奨学金と法教育

弁護士の岡原です。

皆さんの中にも,大学在学時に日本学生支援機構から奨学金を借りた方は多いのではないでしょうか。
その日本学生支援機構が,奨学金返還請求に際し,保証人に「分別の利益」を伝えず,全額の支払いを請求していたことが分かり,問題ではないかとのニュースがありました。

現在,日本学生支援機構は,奨学金を貸与する際に、借りた本人が返せない場合に備えて連帯保証人と保証人の計2名を付けるか,保証機関を利用するかのどちらかが必要とされています。

連帯保証人と保証人は,主債務者(奨学金を借りた方)が債務を返済できなくなったとき,代わりに返済する義務を負うという点では同じですが,その義務の範囲は異なります。
その一つが,上で述べた「分別の利益」です。

保証人は,複数人いる場合,その頭数で割った額のみ,債権者に対して返済する義務を負います。
一方で,連帯保証人は,自分のほかに連帯保証人や保証人は何人いても,債務全額を返済しなければならない義務があり,保証人と違ってより重い義務が課せられています。
日本学生支援機構から借りる奨学金の場合のように,連帯保証人と保証人が二人いる場合は,保証人は債務額の2分の1のみ返済する義務を負うということになります。

ところが,日本学生支援機構は,保証人に支払いを請求する際に,債務額の2分の1しか返済する義務がないにもかかわらず,それを伝えていませんでした。
確かに,法的に言えば,保証人に「分別の利益」があることは,保証人側が主張すべき事由(これを抗弁と言います。)なので,わざわざ日本学生支援機構が教えてあげなくてもよいという考え方はあります。
ところが,双方が十分な法的知識を持っているのであればともかく,保証人側がそのようなことを知らず,全額支払わなければならないのだと勘違いをするような方法での回収は,法的には問題がなくても,社会的にみて妥当なのかという考え方もあります。

今後,日本学生支援機構の方針がどうなるか検討の余地はありますが,保証人となる側,奨学金を借りる側も,自衛として最低限の法的知識を身につけておく必要があるのかもしれません。
保証人や連帯保証人は,自分がお金を借りていないにもかかわらず,債権者に返済をしなければならない義務を負うという,自分自身にメリットはないがデメリットは非常に大きいというものです。
学校教育においても,奨学金制度が利用できることの説明だけでなく,それがどういうことなのか,借りることでどのような責任が発生するかといった法教育を行っていくことが重要になっていくのではないでしょうか。