注文者の帰責事由により履行不能となった場合の利益の内容

 請負契約締結後,工事途中に注文者の帰責事由により履行不能となった場合,「現行の民法では536条2項により,請負人の報酬請求権は出来高に限定されず,全額存続する。」というのが現在の最高裁の判例です(最判昭和52年2月22日)。

 したがって,請負人は,注文者に対し,①請負契約の締結,②工事完成債務の後発的不能,③②の履行不能が注文者の帰責事由であることを示す評価根拠事実,を主張立証し,請負報酬金額全額を請求することができます。

 これに対し,注文者は,①帰責事由に関する評価障害事実,②民法536条2項に基づく利益償還請求による相殺を抗弁として主張し得ます。

 この利益償還請求の内容は,請負人が工事完成債務を免れたことと相当因果関係のあるものと解されており,具体的には,未施工部分を完成するためにかかる人件費,材料費,ゴミ処理費,経費等のうち,いまだに支出されていないものとされています。

 ただ,実際に争うとなると,未施工部分を注文者が他の請負人に任せて完成させた場合,その完成までにかかった費用がすべて「利益」とまでいえるのか,非常に悩ましい問題があります。

 注文者の立場では,最初に頼んでいた請負人とは異なる請負人に頼み,続きから行って工事を完成させた場合,完成までにかかった費用全額を最初の請負人は支払を免れているわけですから,最初の請負人が得た「利益」であると主張したいところです。

 ただ,引き継いだ請負人も,いきなり完成までに必要な人工を大量に集めて施工する,ということは通常できませんから,多少,通常の相場よりも高めの人工代を支払って職人を集めるということもあります。

 このような場合,民法536条2項の利益償還請求は,あくまでも注文者に帰責事由があることを前提としていますから,”注文者に責めに帰すべき事由があるために高めの人工代が発生した”ということになるかと思います。

 そう考えると,”通常の相場と実際にかかった人工代の差額”の部分まで,請負人が支払を免れることができて得た「利益」といえる,とストレートに考えることには違和感があり,非常に悩ましい問題です。

 そもそも,「人工代」に関しては,熟練した職人であれば直しが入ることも少なく時間もあまりかからない=結果として,人工代があまりかからない。

 けれども,能力の低い職人であれば直しが入ることも多く時間が掛かる=結果として,人工代がかさむ。

 というある種の矛盾も抱えており,非常に算定するのが難しい側面があり,弁護士としてはいかに説得的に立証ができるか,腕の見せ所でもあります。

 利益の額について,裁判例等では,請負人が受けている他の同種の工事等の利益率等を参考に,「利益」の額を算定しているものもあるようです。

 これらの内容に具体的に踏み込んで記載した書籍は非常に少ないのですが,判例タイムズ2019年2月号No.1455の「建築訴訟の審理モデル~出来高編~」に記載があり,参考になりました。