親族の呼称について

弁護士として相続などの事件に携わっていると、たくさんの親族関係を家系図を書きながら整理しなければならないことが、よくあります。

手控え程度の非公式のメモであれば「~さんの、おばさんが、~さん。」「~の不動産は、~さんの、ひいおじいちゃんの名義」等のメモで十分なのですが、これをお客様や相手方、裁判所に見せる公式の文書に書き直そうとすると、口語体の親族呼称を、きちんとした漢字表記の文語的な呼称に修正しないといけません。

たとえば、「ひいおじいちゃん、ひいおばあちゃん」は、「曾祖父、曾祖母」などとしますし、「一番上のお兄ちゃん」なども「長兄」などと書き換えたりします。

たしかに、裁判所に提出する文章に「一番上のお兄ちゃんは・・・」と書いてあると、意味は問題なく通じるのですが、なんとなく締まらない印象になってしまいます。

ただ、このように単に口語を文語に言い換えるだけなら、まだ簡単なのですが、日本語の親族呼称には、一言で「おとうさん」「おじさん」などといっていても、漢字に直す場合には、親族関係に従って区別が生じる場合があります。

たとえば、「おとうさん、おかあさん」といっても、血のつながりのある父母であれば「実父、実母」、配偶者の父母であれば「義父、義母」等の書き分けがありますし、配偶者の父母については「岳父、丈母」など古風な表現も存在します。

また、とりわけ紛らわしいのが「おじさん、おばさん」の関係で、自分の父または母よりも年上の場合(父または母の兄姉)には「伯父、伯母」、年下の場合(父または母の弟妹)の場合には「叔父、叔母」を使うという区別があります。

なお、「昭和20年生まれのおとうさんの妹さん(昭和24年生まれ)の夫(昭和14年生まれ)」という場合には、日常会話では「おじさん」と呼べばよいのですが、漢字に直す場合には「伯」か「叔」か悩ましく思います。

調べてみると、この場合には、あくまでも父親の兄弟姉妹関係の上下を基準に、妹の夫は、たとえ父親より実際の年齢が高くても「叔父」を使うそうです。

このような、表記のルールはすごく難解だと感じるのですが、日本の親族呼称の漢字表記は、これでもまだ単純なようで、漢字の源流である中国ではさらに細かな区別があるようです。

たとえば、父親のお兄さんは「伯伯」で、弟は「叔叔」です。

このあたりは、日本の漢字表記と同じ区別なのですが、母親の兄弟については「舅舅」という新たな言葉がでてきます。

また、父方のおばさんは「姑姑」、母方のおばさんは「姨妈」と、ここでも父方か母方かで呼び方が異なるそうです。

しかも、父親の兄弟姉妹の配偶者の呼称についても、それぞれ区別があり、

父親の兄(伯伯)の配偶者であれば「大妈」、

父親の弟(叔叔)の配偶者であれば「婶母」、

母親の兄弟(舅舅)の配偶者であれば「舅母」、というように区別するそうです。

日本であれば、口語で話すときは「おじさん」「おばさん」の二つだけで済みますが、

上記の親族呼称について中国語では、単なる漢字表記だけでなく、それぞれの親族呼称の発音・音声も異なるようなので、日常会話レベルの口語でも、これらの区別が存在していることになります。

中国の人は、本当にこれだけの細かな呼称を、混乱せずに使いこなせているのか、今度機会があれば、中国の人に聞いてみたいように思いますが、この複雑な親族表記のルールを見ていると、「伯」と「叔」の使い分けが面倒だなどと泣き言は言っていられないなという気持ちになります。