民法改正~填補賠償~

10月に入り,豊田市でも少しずつ涼しくなってきたように感じます。

季節の変わり目ですので,皆様,体調を崩さないようにお気を付けてお過ごしください。

さて,今回のテーマは「填補賠償」です。

填補賠償とは,債務者が本来の債務の履行に代えて債権者に対して行う損害賠償のことを言います。

用語だけだと分かり難いかと思いますので,具体例を見てみましょう

AさんとBさんが建物の賃貸借契約を締結し,Bさんが建物を借りて使用していた場合,Bさんは,賃貸借契約が終了した際に,Aさんに借りていた建物を返還する義務を負います。

しかし,Bさんが不注意で火事を起こしてしまい,借りていた建物が完全に焼失してしまったという場合,Bさんは建物の返還義務を履行することができません。

このような場合,Aさんは,Bさんに対し,建物の返還を請求する代わりに,焼失してしまった建物の価値分の賠償請求をすることができます。

これを「填補賠償」と言います。

実は,旧法では,填補賠償に関する規定は存在せず,解釈によって認められているのみでした。

そこで,新法では,以下のとおり,填補賠償に関する規定(新法第415条2項)が新設され,填補賠償請求が可能となる要件が整理されました。

新法第415条
第1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
第2項
前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において,債権者は,次に掲げるときは,債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

民法改正~債務不履行による損害賠償請求~

先日,豊田市でもコロナウイルス感染のクラスターが発生したとの報道がありました。

万が一,自分が感染してしまうと,多方面に迷惑がかかってしまうので,より一層注意をして行動をしていきたいと思います。

さて,今回のテーマは「債務不履行による損害賠償請求」です。

まず,新旧の条文を見てみましょう。

旧法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも,同様とする。

新法第415条1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。

旧法では「履行をすることができなくなったとき」すなわち「履行不能」については,債務者に帰責事由がないと損害賠償義務を負わないと言うことが明らかでしたが,履行不能以外の債務不履行の類型であるとされる「履行遅滞」や「不完全履行」については,帰責事由がない場合に債務者が賠償義務を負うのか否か,条文上は明確ではありませんでした。

もっとも,一般的には,履行不能以外の債務不履行の類型についても,帰責事由がない場合には損害賠償義務を負わないと解されてきましたので,新法ではこの点が明らかになるよう「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。」と規定されました。

また,新法では,帰責事由の有無の判断は「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」行われることが明らかになっています。

民法改正~受領遅滞~

例年だと夏祭りや花火大会の時期ですが,今年はコロナウイルスの感染拡大の影響で,多くは中止となってしまっているようです。

豊田市でも,大きな祭りは中止になったと聞いており,少し寂しく感じます。

 

さて,今回のテーマは,「受領遅滞」です。

「受領遅滞」とは,債務者が,債務の履行をしようとしたのに,債権者が債務の履行を受けることを拒んだり,債務の履行を受けることができないような場合のことを言います。

「受領遅滞」に関する新法の条文は以下のとおりです。

第413条
1 債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,その債務の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,履行の提供をした時からその引渡しをするまで,自己の財産に対するのと同一の注意をもって,その物を保存すれば足りる。
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができないことによって,その履行の費用が増加したときは,その増加額は,債権者の負担とする。

第413条の2
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。

旧法では,受領遅滞の効果は「債権者は,履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。」としか規定されていませんでしたが,改正により,受領遅滞によって生じる効果が具体的に示されましたので,以下,ご紹介いたします(もっとも,従来受領遅滞によって生じるとされていた効果の全てが明文化されたわけではないことに,注意が必要です。)。

第1に,債務者の債務の目的が,特定物の引渡しである場合,受領遅滞後は保存管理に関する注意義務が軽減され,自己の財産と同じような注意をもって管理保存すればよいということになります(新法第413条1項)。

第2に,受領遅滞が生じたことによって,債務者が債務の履行をするにあたって必要となる費用が増加した場合は,債務者は,その増加分の費用を債権者に請求することができます(新法第413条2項)。

第3に,受領遅滞が生じた後に債権者・債務者どちらの責任とも言えない事由によって,債務者の債務が履行不能となった場合は,その履行不能は,債権者の責めに帰すべき事由によって発生したものとみなされることになります(第413条の2第2項)。

民法改正~履行不能~

この度,弁護士法人心四日市法律事務所がオープンいたしました。

四日市の近くにお住いで,法律問題でお困りの方は,お気軽にお問い合わせください。

弁護士法人心四日市法律事務所のホームページは,こちらをクリックしてください。

 

さて,今回のテーマは,「履行不能」です。

「履行不能」とは,前回ご紹介した「履行遅滞」と同様に債務不履行の一種であり,債務の履行ができない場合のことを言います。

実は,旧法においては,「履行不能」に関する条文は存在せず,新法において,新しく条文が設けられました。

新法の条文は,以下のとおりです。

第412条の2
1 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは,債権者は,その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは,第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

特徴としましては,債務の履行が物理的に不可能な場合のみならず,社会通念上不可能であるような場合でも履行不能に該当するとしている点(第1項),契約締結時に既に債務の履行ができないことが確定してしまっていたとしても,債権者は債務者に対して損害賠償請求が可能であるとしている点(第2項)が挙げられます。

民法改正~履行遅滞~

先日まで,コロナウイルス感染拡大の影響で,裁判も休廷が多くなっておりましたが,最近は徐々に開廷されるようになっており,弁護士業務も元通りになる兆しが見られます。ただ,まだ油断はできないので,慎重に行動をしていきたいと思います。

さて,今回のテーマは,「履行遅滞」です。

履行遅滞とは,債務者による債務の履行が,履行期に間に合わなかった場合のことを言います。

例えば,AさんがBさんに自分の所有する建物を令和2年6月30日までに引き渡す債務を負っていたというケースで,Aさんによる建物の引渡しが同日までになされなかったような場合が挙げられます。

履行遅滞となると,債務者は債権者に生じた損害を賠償しなくてはならなくなる可能性があります(損害賠償については,改めて取り上げたいと思います)。

履行遅滞に関しする条文は,以下のとおりです。

旧法第412条
1 債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

新法第412条
1 債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

見比べてみると,不確定期限がある場合に関する第2項の文言が変わっていることが分かります。

不確定期限とは,いつかは必ず生じるけれども,いつ生じるかは分からない期限のことを言います(例えば,祖父母の死亡のような場合です)。

このとおり,不確定期限は,「いつ生じるか分からない事実」に期限の到来が左右されることになるため,客観的には期限が到来していたとしても,債務者が期限の到来に気付いていないという場合もあり得ます。

この点,旧法の条文だと,不確定期限があるときの履行遅滞は,債務者が期限の到来を知った時から責任を負うこととなっておりますので,仮に,債務者がずっと期限の到来に気付かなかった場合は,その債務者は永久に履行遅滞の責任を負わないということになりかねません。

そこで,新法では,債務者が期限の到来を知った時のみならず,客観的に期限が到来した後に,債権者から履行の請求を受けたときも,履行遅滞となり得る形で改正がなされました(なお。旧法下でも,このような解釈が一般的なものとされておりました)。

民法改正~善管注意義務~

未だコロナウイルスの感染は完全に収束したわけではありませんが,豊田の街は少しずつ元の日常が戻ってきているように感じます。

このまま順調に元どおりに戻って欲しいと願う毎日です。

さて,今回の民法改正のテーマは「善管注意義務」です。

「善管注意義務」は,善良な管理者の注意義務を縮めて呼称したものになります。

民法上,善管注意義務に関する規定は,留置物の占有に関するものや(新法第298条1項)や,委任契約における受任者の注意義務に関するもの(新法第644条)など,複数存在しますが,今回は,特定物の引き渡しに関する善管注意義務(新法第400条)を取り上げたいと思います。

ところで,そもそも「善良な管理者の注意って何?」という疑問が浮かぶ方も少なくないかと思われますが,これは「自己のためにするのと同一の注意」の反対概念であり,債務者の属する地位や職業等に応じて要求されるような注意のことを言うとされています。

例えば,AさんがBさんに自己の所有する著名な画家の絵画を売却するような事案ですと,当該絵画をBさんへ引き渡すまでの間,Aさんには当該絵画の保存について善管注意義務が課せられますので(新法第400条),たとえAさんが自分の物を乱雑に扱う性格であったとしても,Aさんは当該絵画に傷をつけたり汚したりしないように注意をして保存しておく義務を負うことになります。

それでは,旧法と新法の条文を見てみましょう。

旧法第400条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。

新法第400条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。

読み比べてみると,新法には,「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」との文言が追加されていることが分かります。

このような改正がなされたのは,善管注意義務の内容や程度は,各事案の個別の事情と無関係に一律に定められるものではなく,契約の内容や目的,債権発生に至るまでの具体的な経緯等の個別具体的な事情を考慮して定められるものであるという趣旨を明確にするためです。

 

民法改正~条件~

昨今,新型コロナウイルスの感染が拡大しております。

弁護士の仕事への影響も少なくなく,例えば,裁判が延期になったり,電話会議になったりしております。

皆様が新型コロナウイルス感染症に罹患しないことを心よりお祈り申し上げます。

 

唐突に話題は変わりますが,4月1日をもって,ついに改正民法が施行されました。

そこで,今までの記事では,改正前の民法を「現行民法」,改正後の民法を「改正民法」と呼称していましたが,今後は,改正前の民法を「旧法」,改正後の民法を「新法」と呼ぶようにしたいと思います。

今回は,「条件」について,お話いたします。

例えば,AとBさんが,「Aさんが大学に合格をしたら,BさんがAさんに100万円を贈与する。」という約束をした場合ですと,「Aさんが大学に合格をしたら」という部分が,「条件」となります。

ちなみに,民法には「条件」と似た概念として,「期限」というものがあります。

両者の違いは,「条件」が実現するかどうか不確実な事実であるのに対し,「期限」は将来必ず実現する事実であるという点にあります。

ですので,例えば,CさんとDさんが,本日(2020年4月14日)に「2020年12月31日になったら,DさんがCさんに100万円を贈与する。」という約束をした場合,「2020年12月31日」という部分は,「条件」ではなく,「期限」となります。

では,最初のAさんとBさんの例で,Aさんがカンニングをして大学に合格をしたという場合でも,BさんはAさんに100万円を贈与しなくてはならないのでしょうか。

この点について,旧法には特段の規定はありませんでしたが,新法では以下のような規定が設けられました。

新法130条2項
条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。

この規定により,先ほどの例では,Bさんは,カンニングをして大学に合格をした(不正に条件を成就させた)Aさんに100万円を支払う必要はないということになります。

民法改正~代理⑤(利益相反行為)~

改正民法が施行されるまで,あと1か月を切りました。

さて,今回取り扱う民法改正のテーマは「利益相反行為」です。

(ちなみに,弁護士法にも,「利益相反行為」に関する規定が存在します。機会があれば,いつか取り上げたいと思います。)

利益相反行為とは,一方の当事者にとっては利益となるものの他方の当事者にとっては不利益となる行為のことを言います。

現行民法においては,利益相反行為については,以下のような規制が設けられています。

現行民法第108条

同一の法律行為については,相手方の代理人となり,又は当事者双方の代理人となることはできない。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

この,「同一の法律行為について,相手方の代理人となること」を「自己契約」と言い,「同一の法律行為について,当事者双方の代理人となること」を「双方代理」と言います。

「自己契約」の例としては,Aさんが自分の所有する土地を売却する代理権をBさんに与えた場合に,Bさん自らが当該土地の買主となるようなケースが挙げられます(要するに,代理人(Bさん)が,代理権を与えた本人(Aさん)の相手方となる場合です。)。

「双方代理」の例としては,土地を売ろうとしているAさんの代理人であるBさんが,同時に買主であるCさんの代理人となるようなケースが挙げられます。

このような利益相反行為が規制されているのは,利害が対立する当事者間における法律行為について,代理人がその当事者双方に関与してしまうと,当該代理人に代理権を与えた本人に不利益をもたらす恐れが大きいからです(例えば,上の双方代理の場合,Bさんが,Aさんの意思に反して,土地を低額でCさんに売却する恐れが生じ得ます。)。

もっとも,自己契約や双方代理以外でも,本人に不利益を及ぼし得る利益相反行為は存在します。

例えば,過去の裁判例では,契約当事者の一方(Aさん)が相手方(Cさん)に自己(Aさん)の代理人の選任を任せ,それに基づき選任されたBさん(Cさんが選んだAさんの代理人)とCさんとの間で締結された契約について,現行民法108条を類推適用したものがあります(大審院昭和7年6月6日判決)。

そこで,改正民法108条では,以下のように,第2項が追加されました。

第1項
同一の法律行為について,相手方の代理人として,又は当事者双方の代理人としてした行為は,代理権を有しない者
がした行為とみなす。ただし,債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。

第2項
前項本文に規定するもののほか,代理人と本人との利益が相反する行為については,代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし,本人があらかじめ許諾した行為については,この限りでない。

ちなみに,ある行為が利益相反行為に該当するか否かは,代理人の意図や動機等とは関係なく,代理行為自体を外形的・客観的に見て当該行為が本人にとって不利益となるようなものではないかといった基準によって判断され,代理人に自己の利益を図る意図があるものの外形的・客観的には利益相反行為とは言えないようなものは,代理権濫用(改正民法107条)の規定の下,本人の保護が図られることとされています。

民法改正~代理④(表見代理)~

インフルエンザや新型コロナウイルスが流行っているようです。

弁護士が病気にかかると,裁判期日が空転してしまう等の迷惑がかかってしまいますので,健康管理には十分に気を付けたいと思います。

さて,今回のテーマは,「表見代理」です。

前回ご紹介したとおり,ある人物が,本人から代理権を与えられていないにもかかわらず,本人の代理人と称して取引を行うことは,「無権代理」と言います。

今回ご紹介する「表見代理」は,無権代理人にあたかも代理権が存在するように見える場合に,当該無権代理人が正当な代理権を有していると信頼した取引の相手方を保護するための制度です。

では,どのようにして取引の相手方が保護されるのかと言いますと,表見代理の要件を充たす場合は,正当な代理権が存在した場合と同様に,「本人」と「代理人と称する者と取引をした相手方」との間に,代理人と称する者が行った法律行為の効果が帰属することになるのです。

そして,現行民法においては,表見代理の制度により代理人と称する者と取引をした相手方が保護される場合として,以下の3つが規定されています。

⑴本人が,代理権を与えていない人物と取引をする相手方に対し,当該人物に代理権を授与した旨を表示した場合(代理権授与の表示による表見代理(現行民法109条))

⑵本人から代理権を授与された者が,その代理権の範囲を超えて代理行為をした場合(権限外の行為の表見代理(現行民法110条))

⑶代理人が,代理権が消滅した後に代理行為をした場合(代理権消滅後の表見代理(現行民法112条))

しかし,この3つだけでは,①代理権授与の表示がなされ,かつ,代理権を有しない者が行った行為が表示された代理権の範囲をも越える場合や,②過去に代理人であった者が代理権消滅後に過去に有していた代理権の範囲外の行為を行った場合は,条文を直接適用して対応をすることができません。

そこで,現行民法下においては,①の場合は,109条と110条を,②の場合は110条と112条を重ねて適用して(これを「重畳適用」と言います。),取引の相手方の保護を図っていました。

この点,改正民法においては,現行民法下において複数の規定の重畳適用で処理していたケースが明文化されました。

条文は,以下のとおりとなっています。

改正民法109条2項(①について)
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。

改正民法112条2項(②について)
他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う 。

 

民法改正~代理③(無権代理)~

少し遅くなりましたが,皆様,明けましておめでとうございます。

本年も弁護士法人心豊田市駅法律事務所をよろしくお願い申し上げます。

今年も,引き続き,民法改正について気の向くままにお話していきたいと思います。

さて,今回のテーマは「無権代理」です。

前回取り扱った代理権の濫用は,代理人が,本人から与えられた「代理権の範囲内」で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行った場合のことを言いました。

これに対して,無権代理とは,ある人物が,本人から「代理権を与えられていない」にもかかわらず,本人の代理人と称して取引を行うことを言います。

無権代理が行われた場合,本人の追認がない限り,原則として(←すなわち,例外があるということですが,それに関しては,後日お話させていただきます。),無権代理人の行った行為の効果は本人に帰属しません(民法113条,民法116条)。

そのため,本人が無権代理人のした行為を追認しなかった場合,原則として,無権代理人と契約をした相手方としては,予定していた契約の効果を得ることが出来なくなってしまいます。

このような場合,取引の相手方は,下記の規定に基づき,無権代理人の責任を追及することができます。

改正民法117条
第1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
第2項 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

このとおり,代理権を与えられていないにもかかわらず本人の代理人と称して取引を行った者(=無権代理人)は,あたかも本人であるかのようにして契約内容を「履行」するか,取引の相手方に生じた「損害を賠償する」という形で,責任を取らなくてはならなくなる可能性があるのです。

そして,この117条ですが,現行民法は以下のような規定となっています。

現行民法117条
第1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
第2項 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

改正民法との相違点は,以下のとおりです。

①改正後の規定では,「代理権が存在すること」,または,「本人の追認が存在すること」の証明責任が無権代理人にあることが明確になりまし(第1項同士を比較してみてください。)。

②改正後の規定では,取引の相手方が過失によって無権代理人が本人から代理権を授与されていないことを知らなかった場合でも,無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合は,無権代理人は責任を負うことになりました(改正民法117条第2項第2号の「但し書き」の部分が追加されました)。

民法改正~代理②(代理権の濫用)~

本日は,弁護士法人心豊田市駅法律事務所が入っているヴィッツ豊田タウンという建物全体の防災訓練でした。

弁護士法人心豊田市駅法律事務所は4階に入居させていただいているのですが,消防署の職員の方によると,もし矢作川が氾濫した場合は,3階あたりまで浸水するとのことです。

いざというときに慌てず迅速に対応ができるよう,心がけたいと思います。

さて,今回は「代理権の濫用」についてです。

前回の記事でもご説明をさせていただきましたとおり,代理人が本人のために法律行為を行うのが代理の基本的な形なのですが,中には,代理人が,本人から与えられた代理権の範囲内で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行う場合があり,これを「代理権の濫用」といいます(なお,代理権の範囲「外」の行為を行った場合は「無権代理」といいます。「無権代理」については,また後日ご説明したいと思います。)。

実は,代理権が濫用された場合に関する規定は,現行民法にはありません。

代理権を濫用された本人の立場からすると,代理人の行った法律行為の効果が本人に帰属するということは到底受け入れ難いことでしょう。

しかし,だからといって,代理権が濫用された場合に代理人が行った行為の効果が一律に本人に及ばないとしてしまうと,代理人と取引を行う相手方にとって困ったことが生じてしまいます。

なぜなら,代理人と取引をする相手方としては,代理人と行う取引が本人との間で有効に成立すると信頼しているのが通常であり,その代理人が内心で代理権濫用の意図を有しているか否かは容易にわかることではないため,代理権が濫用された場合に代理人が行った行為の効果が一律に本人に及ばないとしてしまうと,安心して代理人を介して取引を行うことができなくなってしまうからです。

この点,有名な最高裁判決である最高裁昭和42年4月20日判決は,代理権が濫用された場合でも,代理権の範囲内でなされた行為なのであるから,原則として,その効果は本人に帰属するとし,例外的に,取引の相手方において,代理人が代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行っていることを知っていた場合または知り得た場合には,代理人の行った行為の効果は本人に及ばないと判示し,本人の保護と代理人と取引をする相手方の保護のバランスを取りました。

そこで,改正民法では,この最高裁判決を踏まえ,「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において,相手方がその目的を知り,又は知ることができたときは,その行為は,代理権を有しないものがした行為とみなす。」という規定が設けられました(改正民法107条)。

なお,上記最高裁判決では,取引の相手方が代理人による濫用の意図を知っていた場合または知り得た場合の代理行為は「無効」とされていましたが,改正民法では「無権代理」とみなす,という処理になりましたので,本人が追認をすれば,契約時に遡って有効なものとして扱われますし(改正民法116条),代理権を濫用した代理人は,要件をみたす場合,無権代理人としての責任を負うことにもなります(改正民法117条)。

民法改正~代理①(代理の仕組み)~

ついこの前まで暑かったと思えば,急激に寒くなってきました。

豊田市駅付近でも,マスクをしていらっしゃる方をよく見かけるようになりました。

皆様,風邪をひかないよう,健康管理にお気を付けいただければと存じます。

さて,今回からは「代理」に関する改正の内容を何回かに分けてご紹介をしたいと思います。

そもそも,代理とは何なのか,という点ですが,民法99条1項は,代理について,以下のように規定しています。

「代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は,本人に対して直接にその効力を生ずる。」

例えば,Aさんが,Bさんに,Cさんから甲という壺を買ってきて欲しいと頼み,代理権を与えたとします。

この場合,Aさんが「本人」,Bさんが「代理人」となります。

そして,Bさんが,Cさんに対して,「Aさんのために甲という壺を売って欲しいです。」と申し込みをし,Cさんがこれを承諾した場合は,AさんとCさんとの間に直接売買契約が成立します(BさんとCさんの間に契約が成立するわけではありません)。

これが,代理という制度の大枠です。

このとおり,代理という制度は,代理人が本人のために法律行為を行うことが想定されているのですが,もし,代理人が,本人から与えられた代理権の範囲内で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行った場合はどうなるのでしょうか?

次回は,この点について,ご説明をしたいと思います。

民法改正~意思表示の効力の発生時期②~

先日,台風19号が上陸しましたが,皆様ご無事でしたでしょうか?

豊田市は風雨共にそこまで強くなかったという印象ですが,関東に住む友人からは,家が浸水した等の被害が生じたとの話を聞きました。

台風19号の被害に遭われた方が早く元の生活に戻ることができるように願っております。

さて,今回は,意思表示の効力の発生時期に関する改正の続きをお話したいと思います。

 

1 相手方が意思表示の到達を妨げた場合

現行民法には,意思表示の相手方が意思表示の到達を妨げた場合(例えば,表意者からの手紙を受け取らなかったような場合が挙げられます。)に関する規定は存在しません。

しかし,このような場合に,意思表示が相手方に到達していないものとして扱ってしまうと,意思表示の相手方が恣意的に意思表示の到達・不到達を操作できることになり,表意者と相手方との関係が公平なものではなくなってしまいます。

そこで,改正民法では,「相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは,その通知は,通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。」という明文の規定が設けられました(改正民法97条2項)。

 

2 相手方が意思能力を有していなかった場合等の意思表示の効力発生時期

現行民法98条の2本文は,「意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に未成年者又は成年被後見人であったときは,その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。」という形で,意思表示を受領する能力について規定しています。

改正民法においても意思表示を受領する能力に関する規定が存在するのですが,改正民法に「意思表示」に関する規定が設けられた関係(「意思能力」の規定については,過去の記事(http://www.lawyers-kokoro.com/nagoyashi/bengoshi-blog/690/)をご参照ください。)で,以下のような条文に改められました。

「意思表示の相手方がその意思表示を受けた時に意思能力を有しなかったとき又は未成年者若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。」(改正民法98条の2本文)

ただし,この規定に該当する場合でも,「意思表示の相手方の法定代理人」あるいは「意思能力を回復し,又は行為能力者となった相手方」が,その意思表示を知った場合には,それ以降,表意者は,当該意思表示の効力を相手方に対して対抗できます(改正民法98条の2但し書き)。

 

民法改正~意思表示の効力の発生時期①~

強い雨の降る日が続いております。

豊田市でも,先日,雨水で側溝が溢れかえっているのを目撃しました。

皆様,外出の際には,十分にご注意ください。

 

話は変わりますが,弁護士法人心の集合写真が新しくなりました。

よろしければ,一度ホームページにお立ちよりいただいて,ご覧いただけますと幸いです

(↓のリンクから飛ぶことが出来ます)。

http://www.kokoro-toyota.com/

 

さて,今回のテーマは「意思表示の効力の発生時期」についてです。

例えば,Aさんが遠方に住んでいるBさんの所持している絵を購入しようと考えているケースで,AさんがBさんに対して,絵を購入したいという申し込みをした場合に,その申し込みの効力は,Aさんが申し込みの意思表示をした時点で発生するのか(これを「発信主義」と言います。),それとも申し込みの意思表示がBさんに届いた時点で発生するのか(これを「到達主義」と言います),といった形で,意思表示の効力の発生時期が問題となります。

現行民法は,到達主義を原則としつつ(現行民法97条1項),隔地者間の契約における申し込みの承諾の意思表示については,早期に契約を成立させて承諾者がすぐに準備にとりかかれるようにする必要があるとの考えで,発信主義を採用しています(現行民法526条1項)。

現行民法526条1項の背景には,意思表示が到達するまでに時間がかかるという前提があるのですが,現在においては,電子メールや電話等,迅速かつ確実に意思表示の内容を相手方に伝える方法が整備されています。

そこで,改正民法においては,現行民法526条1項の規定が削除され,申し込みの承諾についても,到達主義が採用されることとなりました。

民法改正~詐欺~

台風10号が近づいているとのことで,豊田市も雨風が強くなってきております。

皆様,外出の際は十分にお気を付けください。

さて,今回のテーマは「詐欺」です。

 

まず,条文を見てみましょう。太字の部分が改正箇所です。

現行民法96条

1 詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。

2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知っていたときに限り,その意思表示を取り消すことができる。

3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができない。

改正民法96条

1 詐欺又は強迫による意思表示は,取り消すことができる。

2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知り,又は知ることができたときに限り,その意思表示を取り消すことができる。

3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

第2項については,第三者が表意者に対して詐欺を行ったことを取引の相手方が知らなかったとしても,取引の相手方において第三者が表意者に対して詐欺を行ったことを知ることができた場合は,取引の相手方よりも表意者を保護する必要性の方が高いという考えから,「知ることができたときに限りという文言が追加されました。

 

第3項については,詐欺に遭って意思表示をした者は,自ら積極的に虚偽の意思表示をした場合に比べ,責められるべき事情が小さいという考えから,詐欺による意思表示を前提として取引に入った第三者においては,善意(詐欺による意思表示であることを知らなかった場合)であるだけではなく,無過失(詐欺による意思表示であることを知らなかったことについて過失がない場合)でないと,保護を受けることができないように改正されました。

 

民法改正~錯誤②~

梅雨も本番といった天気ですね。

豊田市もジメジメとした日が続いております。

ストレスの溜まりやすい季節だと思いますので,上手く息抜きをしていただけたらと思います。

 

さて,前回は,「錯誤」の類型に関するお話を中心にさせていただきました。

今回は,「錯誤」に関するその他の改正部分について,見ていきたいと思います。

以下に,もう一度,現行の規定と改正法の規定を載せておきますので,適宜ご参照ください。

 

現行民法第95条

意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。

 

改正民法第95条

第1項 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤。

第2項 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。

第3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

第4項 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

第1 錯誤の要件に関する改正

現行民法は,意思表示が錯誤によって無効になる要件として,「法律行為の要素に錯誤があったとき」と規定しています。

ですが,「法律行為の要素に錯誤があったとき」とはどんな場合なのか,ピンとこない方も多いかと思われます。

そこで,改正民法では,この要件をより分かりやすいものとするため,「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」と改められました(改正民法95条1項柱書)。

 

第2 錯誤の効果に関する改正

現行民法においては,錯誤の効果は「無効」であるとされています。

それが改正民法では,「取り消し」に改められました(改正民法95条1項柱書)。

そもそも,法律上,「無効」と「取り消し」には,「無効」は最初からその法律行為がなかったものとして扱われるが「取り消し」はその法律行為を取り消すという意思表示があるまでは有効なものとして扱われる,「無効」は誰でも主張できるが「取り消し」は主張できる者が限定されている,「無効」には主張できる期間に制限がないが「取り消し」には主張できる期間に制限がある,などの違いがあります。

もっとも,現行民法の下でも,錯誤の規定は錯誤に基づいて意思表示をしてしまった表意者の保護のためのものなのであるから,錯誤無効は原則として表意者のみが主張できるものとされており(最高裁昭和40年9月10日判決),一定程度「取り消し」との類似点が存在していました。

この点については,改正民法では,「錯誤,詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は,瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができる。」(改正民法120条2項)という形で明文化され,原則として表意者のみが取り消しの主張ができるということが条文上明らかになりました。

 

第3 第三者保護に関する改正

現行民法95条には,錯誤によってなされた意思表示を信頼して取引関係に入った第三者の保護規定が存在しません。

しかし,表意者には,「錯誤に陥って真意ではない意思表示をしてしまった」という責められるべき事情がありますので,錯誤による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者がいる場合には,表意者よりも,この第三者を保護する必要性の方が高くなります。

そこで,改正民法では,「第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」という第三者保護規定が明文化されることになりました(改正民法95条4項)。

 

第4 錯誤が表意者の重大な過失によりなされた場合に関する改正

現行民法では,錯誤に基づいて意思表示をした者に重大な過失があった場合について,「表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。」と規定しています(現行民法95条但し書き)。

しかし,表意者に重大な過失が存在する場合でも,意思表示の相手方が,表意者が錯誤に陥っていることを知っていた場合や,重大な過失によって知らなかった場合は,意思表示の相手方を保護する必要性は高くありません。

また,意思表示の相手方が表意者と同じ錯誤に陥っている場合も,表示どおりの法律行為の効果を維持して相手方を保護する必要性は高くありません。

そこで,改正民法では,原則として,「錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,意思表示の取消しをすることができない。」としつつ,例外的に,「①相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。」や「②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。」には,意思表示の取消しができることとなりました(改正民法95条3項)。

民法改正~錯誤①~

6月になりました。もうすぐ梅雨ですね。最近は豊田市もジメジメとした空気が漂っています。

雨で事件記録を濡らさないように気を付けます。

 

さて,今回の民法改正のテーマは「錯誤」です。

「錯誤」に関する現行民法の条文は,以下のとおりです。

 

現行民法第95条

意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。

 

この条文が,今回の改正により,以下のように変わりました。

 

改正民法第95条

第1項 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤。

第2項 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。

第3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

第4項 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

パッと見てお分かりのとおり,条文がかなり長くなりました。

その大きな理由は,現行民法の下で条文解釈や判例法理によって補われていた部分が,改正民法では明文化されたためです。

以下,改正法の条文を,順番にご説明していきたいと思います。

 

まず,第1項についてです。

第1項 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤。

この条文の体裁からも分かるとおり,本条項による取消の対象となる錯誤は,「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」と「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」の2種類です。

「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」とは,言い間違いや書き間違いのように,意思表示の内容と真意が一致していないことを言います。

例えば,AさんがBさんに甲という土地を1000万円で売ろうとして契約書を作成したところ,金額欄に1000円と書いてしまったというような場合です。

この場合,甲という土地を1000円で売るという意思表示の内容(=契約書の記載)と,甲という土地を1000万円で売りたいというAさんの真意が一致していないため,「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」となります。

「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」とは,意思表示の内容と真意は一致しているものの,その基礎となった事実に誤解があることを言います。

例えば,Cさんが,Dさんが販売している乙というDさん作成の絵画を,著名な画家であるEさんが書いたものだと誤解して,「この絵画を購入します」と申し出て,乙という絵画を取得したような場合です。

この場合,「乙という絵画を購入します。」というCさんの意思表示の内容と,乙という絵画を購入したいというCさんの真意は,一致していますので,「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」には該当しません。

しかし,意思表示をするための基礎とした事情に関する認識(=乙という絵画の作者がEさんであると思った)が,真実(=乙という絵画の作者がDさんであった。)に反していますので,「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」に該当します。

もっとも,「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」の場合,意思表示の相手方(上記の例ではDさん)としては,表意者(上記の例ではCさん)が意思表示の基礎とした事情についてのその認識(=乙という絵画の作者がEさんであると思った)を窺い知ることが困難なケースも少なくありません。

そのため,「表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤」に基づく意思表示を,「意思表示に対応する意思を欠く錯誤」と同じ基準で取消可能としてしまうと,問題なく成立したはずの契約が思いもよらぬ事情によって後から覆されてしまう等というように,取引の安全が著しく害されてしまうおそれがあります。

そこで,改正民法第95条第2項は「前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。」と規定し,意思表示の取消ができるのを「意思表示の基礎とした事情が相手方に表示された場合」に限定しています。

そのため,先ほどの例では,Cさんは,Dさんに「乙という絵画の作者はEさんであると思うから,購入したい。」等という形で,意思表示の基礎とした事情を表示しておかなくては,改正民法95条に基づく意思表示の取消ができません。

ということで,今回は2種類の錯誤についてご説明させていただきました。

長くなってしまったので,残りのご説明は,次回の記事でさせていただきたいと思います。

 

民法改正~心裡留保~

超大型連休が終わってしまいましたね。

皆様,連休中はいかがお過ごしだったでしょうか?

弁護士法人心も,新規受付の方はお休みをいただいておりましたが,私は,特に平日と変わらぬ日々を過ごしておりました。

ということで,連休中の話題も特にないので,引き続き,民法改正のお話をしていきたいと思います。

今回は「心裡留保」についてです。

あまり聞きなれない言葉かと思いますが,心裡留保とは,「意思表示をする者が,意思表示の内容が自分の真意と異なっていることを認識しながら,当該意思表示を行うこと」を言います。

例えば,Aさんが,実際は甲という土地をBさんにあげるつもりがないのに,Bさんに「甲という土地をあげるよ」と言ったような場合がこれにあたります。

では,心裡留保を行った場合の法的な効果はどうなるのでしょうか。

なんと,心裡留保の場合,原則として,意思表示の効果は有効となります。

なぜなら,わざと真意と異なる意思表示をした者の保護ほ図る必要性が低いためです。

ですので,先ほどの例だと,原則として,AさんはBさんに甲という土地をあげなくてはなりません。

もっとも,BさんがAさんの真意を知っていた場合は,Bさんを保護する必要性もありませんので,現行民法93条但書は,「相手方が,表意者の真意を知り,又は知ることができたときは,その意思表示は無効とする。」と規定しています。

なお,細かい点ではありますが,相手方が「表意者の真意を知っていた」場合ではなくても,「なされた意思表示が表意者の真意ではないことをしっていた」のであれば,相手方を保護する必要性がないと考えられますので,改正民法93条1項但書では,「相手方が,その意思表示が表意者の真意でないことを知り,又は知ることができたときは,その意思表示は無効とする。」と規定されています。

では,AさんがBさんに甲という土地をあげるつもりがないということを,Bさんが知っていた場合,Bさんから甲土地を購入したCさんは甲土地を取得できるのでしょうか?

これまでに述べてきたことからすれば,BさんがAさんの真意を知っていた以上,A・B間の甲という土地の贈与は無効なのですから,CさんはBさんから甲という土地を取得できないように思えます。

これだと,A・B間の甲という土地の贈与が無効であることを知らずに,Bさんと売買契約を締結したCさんにとって極めて酷な結論となってしまいます。

しかし,現行民法93条には,Cさんのような第三者を保護する規定がありませんでした。

そのため,実務では他の条文を類推適用して,Cさんのような方を保護していました。

そこで,このような実務の取り扱いを踏まえ,今回の改正で,心裡留保に関する条文にも,第三者保護の規定が設けられることになりました。

改正民法93条2項は「前項ただし書の規定による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない」と規定しています(ちなみに,ここにいう「善意」とは,一般的に用いられる「好意」というような意味ではなく,「法律関係に関する特定の事情を知らないこと」を意味します)。

以上のとおり,不用意に真意と異なることを言ってしまうと,思わぬ不利益を被るおそれがありますので,注意するようにしてくださいね。

民法改正~公序良俗~

4月になり,新入社員と思われる方の姿をよく見かけるようになりました。身体と精神の健康に気を付けながら,お仕事を頑張っていただければと思います。

ちなみに,新人弁護士は12月や1月に登録することが多いので,企業に入社された方々とは,仕事を開始する時期が少し違います。

さて,今回の民法改正についてのテーマは「公序良俗」です。

そもそも「公序良俗」とは何かと言いますと,公(=社会)の秩序と善良の風俗(=日常生活におけるしきたりや習わし)のことです。

これでも抽象的すぎて分かりにくいですよね・・・。

例えば,過去の裁判例では,食品衛生法に反することを知りながら,有毒性物質が混入したアラレを販売する契約を締結したという事案において,この契約は公序良俗に反して無効であるとしたものがあります(最高裁昭和39年1月23日判決)。

このような社会正義に反する行為等が公序良俗に反するものとして無効となります。

では,現行民法と改正民法の条文を見比べてみましょう。

現行民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は,無効とする。」

改正民法90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は,無効とする。」

ほとんど一緒ですが,よく見ると,改正民法の条文では「事項を目的とする」という文言がなくなっています(なお,ここに言う「目的とする」とは,一般的な意味とは異なり,「内容とする」という意味で理解されています)。

この改正によって,賭博に使う目的であることを貸主に伝えた上で締結された金銭の消費貸借契約のように,その契約の内容自体は公序良俗に反しないものの,契約締結に至った過程や動機・目的を考慮すると公序良俗に反するというものも,公序良俗に違反して無効になり得るということが条文の文言から読み取ることができるようになりました。

現行民法の下でも,上記のような契約は公序良俗に反して無効とする判例は出ていました(最高裁昭和47年4月25日判決)が,この度の改正により,このような裁判実務の考え方が条文上明らかになった形です。

民法改正~意思能力~

少しずつ暖かくなってきた今日この頃ですが,皆様いかがお過ごしでしょうか。

今日は,しばらくお休みしていた民法改正の話をしたいと思います。

今日のテーマは「意思能力」です。

「意思能力」とは,自己の行為の結果を判断するに足りる能力のことを言います。

そして,意思能力のない人の行った法律行為は無効となるとされています(大審院判決明治38年5月11日)。

これは,「人は自己の意思に基づいてのみ権利を取得し,義務を負う」という私的自治の原則より導かれるものです。

もっとも,実は,現行民法には,意思能力のない人の行った法律行為は無効となるという趣旨の規定はありません。

それが,この度の民法改正により,明文化されることになりました(改正民法3条2項)。

明治38年の裁判例で判断されたルールが現在になってようやく明文化されることになったのは,今後,高齢化社会が進んでいくことが予想される中で,判断能力の低下した高齢者の方などが不当に不利益を被るのを防ぐことの必要性が高まっていくと考えられたためであるとされています。

非常に基本的な規定ではありますが,そうであるからこそ,普段の弁護士業務を行うにあたり,見落としてしまうことのないよう,気を付けたいと思います。