誕生日

こんにちは,名古屋の弁護士の田中浩登です。

本日,誕生日を迎えました。

今まで支えてくださった皆様に感謝いたします。

 

今後,さらに弁護士業務の研鑽を積んでいきたいと思います。

ブログの方も,日常に役立つ法律知識やフィクション作品を題材とした法律の検討等を書いていきますので,どうぞよろしくお願いいたします。

配転命令の有効性⑵

弁護士の田中浩登です。

前回に引き続き,配転命令の有効性について検討していきたいと思います。

 

「配転」とは,従業員の配置の変更であって,職業内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものをいうのであり,配転命令の有効性の問題は,長期的な雇用を予定した労働関係において問題になることが多いです。

以下のような事例では,配置転換命令は有効でしょうか。

 

「Xは,IT企業であるY社においてプログラマーとして正社員雇用された。しかし,数年後Y社は,会社の人員整理を考えて,Xについて自主的な退職をさせるため,Xに対し清掃員への配転命令を出した」

 

会社の配転命令権の根拠については,労働の場所・種類の決定を包括的に使用者(会社)に委ねる包括的合意に基づくとする考え方(包括合意説)や,労働契約の範囲において認められものであり,その範囲を超える命令の効力を認めるには労働者本人の同意が必要であるとする考え方(契約説)があります。

いずれの見解に立つとしても,配転命令の有効性については①配転命令権の存否(権限審査)と②配転命令権の存在が認められるとしても,その行使が濫用とならないか(濫用審査)の2段階で審査されることになります。

 

①配転命令権の存否については,個別契約で勤務場所や職種を限定することがまれであり,会社の就業規則上「業務の都合により出張,配置転換,転勤を命じることがある」といった配転条項が置かれているのが通例であることから,これが否定されることは多くはありません。

実際に配転命令権の存否が争われる場合には,「黙示の合意」や「契約解釈」といった主張がなされるのが通常です。

 

医師,看護師,自動車運転手,アナウンサーのようにその業務が特殊の資格,技能を有するものであった場合,当該労働契約は職種を限定したものと解釈されることが多かったが(日本テレビ放送網事件・東京地裁昭和51.7.23など),近時,裁判所は容易に職種限定を認めない傾向にあるようです(日産自動車村山工場事件・最判平成1.12.7など)。

 

事例について考えると,Xはプログラマーという特殊な技能を持つ者であり,Yの採用にあたってもプログラマーとして採用されたものと考えられます。

そうすると,会社の就業規則上,配転条項を定めていたとしても,YにはXにつきプログラマーから清掃員へと配転命令をする権限が存在するといえるのかは微妙なところといえます。

 

②仮に,配転命令権が認められるとしても,配転命令権の行使が濫用とならないか判断をする必要があります。

 

配転命令権の行使につき,濫用判断の枠組みを実務上確立したのが,東亜ペイント事件最高裁判決(最判昭和61.7.14)です。

同判決においては「転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきである」と判示し,「業務上の必要性」については、異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でないこと、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点を考慮すべきこととしています。

 

すなわち,配転命令の権利濫用の有無は,⑴業務上の必要性の有無,⑵不当な動機・目的の有無,⑶通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無等の観点から判断することになります。

 

事例について考えると,⑴社内の清掃は業務上必要なものではあるものの,プログラマーとしての技能を持つXに清掃員として働かせることが労働力の適正配置,業務の能率増進になるとは考えられず,Xの能力開発やY社の労働者の勤務意欲を高揚させるものとは考えられないから,そもそも「業務上の必要性」が認められないと考えられます。

また,仮に業務上の必要性があったとしても,⑵Y社の真の目的は,Xに清掃員として活躍してもらうことではなく,Xに自主的な退職をさせることにあるのであるから,不当な動機・目的が認められることは明らかです。

 

したがって,事例のような配転命令の有効性は否定されるものと考えられます。

 

以上,配転命令の有効性についての検討でした。

≪参照≫

荒木尚志『労働法[第2版]』

菅野和夫『労働法[第10版]』