1 不動産の名義変更から何年経てば破産しても大丈夫かという質問
不動産を所有している方の債務整理のご相談に乗っている際、不動産の名義を変更して何年経てば自己破産して大丈夫かとのご質問を受けることがあります。
その質問の趣旨は、次の2つの思いが合わさったものと思われます。
一方で、自己破産をする際に所有している不動産は売却の対象となり手元に残せないことを前提に、事前に不動産の所有名義を身近な他人(親族など)に変更すればその不動産は破産とは関係なくなり、売却の対象とならず、名義変更先から借りれば今と同様の生活を続けられるのではないかとの期待。
他方で、破産における財産隠しは問題があると聞いたことがあるし、裁判所に過去の通帳履歴等の資料を提出しなければならないことから、あまりに直前の名義変更は認められないのではないかとの懸念。
2 財産の贈与が否認される条件
不動産の名義変更など、所有する財産を無償で贈与する行為は、一定の条件で破産手続開始後に破産管財人という裁判所に選任された弁護士による否認の対象となります。
不動産の名義変更が否認されれば、名義変更が無かったことになり、不動産の所有権が破産した方のもとに戻ってくるため、破産手続内で売却されるのが原則です。
財産の贈与が否認される類型は主に2つあります。
第1に、弁護士に破産の依頼をする6か月前以降に贈与した場合です。
弁護士に破産の依頼をすれば、通常、弁護士から債権者に対して受任通知が送付されます。
この受任通知送付を典型とする「支払停止」の前6か月以内にした無償行為は否認の対象です(破産法160条3項)。
第2に、不動産の名義変更によって債権者の利益が害されることを知っている場合です(破産法160条1項1号)。
例えば、既に支払が困難で自転車操業状態の場合には、いずれ支払が滞ることが目に見えていると言えます。
そのような状態の中で、自分の財産を処分すれば、本来なら後の破産手続の中で売却されて債権者に配当されるべき金銭がなくなることを知っているので、否認の対象です。
ただし、名義変更先の人物が、行為の当時、債権者を害することを知らなかったことを立証すれば対象外となります。
3 年数は関係ない
以上より、自己破産するのに、不動産の名義を変更して待てばよいという明確な年数はありません。
既に支払いが遅れていたり、弁護士に相談しなければならない程の経済状態にあったりする方の場合は、名義変更して数年が経過しても後日の破産手続内で否認されてしまうケースが多いです。