犯罪成立要件~その3~

愛知県の弁護士の中里です。

前々回の記事の続きです。

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また,統合失調症など精神的な病をかかえている方などは,心神喪失や心神耗弱状態にあったとして,心神喪失者の行為は罰することはできません(刑法39条1項)。

また,心神耗弱者の行為は,刑が減軽されます(刑法39条2項)。

 

 

次に①構成要件について説明します。

 

構成要件には保障機能があります。

つまり,構成要件に該当しなければ処罰されることは罪刑法定主義である以上あり得ないのです。

ですから,不倫行為は,民法上の損害賠償請求権が発生しうる行為であるとしても,何ら犯罪ではなく処罰できないのです。

もし,不倫行為で処罰されるとすればそれは憲法違反になりますので,法治国家が機能している現在の日本では絶対にありえないといっていいことです。

 

1 客観的構成要件要素

⑴ 実行行為

「実行行為」とは,

特定の構成要件に該当する法益侵害の現実的危険性を有する行為

のことをいいます。

例えば,殺人罪(刑法199条)の構成要件は,人を殺すことですが,殺人罪の実行行為は,人の生命を侵害するに足りる危険性がある行為でなければなりません。

ですから,致死量に足りない薬物を飲ませたとしても,それは殺人罪の実行行為にならないことが多いです(ケースバイケースで殺人未遂罪とされることもあるようです)。

また,「自転車や石などを橋の上から落とす行為」も,川の上の橋の上から川で泳いでいる人めがけて落とすのであれば,殺人罪の実行行為とはなかなか言いにくいかもしれません。

しかし,高速道路の上にかかっている横断歩道などの上から自転車や石などを高速度で走行中の車めがけて落とす行為は,殺人罪の実行行為に該当する可能性が高いですし,実際に殺人未遂罪で逮捕されたというニュースも耳にします。

 

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また,次回の記事で続きを書かせていただきます。

 

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犯罪成立要件その1

名古屋で弁護士をしている中里智広です。

 

今回の記事では,犯罪が成立するまでの流れ,犯罪が成立しても処罰されるまでの流れをご紹介したいと思います。

犯罪が成立するためには,刑法や特別刑法などの条文上の文言に書かれている①構成要件(簡単にいいかえますと,犯罪が成立するための必要条件だと考えてください。)に該当し,②違法性が認められ,③責任能力があることが必要です。

犯罪が成立しても,すぐに処罰されるわけではありません。

警察に身柄確保(身体拘束)が必要と判断されれば逮捕され,身柄拘束までは必要ないと判断されれば,在宅のまま,まずは警察の捜査が進むことになります。

 

警察の捜査がある程度進んで,ある程度捜査対象となっている犯罪の証拠が集まったら,検察に送致されます。

送致とは,被疑者(マスコミ用語では「容疑者」といわれていますが,刑事訴訟法の用語ではありません。)が逮捕されている場合には,被疑者の身柄とともに一件書類(捜査報告書,供述調書などの捜査の結果作成された資料など)が検察に引き渡されます。

よくニュースで聞く「書類送検」という言葉は,刑事訴訟法上の言葉ではなく,マスコミ用語にすぎません。

書類送検も送致の一種と考えてください。

 

送致されたあとは,捜査の主体が検察官に移ります。

もっとも検察官に捜査主導権が移っただけですので,検察官の指示に基づくなどして,引き続き警察でも捜査が行われることが多いです。

 

担当検察官が,刑事裁判にかけるかどうか(起訴するかどうか)は,公判維持に耐えうるだけの十分な証拠があるかどうか(有罪判決を得ることができるかどうか)を主眼にいろいろな事情を考慮して判断します。

刑事訴訟法の条文では以下のとおり書かれています。

(起訴便宜主義)

刑事訴訟法第248条

犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

 

検察官が起訴すれば,被疑者は被告人という立場に呼び方が変わります。

 

日本の有罪率は,約99.9%といわれていますから,無罪判決を勝ち取れる事件にめぐりあえることは奇跡的です。

よくドラマであるような,無罪判決を何度も勝ち取っているような弁護士は,実際にはほとんどいないと思われます。

 

私が弁護士として働き始める前の1年間の研修(「司法修習(しほうしゅうしゅう)」といいます。)でお世話になった刑事弁護の教官ですら,無罪判決は今までめぐりあえたことはないとおっしゃっていました。

運がいいと,弁護士1~3年目でも無罪判決にめぐりあえることはあります。

実際に,私も修習生のときに弁護士1~2年目で無罪判決を勝ち取った弁護士とお話しさせていただいたことはあります。

 

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次回以降に続きの記事を書きます。

 

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成人の日に建造物侵入罪!?

先日、成人の日がありました。

祝日は、うちの事務所全体としては、お休みなのですが、私は、裁判所に提出する書面を作成するために事務所に行きました。

誰もいない事務所の方が集中できて、より洗練された書面が作成できるんですよね。

途中、小学校がありました。

祝日ですから、校門が本来なら閉まっているはずなのですが、校門が開いておりました。

そして、新成人らしき若い男女がたくさん小学校の校庭で、楽しそうに騒いでおりました。

おそらく、その小学校の卒業生たちなのでしょうね。

ここで、刑法のお勉強です。

犯罪が成立するためには、

①構成要件に該当し、

②違法性が認められ、

③責任能力がなければなりません。

 

①構成要件とは、簡単にいうと、刑法の条文に書いてあることだと思ってください。

例えば、建造物等侵入罪(刑法130条前段)の構成要件は、

「人の住居」「人の看守する邸宅」、「建造物」に「侵入」することです。

②違法性とは、社会的相当性を逸脱した法益侵害をいいます。

③責任能力とは、行為の違法性を弁識し、かつ、それに従って自己の行為を制御する能力をいいます。

簡単にいいますと、これはやっちゃいけない行為だとわかっていて、それをやっちゃいけないと自分をコントロールすることができる能力です。

 

では、新成人が自分の卒業した小学校に入る行為は、建造物侵入罪が成立しないでしょうか?

 

そんなの犯罪になるわけないでしょ!

って思う方は気をつけてくださいね。

小学校及びその校庭は、「建造物」にあたります。

では、新成人の小学校への立ち入り行為は、「侵入」(刑法130条前段)にあたるでしょうか?

「侵入」とは、管理権者の意思に反する立ち入り行為をいいます。

小学校の管理権者は、おそらく校長先生です。

そうすると、校長先生の許可があったかが問題となります。

もし、校長先生の許可がなかった場合には、いくら自分が昔通っていた小学校だからといって、無断に校庭に立ち入る行為には、建造物侵入罪が成立する可能性があります。

もっとも、もともと校門が開いていたのであって、校門をむりやりこじ開けていないだとか、特に小学校を荒らしていないだとか、卒業生たちは別に昔の懐かしい思い出を語りあっていただけじゃないかという事情があれば、違法性が阻却されるので、建造物侵入罪は成立しない可能性もあります。

 

逆に、新成人たちが、閉まっている校門をよじ登って侵入していたり、花火とかして騒いでいた場合には、社会的相当性を逸脱しており、管理権者の意思に反しているとして、違法性が阻却されず建造物侵入罪が成立する可能性もあります。

 

今回、私が目撃した新成人たちは、ただ昔を懐かしんでいただけであって、勝手に入ったわけではなさそうでした。

もともと、先生に頼んで入れてもらっていたのかもしれません。

そうすると、建造物侵入罪はもちろん成立しないと思います。

 

刑法について、語りだすと長くなってしまうので、今回はここらへんでおわりにしたいと思います。

 

法律は奥が深いです。

弁護士は、法律を全部知っているわけではありませんが、法律の条文を読めば、だいたいその法律がどういうものかが分かります。