A Rゲームについての法的検討

こんにちは,弁護士の田中浩登です。

 

「劇場版 ソードアート・オンライン―オーディナル・スケール―」(以下,「SAO OS」という。)を観てきました。

近い未来に本当に現実化しそうな新しい仮想世界が登場するとともに,SAOのファンにはたまらない演出が多数ある素晴らしい映画でした。

ぜひご覧になることをお勧めいたします。

 

さて,SAO OSでは,≪オーグマー≫と呼ばれるAR(拡張現実)型情報端末が普及している社会が描かれています。

今回は,オーグマーを用いたSAO OSにおける最新ARゲーム≪オーディナル・スケール(OS)≫に関連して,ARゲームについて法的観点から検討をしてみたいと思います。

 

公園等の公共の場所において,ARキャラクターが出現するARゲームといえば,昨年爆発的に流行したNiantic社の「ポケモンGO」が記憶に新しいかと思います。

ポケモンGOでは,ARのポケモンが公園等に出現するということで,多くの人がポケモンをゲットするために公園を訪れました。

 

SAO OSにおいても,代々木公園など都内の大きな公園にARのボスモンスターが出現するということで,そのボスモンスターと戦うために,多くの人が集まっています。

ポケモンGOのプレイヤーはポケモンの出現場所に集まって,スマートフォン内でモンスターボールを投げていましたが,オーディナル・スケールのプレイヤーは,ARのボスモンスターと戦うために,現実の空間で実際に走り回ったり,AR上で武器になる端末で攻撃の動作をとったりしています。

このことから何か問題は生じないでしょうか。

 

まず,ARゲームのプレイヤーが誤って,他のプレイヤーや全く関係なく公園にいる人に衝突したり,端末をぶつけてしまったりして怪我をさせてしまった場合,自己の不注意により他人の身体という法律上保護された利益を侵害することになるので,民法上の不法行為責任を負うことは避けられないと考えられます(民法709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」)。

また,この場合,怪我をした人からの告訴があれば,刑法上の過失傷害罪(刑法209条1項「過失により人を傷害した者は,三十万円以下の罰金又は科料に処する。」)で処罰されることも考えられます。

当然,ARゲームのプレイ中に,人をわざと殴ったり突き飛ばしたりするようなことがあれば,これにとどまらず,暴行罪(刑法208条「暴行を加えたものが人を傷害するに至らなかったときは,二年以下の懲役もしくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」)や傷害罪(刑法204条「人の身体を傷害した者は,十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」)で処罰されることまで考えられます。

ポケモンGOで歩きスマホが問題になったように,ARゲームではプレイヤーのマナーが重要になってくるといえるでしょう。

 

次に,オーディナル・スケールのボスバトルは,多くの人が集まって,現実空間で動き回りますが,ARキャラクターの動きが見えていない人にとってはARゲームのプレイヤーがどのような動きをするのかの予想がつかない危険な状態にあり,ARゲームのプレイヤー以外はその空間を事実上利用できない状況にあることが考えられます。

そうすると,ARゲームを提供している会社は,公園上に有体物としての物件は設けていないものの,事実上公園とういう公の場所を独占して使用している,つまり「占用」していることになりそうです。

都内の公園の場合,物件を設けないで都市公園を占用するイベント・集会を開催するには,事前申請の上,知事の許可を得る必要があります(東京都都市公園条例13条1項)。

許可を受けるに当たっては,占用の目的・占用の期間・占用の場所・占用の面積等を記載して事前申請しなければならないので(同条例施行規則6条),映画のようにゲリラ的に公園にARのキャラクターを出現させるのはなかなか難しいかもしれません。

 

以上,ARゲームについての法的な検討でした。

なお,これは2017年2月時点の法律・条例に基づく当職の見解であって,オーグマー及びオーディナル・スケールが発売される(予定の)2026年4月には,ARについての新しい法律・条例ができている可能性があります。

SAO OSのように,楽しくARゲームができる未来が早く来るといいですね。