今回の新型コロナウィルスに関する法改正でも、あくまでも、感染予防という社会の秩序を維持するという目的のために加えらえる制裁なので「過料」が適切だという判断があったのだと思われます。

なお、一般的に「犯罪者」という言葉は、刑法等の刑事法に違反したものを指すことが多いので、公法上のルールに違反して「過料」の制裁をうけただけで、犯罪者と言われることはないと考えられます。また、いわゆる「前科」というものも、刑事法の領域の話しですので、例えば特措法に違反して過料の制裁をうけたからといって、前科がつくわけではないといえます。

この点で、民事法・刑事法・公法というグループ分けを理解したうえで、「過料」の制裁が持つインパクトを理解することが重要です。

ちなみに、罰則を設ける必要性との関係で、入院先からの脱走事例などがニュースで紹介されていたのを見かけました。

この点については、もちろん「過料」という形の抑止力も理解できるのですが、「そもそも「過料」で済むのか?」という問題も注意が必要です。

例えば、自分自身が明らかに新型コロナウィルスに感染していることがわかっていて、あえて、第三者に濃厚に接触して、その人を新型コロナウィルスに感染させたとすると、公法上のルール違反の次元ではなく、傷害罪として刑事罰が科される可能性があります。

この場合には、前科も残ってしまうことになります。

 

 

 

 

テレビ電話の活用について

新型コロナウィルスの蔓延以来、人と人との直接の接触を減らそうという機運が高まっています。

もっとも、弁護士の場合、債務整理などの分野では直接面談義務という話があり、

原則として、人と人とが直接対面であって相談に乗ることが求められています。

お医者さんの世界では、医師法20条の解釈を巡って、オンライン上での診療をどこまで許容するのかについて、活発に議論や提言がなされ、

メディアなどでも、そういった議論が取り上げられるのを目にするのですが、

あまり、弁護士の直接面談義務に関しては、そういった議論がテレビなどで取り上げられているのを目にした記憶がないです。

私、個人としては、債務整理を必要とする方は、自分自身の財産や収支、時には借入れの状況も把握できていないことが多々ありますので、

顔を合わせて相談に乗ることもせずに、破産だ再生だという方針を決めるのは避けたほうが安全だという感覚を持っていますが、

新型コロナウィルスの蔓延というような特殊な状況下で、原則をどこまで維持するべきなのかなど、悩ましく思うところでもあります。

受任の際の直接面談とは、少し別の話になりますが、コロナの蔓延以来、裁判所などではテレビ電話を利用したweb会議の活用が広く進んでいるように思います。

直接面談の趣旨が没却されないように、工夫を凝らしながら、テレビ電話等を利用して感染リスクを最低限にして、相談ができるようになると、

もう少し安心して働けるなという感想を持ちます。