民法改正~債権者代位権④~

緊急事態宣言が明けるまであと少しですね。

これで豊田の街にも活気が戻ると良いのですが・・・

さて、今回は「債権者代位権」に関して新たに設けられた新法423条の3について解説していきたいと思います。

おさらいですが「債権者代位権」とは、債権者が自分の債権を保全する必要がある場合に、債務者が有している権利を行使することが出来る権利のことを言います。

そのため、「AさんがBさんに100万円を貸したが、Bさんは返済するだけのお金を持っていないため返せない。ただ、BさんはCさんに100万円を貸しつけており、まだCさんから返してもらっていない。」という事案において、Aさんが債権者代位権の制度を利用すると、Aさんは、BさんがCさんに対して有している貸金返還請求権を行使できる可能性があります。

しかし、本来、BさんがCさんに対して有している貸金返還請求権を行使した場合、Cさんは「Bさんに」お金を返すのが原則です。

そのため、上記の例において、Aさんが債権者代位権を行使したものの、BさんがCさんから100万円を受け取ることを拒否したような場合、結局、AさんはBさんからお金を返してもらえないという結論になりかねません。

そこで、新法423条の3では、AさんがCさんに対し、「自分に100万円を支払え」と請求することができる旨を規定しています。

これによって、Aさんは、Cさんから直接100万円を受け取ることができ、「その100万円をBさんに返還する債務」と、「AさんがBさんに対して有している100万円の返還請求権」を相殺することで、AさんはBさんから100万円を返してもらったのと同じ結果を実現することができるのです。

民法改正~債権者代位権③~

また緊急事態宣言が出てしまいましたね…

豊田市の飲食店も時短営業や休業をしているところが多く見られます。

早く元の生活に戻ることが出来るよう願うばかりです。

さて、今回も「債権者代位権」に関する改正内容を見ていきたいと思います。

おさらいですが、「債権者代位権」とは、債権者が自分の債権を保全する必要がある場合に、債務者が有している権利を行使することが出来る権利のことです(具体例については、過去の記事をご参照ください)。

今回は新設された新法423条の2について、解説いたします。

例えば、「AさんがBさんに50万円を貸したが、Bさんは返済するだけのお金を持っていないため返せない。ただ、BさんはCさんに100万円を貸しつけており、まだCさんから返してもらっていない。」という場合、Aさんは債権者代位権に基づき、BさんがCさんに対して有している貸金返還請求権を行使できる可能性があります。

では、この場合、Aさんは、Cさんに対して、100万円を返すように請求できるのでしょうか?

この点に関する条文が新法423条の2であり、これによると、債権者(Aさん)が被代位権利(BさんがCさんに対する貸金返還請求権)を行使する場合、行使できる被代位権利の範囲は、自己の債権の額(50万円)が限度となります。

したがって、先ほどの例では、AさんがCさんに対して100万円を返すように請求できず、返済を求めることができるのは50万円が限度となります。

新年度

今年も4月に入り、新年度が始まりました。

昨年の4月1日に改正民法が施行されてからもう1年となります。

この1年、コロナウイルスの感染拡大の影響により、弁護士の業務へも大きな影響がありました。

1回目の緊急事態宣言の際には、裁判期日が全て取り消しになりましたし、弁護士会の会務や行事もリモートが中心となり、人と接する機会が激減しました。

他方で、裁判のリモート化(電話会議やWEB会議)も進みましたので、悪いことばかりというわけではなかったかなとも思います。

皆様のご状況はいかがでしょうか。

今現在もコロナウイルス感染拡大の影響が大きく、つらい思いをされている方も少なくないかと存じます。

困っておられる方のお力に少しでもなることが出来たらと存じますので、一人でお悩みにならずに、お気軽に弁護士までご相談ください。

さて、少ししんみりしてしまいましたが、新年度にも入りましたし、心機一転、頑張っていきたいと思います!

この春に進級・進学された皆様、新しく社会人となられた皆様につきましては、おめでとうございます!

まだまだ大変な時期が続くかとは思いますが、大変な中にも楽しみを見つけながら一日一日を過ごせるように祈っております。

民法改正~債権者代位権②~

3月になり、豊田市も少しずつ暖かくなってきたように感じます。

皆様いかがお過ごしでしょうか?

さて、今回は「債権者代位権」の【要件】に関する改正のお話をさせていただこうと思います(「債権者代位権」とはどのような権利か?ということについては、前回の記事をご参照ください。)。

まずは条文を見てみましょう。

旧法第423条
第1項 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。
第2項 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。

新法第423条
第1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
第2項 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
第3項 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

【改正点その1】
債権者代位権は、債権者が債務者の権利を行使するという形で財産管理に干渉するという性格を持ちます。
そのため、旧法下において、本来債務者の自由であるはずの財産管理に債権者が干渉することを正当化させるためには、債権者が干渉しなくては債務者の責任財産(債権者の引き当てになる財産のことです。)が減少し、その結果、債権者が自己の債権の回収を図れなくなること、すなわち「事故の債権を保全する必要性があること」が存在しなくてはならないとされてきました。
このことは、旧法の条文では明確ではありませんでしたが、新法では「自己の債権を保全するため必要があるとき」という形で明文化されました(新法第423条1項)。

【改正点その2】
債権者代位権の本来的な目的は、債務者の責任財産を確保し、後の強制執行に備えるという点にあります。
そのため、被保全債権(保全の必要性がある債権者の債権)は、強制執行によって実現できる債権でなくてはなりません(例えば、債務者が破産をして免責されてしまった債権(≒債務者が支払わなくてよくなった債務)は、強制執行をしても回収ができませんので、債権者代位権を行使することができません。)。
このことも、新法第423条3項において明文化されました。
また、上記の債権者代位権の本来的な目的からすると、責任財産に含まれない差押禁止債権は代位行使できないとされてきました。
この点についても、新法第423条1項但書にて明文化されました。

【改正点その3】
債権者代位権を行使するためには、原則として被保全債権の履行期が到来している必要があります(新法第423条2項参照)が、旧法においては、被保全債権の履行期が到来する前であっても、裁判所の許可を得て裁判上の代位をすれば、債権代位権を行使できるとされていました。
しかし、この制度はほとんど利用されておらず、かつ、債権者としても民事保全の手続によって責任財産の保全ができることから、この裁判上の代位の制度は廃止されました。

民法改正~債権者代位権①~

令和3年もあっという間に1か月が過ぎました。

私の所属する弁護士法人心豊田法律事務所では、1月下旬よりスタッフが1名増えるという大きな変化がありました。

より一層皆様にとって頼りになる事務所となるよう努めて参りますので、今後もご愛顧いただけますと幸いです。

さて、今回のテーマは「債権者代位権」です。

とはいえ「債権者代位権」という用語は日常生活ではなかなか聞く機会もないかと思いますので、改正の内容に入る前に、そもそも債権者代位権とはどのような権利なのかを簡単にご説明いたします。

債権者代位権とは、債権者が自分の債権を保全する必要がある場合に、債務者が有している権利を行使することが出来る権利のことを言います。
言葉だけではイメージしにくいので、具体例を用いて見てみましょう。

【具体例】
Aさん(債権者)がBさん(債務者)に対して100万円の金銭債権(100万円を請求する権利)を持っています。
ただ、Bさんは現金や預貯金を一切有しておらず、すぐにお金に代えられるような動産や不動産もありません。
しかし、Bさんは、Cさんに貸した100万円の返還請求権を有していました。
Aさんとしては、BさんがCさんから100万円を返してもらって、そのお金を自分に支払って欲しいと考えていますが、Bさんは一向にCさんに100万円の返還を求めようとしません。

このようなケースにおいては、Aさんが自分の債権(Bさんに対する100万円の金銭債権)を保全する必要がありますので、Aさんが債権者代位権を行使すると、BさんがCさんに対して有している100万円の返還請求権をAさんが行使できるようになります。
このようにして債権者代位権を行使することによって、Aさんは自分の債権の回収を図ることができるのです。

債権者代位権に関する条文は、旧法では423条の1つだけでしたが、新法では423条~423条の7までの7つの条文が設けられています。
次回以降、債権者代位権の条文に関する主だった改正点をご説明したいと思います。

民法改正~法定利率~

皆様、あけましておめでとうございます。

今年も弁護士法人心豊田法律事務所をよろしくお願いいたします。

さて、今回のテーマは「法定利率」です。

民法における法定利率は、民法制定からこの度の改正まで、ずっと年5%でした(旧法404条)。

しかし、年5%の金利は市中の金利と比べると高すぎるということで、新法においては、年3%に引き下げられることになりました(新法404条2項)。

それだけではなく、新法においては、将来的に市中の金利動向が変動した場合に備えて、3年ごとに法定利率の見直しを行う旨の規定が設けられました(新法404条3項~5項)。

また、法定利率が変動するとなると、「どの時点での利率を参照すればよいのか?」という問題が生じることになります。

この点については、①利息の算定に関しては、利息が生じた最初の時点(新法404条1項)、②遅延損害金の算定に関しては、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点(新法419条1項)、③中間利息控除に関しては、損害賠償請求権が発生した時点(新法417条の2、同722条1項)とされています。

※「中間利息控除」とは、将来得られるはずであった利益の価値と現時点で受け取る利益の価値を等しくするために,利息相当分を差し引くことを言います。例えば、1年後に得られるはずであった100万円を現時点で受け取ると,理論上、1年後にはその100万円のみならず,100万円に対する利息分の利益をも手に入る可能性がありますので、「今手に入る100万円」は、「1年後に手に入る100万円」より利息の分だけ価値が高いことになりますので、両者を同価値にするためには、中間利息を控除する必要が生じるのです。

 

民法改正~代償請求権~

早いもので今年も残すところあと一ヶ月を切りました。

弁護士の仕事も,年の瀬が近づくにつれて慌ただしくなりがちなので,早め早めに対応ができるように心がけたいです。

さて,今回のテーマは,「代償請求権」です。

用語だけではピンとこないと思われますので,条文を見てみましょう。

新法第422条の2
債務者が,その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利又は利益を取得したときは,債権者は,その受けた損害の額の限度において,債務者に対し,その権利の移転又はその利益の償還を請求することができる。

具体例がないと分かり難いかと思われますので,事例を用いて解説をしたいと思います。

事例:Aさんは,Bさんと賃貸借契約を締結し,Bさんから家を借りて暮らしていました。しかし,ある日,地震が起きて借りていた家が倒壊してしまいました。これが原因で,Aさんは,賃貸借契約の期間が満了した際に,Bさんに借りていた家を帰すことが出来なくなってしまいました。他方で,Aさんは,自分が入っていた地震保険から地震保険金を受け取りました。

この事例では,債務者(=Bさんに家を返すという債務を負っているAさん)が,その債務の履行が不能となったのと同一の原因(=地震)により,債務の目的物の代償である利益(=地震保険金)を取得したと言えますので,新法422条の2により,債権者(=Bさん)は,被った損害の限度で,債務者(=Aさん)に対し,その利益(=Aさんが受け取った地震保険金)の償還を請求することができます。

このBさんからAさんに対する地震保険金を請求する権利が「代償請求権」です(貸していた家の代償として,Aさんに地震保険金を請求する権利ということです。)。

代償請求権は,旧法下でも,裁判例や学説において認められていた考え方ですが,条文は存在しませんでしたので,民法改正により,従来の考え方が明文化された形となります。

民法改正~債務不履行に基づく損害賠償の範囲~

11月から,松坂屋名古屋店に,弁護士法人心栄法律事務所がオープンしました。

松坂屋にお越しの際には,お気軽にお立ち寄りいただければと存じます。

さて,今回のテーマは,債務不履行に基づく損害賠償の範囲についてです。

まずは,旧法と新法の条文を比較して見てみましょう。

旧法416条
第1項 債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
第2項 特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見し,又は予見することができたときは,債権者は,その賠償を請求することができる。

新法416条
第1項 債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
第2項 特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見すべきであったときは,債権者は,その賠償を請求することができる。

第1項については,旧法からの変更はありませんが,第2項については,特別の事情によって生じた損害(これを一般的に「特別損害」と言います。)が賠償される要件が,「当事者がその事情を予見し,又は予見することができたとき」から,「当事者がその事情を予見すべきであったとき」に変更されています。

このような変更がなされたのは,旧法の文言だと,例えば,以下のような事例において,不合理な結論が導かれる可能性があるからです。

事例:AさんとBさんは,Aさんの持っている壺をBさんが10万円で買い受けるとの売買契約を締結しました。そして,Bさんは,売買契約締結時に,Aさんに対して,「この壺をCさんに100万円で売却する予定となっている。」と伝えていました。しかし,売買契約締結後,Aさんは壺を割ってしまい,Bさんに引き渡すことが出来なくなってしまいました。

この事例において旧法を適用すると,Aさんは,BさんがCさんに壺を100万円で売る予定であることを知っていたのですから,BさんがCさんに壺を売却できなかったために得られなかった100万円は,Aさんにおいて予見することのできた特別損害として,AさんがBさんへ賠償をしないといけないという結果になりかねません。

しかし,このような結論では,ただBさんから「この壺をCさんに100万円で売却する予定となっている。」という話を聞いただけのAさんが過大な賠償義務を負うことになってしまいます。

このような事態を回避するため,新法では,債務者の主観として特別の事情を「予見し,又は予見することができた」か否かではなく,特別な事情を客観的に「予見すべきであった」といえるか否かによって,賠償すべき特別損害の範囲が画されることになりました。

民法改正~填補賠償~

10月に入り,豊田市でも少しずつ涼しくなってきたように感じます。

季節の変わり目ですので,皆様,体調を崩さないようにお気を付けてお過ごしください。

さて,今回のテーマは「填補賠償」です。

填補賠償とは,債務者が本来の債務の履行に代えて債権者に対して行う損害賠償のことを言います。

用語だけだと分かり難いかと思いますので,具体例を見てみましょう

AさんとBさんが建物の賃貸借契約を締結し,Bさんが建物を借りて使用していた場合,Bさんは,賃貸借契約が終了した際に,Aさんに借りていた建物を返還する義務を負います。

しかし,Bさんが不注意で火事を起こしてしまい,借りていた建物が完全に焼失してしまったという場合,Bさんは建物の返還義務を履行することができません。

このような場合,Aさんは,Bさんに対し,建物の返還を請求する代わりに,焼失してしまった建物の価値分の賠償請求をすることができます。

これを「填補賠償」と言います。

実は,旧法では,填補賠償に関する規定は存在せず,解釈によって認められているのみでした。

そこで,新法では,以下のとおり,填補賠償に関する規定(新法第415条2項)が新設され,填補賠償請求が可能となる要件が整理されました。

新法第415条
第1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
第2項
前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において,債権者は,次に掲げるときは,債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

民法改正~債務不履行による損害賠償請求~

先日,豊田市でもコロナウイルス感染のクラスターが発生したとの報道がありました。

万が一,自分が感染してしまうと,多方面に迷惑がかかってしまうので,より一層注意をして行動をしていきたいと思います。

さて,今回のテーマは「債務不履行による損害賠償請求」です。

まず,新旧の条文を見てみましょう。

旧法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも,同様とする。

新法第415条1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。

旧法では「履行をすることができなくなったとき」すなわち「履行不能」については,債務者に帰責事由がないと損害賠償義務を負わないと言うことが明らかでしたが,履行不能以外の債務不履行の類型であるとされる「履行遅滞」や「不完全履行」については,帰責事由がない場合に債務者が賠償義務を負うのか否か,条文上は明確ではありませんでした。

もっとも,一般的には,履行不能以外の債務不履行の類型についても,帰責事由がない場合には損害賠償義務を負わないと解されてきましたので,新法ではこの点が明らかになるよう「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」と規定されました。

また,新法では,帰責事由の有無の判断は「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」行われることが明らかになっています。

民法改正~受領遅滞~

例年だと夏祭りや花火大会の時期ですが,今年はコロナウイルスの感染拡大の影響で,多くは中止となってしまっているようです。

豊田市でも,大きな祭りは中止になったと聞いており,少し寂しく感じます。

 

さて,今回のテーマは,「受領遅滞」です。

「受領遅滞」とは,債務者が,債務の履行をしようとしたのに,債権者が債務の履行を受けることを拒んだり,債務の履行を受けることができないような場合のことを言います。

「受領遅滞」に関する新法の条文は以下のとおりです。

第413条
1 債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その債務の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,履行の提供をした時からその引渡しをするまで,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,その物を保存すれば足りる。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができないことによって,その履行の費用が増加したときは,その増加額は,債権者の負担とする。

第413条の2
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

旧法では,受領遅滞の効果は「債権者は,履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。」としか規定されていませんでしたが,改正により,受領遅滞によって生じる効果が具体的に示されましたので,以下,ご紹介いたします(もっとも,従来受領遅滞によって生じるとされていた効果の全てが明文化されたわけではないことに,注意が必要です。)。

第1に,債務者の債務の目的が,特定物の引渡しである場合,受領遅滞後は保存管理に関する注意義務が軽減され,自己の財産と同じような注意をもって管理保存すればよいということになります(新法第413条1項)。

第2に,受領遅滞が生じたことによって,債務者が債務の履行をするにあたって必要となる費用が増加した場合は,債務者は,その増加分の費用を債権者に請求することができます(新法第413条2項)。

第3に,受領遅滞が生じた後に債権者・債務者どちらの責任とも言えない事由によって,債務者の債務が履行不能となった場合は,その履行不能は,債権者の責めに帰すべき事由によって発生したものとみなされることになります(第413条の2第2項)。

民法改正~履行不能~

この度,弁護士法人心四日市法律事務所がオープンいたしました。

四日市の近くにお住いで,法律問題でお困りの方は,お気軽にお問い合わせください。

弁護士法人心四日市法律事務所のホームページは,こちらをクリックしてください。

 

さて,今回のテーマは,「履行不能」です。

「履行不能」とは,前回ご紹介した「履行遅滞」と同様に債務不履行の一種であり,債務の履行ができない場合のことを言います。

実は,旧法においては,「履行不能」に関する条文は存在せず,新法において,新しく条文が設けられました。

新法の条文は,以下のとおりです。

第412条の2
1 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは,債権者は,その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは,第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

特徴としましては,債務の履行が物理的に不可能な場合のみならず,社会通念上不可能であるような場合でも履行不能に該当するとしている点(第1項),契約締結時に既に債務の履行ができないことが確定してしまっていたとしても,債権者は債務者に対して損害賠償請求が可能であるとしている点(第2項)が挙げられます。

民法改正~履行遅滞~

先日まで,コロナウイルス感染拡大の影響で,裁判も休廷が多くなっておりましたが,最近は徐々に開廷されるようになっており,弁護士業務も元通りになる兆しが見られます。ただ,まだ油断はできないので,慎重に行動をしていきたいと思います。

さて,今回のテーマは,「履行遅滞」です。

履行遅滞とは,債務者による債務の履行が,履行期に間に合わなかった場合のことを言います。

例えば,AさんがBさんに自分の所有する建物を令和2年6月30日までに引き渡す債務を負っていたというケースで,Aさんによる建物の引渡しが同日までになされなかったような場合が挙げられます。

履行遅滞となると,債務者は債権者に生じた損害を賠償しなくてはならなくなる可能性があります(損害賠償については,改めて取り上げたいと思います)。

履行遅滞に関しする条文は,以下のとおりです。

旧法第412条
1 債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

新法第412条
1 債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

見比べてみると,不確定期限がある場合に関する第2項の文言が変わっていることが分かります。

不確定期限とは,いつかは必ず生じるけれども,いつ生じるかは分からない期限のことを言います(例えば,祖父母の死亡のような場合です)。

このとおり,不確定期限は,「いつ生じるか分からない事実」に期限の到来が左右されることになるため,客観的には期限が到来していたとしても,債務者が期限の到来に気付いていないという場合もあり得ます。

この点,旧法の条文だと,不確定期限があるときの履行遅滞は,債務者が期限の到来を知った時から責任を負うこととなっておりますので,仮に,債務者がずっと期限の到来に気付かなかった場合は,その債務者は永久に履行遅滞の責任を負わないということになりかねません。

そこで,新法では,債務者が期限の到来を知った時のみならず,客観的に期限が到来した後に,債権者から履行の請求を受けたときも,履行遅滞となり得る形で改正がなされました(なお。旧法下でも,このような解釈が一般的なものとされておりました)。

民法改正~善管注意義務~

未だコロナウイルスの感染は完全に収束したわけではありませんが,豊田の街は少しずつ元の日常が戻ってきているように感じます。

このまま順調に元どおりに戻って欲しいと願う毎日です。

さて,今回の民法改正のテーマは「善管注意義務」です。

「善管注意義務」は,善良な管理者の注意義務を縮めて呼称したものになります。

民法上,善管注意義務に関する規定は,留置物の占有に関するものや(新法第298条1項)や,委任契約における受任者の注意義務に関するもの(新法第644条)など,複数存在しますが,今回は,特定物の引き渡しに関する善管注意義務(新法第400条)を取り上げたいと思います。

ところで,そもそも「善良な管理者の注意って何?」という疑問が浮かぶ方も少なくないかと思われますが,これは「自己のためにするのと同一の注意」の反対概念であり,債務者の属する地位や職業等に応じて要求されるような注意のことを言うとされています。

例えば,AさんがBさんに自己の所有する著名な画家の絵画を売却するような事案ですと,当該絵画をBさんへ引き渡すまでの間,Aさんには当該絵画の保存について善管注意義務が課せられますので(新法第400条),たとえAさんが自分の物を乱雑に扱う性格であったとしても,Aさんは当該絵画に傷をつけたり汚したりしないように注意をして保存しておく義務を負うことになります。

それでは,旧法と新法の条文を見てみましょう。

旧法第400条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。

新法第400条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。

読み比べてみると,新法には,「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」との文言が追加されていることが分かります。

このような改正がなされたのは,善管注意義務の内容や程度は,各事案の個別の事情と無関係に一律に定められるものではなく,契約の内容や目的,債権発生に至るまでの具体的な経緯等の個別具体的な事情を考慮して定められるものであるという趣旨を明確にするためです。

 

民法改正~条件~

昨今,新型コロナウイルスの感染が拡大しております。

弁護士の仕事への影響も少なくなく,例えば,裁判が延期になったり,電話会議になったりしております。

皆様が新型コロナウイルス感染症に罹患しないことを心よりお祈り申し上げます。

 

唐突に話題は変わりますが,4月1日をもって,ついに改正民法が施行されました。

そこで,今までの記事では,改正前の民法を「現行民法」,改正後の民法を「改正民法」と呼称していましたが,今後は,改正前の民法を「旧法」,改正後の民法を「新法」と呼ぶようにしたいと思います。

今回は,「条件」について,お話いたします。

例えば,AとBさんが,「Aさんが大学に合格をしたら,BさんがAさんに100万円を贈与する。」という約束をした場合ですと,「Aさんが大学に合格をしたら」という部分が,「条件」となります。

ちなみに,民法には「条件」と似た概念として,「期限」というものがあります。

両者の違いは,「条件」が実現するかどうか不確実な事実であるのに対し,「期限」は将来必ず実現する事実であるという点にあります。

ですので,例えば,CさんとDさんが,本日(2020年4月14日)に「2020年12月31日になったら,DさんがCさんに100万円を贈与する。」という約束をした場合,「2020年12月31日」という部分は,「条件」ではなく,「期限」となります。

では,最初のAさんとBさんの例で,Aさんがカンニングをして大学に合格をしたという場合でも,BさんはAさんに100万円を贈与しなくてはならないのでしょうか。

この点について,旧法には特段の規定はありませんでしたが,新法では以下のような規定が設けられました。

新法130条2項
条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。

この規定により,先ほどの例では,Bさんは,カンニングをして大学に合格をした(不正に条件を成就させた)Aさんに100万円を支払う必要はないということになります。

民法改正~代理⑤(利益相反行為)~

改正民法が施行されるまで,あと1か月を切りました。

さて,今回取り扱う民法改正のテーマは「利益相反行為」です。

(ちなみに,弁護士法にも,「利益相反行為」に関する規定が存在します。機会があれば,いつか取り上げたいと思います。)

利益相反行為とは,一方の当事者にとっては利益となるものの他方の当事者にとっては不利益となる行為のことを言います。

現行民法においては,利益相反行為については,以下のような規制が設けられています。

現行民法第108条

同一の法律行為については,相手方の代理人となり,又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

この,「同一の法律行為について,相手方の代理人となること」を「自己契約」と言い,「同一の法律行為について,当事者双方の代理人となること」を「双方代理」と言います。

「自己契約」の例としては,Aさんが自分の所有する土地を売却する代理権をBさんに与えた場合に,Bさん自らが当該土地の買主となるようなケースが挙げられます(要するに,代理人(Bさん)が,代理権を与えた本人(Aさん)の相手方となる場合です。)。

「双方代理」の例としては,土地を売ろうとしているAさんの代理人であるBさんが,同時に買主であるCさんの代理人となるようなケースが挙げられます。

このような利益相反行為が規制されているのは,利害が対立する当事者間における法律行為について,代理人がその当事者双方に関与してしまうと,当該代理人に代理権を与えた本人に不利益をもたらす恐れが大きいからです(例えば,上の双方代理の場合,Bさんが,Aさんの意思に反して,土地を低額でCさんに売却する恐れが生じ得ます。)。

もっとも,自己契約や双方代理以外でも,本人に不利益を及ぼし得る利益相反行為は存在します。

例えば,過去の裁判例では,契約当事者の一方(Aさん)が相手方(Cさん)に自己(Aさん)の代理人の選任を任せ,それに基づき選任されたBさん(Cさんが選んだAさんの代理人)とCさんとの間で締結された契約について,現行民法108条を類推適用したものがあります(大審院昭和7年6月6日判決)。

そこで,改正民法108条では,以下のように,第2項が追加されました。

第1項
同一の法律行為について,相手方の代理人として,又は当事者双方の代理人としてした行為は,代理権を有しない者
がした行為とみなす。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

第2項
前項本文に規定するもののほか,代理人と本人との利益が相反する行為については,代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし,本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

ちなみに,ある行為が利益相反行為に該当するか否かは,代理人の意図や動機等とは関係なく,代理行為自体を外形的・客観的に見て当該行為が本人にとって不利益となるようなものではないかといった基準によって判断され,代理人に自己の利益を図る意図があるものの外形的・客観的には利益相反行為とは言えないようなものは,代理権濫用(改正民法107条)の規定の下,本人の保護が図られることとされています。

民法改正~代理④(表見代理)~

インフルエンザや新型コロナウイルスが流行っているようです。

弁護士が病気にかかると,裁判期日が空転してしまう等の迷惑がかかってしまいますので,健康管理には十分に気を付けたいと思います。

さて,今回のテーマは,「表見代理」です。

前回ご紹介したとおり,ある人物が,本人から代理権を与えられていないにもかかわらず,本人の代理人と称して取引を行うことは,「無権代理」と言います。

今回ご紹介する「表見代理」は,無権代理人にあたかも代理権が存在するように見える場合に,当該無権代理人が正当な代理権を有していると信頼した取引の相手方を保護するための制度です。

では,どのようにして取引の相手方が保護されるのかと言いますと,表見代理の要件を充たす場合は,正当な代理権が存在した場合と同様に,「本人」と「代理人と称する者と取引をした相手方」との間に,代理人と称する者が行った法律行為の効果が帰属することになるのです。

そして,現行民法においては,表見代理の制度により代理人と称する者と取引をした相手方が保護される場合として,以下の3つが規定されています。

⑴本人が,代理権を与えていない人物と取引をする相手方に対し,当該人物に代理権を授与した旨を表示した場合(代理権授与の表示による表見代理(現行民法109条))

⑵本人から代理権を授与された者が,その代理権の範囲を超えて代理行為をした場合(権限外の行為の表見代理(現行民法110条))

⑶代理人が,代理権が消滅した後に代理行為をした場合(代理権消滅後の表見代理(現行民法112条))

しかし,この3つだけでは,①代理権授与の表示がなされ,かつ,代理権を有しない者が行った行為が表示された代理権の範囲をも越える場合や,②過去に代理人であった者が代理権消滅後に過去に有していた代理権の範囲外の行為を行った場合は,条文を直接適用して対応をすることができません。

そこで,現行民法下においては,①の場合は,109条と110条を,②の場合は110条と112条を重ねて適用して(これを「重畳適用」と言います。),取引の相手方の保護を図っていました。

この点,改正民法においては,現行民法下において複数の規定の重畳適用で処理していたケースが明文化されました。

条文は,以下のとおりとなっています。

改正民法109条2項(①について)
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。

改正民法112条2項(②について)
他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う 。

 

民法改正~代理③(無権代理)~

少し遅くなりましたが,皆様,明けましておめでとうございます。

本年も弁護士法人心豊田市駅法律事務所をよろしくお願い申し上げます。

今年も,引き続き,民法改正について気の向くままにお話していきたいと思います。

さて,今回のテーマは「無権代理」です。

前回取り扱った代理権の濫用は,代理人が,本人から与えられた「代理権の範囲内」で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行った場合のことを言いました。

これに対して,無権代理とは,ある人物が,本人から「代理権を与えられていない」にもかかわらず,本人の代理人と称して取引を行うことを言います。

無権代理が行われた場合,本人の追認がない限り,原則として(←すなわち,例外があるということですが,それに関しては,後日お話させていただきます。),無権代理人の行った行為の効果は本人に帰属しません(民法113条,民法116条)。

そのため,本人が無権代理人のした行為を追認しなかった場合,原則として,無権代理人と契約をした相手方としては,予定していた契約の効果を得ることが出来なくなってしまいます。

このような場合,取引の相手方は,下記の規定に基づき,無権代理人の責任を追及することができます。

改正民法117条
第1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
第2項 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

このとおり,代理権を与えられていないにもかかわらず本人の代理人と称して取引を行った者(=無権代理人)は,あたかも本人であるかのようにして契約内容を「履行」するか,取引の相手方に生じた「損害を賠償する」という形で,責任を取らなくてはならなくなる可能性があるのです。

そして,この117条ですが,現行民法は以下のような規定となっています。

現行民法117条
第1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
第2項 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

改正民法との相違点は,以下のとおりです。

①改正後の規定では,「代理権が存在すること」,または,「本人の追認が存在すること」の証明責任が無権代理人にあることが明確になりまし(第1項同士を比較してみてください。)。

②改正後の規定では,取引の相手方が過失によって無権代理人が本人から代理権を授与されていないことを知らなかった場合でも,無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合は,無権代理人は責任を負うことになりました(改正民法117条第2項第2号の「但し書き」の部分が追加されました)。

民法改正~代理②(代理権の濫用)~

本日は,弁護士法人心豊田市駅法律事務所が入っているヴィッツ豊田タウンという建物全体の防災訓練でした。

弁護士法人心豊田市駅法律事務所は4階に入居させていただいているのですが,消防署の職員の方によると,もし矢作川が氾濫した場合は,3階あたりまで浸水するとのことです。

いざというときに慌てず迅速に対応ができるよう,心がけたいと思います。

さて,今回は「代理権の濫用」についてです。

前回の記事でもご説明をさせていただきましたとおり,代理人が本人のために法律行為を行うのが代理の基本的な形なのですが,中には,代理人が,本人から与えられた代理権の範囲内で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行う場合があり,これを「代理権の濫用」といいます(なお,代理権の範囲「外」の行為を行った場合は「無権代理」といいます。「無権代理」については,また後日ご説明したいと思います。)。

実は,代理権が濫用された場合に関する規定は,現行民法にはありません。

代理権を濫用された本人の立場からすると,代理人の行った法律行為の効果が本人に帰属するということは到底受け入れ難いことでしょう。

しかし,だからといって,代理権が濫用された場合に代理人が行った行為の効果が一律に本人に及ばないとしてしまうと,代理人と取引を行う相手方にとって困ったことが生じてしまいます。

なぜなら,代理人と取引をする相手方としては,代理人と行う取引が本人との間で有効に成立すると信頼しているのが通常であり,その代理人が内心で代理権濫用の意図を有しているか否かは容易にわかることではないため,代理権が濫用された場合に代理人が行った行為の効果が一律に本人に及ばないとしてしまうと,安心して代理人を介して取引を行うことができなくなってしまうからです。

この点,有名な最高裁判決である最高裁昭和42年4月20日判決は,代理権が濫用された場合でも,代理権の範囲内でなされた行為なのであるから,原則として,その効果は本人に帰属するとし,例外的に,取引の相手方において,代理人が代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行っていることを知っていた場合または知り得た場合には,代理人の行った行為の効果は本人に及ばないと判示し,本人の保護と代理人と取引をする相手方の保護のバランスを取りました。

そこで,改正民法では,この最高裁判決を踏まえ,「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において,相手方がその目的を知り,又は知ることができたときは,その行為は,代理権を有しないものがした行為とみなす。」という規定が設けられました(改正民法107条)。

なお,上記最高裁判決では,取引の相手方が代理人による濫用の意図を知っていた場合または知り得た場合の代理行為は「無効」とされていましたが,改正民法では「無権代理」とみなす,という処理になりましたので,本人が追認をすれば,契約時に遡って有効なものとして扱われますし(改正民法116条),代理権を濫用した代理人は,要件をみたす場合,無権代理人としての責任を負うことにもなります(改正民法117条)。

民法改正~代理①(代理の仕組み)~

ついこの前まで暑かったと思えば,急激に寒くなってきました。

豊田市駅付近でも,マスクをしていらっしゃる方をよく見かけるようになりました。

皆様,風邪をひかないよう,健康管理にお気を付けいただければと存じます。

さて,今回からは「代理」に関する改正の内容を何回かに分けてご紹介をしたいと思います。

そもそも,代理とは何なのか,という点ですが,民法99条1項は,代理について,以下のように規定しています。

「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は,本人に対して直接にその効力を生ずる。」

例えば,Aさんが,Bさんに,Cさんから甲という壺を買ってきて欲しいと頼み,代理権を与えたとします。

この場合,Aさんが「本人」,Bさんが「代理人」となります。

そして,Bさんが,Cさんに対して,「Aさんのために甲という壺を売って欲しいです。」と申し込みをし,Cさんがこれを承諾した場合は,AさんとCさんとの間に直接売買契約が成立します(BさんとCさんの間に契約が成立するわけではありません)。

これが,代理という制度の大枠です。

このとおり,代理という制度は,代理人が本人のために法律行為を行うことが想定されているのですが,もし,代理人が,本人から与えられた代理権の範囲内で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行った場合はどうなるのでしょうか?

次回は,この点について,ご説明をしたいと思います。