民法改正~履行遅滞~

先日まで,コロナウイルス感染拡大の影響で,裁判も休廷が多くなっておりましたが,最近は徐々に開廷されるようになっており,弁護士業務も元通りになる兆しが見られます。ただ,まだ油断はできないので,慎重に行動をしていきたいと思います。

さて,今回のテーマは,「履行遅滞」です。

履行遅滞とは,債務者による債務の履行が,履行期に間に合わなかった場合のことを言います。

例えば,AさんがBさんに自分の所有する建物を令和2年6月30日までに引き渡す債務を負っていたというケースで,Aさんによる建物の引渡しが同日までになされなかったような場合が挙げられます。

履行遅滞となると,債務者は債権者に生じた損害を賠償しなくてはならなくなる可能性があります(損害賠償については,改めて取り上げたいと思います)。

履行遅滞に関しする条文は,以下のとおりです。

旧法第412条
1 債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

新法第412条
1 債務の履行について確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは,債務者は,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。

見比べてみると,不確定期限がある場合に関する第2項の文言が変わっていることが分かります。

不確定期限とは,いつかは必ず生じるけれども,いつ生じるかは分からない期限のことを言います(例えば,祖父母の死亡のような場合です)。

このとおり,不確定期限は,「いつ生じるか分からない事実」に期限の到来が左右されることになるため,客観的には期限が到来していたとしても,債務者が期限の到来に気付いていないという場合もあり得ます。

この点,旧法の条文だと,不確定期限があるときの履行遅滞は,債務者が期限の到来を知った時から責任を負うこととなっておりますので,仮に,債務者がずっと期限の到来に気付かなかった場合は,その債務者は永久に履行遅滞の責任を負わないということになりかねません。

そこで,新法では,債務者が期限の到来を知った時のみならず,客観的に期限が到来した後に,債権者から履行の請求を受けたときも,履行遅滞となり得る形で改正がなされました(なお。旧法下でも,このような解釈が一般的なものとされておりました)。