配転命令の有効性⑴

「明日の予告を教えてやる。」

 

弁護士の田中浩登です。

映画「予告犯」をレンタルして鑑賞しました。

今回は映画「予告犯」を題材に配転命令について,2回に分けて検討していきたいと思います。

 

「予告犯」のストーリーは

 

「Tシャツ姿に新聞紙の頭巾を被った『シンブンシ』を名乗る男が,法では裁かれず見過ごされがちな罪を犯した者たちを暴露し,翌日にその者に『制裁』を加える旨の『予告』のネット放送を行う。実際に『制裁』が繰り返される中で,ネット犯罪を取り締まる,警視庁サイバー犯罪対策課の捜査官たちが予告犯の捜査に乗り出す。捜査官は事件を解決できるのか? ネット社会と世論を味方につけた『シンブンシ』の目的と知られざる過去とは?」

 

というものとなっています。

 

予告犯のリーダー的存在である奥田宏明(ゲイツ)を演じるのは生田斗真さん。

キャラクターのカリスマ性や熱い感情が伝わってきました。

 

さて,「予告犯」で描かれる奥田の過去として,次のようなシーンがあります。

奥田は,派遣で勤めているIT企業においてプログラマーとして働いていたところ,会社の制度として正社員になることができる1か月前の段階で,派遣先の社長から仕事内容についての理不尽な改善指導と業務命令を出される。

深夜までかかってもその作業が終わらないと,今度はプログラマーとは全く関係ない,清掃の仕事に配置転換させられてしまう。

配置転換後,ストレスのあまり胃潰瘍となり,入院をしているうちに仕事をやめさせられることになった。

 

労働者派遣法を見てみると,

 

労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)

第二十六条 労働者派遣契約(当事者の一方が相手方に対し労働者派遣をすることを約する契約をいう。以下同じ。)の当事者は、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者派遣契約の締結に際し、次に掲げる事項を定めるとともに、その内容の差異に応じて派遣労働者の人数を定めなければならない。

一  派遣労働者が従事する業務の内容」

第三十九条  派遣先は、第二十六条第一項各号に掲げる事項その他厚生労働省令で定める事項に関する労働者派遣契約の定めに反することのないように適切な措置を講じなければならない。

 

となっています。

つまり,労働者派遣においては,派遣元会社と派遣先会社との間で,派遣する労働者の従事する仕事内容につき契約において定めておかなければならず,派遣先の会社ではこの契約の定めに反することがないように適切な措置を講じなければならないこととなっています。

映画『予告犯』においては,奥田の派遣先の会社と派遣元の会社がどのような契約を締結していたのか,派遣先の就業規則がどのようになっているのか,派遣先の社長は奥田にずっと清掃員をさせるつもりで配転命令を出したのか等は明らかになっていないため,正確な判断はできませんが,IT企業におけるプログラマーと清掃員では業務内容が大きく異なるにも関わらず,社長の命令一つで翌日にその仕事内容が変えられてしまう状況というのは労働者派遣法に定める適切な措置を講じていない可能性が疑われるところです。

 

次回は,配転命令が問題になることが多い,正規雇用の場合における配転命令の有効性につき検討していきます。