住宅資金特別条項と諸費用ローン

1 住宅資金特別条項とは

住宅ローンを利用する場合においては,融資の際に,住宅に抵当権を設定するのが通常です。

住宅に付されている抵当権を有する者は,民事再生手続において,別除権者として再生手続によらないで抵当権を実行できるのが原則です。

この原則によると,民事再生を利用とする住宅ローンの債務者は,基本的に,住宅に対する抵当権の実行を避けることができず,生活の本拠を失うこととなってしまいます。

住宅資金特別条項は,住宅ローンの債務者が,住宅を残したまま経済的に再生できるようにするため,再生計画中に定めるものです。

2 住宅資金特別条項を利用できる場合

住宅ローンの債務者だとしても,必ずしも住宅資金特別条項を利用して,住宅を残すことができるわけではありません。

住宅資金特別条項を利用するには一定の要件を満たす必要があります。

まず,住宅資金特別条項の対象となるのは,「住宅資金貸付債権」です。

これは,住宅の建設若しくは購入に必要な資金又は住宅の改良に必要な資金の貸付けに係る分割払いの再生債権であって,当該債権又は当該債権に係る債務の保証人(保証を業とする者に限る。)の主たる債務者に対する求償権を担保するための抵当権が住宅に設定されているものをいいます(民事再生法196条3号)。

また,住宅の上に住宅資金特別条項の対象とならない担保権が設定されている場合には,住宅資金特別条項を定めることができません(198条1項ただし書)。

3 諸費用ローンとは

住宅を購入する際には,保証料や登記費用等の諸費用がかかります。

住宅ローンの融資を受けるとき,同時に諸費用ローンを勧められることも少なくありません。

諸費用ローンにおいて対象となる諸費用としては,以下に挙げるものを含むことがあります。

たとえば,印紙税,登録免許税,火災保険料,保証料,融資事務取扱手数料,司法書士手数料,不動産仲介手数料,土地家屋調査士手数料,不動産取得税,引越費用,固定資産税清算金,水道工事負担金などです。

諸費用は,住宅の購入や建設の際に必要な費用ですが,諸費用ローンは,住宅ローンよりも金利が高く,住宅ローンの減税の対象とならず,住宅金融支援機構の支援対象でない等の点から,実務上,住宅ローンとは違うものとして扱われています。

したがって,諸費用ローンであれば直ちに住宅資金特別条項の対象となる「住宅資金貸付債権」に該当するということはできません。

4 住宅に諸費用ローンの抵当権が設定されている場合

諸費用ローンの額と使途によっては,住宅資金特別条項を定めることが許される場合があるとして,諸費用ローンの額と使途を総合考慮して,住宅資金特別条項を定めることが許されるかを審査する例があります。

そのような例においては,諸費用ローンの使途が契約書上明確であったり,諸費用ローンの額が小さかったりすると,住宅資金特別条項を設けることが許されやすくなる傾向にあるようです(森純子ほか編『はい6民ですお答えします』482頁参照)。