民法改正~代理③(無権代理)~

少し遅くなりましたが,皆様,明けましておめでとうございます。

本年も弁護士法人心豊田市駅法律事務所をよろしくお願い申し上げます。

今年も,引き続き,民法改正について気の向くままにお話していきたいと思います。

さて,今回のテーマは「無権代理」です。

前回取り扱った代理権の濫用は,代理人が,本人から与えられた「代理権の範囲内」で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行った場合のことを言いました。

これに対して,無権代理とは,ある人物が,本人から「代理権を与えられていない」にもかかわらず,本人の代理人と称して取引を行うことを言います。

無権代理が行われた場合,本人の追認がない限り,原則として(←すなわち,例外があるということですが,それに関しては,後日お話させていただきます。),無権代理人の行った行為の効果は本人に帰属しません(民法113条,民法116条)。

そのため,本人が無権代理人のした行為を追認しなかった場合,原則として,無権代理人と契約をした相手方としては,予定していた契約の効果を得ることが出来なくなってしまいます。

このような場合,取引の相手方は,下記の規定に基づき,無権代理人の責任を追及することができます。

改正民法117条
第1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
第2項 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

このとおり,代理権を与えられていないにもかかわらず本人の代理人と称して取引を行った者(=無権代理人)は,あたかも本人であるかのようにして契約内容を「履行」するか,取引の相手方に生じた「損害を賠償する」という形で,責任を取らなくてはならなくなる可能性があるのです。

そして,この117条ですが,現行民法は以下のような規定となっています。

現行民法117条
第1項 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明することができず、かつ、本人の追認を得ることができなかったときは、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
第2項 前項の規定は、他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、若しくは過失によって知らなかったとき、又は他人の代理人として契約をした者が行為能力を有しなかったときは、適用しない。

改正民法との相違点は,以下のとおりです。

①改正後の規定では,「代理権が存在すること」,または,「本人の追認が存在すること」の証明責任が無権代理人にあることが明確になりまし(第1項同士を比較してみてください。)。

②改正後の規定では,取引の相手方が過失によって無権代理人が本人から代理権を授与されていないことを知らなかった場合でも,無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた場合は,無権代理人は責任を負うことになりました(改正民法117条第2項第2号の「但し書き」の部分が追加されました)。