相続放棄についての最高裁判例について(1)

こんにちは。
名古屋でもだいぶ暑さが和らいでくれた気がします。

今月,相続放棄についての最高裁判所の判例が出されました。
相続放棄については,弁護士としてご相談やご依頼を受けることが多い分野ですし,以前にもこのブログでとりあげたことのある再転相続の熟慮期間に関するものですので,今回のブログでとりあげたいと思います。

1.再転相続とは
再転相続とは,相続人となった者が熟慮期間中に相続の承認も放棄もしないまま死亡し,その相続人の地位をさらに相続した場合のことをいいます。
以前のブログと同じように,先に死亡した者を「被相続人」,後に死亡した者を「相続人」,それらを相続した者を「再転相続人」と呼ぶことにします。

2.最高裁判例の結論
今回の最高裁判所の判例(令和元年8月9日第二小法廷判決)の事案では,再転相続における熟慮期間の起算点が問題となりました。
最高裁判所は,結論として,再転相続人が,相続人からの相続により,相続人が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を自己が承継した事実を知った時が,熟慮期間の起算点となると判断しました。
結論としては妥当なものですし,これまでの判例,裁判例の考え方にも沿うものだといえます。

3.原審の判断
実は,原審でも,当該事案での相続放棄の熟慮期間の起算点については,まったく同じ結論になっていました。
原審は,当該事案では民法916条を適用しないと判断したうえ,民法915条を適用したのに対し,最高裁は,そのような原審判断を違法としたうえ,民法916条を適用しています。
それでは,原審は,なぜ916条を適用しなかったのでしょうか。
原審は,民法916条の「その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時」の意義について,再転相続人が相続人の相続を知ったときと解しており,これは従来の通説と同じ考え方ではありました。
しかし,このように解すると,再転相続人の相続放棄をするかどうかの判断の機会を狭めてしまうことになってしまいます。
そのため,原審は,「相続人が,被相続人の相続人であること(正確には,相続の開始の原因事実および自己が法律上相続人となった事実)を知っていたが,相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合」にのみ916条が適用されるとして,同条の適用範囲を限定しました。
そのうえで,本事案は上記の場合にはあたらないため,915条を適用したうえで,熟慮期間内になされた相続放棄の効力を認めたのです。

4.最高裁の判断
最高裁判所は,原審の判断に対し,「民法916条にいう「その者の相続人が自己のために相続の開始を知った時」とは,相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が,当該死亡した者からの相続により,当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を,自己が承継した事実を知った時をいうと解すべき」としたうえで,ストレートに民法916条を適用しました。
すなわち,原審の判断の場合,限定的ではあるにしろ,915条をそのまま適用した場合と比べて,再転相続人の判断の機会が狭められてしまう可能性がありますが,最高裁判所はそのような場合すらも相続放棄をするかどうかの判断の機会を再転相続人に保障するとの立場を取ったということになります。

今回の判例の結論としての価値はこのようなものとはなりますが,理論的な面から考えていくといろいろな分析も可能なところです。
続きについては,次回とりあげたいと思います。

なお,事務所の集合写真が更新されました。

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