相続人申告登記について

安倍元総理大臣が凶弾に倒れました。

一報を聞いたときは非常に驚きましたし、命を落とされたと聞いたときはショックでした。

その業績に対する評価はさまざまでしょうが、日本という国のことを考えて非常に尽力された方であろうと思います。

このような形で最期を迎えられたことは、関係者にとっては非常に悔しいでしょうし、何よりご本人が無念であったろうと思います。

心からご冥福をお祈りいたします。

 

今回は、相続人申告登記について取り上げたいと思います。

 

法律が改正され、相続登記が義務化されることは過去のブログでも採りあげました。

 

弁護士業務をしている中でも、「期限内に相続登記をすることが義務化される」=「期限内に遺産分割協議を成立させなければならない」と考えられている方も多いように思いますが、実は、正確には異なります。

遺産分割協議の成立による相続登記以外にも、法定相続登記による登記をすることができますし、これにより法律上の義務は果たしたことになります。

 

今回の相続登記の義務化によって、新たに「相続人申告登記」という制度が設けられることになりました。

相続人申告登記とは、相続人が、所有権の登記名義人について相続が開始した旨と自らが登記名義人の相続人である旨を申し出ることによる登記のことです。

上記の法定相続登記との違いは、登記の際に提出が必要となる書類が少なくなるということです。

法定相続登記においては、すべての相続人関係を明らかにする必要がありますから、被相続人の出生から死亡、各相続人の現在の戸籍等を提出する必要があります。

他方で、相続人申告登記では、自らが相続人であることのみを示せばよく、被相続人の死亡の記載のある戸籍と自らの戸籍(これに加えて、名古屋市等の住所を証する住所証明情報も)の提出だけで済む場合があります。

このように、相続登記が義務化されたことによって、相続人に過度の負担が生じないように簡易な制度が設けられることになったのです。

 

この登記は、「申出」とされており、「申請」とはされていません。

これは、この登記があくまで申出人からの申出によって、登記官が職権で登記をすることができるという形式が採られているためです。

登記の内容としても、権利登記への付記登記として扱われます。

 

登録免許税などの登記に必要な費用の面でも配慮がされるかもしれません。

相続登記の義務化は政策的な観点から定められたものですので、なるべく負担がないような制度としてほしいと思います。

 

路線価と固定資産税評価額の決められ方

今年もゴールデンウイークの最終日となりました。

平日もお休みを取ることができた方は10連休、平日が暦どおりの方は3連休が2回あったようです。

コロナの影響もあったため、長期の旅行に行かれた方はあまり多くなかったかもしれません。

ただ、名古屋の栄でもさまざまなイベントは予定どおり開催されていましたし、少しずつ通常の生活が戻ってきているようにも感じます。

感染の拡大にも注意しながら、引き続き、日々の生活を過ごしていきたいと思います。

 

今回は、路線価と固定資産税評価額がどのように決められているかについてご紹介いたします。

 

路線価は、相続税や贈与税において、土地の評価に使用する指標です。

路線価は、毎年、見直しがされ、その年の1月1日時点での評価額が決められます。

具体的な数字は、国税庁や税務署が近隣の取引価格や従前の路線価などから、不動産鑑定士などの専門家の意見も聞きながら決められているとされています。

決められる時期については、毎年、7月までに決められるように運用されています。

 

固定資産評価額のうち土地については、住宅の集中している土地と、それ以外の田舎の土地で評価方法が異なります。

住宅の集中している土地は、いわゆる路線価と同じように、道路ごとに設定されている土地単価をもとにして、固定資産評価額が計算されています。

それ以外の土地については、標準宅地比準方式という方法が採用されており、対象の土地の付近にある標準宅地の土地単価をもとに計算がされています。

評価額は3年ごとに見直しがされており、基本的には3年間は同じ金額が採用されています。

固定資産評価額は、市町村で縦覧帳簿というもので閲覧することが可能になっており、4月1日から5月31日までが縦覧期間となっています。

固定資産の評価額に不満がある場合には、担当の部署に問い合わせたり、固定資産評価審査委員会へ再審査をしてもらったりすることが可能だとされています。

 

名義財産について

前回の記事では、ウクライナとコロナの問題に触れましたが、今は地震のリスクにも注目が集まっているようです。

インターネットのホームページでは、最近起きた地震の最大震度を4以上や5弱などに限って表示できるものもあります。

それを見ると、それなりの規模の地震が最近、頻発しているように思えます。

私自身はあまり地震に詳しいわけではありませんが、このような地震もプレートのひずみがたまったために生じたものである可能性を考えると、以前から危惧されていた巨大地震の予兆の可能性もあるのだろうと思います。

個々人ができる対策には限りはあるのでしょうが、非常時の食糧や水の確保など、少しでも備えをしておくかどうかで大きな違いがあるのでしょうから、日頃からできる範囲での準備はしておきたいと思います。

 

今回は、名義財産の問題についてご紹介いたします。

 

名義財産とは、名義はその人とは異なるが、その人の財産といえるものをいいます。

たとえば、預貯金口座が妻の名義となっているものの、実質は夫のものだったというようなものです。

預貯金のほかにも、不動産であったり、株式であったり、保険であったり、名義財産となる可能性のある財産といえます。

 

名義財産であるかどうかが問題となる場面として、たとえば相続税の申告の場合があります。

亡くなった方の名義ではないものの、亡くなった方の財産である場合には、相続財産に計上しなければなりませんので注意が必要です。

 

問題となることが多いのが預貯金のケースですので、預貯金を例にとって、名義財産かどうかを判定する考え方を紹介します。

 

最も重要なのは、その口座の預貯金の出捐者が誰なのかということでしょう。

口座内の預貯金が亡くなった方が出したものであれば、名義財産と考えられる余地で出てきます。

この他の要素として、その口座が、いつ、誰によって、どのような目的で開設されたものなのか、どのような目的で利用されてきたのか、通帳やキャッシュカードは誰がどのように管理していたのかなどを考慮する必要があります。

 

名義財産であることが疑われる場合には、課税庁は、上記の事情についての資料を収集することができますので、申告をする側はしっかりと検討する必要があります。

詳しくは弁護士にご相談ください。

名古屋で相続に関するご相談をお考えの方はこちら

相続財産の国庫帰属について

ウクライナ情勢が緊迫しているようです。

他方で、コロナに関するニュースの量が少なくなっているようにも感じます。

名古屋での感染者数は、一時のようなピークを越えているようですが、依然として高い水準にあるようです。

このように考えると、コロナのニュースの中で埋もれてしまったその他のニュースも多かったのではないかと感じます。

 

先日、事務所内で、相続財産管理人による不動産の国庫帰属に関する研修をしましたので、ご紹介いたします。

 

相続人が存在しない場合等には、相続財産は国庫に帰属することになります。

この手続きは、家庭裁判所から選任された弁護士等の相続財産管理人が行います。

 

国は、従来、不動産の物納を原則として認めていなかったため、相続財産に不動産がある場合、相続財産管理人は、不動産を換価したうえ、金銭で納めることを求められてきました。

しかし、平成29年6月27日付事務連絡よって、上記のような取扱いは変更され、「相続人不存在不動産については、管理又は処分をするのに不適当であっても、引継ぎを拒否することができないので、補完を依頼する内容については必要最小限のものにとどめ、相続財産管理人の協力を求めること」とされました。

そのため、処分が困難な不動産が相続財産にある場合でも、当該不動産に適切な処置をしたうえで、国に引き継ぐことができるようになりました。

 

具体的な流れとしては、担当の財務局と事前に協議し、現地調査などを行ったうで、該当の不動産の処分に関する方針を決定し、それに従って処理がされます。

現地調査についても、必ずしも実施しなくてもよいケースもありうるとされています。

 

どのような方針で不動産の処分をすることになるのかに関して、財務局では「相続人不存在による国庫帰属の手引き(令和3年6月改訂)」という書類が作成されています。

実際にどのような方針が採用されるかについては、当該不動産の状況だけでなく、相続財産の全体の内容なども影響しますから、ケースバイケースで判断すべき事例も多いようです。

 

財務局の担当者のご厚意で、上記手引きをご提供いただきました。

私の方でも、この点の勉強も進めていきたいと思います。

 

庭園の財産としての評価について

久しぶりの投稿です。

コロナの感染拡大によって、節分の行事が、名古屋でも相次いで中止や一部中止となっているようです。

行事には参加できなくとも、コロナという邪気が払われるように願っています。

私の事務所の入っている松坂屋名古屋店本館7階の催事場では、バレンタインに合わせた店舗が数多く出店しています。

さまざまなチョコレートが並んでおり、目移りするほどですが、主なお客さまは女性であるものの、チョコ好きとして便乗したいと思っています。

 

今回は、庭の財産としての評価について触れたいと思います。

 

私自身、相続についての案件を数多く手がけてきましたが、相続財産に庭が含まれており、遺産分割協議などにおいて、この評価額が争いになったというケースを経験したことがありません。

実際に、庭というのは、亡くなった方が好きで整備していただけで、(亡くなった方にとっては残念ながらかもしれませんが、)相続人は、その庭に価値を見出していないことが多いように感じます。

むしろ、立派な庭であればあるほど、その不動産を売却するために更地にする際の費用がかかってしまうという負の側面もあるように思います。

 

そのように、相続財産としてあまり価値を見出しづらい庭ではありますが、相続税の申告の際には注意が必要です。

 

相続税においては、庭は不動産の附帯設備等の一つである庭園設備として、しっかりと相続財産として扱われており、その評価方法が決まっています。

財産評価基本通達によると、庭園設備は調達価額の7割に相当する価額によって評価するとされています。

調達価額とは、「課税時期において、その財産をその財産の現況により取得する場合の価額をいう」とされていますので、現況の庭園を造成しようとすればいくらの費用がかかったかという価額を基準に、庭園設備の価値が評価されることになります。

どのようにこの価額を調べるかというと、庭園設備の取得価額であったり、造園業者の意見であったりを参考に、この価額を検討することになります。

 

実務上は、一般家庭の庭がこの課税対象となることはほとんどなく、よほど立派なものでない限り、申告の対象とはされていないようです。

では、どの程度のものであれば申告の対象とすべきかは非常に難しく、悩ましいケースもあると感じています。

 

 

 

自筆証書遺言の保管制度の利用状況について

コロナの感染者数が落ち着いてきたこともあり、私の事務所の入っている松坂屋名古屋店にも、人出が戻ってきたように感じます。

本館7階の催事場では、バウムクーヘン博覧会2021が来週8日まで開催されており、さまざまなバウムクーヘンが並んでいます。

私自身もバウムクーヘンは好物ですので、自分のお気に入りのものを探してみたいと思っています。

 

今回は、自筆証書遺言の保管制度の利用状況について触れたいと思います。

 

令和2年7月から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が開始されました。

国民の遺言書の作成を促進したいという政策目標を達成するために導入された制度ですが、私自身も、相続に関わる弁護士として、一般の方がどの程度利用されるのか気になっていました。

法務省から、この制度の利用状況に関する資料が公表されていますので、紹介します。

 

https://www.moj.go.jp/content/001327091.pdf

 

この資料によると、令和2年7月から令和3年3月までの9か月の保管申請数は1万6721件となっています。

日本公証人連合会が公表しているデータによると、令和元年の公正証書遺言の作成件数が11万件程度でしたので、これと比べても、相当程度の利用がなされているといえます。

公正証書遺言の作成件数はこれまで増加傾向にありましたが、令和2年は9万7700件と減っていますので、公正証書の作成の代わりに自筆証書遺言の保管制度を利用した層が一定程度あったものと分析できます。

そして、遺言書が作成された件数全体については、引き続き、増加傾向にあるのだろうとうかがわれます。

 

上記の両制度にはそれぞれメリットとデメリットがありますので、どちらの利用が望ましいのかは遺言者自身の状況によります。

どちらの形式で作成するのがよいのか悩んでおられる方がいらっしゃいましたら、ご相談をいただければと思います。

遺言に関する当法人のサイトはこちら

登記官が職権で登記情報を更新する制度について

東京オリンピックも閉幕しました。

私自身、スポーツをするのも、観るのも好きなのですが、昨今のコロナ事情のもとで、どちらも十分にしづらい状況になっているなあと思います。

オリンピックが東京で開催されるということで、心に残ったシーンもたくさんありましたが、特に名古屋にいると日本で開催されたという実感があまりなかったのが実際のところです。

その間、コロナについては、デルタ株の隆盛もあって、感染が急速に広まってしまっていますし、とても憂慮すべき状況にあると思います。

私は、2回目のワクチン接種を済ませましたが、変異株への有効性は疑問視されていますし、引き続き、気を引き締めて感染対策に臨みたいと思います。

 

今回は、登記官が職権で不動産の登記情報を更新することについて、法改正の内容に触れたいと思います。

 

登記名義人が死亡しているにも関わらず、不動産の登記情報にそのまま残っていることや、住所や氏名が変更されているにも関わらず変更がされていないことが問題視されてきたことは、何度か取り上げてきたとおりです。

ここで、登記所・登記官が、登記名義人の死亡や住所や氏名の変更の事実を把握したときには、その内容を登記に反映されるという仕組みができた場合には、このような状態の解消につながりそうです。

 

改正不動産登記法では、登記官は、登記名義人が権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合には、職権で、その旨を示す符号を表示することができることになりました。

「権利能力を有しないこととなったと認めるべき場合」というのは、少し難しい言い方がされていますが、死亡のほかに、災害などによって亡くなったと扱われる認定死亡や、普通は存命ではないだろうという年齢になっている高齢者消除などが想定されています。

 

住所についても、登記官は、名義人の住所などに変更があったと認める場合には、職権で、変更の登記をすることができるようになりました。

ただし、登記名義人が自然人であるときには、申出があった場合に限られています。

DVやストーカーの被害者など、最新の住所を公示することに問題のある場合があるため、このような扱いとなっています。

 

ネックとなるのは、登記官がこのような情報をどうやって取得、収集するのかということです。

死亡等の情報については、登記所が住基ネット等にアクセスすることで得られそうです。

しかし、現在の登記情報には名義人の氏名と住所しか記載されておらず、その情報のみで個人を特定するということは困難だと考えられます。

そこで、登記の名義人の情報と、住基ネットの情報を連携させるため、新たに所有権の登記名義人となる場合、登記の申請の際に、生年月日等の検索用情報を提供しなければならないこととなりました。

ただし、このような検索用情報は登記情報として公示されるわけではなく、あくまで登記所内部のデータとして取り扱われることになっています。

 

これらの情報の紐づけのために、登記所が保有する情報と、住基ネットワークの情報との定期的な照会と照合がされることが想定されています。

今後、検索情報として、生年月日のほかに、たとえば、マイナンバー等のどのような情報の提供が要求されるのかも確認していく必要があるでしょう。

弁護士の立場からすると、利便性が向上する一方で、登記申請にあたっての負担やリスクが増大しないように注意していただきたいと考えています。

 

所在等が不明な共有者から持分を取得する制度について

東京オリンピックの開幕が間近になってきました。

現在のコロナ情勢の中で、無観客での開催方法や、そもそも開催することの適否など、賛否に関するみなさまのご意見はそれぞれでしょう。

無観客での開催となると、オリンピックを通じて見込んでいたさまざまな効果は喪われることになってしまいますし、多くの労力が結果につながらなかったことは非常に残念に思います。

とはいえ、実際に開催するのであれば、選手の方々にはスポーツの素晴らしさを純粋に伝えてほしいと思いますし、大会を支える関係者を名古屋の地から応援したいと思います。

 

今回は、民法改正で導入される所在等が不明な共有者から共有持分を取得する制度について触れたいと思います。

 

前回は、所有者不明土地の解消のために制定された相続財産国庫帰属法について取り上げましたが、この制度も同じ目的で制定されたものです。

 

不動産の中に、所在等が不明な共有者(「他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない共有者」)がいる場合に、共有者は当該共有者の持分を有償で引き取ることができるようになりました。

適用可能な場面としては、相続財産国庫帰属法のように相続等によって取得された不動産に限られず、通常の共有状態であれば利用することができます。

 

所在等が不明であるというためは、不動産登記の内容や住民票などを調査することで、所在などを調査しても不明であることが必要です。

このような調査を尽くしても所在等が不明であることが裁判所に認められれば、そのような共有者から共有持分を取得することができます。

 

その後、裁判所は、申立てをした共有者に対して、当該持分に応じた供託金を納めることを命じます。

これは、所在等不明共有者からの時価相当額請求権に基づく支払いの担保とするためです。

この供託がなされれば、当該持分は申立てをした共有者に移り、他方、所在等不明共有者は申立てをした共有者に対して時価相当額請求権を取得することになります。

 

注意しなければならないのは、供託を命じられた供託金額が、必ずしも時価相当額請求権の価額と一致するわけではないということです。

当事者間でこの価額が争われた場合には、最終的には裁判所での訴訟で決することになります。

 

この制度がどの程度利用しやすいものとなるかは、所在等の不明に関する裁判所の判断や、供託金の算定に関する裁判所の運用によるでしょう。

不動産の権利関係の整理に対するニーズは高いものと思われますので、弁護士として制度開始後の運用に注目していきたいと思います。

 

 

相続財産国庫帰属法の利用可能性について

私の住んでいる愛知県でも、暑さがだんだんと増してきました。

日中、外に出る際には、暑さや日差しへの対策をしていきたいと思います。

 

今回は、新たに成立した相続財産国庫帰属法(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律。法務省のリンクはこちら)について取り上げたいと思います。

この法律も所有者不明土地の解消のために設けられた関連法の一部です。

 

相続においては、相続財産の一部のみを相続人の誰も相続しないという選択をすることができませんので、誰もが取得を希望しない不動産が出てしまう場合があります。

そして、そのような不動産を取得した相続人が、引取手を探しても見つからないというケースがしばしばあります。

 

このような場合の選択肢の一つとして、相続人が不動産を国に引き取ってもらうことができる制度ができました。

 

ただし、どのような不動産であっても国が引き取ってくれるわけではありません。

 

たとえば、「建物の存在する土地」は対象外となっていますので、そもそも建物は法律の対象外であるだけでなく、土地上に建物が存在すらしてはいけません。

その他に、土壌汚染がされている土地や、境界が明らかでない等の土地も対象外とされています。

 

これに該当しない土地である場合には、国は対象の土地の事実調査を実施して、管理を阻害する工作物や車両の有無などを調べたうえで、「通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地」として定められたものなどに該当しないと認められれば、国に引き取りを承認してもらうことができます。

 

ただし、実際に国に引き取ってもらうためには、管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して定められた負担金を納付する必要があります。

この納付金を納めなかった場合には、引き取ってもらうことができません。

 

今後、この制度がどの程度利用されることになるのかは、どのような運用の基準となるのかや、負担金の額がどのように定められるかによります。

私が弁護士としてこれまでに関わってきた依頼者さまの中でも、上記のような不動産を相続された方がいらっしゃいますので、制度を利用することにメリットがあるかどうかを慎重に検討して、ご利用を提案したいと考えています。

 

所有者不明土地問題の関連法の成立について

私の住んでいる愛知県でも、再度の緊急事態宣言が発出されました。

5月12日から5月31までの20日間が対象であるとのことです。

自分自身だけでなく、身近な大切な方をまもるためにも、個々人が自覚をもって行動していくべきだと思います。

 

以前のブログで触れてきた、所有者不明土地の問題に関する不動産関係の民法や不動産登記法の法改正、相続土地国家帰属法が、令和3年4月21日の参院本会議で可決され、成立しました。

法の公布日は4月28日であり、原則として、2年以内の政令で定める日に施行される予定です。

(法務省のリンクはこちら

 

今回は、世間でもっとも注目を集めている「不動産登記の義務化」について触れたいと思います。

 

不動産の登記については、登記権利者の権利であって義務ではないと考えられてきました。

つまり、自らが不動産を所有しているのであれば、その不動産が自らのものであることの証明として登記をしておくのは、原則として、その者の権利ではあるけれども義務ではないと考えられてきたのです。

 

しかし、所有者が不明な土地が社会問題として深刻化してきた昨今、これが見直されることになりました。

今回の法改正では、相続登記と住所・氏名変更登記については、法的な義務とされることになったのです。

 

具体的には、相続登記については、不動産を取得した相続人に対して、その取得を知った日(「自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日」)から3年以内に相続登記をすることが義務付けられました(改正不動産登記法76条の2第1項)。

そして、この登記義務を怠った場合には、正当な理由がない限り、10万円の過料の制裁を受けることになりました。

 

住所・氏名変更登記については、氏名や住所について変更があったときは、変更があった日から2年以内に変更の登記を申請することが義務付けられました(改正不動産登記法76条の5)。

そして、この場合においても、登記義務を怠ったときには、正当な理由がない限り、5万円の過料の制裁を受けることになりました。

 

これらの施行については、他の規定と異なって、相続登記については公布後3年以内の施行、住所氏名変更登記については公布後5年以内の施行と、より長期の猶予が与えられています。

この間に社会的な周知を広めて、適正な対応をしていくことが求められます。

 

私も、弁護士としての職務を通じて、みなさまが適正に上記の義務を果たしていかれるように気を付けていきたいと思います。

 

不動産についての法改正

私の住んでいる愛知県での緊急事態宣言は、先月28日に解除されました。

所属事務所のある名古屋市栄地区の人出は、これによってただちに変わったとの印象はありません。

ワクチンの接種が進むまでは、引き続き、感染対策と警戒が必要だと思います。

 

コロナの影響で、コロナ対策と関わりのない法律の整備もかなり遅れたところがあるようです。

私の業務分野に深く関わるところとして、不動産関係の民法や不動産登記法の法改正が、平成31年から法制審議会で取り扱われていたのですが、先月10日に、法制審議会から法務大臣への答申がなされるところまでやっと進みました。

 

今回の法整備は、社会問題となっている所有者不明土地の問題に対処するためになされるものです。

この問題の現状を少し紹介しますと、平成28年度地積調査で土地所有者に関して調査したところ、不動産登記簿のみでは所有者の所在が確認できなかった土地の割合が、全体の約20.1%にのぼったようです。

土地の所有者が分からなければ、土地を管理する場合や、さまざまな目的で土地を利活用しようとした場合に問題が生じかねません。

所有者が不明となってしまっている原因としては、相続登記がなされていないものが約66.7%、住所変更登記がなされていないものが約32.4%であるとのことです。

 

このような現状に対処するため、さまざまなアプローチで解決策が提案されており、その中には実務的に重要なものが多く含まれています。

 

報道では、相続登記が義務化され、その違反については行政罰が規定されることになる点が強調されています。

この施策は、相続登記を義務化することで、相続登記がされないまま所有者が不明となっている事態を予防するとの観点から、導入されようとしています。

今後、どのような場合に、この行政罰が適用されるのかについても、細かく検討していく必要があります。

 

そのほかにも、さまざまな制度が整備されることになっていますので、土地の管理や相続の手続きがより円滑に進められる手段が増えることにはなっています。

他方で、これらの制度を利用することにはさまざまな制限があり、制度利用の限界や、費用の問題、本来の権利者に対するリスクの問題もあります。

 

今後のブログでは、しばらく、これらの点についてとりあげていきたいと思います。

 

法制審議会のページのリンクはこちらです。

 

 

「脱ハンコ」について

街中を歩いていると,金木犀の香りがする季節になりました。

名古屋ではまれですが,少し郊外に行くとそのような機会もあります。

私が以前住んでいた家の庭には,金木犀が植えられており,その甘い香りを感じると懐かしい気持ちにもなります。

 

今回は,印鑑の廃止について考えてみたいと思います。

 

世間では,「脱ハンコ」という言葉をよく聞かれるようになりました。

コロナの影響でリモートワークが進んでいるところ,わが国の印鑑の押印による書面作成の文化がこの促進を阻害しているというわけです。

かねてから,日本のIT化の遅れは指摘され続けており,この元凶としてハンコ文化がやり玉に挙げられてきました。

「脱ハンコ」は,今般,政府によっても取り上げられて注目を浴びていますが,稟議や決済手続きなど,日本流の意思決定手続きにまで批判が及んでいるようです。

 

弁護士業界では,決済手段として押印をすることはあまりないものの,書面に押印をする機会は非常に多いです。

裁判所に提出する書面,相手方に提出する書面など,自分の名義で作成したほぼすべての書面に職印で押印しています。

ただ,「この書面には押印は必要ないのではないか」と感じる書面もあり,見直すことはできそうです。

私は,関係者とメールで書面のやりとりをすることも多く,発信者の履歴さえ残るのであれば,作成した文書に押印は必ずしも必要ないように感じています。

 

他方,契約書などの一定の重要文書については,押印がまだまだ必要だと思われます。

民事訴訟では,本人の印鑑による押印がある場合には,本人の意思による押印,本人の意思による書面の作成が推定されるという扱いがされています。

印鑑による意思推定の脆弱性はかねてより批判されてきたところではありますが,現在でも,このように裁判実務上扱われていることは重要です。

他方,電子署名など,技術的に本人が作成したことを裏付ける技術も向上してきており,これらの日々進歩していく技術が,裁判実務上どのように扱われていくのかにも注目していく必要があります。

 

私自身は,職務上,自分の職印で押印することには,「その書面の内容に責任を持つ」という意味合いもあると感じていますし,私生活でも,重要な書類に実印で押印する際には,「本当にその書面に押印してよいのか」を自分に再確認して行うという意味もあると思っています。

みなさまの中にもハンコに愛着を感じてらっしゃる方も多いでしょうから,ハンコが日本社会から簡単に排除されるものではないように感じています。

 

ブログのアカウントは相続できるのか

名古屋でも暑い日が続いています。

残暑というよりも,夏本番の暑さが続いているような印象です。

弁護士の仕事の関係で外に出る機会も多いため,暑さに負けない体力作りに励みたいと思います。

 

今回は,少し変わったところで,「ブログのアカウントを相続できるか」についてとりあげたいと思います。

 

個人が純粋に趣味でブログを書いており,その方が亡くなった場合,相続人にとっては,そのブログを引き継ぎたいという要望を持つことはほとんどないでしょう。

相続人にとっては,新たにブログを開設さえすればよく,わざわざそのブログを引き継ぐ必要はないと考えられるからです。

しかし,ブログの中には,アフィリエイト広告収入を得られるものも存在するため,相続人としては,これを相続によって引き継ぎたいと考えるかもしれません。

 

では,ブログのアカウントを「相続」することはできるのでしょうか。

 

ブログ開設者とブログサービスの提供元との間には,ブログについての契約関係が存在していると考えられます。

この契約内容の中に,契約関係の相続を認める規定があるもの,相続を認めない規定があるもの,相続を認めるかどうかを規定していないものがあるようです。

 

相続を認める規定がある契約の場合には,この規定に従って,提供元への手続きをしていただければよいでしょう。

他方,相続を認めない規定がある契約の場合には,相続をするのは事実上困難だと考えられます。

このように,相続に関する規定がある場合にその規定どおりの取扱いになるであろうことは,契約による私的自治が及ぶと考えられるためです。

 

では,相続に関する規定がない場合はどうなのかとう考えると,非常に難しい問題だといえます。

ブログに関する契約が特定の者に専属して帰属すべきものなのか,これを承継することを許容する性質のものなのかは考え方の分かれるところであろうと思われます。

この点が問題になった場合には,これからの業界の慣行も踏まえながらとはなるでしょうが,判断がなされるものと考えられます。

死亡届について

緊急事態宣言も解除され,名古屋市でも徐々に人出が増えたように感じています。

第2波,第3波の危険も指摘されているところでもあり,再度の感染拡大に注意しながら,日頃の行動を律していきたいと思います。

 

今回は,死亡届について取り扱おうと思います。

死亡届については,みなさまにはあまり馴染みがないかもしれませんが,相続を扱う弁護士にとってはまれに問題になることがあります。

 

まず,死亡届には届出義務者が定められており,死亡の事実を知った日から7日以内(国外での死亡の場合は3か月以内)に届け出をしなければなりません。

 

届出義務者には順序があり,「同居の親族」,「その他の同居者」「家主,地主又は家屋若しくは土地の管理人」の順序で届出義務を負っています。

 

法律上,届出義務を負っている届出義務者のほかに,届出を提出することができる届出資格者というのがあります。

上記の届出義務者は,その順序に関わらず届出をすることができるとされていますから,届出資格者でもあるといえます。

そのほかの届出資格者としては,同居の親族以外の親族,後見人,保佐人,補助人,任意後見人があります。

 

それでは,死亡届の届出資格者がいない場合にはどうすればよいのでしょうか。

死亡届が誰からも提出できるというのは妥当ではないかもしれませんが,他方で,その方が亡くなったことが明らかであるにも関わらず,これが戸籍に反映されないことも問題です。

そのため,死亡届が届出資格者以外からなされた場合には,これを死亡したことを戸籍に反映することを申し出る「死亡記載申出書」として扱ってもらえることがあります。

 

家族の在り方の変化に伴って,独居で亡くなる方も増えてきているようです。

そのような方々が亡くなった後もトラブルとならないように,また,亡くなった後の面倒をみる方がスムーズに手続きを進められるように,さまざまな工夫が必要であると感じています。

 

婚姻費用・養育費に関する新たな研究結果の発表について

「もう12月も差し迫っているのに,今年はあまり寒くならないなあ」と思っていたところ,ここ数日で急に寒くなった気がします。

特に,朝晩の時間帯は非常に冷え込むようになりましたので,みなさまもご体調にはお気をつけていただければと思います。

 

今回は,婚姻費用や養育費についての話題を採りあげたいと思います。

 

私は,相続や離婚などの家族関係の事件を多く取り扱っているため,婚姻費用や養育費が問題となることも多いのです。

最高裁判所の司法研修所が,12月23日に,婚姻費用や養育費に関する新たな研究結果を発表することが分かっています。

これまでの実務では,平成15年に東京・大阪の裁判官によって発表されていた簡易算定表を参考にして,名古屋の裁判所でも計算がされていました。

ただし,上記算定表によって計算した婚姻費用や養育費が低すぎるのではないかという批判が以前からあり,日本弁護士連合会も独自の算定方法を提案していましたが,なかなか実務での浸透はしていませんでした。

このような状況のもとで,上記のような新たな研究発表がされるということになりましたので,これによると婚姻費用や養育費は増額されることになるのではないかという予想がされています。

まだ研究発表内容が明らかになっているわけではありませんので,これがただちに実務に反映されるのかどうかも不透明ではあります。

ただ,私が現在担当している調停中の事件でも,上記研究の発表内容を踏まえてから婚姻費用や養育費の額を決めたいという考えが当事者や裁判所でもあり,すでにこのようなかたちで実務に対する影響はでているといえます。

 

いったいいかなる算定方法が婚姻費用や養育費として妥当なのかというのは,規範的な考慮を必要とするため,非常に難しい問題だと思います。

また,個々のケースの事情にきめ細かく配慮しつつ,他方で,できる限り簡易に算定が可能な方法としても使えるものとしなければならないという要請もあります。

婚姻費用や養育費の事件に関わる弁護士としては,今回発表される研究結果を十分に理解したうえで,検討する必要があります。

その結果については,今後,このブログでも採りあげていきたいと思います。

相続放棄の最高裁判例について(2)

もう9月も終わろうとしていますが,あまり秋という感じがしないですね。
名古屋では朝の早い時間帯や夜は涼しいなと感じることもありますが,日中はまだまだ蒸し暑く感じます。

前回に引き続き,今回のブログでも再転相続に関する判例について取り上げたいと思います。

(前回の続き)
5.原審判断の理由とは
それでは,なぜ原審は民法916条の適用ではなく,民法915条を適用するとの判断に至ったのでしょうか。
そもそも,相続放棄の熟慮期間の起算点については,民法915条の解釈によって,相続の開始原因事実のみではなく,自らが相続人であることも知ったときと解されています。
第1相続のみを相続放棄することも現在の判例上は認められていますから,相続放棄をするかどうか確定していない再転相続においては,再転相続人が,自らが第1相続の相続人であることを認識した時点のみを問題にすればよいと考えるのが自然です。
ただし,これは過去のブログでも指摘したとおりですが,そのように解すると,民法915条のみを再転相続も含めた事案に適用すればよいのであり,これとは別に民法916条を規定した意義がどこにあるのかが分からなくなります。
言い換えると,再転相続人の認識を問題にするというは民法915条からも明らかであり,わざわざ民法916条を規定する必要はないのではないかという疑問です。
原審が,民法916条の適用の余地を限定したうえでも残し,当該事案で民法915条を適用するとしたのも,このあたりに理由のひとつがあったのかもしれません。

6. 再転相続における相続放棄の理論的根拠
ここで,再転相続において再転相続人がなぜ第1相続の相続放棄をすることができるのかということの理論的な側面に触れておきたいと思います。
有力な考え方によると,すでに亡くなっている相続人は,みずからが相続をするかどうかを判断していませんので,相続放棄をするかどうかを判断する権利を有していることになります。
そして,その相続人が亡くなったときには,再転相続人が,その相続するかどうかを判断する権利を相続人から承継することになります。
これが,再転相続人が,再転相続において第1相続の相続放棄をすることができることの理論的な理由です。
この点を踏まえて原審の判断をみてみると,「相続人が,被相続人の相続人であることを知っていたが,相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合」に民法916条を適用するとしており,相続人がすでに相続放棄をするかどうかの判断をする機会を得ていた場合に限って適用していることになります。
つまり,相続人は相続放棄をするかどうかを判断しなければならない地位にあり,再転相続人がその地位をそのまま受け継ぐのであれば,再転相続人も第1相続についての認識の有無に関わらず,相続放棄をするかどうかの判断をしなければならない地位にあるといえます。
そして,そのように処理をすると,第2相続の開始時期によっては熟慮期間が短かすぎ,再転相続人にとって酷といえる場合がありうるため,民法916条でその熟慮期間を伸長したと考えることができます。
このような理論面からしても,原審の判断は理にかなったものではあったと,私は考えています。

3.最高裁判所の判断について
しかし,それでも私は今回の最高裁判所の判断を支持したいと思います。
弁護士として相続に関する案件を多く扱っていて思うのですが,やはり自らが認識していない相続に関する負債を不意打ち的に負うことになるのは相続人にとって酷だといえますし,法定単純承認にあたるような行為をしていた相続人は別ですが,そうではない相続人の財産を債権者が責任財産としてあてにするというのもおかしいのではないかと思うからです。
原審の判断内容を実質的に考えても,相続人が判断をする機会があったことは確かだとは思いますが,結局,熟慮期間内に判断をしなかったのであれば,十分な判断の機会が保証されていたとはいえないでしょうし,再転相続人にあたらめて判断の機会をあたえるとすることが公平だといえると思います。
ただ,結論としては最高裁のように考えることが妥当だとはいえても,理論的にはそのような解釈をすることは難しい面があるのではないかと考えますが,今回の判断内容は最高裁にのみ許される解釈であると思いますし,私は今後の裁判実務の明確な指針となる判決を出してくれたことを歓迎したいです。

4.最後に
実は,民法916条は,再転相続人に相続放棄をするかどうかの機会をあたえ,保護する面とともに,債権者やそのほかの利害関係人にとっては法的な安定性を与えられるという面もあり,これとの調整を図ったものであると指摘されてきました。
後者の面については今回の判例では触れられていませんが,債権者らにとっては,再転相続人に対して相続人であることを通知すればよいのですから,それほど配慮しなければならないものとはいえないのかもしれません。
(前回,今回と難しい話をしてしまったので,次回は簡単な話題を取り上げたいと思います)

名古屋で相続放棄をお考えの方はこちらをご覧ください。

遺言の自由と制限について

弁護士の江口潤です。

 

先日,名古屋市の鶴舞公園に行ってまいりましたが,桜の開花もかなり進んできました。

なかなか心行くまで花見酒とはいかない身としては,心の置けない方たちとともに愉しまれている方々が羨ましく見えます。

 

今回は,遺言について,ちょっと変わった視点から見てみようと思います。

つまり,日本以外ではどのような遺言の制度となっているのかについて紹介し,日本の遺言や,それにまつわる相続制度の特徴を考えてみたいと思います。

 

遺言者は,自分の死後に自分の財産をどのように処分したいかを遺言をすることで決めます。

自分の財産なのですから自分の好きなようにできるはずではあるのですが,法律上はそうではなく,遺留分という制限が存在します。

 

遺留分は,配偶者や子,親などの相続人に認められている「権利」であるとされており,遺言者の側から見ると,遺言による財産処分の権利が制限されているということになります。

なぜこのような遺留分が認められているかについては,相続人の相続に対する期待を保護するためであるとか,相続人が経済的に困窮することを防ぐためであるなどと説明されています。

 

法学の世界で大陸法系と言われる国は遺言の自由を制限する傾向にあり,日本は大陸法系の国に属していますので,遺言の自由が比較的制限されています。

遺言の自由を広く認めているといわれる英米法系の国では,子らには遺留分が認められていないことがほとんどです。

ただ,英米法系の国であっても,配偶者や扶養を必要としている子に対しては一定の財産的な権利が確保されています。

 

実は,相続人が相続において財産の確保するための法制度上の手段は,遺留分だけではありません。

日本は,婚姻後も夫婦それぞれが財産を形成する「夫婦別産制」を採っていますが,「夫婦共有制」といって,婚姻後取得した財産についてはそれぞれの名義のものであっても均等の持分を持つものとしている国では,夫婦の一方が死亡した場合,夫婦の共有財産の半分は配偶者が取得することになります。

そのため,夫婦共有制の国では,初めから夫婦の財産の半分は配偶者が確保しており,遺言者は残った半分についてだけ,遺言で自由に処分することができるということになります。

 

相続法の改正作業においても,遺留分の制度についてはさまざまな議論がされました。

ただ,この制度が残されたことにはそれなりの意味があるわけですし,私たちは,この制度があることを前提にして,自分が望むことに最も近い結果を実現できるように対応していかなければならないでしょう。

 

そのうえで,法律家として,ご依頼者様がこのような結果を実現することの手助けができるよう,研鑽を積んでいきたいと思います。

 

成年後見制度について

弁護士の江口潤です。

 

寒さもだいぶ和らいできました。

この冬は,前年に比べるとあまり寒くなかった印象がありましたが,やはり全国的に暖冬傾向だったようですね。

 

私の住む名古屋でも,降雪はほとんどありませんでしたし,過ごしやすかった気がします。

 

 

さて,私が,先日,成年後見事務に関する研修を受けてきましたので,今回は成年後見に関して取り上げたいと思います。

 

私は,普段から相続に関する案件を取り扱うことが多く,成年後見制度を利用することも多いです。

たとえば,遺言書を作成したいというお客様から任意後見制度のご利用をアドバイスしたり,遺産分割協議をする中で相続人の一人に成年後見人を就ける必要があったりということで,成年後見制度に携わっています。

 

成年後見人とは,認知症や精神疾患などにより十分な判断ができなくなった方にかわって,本人の財産を管理し,その身上を監護する者をいいます。

このようにサポートを必要とする人のために成年後見人をつけるには,家庭裁判所に成年後見開始の審判を申し立てる必要があります。

裁判所の資料によると,後見開始の審判の申立件数は,平成28年で2万6836件であったのが,平成29年では2万7798件となり,約3.6パーセント増加しているようです。

日本は高齢化社会ですから,今後も後見開始の審判の申立ては,この程度の件数が維持されるものと見込まれます。

 

裁判所から選任される成年後見人には,本人の親族がなるケースと弁護士等の専門家が選任されるケースとがあります。

成年後見の申立時に,親族を成年後見人の候補者としていても,財産が多かったり,遺産分割の必要があったり,親族が財産管理に適していなかったりした場合には,裁判所の判断で専門家が成年後見人に選任されることになります。

 

しばしば問題となるのは,親族に対する支出が許されるかということです。

成年後見人は,あくまで本人のために本人の財産の管理義務を負っていますから,親族に対する贈与や貸付は,財産の減少行為にあたるため,原則として認められません。

ただし,配偶者や未成熟子に対して,必要な扶養の範囲内での扶養義務の履行としてであれば許される余地がありますが,これも厳格に考えられる傾向にあります。

 

また,相続税対策のために,土地の上に居住用や収益目的での建物を建てることも問題となります。

まず,相続税対策というのであれば,本人のためではなく相続人のためということになりますので,成年後見人は行うことはできません。

居住用の建物建設といった場合にも,その真の目的は相続税対策ではないというためには,居住のために真に必要であったといえなければならないでしょう。

収益目的の建物建設の場合には,本人のために真に必要があるといえるのかどうかが,より厳格に考えられることになります。

 

このように,成年後見の事務には難しい問題も多く,専門家以外を候補者として考えておられる場合には,しっかりと対策をしておかれる必要がありますので,ご注意ください。

 

 

公正証書遺言の作成

年の瀬も押し迫ってきましたね。

12月は,今年1年を振り返る良い機会だと思いますし,私も今年1年でできたことと,残念ながら不足したところを見直し,また来年も頑張っていきたいと思います。

 

弁護士の江口潤です。

 

今,遺言を書くことが一つのブームとなっています。

私も,普段から相続案件を取り扱う中で,「遺言さえあれば,こんなにもめなかったのになあ」と考える事例を担当することがあります。

遺言書を作成したいというご依頼をいただくことも多いですし,その際には,個々の遺言者の具体的なニーズに合わせ,できる限り紛争となりにくいように配慮した遺言書を作成するお手伝いをさせていただいています。

 

今回は,遺言書にまつわる問題を取り扱いたいと思います。

 

遺言書は,遺言の意思能力の問題はあるにせよ,誰でも気軽に作成しようと思えば作成できるものです。

主には自分の財産を,自分の死後にどのように処分しようかという問題ですから,本来,万人にとっての関心事であろうかと思います。

ただ,遺言は,法律の定める方式によってしかすることができないということが,民法960条に明示されています。

現在の法律では,意思表示の方法は,口頭とか書面とか,押印が必要などと限定されていないのが原則とされていますが,遺言については,法律がその方式を厳格に定めているのです。

日本法以外の法律でもそのような規律になっており,これは遺言書の真意が死後には明らかにならないことから,それを関係者によって歪めようとさせないために厳格な方式が要求されているとも説明されています。

 

遺言に方式が厳格に定められている意味を深く考察すると興味深いとは思いますが,今回はもっと実際的な公正証書遺言の方式について紹介します。

 

公正証書遺言とは,公証役場において,公証人という公務員の面前で,遺言者が遺言の内容を口授して作成する遺言書をいいます。

公証人という法律実務家が関わって作成されるものですし,法律上の要件を満たすことについて安心できますから,現在では広く利用されています。

 

公正証書遺言では,公証人が,遺言者から聞いていた遺言の内容をもとに,予め遺言書の案文を作成したうえ,遺言者からの面前の口授によって作成するのが通例です。

このように口授と公証人による筆記とは,民法969条の定める方式と順序が入れ替わっていますが,このような方法によることも裁判所に認められています。

ただし,公証人の質問に対して遺言者が単にうなずいただけとか,手を握り返しただけでは口授としては足りないとされています。

 

このように,公正証書の口授の要件については,裁判所は,一方で,遺言者の意思を実現させるために緩和した方法によることも認めてはいますが,他方で,遺言者の真意の確保という観点から,一定の限界を設けているといえます。

公正証書遺言作成の手続きについてはこちらもご覧ください。