民法改正~代理②(代理権の濫用)~

本日は,弁護士法人心豊田市駅法律事務所が入っているヴィッツ豊田タウンという建物全体の防災訓練でした。

弁護士法人心豊田市駅法律事務所は4階に入居させていただいているのですが,消防署の職員の方によると,もし矢作川が氾濫した場合は,3階あたりまで浸水するとのことです。

いざというときに慌てず迅速に対応ができるよう,心がけたいと思います。

さて,今回は「代理権の濫用」についてです。

前回の記事でもご説明をさせていただきましたとおり,代理人が本人のために法律行為を行うのが代理の基本的な形なのですが,中には,代理人が,本人から与えられた代理権の範囲内で,代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行う場合があり,これを「代理権の濫用」といいます(なお,代理権の範囲「外」の行為を行った場合は「無権代理」といいます。「無権代理」については,また後日ご説明したいと思います。)。

実は,代理権が濫用された場合に関する規定は,現行民法にはありません。

代理権を濫用された本人の立場からすると,代理人の行った法律行為の効果が本人に帰属するということは到底受け入れ難いことでしょう。

しかし,だからといって,代理権が濫用された場合に代理人が行った行為の効果が一律に本人に及ばないとしてしまうと,代理人と取引を行う相手方にとって困ったことが生じてしまいます。

なぜなら,代理人と取引をする相手方としては,代理人と行う取引が本人との間で有効に成立すると信頼しているのが通常であり,その代理人が内心で代理権濫用の意図を有しているか否かは容易にわかることではないため,代理権が濫用された場合に代理人が行った行為の効果が一律に本人に及ばないとしてしまうと,安心して代理人を介して取引を行うことができなくなってしまうからです。

この点,有名な最高裁判決である最高裁昭和42年4月20日判決は,代理権が濫用された場合でも,代理権の範囲内でなされた行為なのであるから,原則として,その効果は本人に帰属するとし,例外的に,取引の相手方において,代理人が代理人自身あるいは本人以外の第三者の利益を図る目的で法律行為を行っていることを知っていた場合または知り得た場合には,代理人の行った行為の効果は本人に及ばないと判示し,本人の保護と代理人と取引をする相手方の保護のバランスを取りました。

そこで,改正民法では,この最高裁判決を踏まえ,「代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において,相手方がその目的を知り,又は知ることができたときは,その行為は,代理権を有しないものがした行為とみなす。」という規定が設けられました(改正民法107条)。

なお,上記最高裁判決では,取引の相手方が代理人による濫用の意図を知っていた場合または知り得た場合の代理行為は「無効」とされていましたが,改正民法では「無権代理」とみなす,という処理になりましたので,本人が追認をすれば,契約時に遡って有効なものとして扱われますし(改正民法116条),代理権を濫用した代理人は,要件をみたす場合,無権代理人としての責任を負うことにもなります(改正民法117条)。