民法改正~善管注意義務~

未だコロナウイルスの感染は完全に収束したわけではありませんが,豊田の街は少しずつ元の日常が戻ってきているように感じます。

このまま順調に元どおりに戻って欲しいと願う毎日です。

さて,今回の民法改正のテーマは「善管注意義務」です。

「善管注意義務」は,善良な管理者の注意義務を縮めて呼称したものになります。

民法上,善管注意義務に関する規定は,留置物の占有に関するものや(新法第298条1項)や,委任契約における受任者の注意義務に関するもの(新法第644条)など,複数存在しますが,今回は,特定物の引き渡しに関する善管注意義務(新法第400条)を取り上げたいと思います。

ところで,そもそも「善良な管理者の注意って何?」という疑問が浮かぶ方も少なくないかと思われますが,これは「自己のためにするのと同一の注意」の反対概念であり,債務者の属する地位や職業等に応じて要求されるような注意のことを言うとされています。

例えば,AさんがBさんに自己の所有する著名な画家の絵画を売却するような事案ですと,当該絵画をBさんへ引き渡すまでの間,Aさんには当該絵画の保存について善管注意義務が課せられますので(新法第400条),たとえAさんが自分の物を乱雑に扱う性格であったとしても,Aさんは当該絵画に傷をつけたり汚したりしないように注意をして保存しておく義務を負うことになります。

それでは,旧法と新法の条文を見てみましょう。

旧法第400条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。

新法第400条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは,債務者は,その引渡しをするまで,契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって,その物を保存しなければならない。

読み比べてみると,新法には,「契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる」との文言が追加されていることが分かります。

このような改正がなされたのは,善管注意義務の内容や程度は,各事案の個別の事情と無関係に一律に定められるものではなく,契約の内容や目的,債権発生に至るまでの具体的な経緯等の個別具体的な事情を考慮して定められるものであるという趣旨を明確にするためです。