給与が減少していないと逸失利益はもらえないのか②

昨日、東京(池袋)ではほんの少しだけ雪が降りました。

長い時間ではなかったのですぐに溶けてしまいましたが、真っ白な雪が積もる光景はいくつになっても心が浮き立つものですね。

 

前回に引き続き、交通事故によって後遺障害が残ったが現実の収入が減少しなかった場合の逸失利益の話をしたいと思います。

最高裁判決によれば、①後遺障害の程度が比較的軽微、②職業の性質上、現時点で収入が減少していない、または将来も減少しないと考えられ、③特段の事情(例として、㋐本人の特別の努力、㋑今後昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれなど)もない、といった場合には、逸失利益が認められない場合があるとお話しました。

収入減少がなくても逸失利益が認められた場合の具体的事例として、いくつか裁判例をご紹介したいと思います。

 

1 札幌地裁平成7年10月20日判決

これは、事故により後遺障害1級3号(現在は1級6号「両下肢の用を全廃したもの」、労働能力喪失率100%)となった方が、公務員である復職後も収入減少がなかったとして逸失利益が争われた事例です。

判決によると、「交通事故後短期間のうちに収入の減少が生じなかったとしても、そのことから将来にわたっても収入減が生じないものと速断するのは相当でなく、被害者が後遺障害による労働能力の低下のために将来の昇進、昇給や転職に当たって不利益を受ける蓋然性が認められる場合等には、将来における減収を認定することができるものというべきである」とし、

・事故により車椅子生活となったことで屋外の現場に出られなくなったこと、

・勤務先の試験に合格し移動を希望しているが移動先の職員の負担が増えるため、それらの職員との間の人間関係の調整が必要となる等の問題が生じる可能性もあること

などを挙げ、「原告が将来の昇進、昇給や転職において不利益を被るおそれも予測されるものというべきであり、したがって、原告に将来における収入の減少が認められないとは断言できず、原告には、その労働能力の喪失を理由とする財産上の損害の発生を認めるのが相当」と判断しました。

 

2 京都地裁平成29年2月22日判決

これは、事故により後遺障害9級10号(高次脳機能障害)となった方が、事故後に減収が生じていないことを理由に逸失利益が争われた事案です。

判決によると、

・本件事故による後遺障害として記憶障害が残存するため、プラスチックの種類等の物品名(被害者はプラスチック製造業に従事)だけでなく、人物名等固有名詞も覚えることができない状態であること

・本件事故後勤務先に復帰した際、勤務先において指示を貼紙にする等原告甲野の後遺障害を慮った措置があり、現在では前記貼紙はないものの、原告甲野本人が記憶喚起のために指示等をノートに記載していることが認められること

などを挙げ、「本件事故後、減収が生じていないのは勤務先の配慮や原告甲野本人の努力によるものであり、前記後遺障害のために将来の昇進や再就職において不利益な扱いを受ける可能性を否定できず、将来にわたって減収が生じない状態が継続するとはいえない」と判断しました。