公職選挙法-買収及び利害誘導罪

「総理大臣になって,僕の国を作る!」

 

名古屋の弁護士の田中浩登です。

映画「帝一の國」を観賞しました。

 

映画「帝一の國」は,政財界に強いコネを持ち,エリートばかりが集まる超名門海帝高校の生徒たちが学園のトップである生徒会長を目指し,知略と策謀を尽くして生徒会選挙を戦うという学園政権闘争コメディです。

超個性的な生徒たちを演じるのは今を輝く若手俳優達で,彼らのやりすぎなくらいのオーバーアクションに,映画館は上映中何度も大きな笑いの渦に包まれました。

 

さて,映画「帝一の國」の生徒会選挙の中で,生徒会長候補の氷室ローランドが,自らの当選を確実にするために,文化部の部長たちを手始めに現金を手渡して自分に投票するように働きかけるシーンがあります。

このような氷室の行為を見て,氷室の配下である駒光彦はそれは「やってはいけないこと」だと強く反発し,離反していくことになります。

おそらく,多くの方が選挙においてお金を配るような行為は「やってはいけないこと」であるということは,わかるかと思います。

では,仮に日本における国会議員選挙や地方公共団体の議員選挙の場合,自らに投票させるために有権者にお金を配ったときにはどのようなことになるのでしょうか。

 

公職選挙法では,以下のような定めがあります。

 

公職選挙法

第二百二十一条 (買収及び利害誘導罪)

1 次の各号に掲げる行為をした者は、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。

一  当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人又は選挙運動者に対し金銭、物品その他の財産上の利益若しくは公私の職務の供与、その供与の申込み若しくは約束をし又は供応接待、その申込み若しくは約束をしたとき。

3  次の各号に掲げる者が第一項の罪を犯したときは、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。

一  公職の候補者

第二百二十二条(多数人買収及び多数人利害誘導罪)

1  左の各号に掲げる行為をした者は、五年以下の懲役又は禁錮に処する。

一  財産上の利益を図る目的をもつて公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者のため多数の選挙人又は選挙運動者に対し前条第一項第一号から第三号まで、第五号又は第六号に掲げる行為をし又はさせたとき。

3  前条第三項各号に掲げる者が第一項の罪を犯したときは、六年以下の懲役又は禁錮に処する。

 

公職選挙法221条1項1号により,当選する目的をもって,金銭を渡した場合には,三年以下の懲役か禁錮,または五十万円以下の罰金に処せられることになります。

公職の候補者がその行為を行った場合にはさらに重く罰せられます(同3項)。

また,多数の人に対して金銭を渡す行為を行った場合についてはさらに厳しい罰則が定められています(同222条)。

 

したがって,日本における公職の選挙において,候補者が自分に投票させるために多数の有権者に金銭を渡した場合には,公職選挙法221条,222条により,6年以下の懲役又は禁固の刑に処せられることになります。

 

海帝高校の生徒会長は,将来の内閣入りにもっとも近い立場と言えども,「公職」ではないので,もちろん公職選挙法による罰則が科せられることはありませんが,国会議員選挙で現金を使ったら,まさに「実弾は身を滅ぼす」ことになります。

なお,公職選挙法221条1項4号により,金銭・物品・財産上の利益を受け取った人や要求した人についても罰則が科せられますので,注意してください。

 

以上,公職選挙法-買収及び利害誘導罪でした。