民法改正~代理⑤(利益相反行為)~

改正民法が施行されるまで,あと1か月を切りました。

さて,今回取り扱う民法改正のテーマは「利益相反行為」です。

(ちなみに,弁護士法にも,「利益相反行為」に関する規定が存在します。機会があれば,いつか取り上げたいと思います。)

利益相反行為とは,一方の当事者にとっては利益となるものの他方の当事者にとっては不利益となる行為のことを言います。

現行民法においては,利益相反行為については,以下のような規制が設けられています。

現行民法第108条

同一の法律行為については,相手方の代理人となり,又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

この,「同一の法律行為について,相手方の代理人となること」を「自己契約」と言い,「同一の法律行為について,当事者双方の代理人となること」を「双方代理」と言います。

「自己契約」の例としては,Aさんが自分の所有する土地を売却する代理権をBさんに与えた場合に,Bさん自らが当該土地の買主となるようなケースが挙げられます(要するに,代理人(Bさん)が,代理権を与えた本人(Aさん)の相手方となる場合です。)。

「双方代理」の例としては,土地を売ろうとしているAさんの代理人であるBさんが,同時に買主であるCさんの代理人となるようなケースが挙げられます。

このような利益相反行為が規制されているのは,利害が対立する当事者間における法律行為について,代理人がその当事者双方に関与してしまうと,当該代理人に代理権を与えた本人に不利益をもたらす恐れが大きいからです(例えば,上の双方代理の場合,Bさんが,Aさんの意思に反して,土地を低額でCさんに売却する恐れが生じ得ます。)。

もっとも,自己契約や双方代理以外でも,本人に不利益を及ぼし得る利益相反行為は存在します。

例えば,過去の裁判例では,契約当事者の一方(Aさん)が相手方(Cさん)に自己(Aさん)の代理人の選任を任せ,それに基づき選任されたBさん(Cさんが選んだAさんの代理人)とCさんとの間で締結された契約について,現行民法108条を類推適用したものがあります(大審院昭和7年6月6日判決)。

そこで,改正民法108条では,以下のように,第2項が追加されました。

第1項
同一の法律行為について,相手方の代理人として,又は当事者双方の代理人としてした行為は,代理権を有しない者
がした行為とみなす。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

第2項
前項本文に規定するもののほか,代理人と本人との利益が相反する行為については,代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし,本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

ちなみに,ある行為が利益相反行為に該当するか否かは,代理人の意図や動機等とは関係なく,代理行為自体を外形的・客観的に見て当該行為が本人にとって不利益となるようなものではないかといった基準によって判断され,代理人に自己の利益を図る意図があるものの外形的・客観的には利益相反行為とは言えないようなものは,代理権濫用(改正民法107条)の規定の下,本人の保護が図られることとされています。