民法改正~錯誤②~

梅雨も本番といった天気ですね。

豊田市もジメジメとした日が続いております。

ストレスの溜まりやすい季節だと思いますので,上手く息抜きをしていただけたらと思います。

 

さて,前回は,「錯誤」の類型に関するお話を中心にさせていただきました。

今回は,「錯誤」に関するその他の改正部分について,見ていきたいと思います。

以下に,もう一度,現行の規定と改正法の規定を載せておきますので,適宜ご参照ください。

 

現行民法第95条

意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。

 

改正民法第95条

第1項 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤。

第2項 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。

第3項 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。

第4項 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

 

第1 錯誤の要件に関する改正

現行民法は,意思表示が錯誤によって無効になる要件として,「法律行為の要素に錯誤があったとき」と規定しています。

ですが,「法律行為の要素に錯誤があったとき」とはどんな場合なのか,ピンとこない方も多いかと思われます。

そこで,改正民法では,この要件をより分かりやすいものとするため,「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき」と改められました(改正民法95条1項柱書)。

 

第2 錯誤の効果に関する改正

現行民法においては,錯誤の効果は「無効」であるとされています。

それが改正民法では,「取り消し」に改められました(改正民法95条1項柱書)。

そもそも,法律上,「無効」と「取り消し」には,「無効」は最初からその法律行為がなかったものとして扱われるが「取り消し」はその法律行為を取り消すという意思表示があるまでは有効なものとして扱われる,「無効」は誰でも主張できるが「取り消し」は主張できる者が限定されている,「無効」には主張できる期間に制限がないが「取り消し」には主張できる期間に制限がある,などの違いがあります。

もっとも,現行民法の下でも,錯誤の規定は錯誤に基づいて意思表示をしてしまった表意者の保護のためのものなのであるから,錯誤無効は原則として表意者のみが主張できるものとされており(最高裁昭和40年9月10日判決),一定程度「取り消し」との類似点が存在していました。

この点については,改正民法では,「錯誤,詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は,瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り,取り消すことができる。」(改正民法120条2項)という形で明文化され,原則として表意者のみが取り消しの主張ができるということが条文上明らかになりました。

 

第3 第三者保護に関する改正

現行民法95条には,錯誤によってなされた意思表示を信頼して取引関係に入った第三者の保護規定が存在しません。

しかし,表意者には,「錯誤に陥って真意ではない意思表示をしてしまった」という責められるべき事情がありますので,錯誤による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者がいる場合には,表意者よりも,この第三者を保護する必要性の方が高くなります。

そこで,改正民法では,「第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。」という第三者保護規定が明文化されることになりました(改正民法95条4項)。

 

第4 錯誤が表意者の重大な過失によりなされた場合に関する改正

現行民法では,錯誤に基づいて意思表示をした者に重大な過失があった場合について,「表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。」と規定しています(現行民法95条但し書き)。

しかし,表意者に重大な過失が存在する場合でも,意思表示の相手方が,表意者が錯誤に陥っていることを知っていた場合や,重大な過失によって知らなかった場合は,意思表示の相手方を保護する必要性は高くありません。

また,意思表示の相手方が表意者と同じ錯誤に陥っている場合も,表示どおりの法律行為の効果を維持して相手方を保護する必要性は高くありません。

そこで,改正民法では,原則として,「錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,意思表示の取消しをすることができない。」としつつ,例外的に,「①相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。」や「②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。」には,意思表示の取消しができることとなりました(改正民法95条3項)。