自転車のベル②

前回、「自転車のベルを鳴らしてもよいときはいつか?」という話で、「警笛鳴らせ」の道路標識がある場合以外は、「危険を防止するためにやむを得ないとき」に限られるとお話ししました。

この「危険を防止するためにやむを得ないとき」の解釈ですが、例えば①前方に歩行者や自転車がいて通り抜けができない、という場合は、単に自転車を停止させて歩行者に「すみません!」などと話しかければよいだけなので、このような場合はベルを鳴らしてはいけないことが明らかでしょう。

次に、②前方にいた歩行者がいきなり立ち止まった、という場合、これもブレーキを掛ければ大抵は衝突を回避できるでしょうが(そもそも回避できないような車間距離で走行すること自体、あまり適切な走行方法とはいえないと思います。)、事情によりどうしても衝突を回避できない場合は「やむを得ないとき」にあたる可能性はあると思います。

そして、③前方に歩行者がいきなり飛び出してきた、という場合、あらかじめ適切な車間距離を開けておくことも難しく、ブレーキで回避することが困難な場合が多いと考えられるため、「やむを得ないとき」にあたると言えるのではないでしょうか。

結局、「やむを得ない」かどうかは、簡単に言えば「ちゃんと自分が安全運転で走行していたにもかかわらず衝突しそうになった場合で、かつブレーキで衝突を回避できないとき」と考えるのが無難かと思います。

自転車のベル①

弁護士の岡原です。

先日、歩道の左端を一人で歩いていたら、後ろから自転車にいきなりベルを鳴らされてびっくりしてしまいました。
右側はかなり広く空いており自転車の通行に何の問題もなさそうな状況だったため、なぜ鳴らされたのかさっぱり分からず、短気な私は心の中でムッとしてしまいました。

道路交通法54条2項によれば、自転車のベルや自動車のクラクションを鳴らすことについて、「車両等の運転者は、法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合を除き、警音器を鳴らしてはならない。ただし、危険を防止するためやむを得ないときは、この限りでない。」とあります。
上記の「法令の規定により警音器を鳴らさなければならないこととされている場合」とは、同条1項1号の「左右の見とおしのきかない交差点、見とおしのきかない道路のまがりかど又は見とおしのきかない上り坂の頂上で道路標識等により指定された場所を通行しようとするとき」と、同項2号の「山地部の道路その他曲折が多い道路について道路標識等により指定された区間における左右の見とおしのきかない交差点、見とおしのきかない道路のまがりかど又は見とおしのきかない上り坂の頂上を通行しようとするとき」ですので、いずれも「警笛鳴らせ」の道路標識がある場所に限られます。
では、上記に規定されたもう一つの場合である「危険を防止するためやむを得ないとき」とはどのようなときでしょうか。

少し長くなってしまったので、続きは次回へ!

流れるウインカー

少し前から、流れるウインカー(シーケンシャルウインカー)の自動車が増えてきています。
車種によっては、ぱっと見でどちらに曲がるのか分かりづらいものもあり、個人的にはあまり好きではありません。
特に、右左折や進路変更をしながらウインカーを出す運転手の方の場合、本当に視認しづらいので困ります。

道路交通法53条及び道路交通法施行令21条によれば、ウインカー(法令上は「方向指示器」)は、右左折又は転回する場合なら右左折又は転回する地点の30メートル前から合図をし、右左折又は転回が終了するまで合図を継続する必要があります。
(「30メートル前ってどれくらい?」と不安になる方もいらっしゃるかと思いますが、道路のペイント(ひし形や右左折の矢印)の位置を大体の目安にすることをお勧めします。)
また、進路変更(車線変更)の場合は、進路変更をする3秒前に合図をし、進路変更が終わるまで合図を継続します。

これらに違反した場合、合図履行違反として交通違反となるだけでなく、これが原因で事故となった場合は「合図なし」として過失相殺(10パーセント程度)される可能性もありますので、十分な注意が必要です。

75期司法修習

昨年の74期に引き続き、今年も75期の導入修習はオンラインで実施されるようです。

導入修習とは、司法試験に合格した司法修習生が各修習地で研修を行う前の事前学習として受ける修習のことで、例年は司法研修所で集まって行っていました。

導入修習は、同じクラスの修習生との顔合わせとしての役割も大きかったので、これがオンラインでとなってしまうと個人的にはきついな…と思ってしまいました。

年末調整

先日、年末調整で提出するために生命保険料控除証明書を電子データで取得しようとしたら、まずその保険会社のホームページでマイページ登録が必要で、マイページ登録をするためにはなんとか番号の入力が必要で、そのなんとか番号を取得するためには保険会社のフリーダイヤル(9時から17時)に電話してハガキを送ってもらわなければならず、そのハガキの発送には一週間程度かかるという、本当に今は令和なのか?と思ってしまう出来事に出くわしました。

こういった、「資料収集やたら手間と時間が掛かる問題」は弁護士業務上でもわりと生じるのですが、こういう問題もデジタル庁が解決してくれないかしら…などと思う今日この頃です。

勅令

先月の某日に確定したある刑事事件の判決により、にわかに「勲章褫奪令」が話題となりました。

これは、国から授与された勲章について、①必ず勲章がはく奪される場合、と②情状によりはく奪される場合を規定した勅令で、なんと最初に公布されたのは明治41年という驚きの年代ものです。

勅令とは、大日本帝国憲法下において、帝国議会の協賛を経ずに天皇の大権によって制定された命令をいい、「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」によって、日本国憲法下でも政令と同一の効力を有しています。

2021司法試験合格発表

先週の火曜日(9月7日)に、司法試験の合格発表がありました。

何と言っても今年は最年少合格者が18歳ということで話題になりましたね。

私が高校3年生の頃は、法学部に行きたいということは決まっていたものの、何となく法律の勉強がしてみたいなという漠然とした考えしか特になく、将来弁護士になりたいとか、司法試験を受験するぞということすら考えていなかったので、この若さで司法試験を受験しようと決意し、かつ合格に向けて努力を続けてこられたことに頭が下がる思いです。

運転中の通話はどこまでOKか(消極)

弁護士の岡原です。
先月梅雨が明けてから、東京は信じられないくらい暑い日が続いています。
こんなに暑いと、体温が上がってお店の入り口の検温器に引っかかってしまわないかとすら思ってしまいます。

ところで、交通事故の案件を普段取り扱っていると、加害者側がスマートフォンを操作していたり、通話中だったりといった事故が少なからずあります。
令和元年12月1日に施行された道路交通法の改正により、運転中にスマートフォンを使用した場合、交通事故を起こさなくても罰則が6月以下の懲役又は10万円以下の罰金となり、反則金も普通車の場合1万8000円と以前の3倍の金額に、違反点数も1点から3点へと引き上げられました。
交通事故を起こした場合はより罰則が強化されており、この場合は反則金制度の適用がなく罰則のみとなり、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金、違反点数も6点と一発で免許停止になります。

このような罰則強化を受けてか、家電量販店やカー用品店では運転中の通話に関してBluetoothやハンズフリーイヤホンなどの活用が推奨されているようです。

ところが、個人的には、ハンズフリーであれ何であれ、運転中の通話は行うべきではないと考えています。
理由は以下のとおりです。

①両耳にイヤホンを装着した状態での運転は、車外の音が聞こえにくくなり危険の察知に時間を要する恐れがあります。
また、東京都の場合、東京都道路交通規則第8条5号により、「高音でカーラジオ、またはイヤホンなどを使用してラジオを聞くなどによって安全な運転に必要な交通に関する音、声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと」と定められており、音量によってはこれに該当して違法となる可能性もあります。
特に、車内は外部の走行音などで意外とうるさく、通話音声を聞き取りやすくするために音量を調整するとかなりの大きな音量となってしまうことがありますので、上記規定に該当する可能性は十分にあります。

②片耳にイヤホンを装着した状態での運転の場合、片耳から車外の音が聞こえるので安全のようにも思われますが、通話中の相手の声を聞きながら車外の音にも気を配り、視覚で安全を確認し…といったように、複数の高度な処理を一度に行うと、一つ一つの処理能力が格段に落ちてしまうのが人間の仕様です。
特に、通話は身振り手振りや表情などの視覚情報がなく、会話内容と声のトーンだけで会話を進めていく必要があるため、助手席の人と会話しながら運転しているよりも集中力をより要します。
(アメリカの心理学者アルバート・メラビアン博士による「メラビアンの法則」によると、相手に伝わるのは言語情報(話の内容、言葉そのもの)がわずか7%で、聴覚情報(口調や速さ、声の質)が38%、視覚情報(見た目や視線、表情)が55%と言われています。つまり、声のトーンや間、言い方、会話のテンポなどの「周辺言語」や、顔の表情、腕組みなどの「しぐさ」といった言葉以外の「非言語的な要素」が、相手との意思疎通に非常に大きな役割を果たしているのです。)
そのような状態で想定外の事態が起こった時、いつもどおりとっさに適切な車両操作が可能かと言われると、正直私は首を傾げざるを得ません。
これは、車載Bluetoothハンズフリースピーカーを利用して通話する場合も同じです。

③イヤホンであれBluetoothハンズフリースピーカーであれ、通話開始時と通話終了時には携帯電話またはカーナビ画面の操作が必要です。
操作自体はものの数秒で終わるかもしれませんが、自動車がその数秒の間に何メートル進むか考えたことはあるでしょうか。
一般道の法定速度である時速60kmの場合、換算すると秒速16.7mとなります。
操作に2秒しか掛からなかったとしても、その間に33.4mも進んでしまいますので、前方の車両が停止したことに気付かず追突したり、後方をあまり確認せずに進路変更してくる車両と衝突したりすることは十分にあります。
また、危険な状況を認識してからブレーキを踏み、実際に車両が停止するまでにはラグがあります。
時速60kmの場合の、危険を認識してから実際に車両が停止するまでの距離(これを停止距離といいます)は44mと言われており、道路が濡れている場合はこれよりも停止距離が長くなります。
したがって、2秒間前方から目を離し、顔を上げて危険を察知してから車両が停止するまでは、単純計算で77.4mも進んでいることになります。
自分の意思とは関係なく77.4mも車両が動くなんて、周りからしたら怖すぎます。

正直なところ、運転中にすぐ出ないといけないような緊急性の高い通話なんて一年に一回もありません。
大して重要でもない通話に出たがために交通事故を起こし、刑事罰と免停をくらって社会的信用を落とすくらいなら、電話の相手から遅いと嫌味を言われたとしても安全な路肩に停まってから折り返したほうが良いと思いませんか?

鳩と鳥獣保護法

今週に入ってから、東京は雨の日が多くなってきました。
いきなり土砂降りのようにかなり強く降りはじめることもあり、先日それが外出時間にちょうど当たってしまって傘を差していても全身びしょ濡れになってしまいました。
私の子どもの頃の梅雨の印象といえば、シトシトと雨が何日も降り続くというイメージで、土砂降りとなるのは真夏になってからという感覚だったのですが、気候の変化なのか、昔の記憶を美化(?)しているのか、果たしてどちらなのでしょうか。

ところで、私の自宅周辺はなぜかムクドリやヒヨドリ、鳩などが多く、毎朝ヒヨドリの甲高い鳴き声や、鳩のポーポポッポポーというあの特徴的な鳴き声で目が覚めます。
ちなみに、先ほどの鳩の鳴き声は、オスがメスに対して行う求愛の鳴き声らしく、求愛があんな間の抜けた鳴き方でいいのかなと少し心配になってしまいました。

そんな鳩などの野鳥ですが、鳴き声がうるさい、ベランダに巣を作って困るなどの理由で個人が駆除をすることは、鳥獣保護法(正式名称は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」といいます。)8条で禁止されています。

条文は以下のとおりです。
(鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の禁止)
第八条 鳥獣及び鳥類の卵は、捕獲等又は採取等(採取又は損傷をいう。以下同じ。)をしてはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。
一 次条第一項の許可を受けてその許可に係る捕獲等又は採取等をするとき。
二 第十一条第一項の規定により狩猟鳥獣の捕獲等をするとき。
三 第十三条第一項の規定により同項に規定する鳥獣又は鳥類の卵の捕獲等又は採取等をするとき。

もっとも、この条文を見るに、野鳥がベランダなどに巣を作ってしまった場合、その巣に野鳥も卵もいないタイミングであれば個人でも巣を撤去することは問題ないということになりそうです。
また、許可を受けた業者さん等であれば駆除をすることができます。



なぜ私がこんな話をしているかと言うと、実は我が家のベランダには鳩のカップルが巣を作っており、ただ今絶賛子育て中なのです。
鳩が巣を作っていることに気付いたとき、先の鳥獣保護法の規定を調べ、撤去するなら卵を産んでいない今のうち…と思っていたのですが、どうしても踏ん切りがつかず、こっそりと見守っているうちに卵を2個産み、卵が孵って小さな雛が生まれ、今ではまだ飛べないもののだいぶ大きく成長しました。

もちろん、近隣に迷惑とならないよう、糞(夫婦交代で巣にやってくる親鳥は、ほかのところでトイレを済ませているようなのですが、一日中巣にいる雛たちは巣でトイレをするので、一日で糞がかなり溜まってしまいます。)はこまめに掃除しなければならず、なかなか大変ですが、それ以外は鳴き声がうるさいといったこともなく、意外と難なく同居ができています。

雛の黄色かった羽が抜けて段々とグレーの羽に生え代わり、少しずつキリっとした顔の成鳥になっていく様子を観察するのは、なかなか感慨深いですよ。

人によっては羽毛によるアレルギーの問題などもあるそうなので、あまりおすすめはできませんが、もし鳩などの野鳥がベランダ等に巣を作ってしまったら、やさしく見守ってあげてもよいかもしれません。

運転中に水たまりの水を歩行者に掛けてしまったら?

東京は雨の日も多くなってきましたが、まだ梅雨入りはしていないようです。
例年は今頃梅雨入りなので、今年は少し遅いのかもしれませんね。

私の勤務する池袋法律事務所は、池袋駅から地下道を通って事務所のすぐ近くまで雨に濡れずに行けるので、ご来所いただくお客様にも大変便利かと思います。
(くせ毛で湿気に弱い私の髪の毛にも大変ありがたい立地です。)


東京ではでこぼこした道がだいぶ減り、道路に大きな水たまりができることも少なくなりましたが、郊外などでは車両が道路上の水たまりの上を減速せずに走行し、泥水が盛大に撥ねているところをまれに目にします。

私が小学生のころにも、通学途中ダンプカーに水を掛けられて制服がびしょびしょになり、着替えにとぼとぼと帰宅したことがありました。

この「泥はね運転」は、道路交通法71条1項に車両等の運転者が守らなければならない事項として、「ぬかるみ又は水たまりを通行するときは、泥よけ器を付け、又は徐行する等して、泥土、汚水等を飛散させて他人に迷惑を及ぼすことがないようにすること。」と規定されています。

上記の違反に罰則は定められていませんが、道交法施行令別表第六で反則金が定められています。

ちなみに、この反則金は刑事罰である罰金とは異なり、いわゆる「青切符」(交通反則告知書)に基づいて行政処分として課せられるものです。

泥はね運転の反則金は、大型車が7000円、普通車又は二輪車が6000円、原付者が5000円です。

司法試験と弁護士の能力

5月12日と13日、15日と16日に、2021年度の司法試験が行われました。
去年は新型コロナウイルスのため試験が8月に延期となっており、いまだ東京をはじめとした複数の都市で緊急事態宣言が出されているなか今年は大丈夫なのだろうかと心配していましたが、例年どおりに実施されたようです。

去年の出願者数が4226人、受験者数が3703人と、新司法試験となって受験者数が初めて4000人を割り込んだことが話題になりました。
ところが、今年は出願者数が3754人、受験者数はまだ発表されていませんが受験予定者数が3733人だそうで、すでに出願者数が4000人を割り込んでいることにショックを感じました。
私が受験したころは受験者数が8000人台だったので、その半分以下になってしまっているようです。

なぜ受験者数が減ったかについては様々な要因があるとは思いますが、その一因として、「新司法試験になって合格者の質が下がった!」などと言われ、新司法試験合格者は旧司法試験合格者と比べて能力が劣っているかのような見方が出てきたこともあるのではないかと思います。

もっとも、私は新司法試験合格者全体として、旧司法試験合格者全体より能力が低いとは思いませんし、実際に実務に出てからの能力と司法試験での成績にそこまでの相関関係があるとは思っていません。
司法試験で判断できるのは、限られた短時間でいかに正確な法律構成ができるか(+いかに早く字が書けるか)という能力だけですが、その能力だけで業務を行うことは不可能です。

少なくとも弁護士業務に限っていえば、依頼者様の気持ちや考えをどのようにくみ取るかという能力や、相手の立場も考慮しつついかにこちらの交渉を有利に進めていくかという能力のほうがよほど重視されます。

なので、弁護士に依頼しようと考えた際の弁護士に選び方について、「この弁護士は新司法試験合格者だからやめておこう。」とか、「新司法試験だけど予備試験合格者だから優秀だ。」とか、「この弁護士は旧司法試験を上位合格しているから安心だ。」とかは全くあてにならないと思ってください。
それよりも、信頼できる人の口コミや、実際にその弁護士と話したときのご自身の印象などを参考にしたほうがよほど信頼性は高いと思います。

給与が減少していないと逸失利益はもらえないのか⑤

最近の東京は暖かい日が多く、上着が要らないのではないかと思う日すらあります。
この暖かさのせいか、多くの桜が満開を過ぎて散りかけてしまっています

何か月かにわたりお届けしている「給与が減少していなくても逸失利益が認められる場合」についてですが、前々回と前回にわたって、①減収不発生が一時的であること、②昇進昇給における不利益があること、③業務への支障が生じていること、④退職転職の可能性、⑤勤務先の規模、存続可能性、⑥本人の努力、⑦勤務先の配慮の7点をお話ししました。

これらを踏まえて、①から⑦の事情があることを証明するためにはどうすべきかについてですが、①は例えば残業時間が増えたことが原因であるならば、給与明細の写しやタイムカードの写し、ご自身で残業時間を毎日記録したメモや日記などで残業時間を明らかにするといった方法があります。

②、③、⑥、⑦については、ご自身で普段からメモのような形で日々の支障についてなどを残しておき、後で文章にまとめて陳述書にする方法があります。
さらに、ご自身で作成した書面のみだと客観性に欠け証拠として弱いため、可能であれば勤務先の上司や人事担当者にも陳述書をお願いできればベストです。

給与が減少していないと逸失利益はもらえないのか④

弁護士の岡原です。


何か月かにわたりお届けしている「給与が減少していなくても逸失利益が認められる場合」についてですが、前回は①減収不発生が一時的であること、②昇進昇給における不利益があること、③業務への支障が生じていること、の3点をお話ししました。
今回も引き続き、裁判所が考慮要素としている点をお話しいたします。

④ 退職転職の可能性
後遺障害により業務に支障があり、今後も継続して勤務することが難しく、今後退職または転職する可能性がある場合は、将来の減収の発生を推認させる事実となります。
これは、退職して無職になれば収入がゼロになりますし、転職するとしても後遺障害の存在が再就職で不利になったり、転職できたとしても後遺障害がない人と比べて雇用条件が劣ったりする可能性があり、逸失利益を認める方向の考慮要素となります。

⑤ 勤務先の規模、存続可能性
勤務先で人員整理(リストラ)が行われる可能性が高いこと、勤務先の経営不振、小規模で経営基盤が盤石といえないこと等は、被害者が今後再就職を余儀なくされる可能性が高いこと、そしてその再就職の際に後遺障害が不利に働き減収が発生する可能性が高いことを推認させる事実であり、逸失利益を認める方向の考慮要素となります。

⑥ 本人の努力
痛みなどの症状に耐えながら勤務を継続していることや、症状の軽減悪化防止のための努力をしていること、業務上のハンディキャップをカバーするための努力をしていること、業務をレベルアップさせるための努力をしていることは、これらの本人による特別な努力がなければ減収が発生していたことを推認させる事実であり、逸失利益を認める方向の考慮要素となります。
努力の内容としては、例えば症状軽減のため毎日長時間のリハビリを継続していること、後遺障害による影響をカバーするため平日の夜や土日を返上して残業し仕事をしていること、利き手が麻痺しているため左手で文字が書けるように練習していること、事故後難関資格を取得して転職したことなどがあります。

⑦ 勤務先の配慮
後遺障害により業務に支障が生じているにもかかわらず減収が生じていないには、勤務先の配慮や温情によるものである可能性があります。
例えば、勤務先が被害者の後遺障害に配慮して適正な職場に配置してくれたり、適切な支援をしてくれたりすることで減収を免れている場合、勤務先の経営状況や経営方針、人事異動によってはそのような配慮が打ち切られて減収が発生する可能性があることから、そのような配慮があるという事実は逸失利益を認める方向の考慮要素となります。

給与が減少していないと逸失利益はもらえないのか③

先月は雪が降った日もあったのに、今日(2月22日)の東京は最高気温23度と、まるで初夏のような暖かさとなりました。
こんなに気温の変動が激しいと、毎朝どの上着を着ればよいのか迷ってしまいます。

さて、数回にわたってお話ししてきた「給与が減少していなくても逸失利益が認められる場合」についてですが、今回は前回ピックアップした2つの裁判例以外の裁判例で、考慮要素とされている点を、今回から何回かに分けてお話しいたします。

① 減収不発生が一時的
「事故後減収がない」というのは、大抵の場合は示談段階において減収が発生していないというだけであり、今後もずっと減収が発生しないことを意味するものではありません。
例えば、事故による後遺障害の影響で仕事のパフォーマンスが落ち、査定自体は下がってしまったが、事故前に被害者が獲得した大型契約によって一時的に売上が上昇し、結果的に事故後の給与が増加したといった場合、後遺障害による影響がなかったから減収が発生しなかったわけではありません。
また、このような給与の増加はあくまで一時的なものである可能性があり、今後も継続する見通しがない場合は、逸失利益が認められる可能性があります。

② 昇進昇給における不利益
事故後現時点ですでに昇進や昇給に遅れが生じている場合や降格となったこと、事故により昇進試験を受験できなかったことといった事情がある場合は、まだ減収として表れていないとしても、実質的には経済的不利益が生じているとみることができます。
また、後遺障害のため特定の業務に就くことができなくなり、その結果将来の昇進が困難となった場合も、逸失利益を認める方向の考慮要素となります。

③ 業務への支障
まだ減収が生じていなかったとしても、後遺障害により実際の業務に支障が生じている場合は、将来の減収の発生を推認させる事情となります。
また、後遺障害のため配置転換を余儀なくされた場合は、本人の経験や実績、意欲を十分に発揮できる業務に従事できなくなる結果、本来得られたはずの収入を得られない可能性が高まるとして、これも逸失利益を認める方向の考慮要素となります。

次回に続きます。

給与が減少していないと逸失利益はもらえないのか②

昨日、東京(池袋)ではほんの少しだけ雪が降りました。

長い時間ではなかったのですぐに溶けてしまいましたが、真っ白な雪が積もる光景はいくつになっても心が浮き立つものですね。

 

前回に引き続き、交通事故によって後遺障害が残ったが現実の収入が減少しなかった場合の逸失利益の話をしたいと思います。

最高裁判決によれば、①後遺障害の程度が比較的軽微、②職業の性質上、現時点で収入が減少していない、または将来も減少しないと考えられ、③特段の事情(例として、㋐本人の特別の努力、㋑今後昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれなど)もない、といった場合には、逸失利益が認められない場合があるとお話しました。

収入減少がなくても逸失利益が認められた場合の具体的事例として、いくつか裁判例をご紹介したいと思います。

 

1 札幌地裁平成7年10月20日判決

これは、事故により後遺障害1級3号(現在は1級6号「両下肢の用を全廃したもの」、労働能力喪失率100%)となった方が、公務員である復職後も収入減少がなかったとして逸失利益が争われた事例です。

判決によると、「交通事故後短期間のうちに収入の減少が生じなかったとしても、そのことから将来にわたっても収入減が生じないものと速断するのは相当でなく、被害者が後遺障害による労働能力の低下のために将来の昇進、昇給や転職に当たって不利益を受ける蓋然性が認められる場合等には、将来における減収を認定することができるものというべきである」とし、

・事故により車椅子生活となったことで屋外の現場に出られなくなったこと、

・勤務先の試験に合格し移動を希望しているが移動先の職員の負担が増えるため、それらの職員との間の人間関係の調整が必要となる等の問題が生じる可能性もあること

などを挙げ、「原告が将来の昇進、昇給や転職において不利益を被るおそれも予測されるものというべきであり、したがって、原告に将来における収入の減少が認められないとは断言できず、原告には、その労働能力の喪失を理由とする財産上の損害の発生を認めるのが相当」と判断しました。

 

2 京都地裁平成29年2月22日判決

これは、事故により後遺障害9級10号(高次脳機能障害)となった方が、事故後に減収が生じていないことを理由に逸失利益が争われた事案です。

判決によると、

・本件事故による後遺障害として記憶障害が残存するため、プラスチックの種類等の物品名(被害者はプラスチック製造業に従事)だけでなく、人物名等固有名詞も覚えることができない状態であること

・本件事故後勤務先に復帰した際、勤務先において指示を貼紙にする等原告甲野の後遺障害を慮った措置があり、現在では前記貼紙はないものの、原告甲野本人が記憶喚起のために指示等をノートに記載していることが認められること

などを挙げ、「本件事故後、減収が生じていないのは勤務先の配慮や原告甲野本人の努力によるものであり、前記後遺障害のために将来の昇進や再就職において不利益な扱いを受ける可能性を否定できず、将来にわたって減収が生じない状態が継続するとはいえない」と判断しました。

給与が減少していないと逸失利益はもらえないのか①

弁護士の岡原です。

先日、お店の入り口で体温を測ったところ、まさかの32度と出たにもかかわらず、店員さんに爽やかな笑顔で「はい大丈夫です!」と言われました。
私はこういうときに、果たしてこれが天然なのか、ツッコミ待ちのボケなのか未だに判断できません…。

話は全く変わりますが、交通事故で後遺障害が認定されるような大きな怪我をされた方でも、幸いにして事故前と事故後を比較して収入が下がっていないケースがあります。
そのような場合に、よく相手方保険会社は「判例によれば、収入の減少がない場合には後遺障害逸失利益は出せません。」と言ってくることがあり、こんなに毎日つらい思いをしているのに納得できない!と当法人にご相談いただく被害者の方はとても多くいらっしゃいます。

 

相手方保険会社が指摘する「判例」とは、昭和56年12月22日判決のことを指しているかと思います。
この判例では、「かりに交通事故の被害者が事故に起因する後遺症のために身体的機能の一部を喪失したこと自体を損害と観念することができるとしても、その後遺症の程度が比較的軽微であって、しかも被害者が従事する職業の性質からみて現在又は将来における収入の減少も認められないという場合においては、特段の事情のない限り、労働能力の一部喪失を理由とする財産上の損害を認める余地はないというべきである。」としています。
つまり、単純に収入が減っていない=逸失利益なし、というわけではなく、①後遺障害による支障が軽微、②職業の性質上、現時点で収入が減少していない、または将来も減少しないと考えられ、③特段の事情もない、といった場合には、逸失利益が認められない場合があるということです。

さらに、「特段の事情」については、「後遺症に起因する労働能力低下に基づく財産上の損害があるというためには、たとえば、事故の前後を通じて収入に変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであつて、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、労働能力喪失の程度が軽微であつても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情の存在を必要とするというべきである。」

では、具体的にどのような場合には収入減少がなくても逸失利益が認められる可能性があるのかについては、次回のブログで解説したいと思います。

国選とお歳暮

弁護士の岡原です。

先日、弁護士会の倫理研修がありました。
これは、一定の年次の弁護士に受講が義務付けられているもので、本来は弁護士会館で直接講義を受ける形式のものなのですが、昨今の情勢からオンラインで講義を受講し、その後試験を受けて合格しなければならないという形式のものに変わりました。

この試験の中に、国選事件の依頼者から物品や金銭を渡されたという設定の設問があり、以前お受けした国選事件での出来事を思い出してしまいました。

前提として、国選事件の場合、依頼人である被疑者、被告人やその他の関係者から、名目のいかんを問わず一切の報酬や対価を受け取ってはいけないこととなっています(弁護士職務基本規程49条1項)。
(国選弁護人の報酬は国から出ます。)
そして、この対価にはお金だけでなく物品やサービスの受領も含まれ、大変厳格に解されることとなっています。

私が以前お受けした国選事件で、受任直後に被疑者のお母様が事務所にいらっしゃったことがありました。
相談室にお通しした際に、お召し物に似合わない大きな袋をお持ちだったのでどうしたのだろうと不思議に思っていたところ、これを受け取ってほしいと果物の詰め合わせを手渡されてしまいました。

もちろん受け取ることはできないのでお断りすると、「国選弁護人の報酬はとても少ないと聞きました。先生には何としても息子の無罪を勝ち取っていただきたいので、受け取ってください。」とその方はおっしゃったのです。

私はこれを聞いて、「一般の方は、弁護士のことを報酬が少ないと手を抜き、報酬が多いと頑張ってくれると思っているのか。」と、悲しいような情けないような気持ちになりました。
実際に、インターネットで国選弁護人について検索してみると、国選弁護人はやる気がないから私選弁護人に変えたほうがいいなどと言った書き込みが多く見られます。

個人的な意見ではありますが、国選弁護人一般が(報酬が少ないから)やる気がないのではなく、報酬の多寡にかかわらず単にその弁護士にやる気がないのだと思います。
通常の弁護士は、綺麗事などではなく、国選だろうが私選だろうが被疑者の身柄開放や被告人の無罪獲得などに向けて全力で活動しています。
(もし本当に報酬にこだわるのであれば、そもそも国選事件を受けないと思います。)
ですので、一部のやる気のない弁護人の活動で、国選弁護人全体がこのような思われ方をするのは、とても悲しいことだと思います。

結局、その方には上記のことをご説明し、心苦しくはありましたが果物はお持ち帰りいただきました。

折しも、そろそろお歳暮のシーズンになってきました。
もし、このブログをご覧の方で、国選弁護人にお歳暮を贈ろうと思っている方がいらっしゃいましたら、申し訳ないですが止めていただくようお願いします。
お手紙を一枚いただくほうが、弁護士にとってはよほどうれしいと思います。

自転車運転について②(自転車保険の徹底)

近年,各都道府県が自転車保険への加入を義務付ける条例を設けるケースが増えており,東京都でも2020年に同内容の条例が設けられました。

ところが,まだまだ加入率は高くないようで,調査によると2019年度の自転車保険加入率は条例で自転車保険の加入を義務づけている自治体で65.6パーセント,非義務化地域で49.6パーセント,全国平均では57.3パーセントとなっているようです。
ちなみに,東京都は50.6パーセントで全国26位となっています。

自転車と歩行者の事故の場合,歩行者が大けがとなって高額の賠償を命じられるケースもあります。
当時小学校5年生だった少年が乗った自転車と歩行者との衝突事故で,少年の母親に約9500万円もの賠償が命じられた事件(神戸地裁H25年7月4日判決)は,当時ニュースでも取り上げられたため記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。
もし無保険の場合,このような多額の賠償金を支払える方は非常に少ないでしょうから,被害者は泣き寝入りに,加害者は全財産を失うという最悪の事態になりかねません。

そこで,前回の防犯登録の話に戻りますが,各個人の任意保険加入に頼るのではなく,防犯登録時に強制的に保険に加入させるシステムにしてはどうでしょうか。
(前回のブログはこちら)

講習時に自転車保険が有効期限内であることが分かる書類を提出させることで,知らない間に切れていたということを防ぎます。
また,講習を受けた回数に応じて保険料が安くなるようにし,講習にいったほうがお得になるようにします。
さらに,できれば自動車のように,自賠責未加入の場合は罰則を定めるというところまですべきかと思います。

自転車運転について①(ルールの徹底についての私見)

弁護士の岡原です。

先日,信号のある横断歩道を渡ろうとしたところ,車道を右から信号無視で走ってきた自転車に轢かれそうになってしまいました。
かなりのスピードで突っ込んできたので,もしぶつかっていたら双方無傷では済まなかったのではないかと思います。

実は,このようなシチュエーションで轢かれそうになったことは初めてではなく,多いときは月に2~3回出くわすことすらあります。

さらに,これ以外にも自転車の危険な運転を目にすることは非常に多く,ひやっとした経験は数多くあります。
実際,私は普段の業務で交通事故の案件を多く取り扱っていますが,なかでも自転車事故は多く,中にはルール違反の走行方法によって引き起こされたものも少なくありません。

 

自転車での走行にルール違反が多い理由としては,乗り方さえ習得できれば誰でも何歳でも乗れること,自動車やバイクなどと異なりルールをきちんと教わる機会が少ないことがあると思います。

そこで,自転車の防犯登録の有効期限を2年などに短く設定し,初回登録時と更新時に自宅にハガキが届くようにして更新時に講習を受けるようにしたらどうでしょうか。

特に,初回登録の初めて自転車に乗る子どもには近隣の小学校などで正しい走り方などの実地講習を行うとよいのではないかと思います。
自転車を買い替えた場合は,前の登録情報を引き継げるようにすれば買い替えるたびに実地講習が必要といった手間を省けます。

自動車の免許のように,警察署や免許センターで毎日講習を実施するというのは現実的ではないので,シルバー人材センターなどと提携して「自動車ルール指導員」を養成し,公民館や学校,ショッピングセンターなどで定期的に講習を実施するのです。

 

ネックとなるのは,いかに講習を受けない人を減らすかという点ですが,

①講習を受けた回数を自転車保険の保険料と連動させる
②自動車免許等を持っている人で自転車の講習を受けていない人は,自動車免許の更新をするまでに自転車の講習を受けていないと免許の講習を受けられない
などを考えました。
もちろんこれだけでは不十分なので,ほかにも「自転車の講習を受けないとデメリットがある」といった制度にしなければならないと思います。

としまえん

今月末,遊園地の「としまえん」が閉園します。

私は家からとしまえんが近く,年間パスポートまで持っていたほどなので,閉園してしまうのがとても残念でなりません。
弁護士といえど,遊園地は大好きなんです。

チャレンジトレイン(西武線の電車を模した小さな乗り物を操作してレール上を走るアトラクションです。子ども向けに見えますが,適切な位置で警笛を鳴らしたり停止したりする必要があるほか,乗る車両によってマスコンがワンハンドルのものとツーハンドルのものがあるなど,大人でも夢中になってしまうアトラクションなのです!)などごく一部のアトラクションは,西武園ゆうえんちなど別の遊園地に移設され,機械遺産にもなっているカルーセルエルドラド(メリーゴーランド)は一旦解体されて倉庫で保管する予定のようです。

としまえん閉園の要因は,新型コロナウイルスによる経営不振などではなく(バブル期ほどではありませんが,近年のとしまえんの経営はむしろ絶好調だったようです。),東京都がこの場所に都市計画公園を整備するためです。

都市計画公園とは,都市計画法に基づいて計画された公園をいい,都市計画決定権者である都道府県知事又は市町村長が都市計画決定した公園や緑地などを指します(都市計画法11条1項2号)。

東京都では,2006年に特別区(23区のこと)・市・町が共同で「都市計画公園・緑地の整備方針」を策定し,さらに2020年にこれを改定して,東京都内で164もの公園・緑地に約530ヘクタールの優先整備区域を設定するなどしています。

としまえんの閉園は本当に残念ですが,新たにできる公園が地域の防災等に役立ってほしいと思います。