民法改正~代理④(表見代理)~

インフルエンザや新型コロナウイルスが流行っているようです。

弁護士が病気にかかると,裁判期日が空転してしまう等の迷惑がかかってしまいますので,健康管理には十分に気を付けたいと思います。

さて,今回のテーマは,「表見代理」です。

前回ご紹介したとおり,ある人物が,本人から代理権を与えられていないにもかかわらず,本人の代理人と称して取引を行うことは,「無権代理」と言います。

今回ご紹介する「表見代理」は,無権代理人にあたかも代理権が存在するように見える場合に,当該無権代理人が正当な代理権を有していると信頼した取引の相手方を保護するための制度です。

では,どのようにして取引の相手方が保護されるのかと言いますと,表見代理の要件を充たす場合は,正当な代理権が存在した場合と同様に,「本人」と「代理人と称する者と取引をした相手方」との間に,代理人と称する者が行った法律行為の効果が帰属することになるのです。

そして,現行民法においては,表見代理の制度により代理人と称する者と取引をした相手方が保護される場合として,以下の3つが規定されています。

⑴本人が,代理権を与えていない人物と取引をする相手方に対し,当該人物に代理権を授与した旨を表示した場合(代理権授与の表示による表見代理(現行民法109条))

⑵本人から代理権を授与された者が,その代理権の範囲を超えて代理行為をした場合(権限外の行為の表見代理(現行民法110条))

⑶代理人が,代理権が消滅した後に代理行為をした場合(代理権消滅後の表見代理(現行民法112条))

しかし,この3つだけでは,①代理権授与の表示がなされ,かつ,代理権を有しない者が行った行為が表示された代理権の範囲をも越える場合や,②過去に代理人であった者が代理権消滅後に過去に有していた代理権の範囲外の行為を行った場合は,条文を直接適用して対応をすることができません。

そこで,現行民法下においては,①の場合は,109条と110条を,②の場合は110条と112条を重ねて適用して(これを「重畳適用」と言います。),取引の相手方の保護を図っていました。

この点,改正民法においては,現行民法下において複数の規定の重畳適用で処理していたケースが明文化されました。

条文は,以下のとおりとなっています。

改正民法109条2項(①について)
第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。

改正民法112条2項(②について)
他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う 。