現代法と分国法

民法改正への対応はここ数年、弁護士の業界で非常に大きなテーマとなっており、私も含めて、多くの弁護士が、関連する書籍を読んだり、研修に参加するなどして、新たな民法と旧民法の変更点について学んでいます。

このような、近代日本民法は、明治時代にボアソナードを代表とする欧米の法学者を招いて、欧米の法体系を日本的にアレンジして輸入したものです。ボアソナードがフランス人であったことからもわかるように、日本民法は、フランス民法の強い影響を受けて成立したといえます。

フランス民法はローマ法の影響を受けていますので、あえて法律の歴史を親子関係のように喩えて考えていくと、今の日本民法の遠いご先祖を辿っていくと、古代ローマの民法に至ることになります。

他方で、日本史の授業で学んだように、奈良時代の律令や御成敗式目など江戸時代以前の日本にも、さまざまな法律がありました。

先日、近代的な法体系が西欧から輸入される前の日本では、どのような法律がつかわれていたのだろうと、ふと興味がわいてきて、歴史学者の清水克行という先生の「戦国大名と分国法(岩波新書)」という本を買って読んでみました。

この本で紹介されている分国法の内容を見てみると、やはり、「現代とは、ずいぶん違う社会のルールがあったのだな。」と強く感じます。

例えば、結城家の分国法について紹介されている一節に、田畑などの土地の境界争いについて、争われている土地があった場合には争っている当事者に半分ずつ土地を折半するか、それが駄目なら結城家がその土地を没収するというような法律があったと紹介されています。

これなどは、現代の境界確定訴訟などと比べると、非常に粗雑に思えるルールです。この本のなかでは、当時どうしてこういうルールが採用されたのかという、時代背景や当時の人の法意識について言及がされていて、興味深いです。

また、本の中の一節で紹介されていた中世の法格言の一つとして「獄前の死人、訴えなくんば検断なし」というものがありましたが、これは、警察の目の前に死体があっても、被害を訴える人がいなければ警察は捜査をしませんよといっているものです。刑事ドラマなどでもよくあるように、現代社会では、身元の分からない死体があれば、警察が検死や司法解剖をして、事件性の有無を調査していきます。

したがって、中世のこのような法格言は、現代の感覚とは、かなり異なったものです。

ただし、現代の刑法にも「親告罪」といって、被害者から告訴がなければ刑事裁判にはかけられないという犯罪の類型もありますので、人の死の持つ重みが時代によって違っただけで、法律の仕組みとしては、案外似ているところがあるのかもしれません。。

この筆者の本は、他にも何冊か読んだことがあるのですが、現代人には理解し難く感じる過去の歴史に関する話を、ユーモアのある文章で、現代の身近な例などと関連付けながら分かりやすく説明していて、非常に読みやすく面白い本です。皆様も、もし法律や歴史に興味があれば、書店で手に取ってみてください。