不動産の所有権の放棄について

こんにちは。

今月には毎週末のように台風が来ていましたが,みなさまは大丈夫でしたでしょうか。

 

弁護士の江口潤です。

 

今回は,不動産の所有権を放棄することができるかという問題を取り扱いたいと思います。

1 動産の放棄について
まず,動産の放棄については,民法に明確な規定はありませんが,放棄することができると考えられています。
民法の規定の中には,無主物については,先に占有を取得した者が所有権を取得する(民法239条1項)との規定があり,所有者のない動産というものが想定されていることから,所有権を放棄された動産もこの中に含まれていると考えることもできるからです。
ただし,どのような場合でも動産の所有権が放棄できるのではなく,これを取り締まる行政法規に違反する場合がありますので,ご注意ください。

2 不動産の放棄について
不動産についても,民法には所有者のない場合には国庫に帰属するという規定があります(民法239条2項)。
そこで,理論的にも,不動産についても所有権を放棄できるのではないかと考えられているようです。
『ストーリーに学ぶ所有者不明土地の論点』(山野目章夫著)78頁によると,不動産の所有権の放棄ができるかについては,「なんとなく認められてよいものではないか,というあたりが,学会の雰囲気であろうか」という状態にあるようです。

3 裁判例での判断
ただし,現実には,不動産の所有権の放棄が簡単にできるわけではありません。
この点についての最高裁判所の判例は現在のところなく,上記の書籍79頁で紹介されている裁判例(広島高裁松江支部判決平成28年12月21日)では,「不動産について所有権の放棄が一般論として認められる」としながらも,所有権の放棄の主張は権利濫用または公序良俗違反にあたることから無効であると判断されています。

4 管理の難しくなった不動産の問題について
私は,普段から相続の案件を取り扱うことが多いのですが,相続財産が遠方であったり,辺鄙な場所にあったりしたために,相続人が管理することが難しいという事例を担当することもあります。
この場合には,遺産分割協議においても,互いに当該遺産を押し付けあうような形になることもあり,上記のとおり,不動産の所有権を放棄することは難しいという現状では,合意内容をまとめることが困難なときがあります。
使われていない不動産の積極的な活用方法や空き家の問題については,国や自治体の方でも議論がされています。
平成30年11月1日(木)にも,中区役所ホールで,「空き家シンポジウム~弁護士と考える空き家問題~」というシンポジウムが開催され,愛知県弁護士会所属の弁護士も参加しますので,ご興味のある方はご参加いただければと思います。