民法改正~債務不履行に基づく損害賠償の範囲~

11月から,松坂屋名古屋店に,弁護士法人心栄法律事務所がオープンしました。

松坂屋にお越しの際には,お気軽にお立ち寄りいただければと存じます。

さて,今回のテーマは,債務不履行に基づく損害賠償の範囲についてです。

まずは,旧法と新法の条文を比較して見てみましょう。

旧法416条
第1項 債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
第2項 特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときは,債権者は,その賠償を請求することができる。

新法416条
第1項 債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
第2項 特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見すべきであったときは,債権者は,その賠償を請求することができる。

第1項については,旧法からの変更はありませんが,第2項については,特別の事情によって生じた損害(これを一般的に「特別損害」と言います。)が賠償される要件が,「当事者がその事情を予見し,又は予見することができたとき」から,「当事者がその事情を予見すべきであったとき」に変更されています。

このような変更がなされたのは,旧法の文言だと,例えば,以下のような事例において,不合理な結論が導かれる可能性があるからです。

事例:AさんとBさんは,Aさんの持っている壺をBさんが10万円で買い受けるとの売買契約を締結しました。そして,Bさんは,売買契約締結時に,Aさんに対して,「この壺をCさんに100万円で売却する予定となっている。」と伝えていました。しかし,売買契約締結後,Aさんは壺を割ってしまい,Bさんに引き渡すことが出来なくなってしまいました。

この事例において旧法を適用すると,Aさんは,BさんがCさんに壺を100万円で売る予定であることを知っていたのですから,BさんがCさんに壺を売却できなかったために得られなかった100万円は,Aさんにおいて予見することのできた特別損害として,AさんがBさんへ賠償をしないといけないという結果になりかねません。

しかし,このような結論では,ただBさんから「この壺をCさんに100万円で売却する予定となっている。」という話を聞いただけのAさんが過大な賠償義務を負うことになってしまいます。

このような事態を回避するため,新法では,債務者の主観として特別の事情を「予見し,又は予見することができた」か否かではなく,特別な事情を客観的に「予見すべきであった」といえるか否かによって,賠償すべき特別損害の範囲が画されることになりました。