一括対応終了後の治療費について

交通事故でケガをし、治療が必要な場合、加害者側の任意保険会社が治療費を直接医療機関へ支払ってくれることが多いです。

加害者側の任意保険会社が直接医療機関に治療費を支払い、被害者が窓口で治療費を負担せずに済む対応を「一括対応」と呼びます。

「一括対応」は、当事者間で争いがない範囲で加害者側保険会社が任意で行う対応のため、保険会社に「一括対応」の継続を法的に強制する方法はありません。

 

そのため、まだ治療の必要性がある場合でも「一括対応」が打ち切られてしまうことがあります。

このような場合、被害者側は、打ち切られた後の治療費を窓口で負担しながら治療を継続し、後から加害者側に賠償請求を行うことになります。

「一括対応」が打ち切られた後は、社会保険などを利用して窓口負担を抑えながら通院を継続することになります。

なお、ここで注意が必要なのが、打ち切られた後も通院が必要であれば自身の健康保険を利用して通院を継続してくださいと保健会社などから案内を受けることが多いですが、「一括対応」の打ち切りから症状固定までの間について、通勤災害・業務災害の場合は労災保険を利用する必要があり、健康保険を利用できないことです。

そのため、交通事故の治療として通院を継続する場合は、健康保険を利用できるケースか、労災保険を利用すべきケースか確認する必要があります。

また、健康保険を利用する場合でも労災保険を利用する場合でも第三者行為による傷病届などの提出を忘れないように注意する必要があります。

 

弁護士として、どのような保険が利用できるかしっかりと把握するよう気を付けていきたいです。

交通事故紛争処理センター

交通事故について、相手方保険会社などと話し合いで解決に至らない場合に利用できる手続きとして、裁判以外にも交通事故紛争処理センターというものあります。

交通事故の当事者が、紛争処理センターを利用するには、まず紛争処理センターに電話をして法律相談の予約をとる必要があります。

そして、予約した法律相談日に紛争処理センターの法律相談担当弁護士が当事者から話を聞き、和解あっ旋が必要と判断すれば、交通事故の相手方保健会社などに出席を要請し、相手方保健会社などが出席すれば和解あっ旋が進められます。

通常3回から4回の期日で担当弁護士があっ旋案を提示し、あっ旋案に当事者双方が同意するとあっ旋成立となります。

あっ旋が成立しない場合は、審査会による審査に進むことがあります。

交通事故紛争処理センターは、令和5年11月20日時点で、全国11か所に拠点が設けており(東京の本部、高等裁判所の所在地に7カ所の支部、さいたま市、金沢市、静岡市の3カ所に相談室)、各拠点で相談やあっ旋が行われています。

交通事故紛争処理センターを利用する利点は、3回から5回程度の手続きで終わるため、裁判に比べて早い解決につながることが多いことです。

ただ、交通事故紛争処理センターは自動車以外の事故の場合は利用できなかったり、双方の主張する事実に大きな差異がある場合は、最初から訴訟を提起した方が良い場合もあったりします。また、時効は中断されませんので注意が必要です。

最高裁平成8年4月25日判決

最判平成8年4月25日判決は、交通事故で後遺障害が残存したあと、当該交通事故とは別の原因で死亡した場合に、後遺障害逸失利益の算定の際に死亡したことを考慮できるかについて判断した判決になります。

同判決は、「逸失利益の算定に当たっては、その後に被害者が死亡したとしても、右交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではないと解するのが相当である。」として、考慮すべきではないとの判断を示しました。

その理由としては、「労働能力の一部喪失による損害は、交通事故の時に一定の内容のものとして発生しているものであるから、交通事故の後に生じた事由によってその内容に消長を来すものではない」こと、また、「交通事故の被害者が事故後にたまたま別の原因で死亡したことにより、賠償義務を負担する者がその義務の全部又は一部を免れ、他方被害者ないしその遺族が事故に寄り生じた損害のてん補を受けることができなくなるというのでは、衡平の理念に反することになる。」ことを挙げています。

 

なお、最高裁令和2年7月9日判決は、後遺障害逸失利益の定期賠償を認めるとの判断を示しています。

同判決は、「後遺障害の逸失利益は、不法行為の時から相当な時間が経過した後に逐次現実化する性質のものであり、その額の算定は、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に行わざるを得ないものであるから、将来、その算定の基礎となった後遺障害の程度、賃金水準その他の事情に著しい変更が生じ、算定した損害の額と現実化した損害の額との間に大きな乖離が生ずることもあり得る」とし、「交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、上記目的及び理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる」との判断を示しました。

 

上記理由からすると後遺障害逸失利益について定期賠償が認められた後、67歳になるまでに被害者の方が亡くなった場合はどのような扱いになるのか平成8年4月25日判決との関係が気になるとこですが、同判決は、その点について、「上記後遺障害による逸失利益につき定期金による賠償を命ずるに当たっては、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期より前の被害者の死亡時を定期金による賠償の終期とすることを要しないと解するのが相当である。」として、平成8年4月25日判決を前提にした判断を示しています。

 

様々な判例があるため、弁護士としてしっかりと把握していきたいと思います。

自動車の修理費

交通事故で自動車が破損した場合、被害者は加害者に対して、自動車の修理費または時価額を比較して低い方の金額の賠償を請求できます。

自動車の時価額は、レッドブックや中古車市場での流通価格を参考に判断されることが多いです。

修理費については、修理工場の見積もり金額をもとに判断されることが多いですが、修理工場からの見積もりどおりの金額を加害者の保険会社が支払ってくれるとは限りません。

そのため、修理後に相当な修理費がいくらなのかが問題にならないよう実務上では、交通事故被害者が修理工場に自動車を入庫した後、修理に着手する前に加害者の保険会社が自動車の損傷状況について確認し、修理工場と加害者の保険会社とで相当な修理費について打ち合わせをして修理費の協定金額を決めることが多いです。

協定金額の打ち合わせが行われることで、実際の修理費と保険会社から支払われる賠償金に差が生じ、被害者に負担が生じることを防ぐことができます。

しかしながら、修理工場と加害者の保険会社で協定金額を決められず双方の金額が一致しないこともあります。

このような場合は、相当な修理費はいくらなのかを弁護士に依頼して裁判所などで決めてもらう必要があるケースもあります。

交通事故の治療で利用できる保険

交通事故で利用できる保険には、大きく分けると相手方の保険と自分の保険があります。

相手方の保険としては、任意保険と自賠責保険があります。

相手方が任意保険に入っていれば、被害者の治療費は相手方の任意保険が病院に直接支払ってくれるため、被害者は窓口で治療費を支払わなくても良いことが多いです。

相手方が任意保険に入っていない場合や自分の過失割合が大きい場合は、相手方の任意保険は治療費を病院へ直接支払ってくれません。

そのような場合は、自分が加入している自動車保険の人身傷害保険を利用すれば、自分の保険会社が病院へ直接治療費を支払ってくれます。

また、人身傷害保険が利用できない場合でも、相手方が自賠責保険に加入していれば、100%の加害者でない限り相手方の自賠責保険へ負担した治療費を請求すると上限金額はありますが自賠責保険から治療費の支払いを受けることができます。

 

上記の保険の利用に加えて、交通事故の治療でも健康保険や労災保険を利用することができます。

自分にも一定の過失がある場合や相手方が任意保険に入っていない場合は、交通事故でも健康保険又は労災保険を利用して治療を受けた方が良いケースが多いです。

通勤途中や仕事中の事故の場合は労災保険、それ以外の場合は健康保険を利用できます。

詳しくは、弁護士にご相談ください。

交通事故の慰謝料の算定基準

交通事故でケガをし、治療を受けた場合、加害者側から慰謝料の賠償を受けることができます。

慰謝料は、実務上、通院期間、ケガの程度などを慰謝料算定基準にあてはめて目安金額を算定しています。

慰謝算定基準として良く利用されている基準に、赤い本(民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準)、緑本(大阪地裁における交通損害賠償の算定基準)に掲載されいる基準などがあります。

赤い本は、日弁連交通事故相談センター東京支部が作成しているものであり、緑本は、大阪地裁民事交通訴訟研究会が作成しているものになります。

赤い本の算定基準と緑本の算定基準は異なる部分もあるため、同じ通院期間とケガの程度であったとしてもどの算定基準が採用されるかによって慰謝料の目安金額が異なる場合があります。

大阪では、緑本の基準で慰謝料が算定されることが多く、むち打ちで3か月通院した場合の慰謝料の目安は、赤い本だと53万円ですが、緑本だと48万円程度となります。

賠償額の算定基準が被害者相互間の平等を保つために設けられた趣旨からすると地域によって、慰謝料の目安額が異なる合理的な理由はないように思いますが、地域により採用されている基準が異なっているのが実情となっています。

刑事記録について

交通事故の発生状況に争いがある場合、入手する資料として刑事記録があります。

刑事記録は、捜査中は入手することができませんが、不起訴か起訴かが決まれば、23条照会(弁護士照会)などで入手することができます。

 

民事事件において、入手できる刑事記録の範囲は、不起訴か起訴事件かで異なります。

起訴事件であれば、実況見分調書に加えて、供述調書なども入手できますが、不起訴事件であれば、基本的には、実況見分調書しか入手することはできません(人身事故に切り換えを行っていない場合は、実況見分調書ではなく物件事故報告書が作成されているため、入手できる刑事記録は、実況見分調書ではなく物件事故報告書になります。物件事故報告書は、実況見分調書に比べると事故発生時の状況について詳しく記載されていないため、事故状況を確認する資料としてはあまり役に立たないことが多いです。)。

 

不起訴事件の場合は、基本的には、実況見分調書しか入手できませんが、例外的に民事裁判所から特定の者の供述調書について文書送付嘱託がなされ、かつ、以下の要件を充たす場合は、通達により入手できるとされています。

1 供述調書の内容が、民事裁判の結論を直接左右する重要な争点に関するものであって、かつ、その争点に関するほぼ唯一の証拠である等その証明に欠くことができない場合であること

2 供述者が死亡、所在不明、心身の故障若しくは深刻な記憶喪失等により、民事裁判においてその供述を顕出することができない場合、又は当該供述調書の内容が供述者の民事裁判所における証言内容と実質的に相反する場合であること

3 当該供述調書を開示することによって、捜査・公判への具体的な支障又は関係者の生命・身体の安全を侵害するおそれがなく、かつ、関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがあるとは認められない場合であること

 

起訴事件か不起訴事件かや人身事故扱いか物件事故扱いかで入手できる刑事記録は異なるため注意が必要です。

 

過失相殺について

交通事故の賠償請求時に、当事者の過失相殺が問題となることがあります。

交通事故被害者は、被害者側にも交通事故の発生について過失があるときは、加害者からは、発生した損害から自身の過失分を差し引いた額しか賠償を受けることができません。

例えば、交通事故により100万円の損害が発生した場合、交通事故の発生について自身に30%の過失がある場合は、交通事故の相手方からは、70万円の賠償しか受けることはできません。

 

交通事故の賠償において過失相殺は、交通事故から発生した損害について、相手方にどの程度負担させるのが「公平」であるのかといった視点で問題とされます。

この点、過失相殺の考え方には、被害者と加害者の事故発生に対する責任(過失)の対比により判断しようとする考え方(相対説)と被害者と加害者の対比ではなく被害者の過失の大小のみを考慮して過失相殺を判断しようとする考え方(絶対説)があります。

相対説の立場に立てば、四輪車と歩行者の間で発生した交通事故について歩行者に4割の過失がある場合には、歩行者が賠償請求する際は4割の過失相殺がなされ、四輪車が損害賠償請求する際は6割の過失相殺がなされますが、絶対説の立場に立てば、歩行者に4割の過失があったとしても四輪車が損害賠償請求する場合に直ちに過失相殺率は6割と決まらないことになります。

 

交通事故の過失相殺は、概ね相対説の立場に立っていると考えられていますが、交通事故の過失相殺を検討する際に実務上利用されている別冊判例タイムズ38号「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」では、歩行者といった弱者と四輪車の間での交通事故の場合は、歩行者の損害について3割の過失相殺がなされた場合に、四輪車の損害について7割の過失相殺率が直ちに妥当するわけではないとしています。

 

過失相殺率をどのように検討するかは、具体的な事故発生状況によっても異なるため、弁護士としては、交通事故被害者の方に適切な賠償を受けてもらえるようしっかりと検討してきたいと思います。

 

最高裁令和4年3月24日判決

交通事故において、自身が契約する人身傷害保険会社から先に保険金を受領した場合、当該保険金を支払った人身傷害保険会社は、交通事故の相手方が加入する自賠責保険に対し求償し、自社が支払った保険金相当額を回収します。

人身傷害保険会社が交通事故の相手方の自賠責保険から受領した自賠責保険金は、交通事故の相手方が負担すべき損害賠償額から控除されるのかという争点について、交通事故の相手方が負担すべき損害賠償額から、人身傷害保険会社が保険金の支払により保険代位することができる範囲を超えて自賠責保険金に相当する額を控除することはできないというべきであるとの最高裁で判決が出ました。

最高裁令和4年3月24日判決は、人身傷害保険の具体的な約款の文言を解釈して判断を示しているため、今後の全てのケースにあてはまるわけではありませんが、人身傷害保険会社の求償の範囲と自賠責保険の問題について、交通事故被害者に寄り添った最高裁の考え方が示されて良かったです。

交通事故には様々は保険の種類が登場し、保険会社等によっても約款の文言が異なる場合もあります。

控除について適切に算定しないと交通事故被害者の方が不利益を被ることになるため気を付けていきたいです。

詳しくは弁護士法人心へご相談ください。

交通事故での健康保険の利用

交通事故で怪我をしたときは、病院で治療を受ける際に健康保険は利用できないと思っている方がいますが、加入している健康保険組合などに「第三者行為による傷病届」を提出するのであれば、交通事故でも健康保険を利用して治療を受けることができます。

 

ただし、交通事故の被害者は、交通事故の相手方から治療費の賠償を受けられるため、あえて健康保険を利用する必要性は乏しいです。

骨折後などに長期のリハビリが必要な場合、健康保険を利用していると手術をした日を起算日として150日で健康保険上の標準的算定日数の上限に達したとしてリハビリが打ち切られてしまうことがあるため(医師が150日以降も状態の改善が期待できると医学的に判断する場合は、リハビリの継続は可能です)、健康保険の利用は慎重に判断する必要があります。

交通事故被害者の方が健康保険を利用した方が良いケースは、交通事故被害者の方にも交通事故発生に関する過失がある場合です。

過失がある場合は、発生した治療費のうち交通事故被害者自身の過失分は被害者自身の自己負担となるため(自賠責保険の120万円の範囲内であれば自己負担とならないケースもあります。)、健康保険を利用せずに自由診療で治療を受けると自己負担額が多くなり、交通事故の相手方から賠償される慰謝料などからの精算額が多くなり、受け取れる賠償額が減ってしまうことがあるためです。

 

保険会社から健康保険の利用を打診され、利用して良いか迷う場合は、弁護士までご相談ください。

なお、通勤途中や勤務中の交通事故の場合は、利用できる社会保険は、労災保険となり、健康保険は利用できませんので、保険会社から健康保険の利用を打診されても誤って健康保険を利用しないよう注意する必要があります。

評価損について

新車で交通事故に遭った場合、車両の機能や外観が修理により元通りになったとしても、事故歴により車の価値が下落した分も損害として賠償してもらいたいと考えることが多いと思います。

上記のような損害は、一般的に「評価損」と呼ばれています。

 

評価損は、交換価値の下落がある場合に認められるため、裁判所の判断の傾向としては、①車両の骨格部分に損傷が及んでいる、②初年度登録からあまり時間が経過していない、⓷走行距離が長くない場合に評価損を認めています。

損傷が骨格部分に及んでいる場合や初年度登録からの時間が経過していない場合は、評価損の請求を検討する必要があります。

なお、評価損の算定は、事故発生直前の車両時価額と修理後の車両時価額の差額を算定できれば一番ですが、当該車両の事故発生直前や修理後の時価額を立証することは困難なため、裁判所では、修理費を基準として評価損が認定している例が多くみられ、おおむね修理費の10パーセントから40パーセントといった評価損を認めています。

 

新車で交通事故に遭い、機能や外観は元通りになったものの、それだけでは納得がいかない場合は、「評価損」を請求できる可能性があります。

ぜひ、弁護士に相談してみてください。

後遺障害等級認定に関する研修②

事務所内で交通事故を担当している弁護士・スタッフ向けに後遺障害等級14級9号に関する研修が再びありました。

今回の研修の講師は、損害保険料率算出機構の元職員ではなく、自賠責調査事務所の職員として実際の認定業務に携わり、後遺障害等級認定業務の豊富な経験を有する当法人の後遺障害申請専任スタッフが担当しました。

 

後遺障害等級認定の申請について、資料を受け取った自賠責調査事務所の担当者は、どのような点に着目して提出された資料を確認しているかなど貴重な話が聞け、とてもためになりました。

加えて、捻挫・打撲による痛みなどの症状が将来的に回復困難な後遺障害といえる状態に至っているかの判断との関係で、治療中に症状の改善傾向がみられたことを自賠責調査事務所の担当者としてどのように捉えているかなどについて興味深い話が聞けて良かったです。

今後の後遺障害等級認定のサポートに活かしていきたいと思います。

 

後遺障害等級認定の研修は、この後も、定期的に開催が予定されています。

後遺障害等級認定業務に携わっていた損害保険料率機構や自賠責調査事務所の元職員から様々な話を詳しく聞ける貴重な機会のため、今後の研修の内容も楽しみです。

労災保険と確定遅延損害金

交通事故に遭った場合、交通事故の被害者は加害者に対し、不法行為による損害賠償請求を行うことができます。

加害者が負う損害賠償債務は、不法行為の時に発生し、かつ、何らの催告を要することなく遅滞に陥るものと解されています(最判昭和37年9月4日判決)。

そのため、不法行為の時から遅延損害金は発生します。

 

他方で、仕事中や通勤中に事故に遭い、労災保険から治療費、休業損害、障害(補償)給付などの支給を受けた場合、上記不法行為の時から労災保険から保険金が給付されるまでの間の遅延損害金は原則発生しないと考えられています(最判平成22年9月13日判決)。

労災保険から保険金が給付されるまでの間の遅延損害金が発生しないと考えられる理由は、「被害者が不法行為によって傷害を受け、その後に後遺障害が残った場合においては、不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害につき、不確実、不確定な要素に関する蓋然性に基づく将来予測や擬制の下に、不法行為の時におけるその額を算定せざるを得ない。その額の算定に当たっては、一般に、不法行為の時から損害が現実化する時までの間の中間利息が必ずしも厳密に控除されるわけではないこと、上記の場合に支給される労災保険法に基づく各種保険給付や公的年金制度に基づく各種年金給付は、それぞれの制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額をてん補するために、てん補の対象となる損害が現実化する都度ないし現実化するのに対応して定期的に支給されることが予定されていることなどを考慮すると、制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り、これらが支給され、又は支給されることが確定することにより、そのてん補の対象となる損害は不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが,公平の見地からみて相当というべきである。」とされています。

 

上記のように労災保険と自賠責保険のどちらから支払いを受けているかで、確定遅延損害金が発生するか否かの判断が異なります。

それ以外にも各種保険から給付を受けている場合、充当関係、損益相殺などの判断がそれぞれの保険で異なることが多いため、賠償請求時には誤らないよう弁護士として注意していきたいです。

後遺障害等級認定に関する研修

先日、事務所内で交通事故を担当している弁護士・スタッフ向けに後遺障害等級14級9号に関する研修がありました。

研修の講師は、「損害保険料率算出機構」において15年間も後遺障害の認定業務に関わり、豊富な経験と知識を有する当法人の後遺障害申請専任スタッフが担当しました。

 

後遺障害等級14級9号は、捻挫・打撲などの傷害を負い、痛みや痺れといった神経症状が残存した場合に認定される後遺障害等級になります。

捻挫・打撲による痛みなどの症状は、客観的に数値化できず、また、症状の原因を検査結果により明らかになることが難しいため、交通事故被害者の方は、痛みや痺れの症状について適切に評価を受け、後遺障害等級認定を得られないことがあります。

交通事故被害者の方が、適切な評価を受けるためには、後遺障害等級認定の申請時に誤った評価を受けないようしっかりとしたサポートが必要となります。

 

今回の研修で、後遺障害等級認定を得る可能性を検討する上での重要なポイントやサポート時に気を付ける点などを学べて良かったです。

交通事故に遭われた方が、治療を受けることで完治し、事故前の状態に戻れることが一番ですが、治療を受けてもどうしても症状が残ってしまう場合もあります。

そのような場合に、交通事故被害者の方の身体の症状を改善させることはできませんが、適切な後遺障害等級認定を得ていただき、金銭面だけでも適切な賠償を受け取っていただけるようしっかりとサポートできればと考えています。

人身事故扱いとは

交通事故に遭いケガをした方から、「人身事故扱いにした方が良いのでしょうか。」といった相談を受けることがあります。

 

交通事故により人的損害が発生した場合、警察に診断書を提出すると「物損事故」から「人身事故」扱いに代わり、交通事故証明書にも人身事故と記載されます。

「人身事故」扱いにするかどうかで、加害者が刑事処分や行政処分を受けるかどうかに違いが生じます。

そのため、生じている人的損害を踏まえて、刑事処分や行政処分を判断してもらいたい場合は、「人身事故」扱いに代えた方が良いです。

また、人身事故扱いにすると警察で実況見分調書が作成され、当事者間で事故状況等に争いがある場合などに、事故状況を立証するための資料として利用できることもあります。

 

民事上の損害賠償請求に関しては、「物損事故」か「人身事故」扱いかで形式的な賠償額の算定基準などに差は生じません。

警察に診断書を提出しているか否かで、交通事故被害者の方がケガをしているかどうかや負ったケガの程度に違いが生じるわけではないためです。

慰謝料の目安額などは、「物損事故」でも「人身事故」扱いでも負っている怪我の程度や治療内容が同じであれば、原則同じです。

ただ、「人身事故」扱いにしていないと、なぜ人身事故扱いにしていないのかという理由を記載した「人身事故証明書入手不能理由書」を自賠責保険へ後遺障害等級認定の申請などをする場合には提出する必要があります。

また、事実上、「人身事故」扱いにしていないのは、ケガの程度が軽微だったからではないかと思われる可能性もあるため、「人身事故」扱いにしない理由がないのであれば、「人身事故」扱いにしておいた方が良いと思います。

交通事故に関する相談は、ぜひ弁護士法人心へお問合せください。

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メガネは物的損害か?

交通事故に遭ったとき,怪我を負うとともに服や眼鏡など身につけていた物が毀損することがあります。

身につけていた物が自賠責法上の「人損」に該当すれば,自賠責保険から支払いを受けることはできるため,身につけていたものが自賠責法上の「人身」に該当するかが問題となるケースがあります。

この点,自賠責保険では,眼鏡,義足,補聴器などについては,日常生活に必要不可欠なものとして身体に密着させているものは「人損」に該当するとみなされています。

つまり,自賠責保険では,メガネは「人損」として扱われています。

 

そのため,例えば,交通事故でメガネが毀損し,新しくメガネを購入した場合は,メガネの購入費用が5万円以内で,かつ,自賠責保険の上限額の範囲内であれば,自賠責保険から支払いを受けることができます。

他方で,指輪やネックレスなど身体に密着させていますが,日常生活において必要不可欠なものとはいえないため,「人損」には該当しないとされています。

 

身につけていた物が「人損」に該当すれば,自賠責保険に請求することで,自賠責保険の枠内であれば,自身にも事故発生について多少過失があったとしても,過失分が差し引かれることなく購入費用や修理費相当額の支払を受けられる可能性があります。

詳しく相談されたい方は,弁護士法人心へお問合せください。

交通事故と医療過誤が競合する場合

交通事故の被害者が病院で治療を受けた中で医療過誤に遭ったことで治療が長期化するなどして治療費などの損害が拡大した場合,当該被害者は誰にどのような賠償を求めることができるのか疑問に思われる方もいるかと思います。

 

上記疑問に対して参考となるのが,最高裁平成13年3月13日判決です。

同最高裁判決は,交通事故により,放置すれば死亡するに至る傷害を負ったものの,適切な治療が施されていれば,高度の蓋然性をもった救命ができたものの,医療過誤により被害者が死亡したという事案について,交通事故と医療事故とのいずれもが,被害者の死亡という不可分の一個の結果を招来し,この結果について相当因果関係を有する関係にあるとし,交通事故と医療事故における医療行為とは共同不法にあたると判示しました。

つまり,被害者は,交通事故の加害者に対して,又は,医療事故における医療行為を行った医師に対して自身の被った損害の全額を賠償請求できるとし,交通事故と医療過誤の結果への寄与度により,被害者の賠償請求額を限定することは許されないと判断しました。

ただし,同判決は,交通事故と医療過誤の結果が一致する類型であるため,交通事故で軽傷を負った被害者が医療過誤で死亡した場合などに共同不法行為が成立するとまでは判断していないため,結果が不一致の場合に共同不法行為が成立するか否かはまた別途検討が必要と考えられています。

損害額算定基準

交通事故の賠償金額を検討する際は「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(赤本)」「交通事故損害額算定基準ー実務運用と解説ー(青本)」「大阪地裁における交通損害賠償の算定基準(緑本)」といった本に載っている基準を参考にすることが多いです。

 

例えば,交通事故で首に軽い捻挫を負った場合に,3か月間通院したときの傷害慰謝料の目安額は,赤本だと53万円、青本だと46万円、緑本だと48万円になります。

同じ怪我をして,同じ期間通院した場合でもどの基準を参考にするかで傷害慰謝料の目安額に差が生じます。

 

弁護士としては,交通事故被害者の方に適切な賠償金をお受け取りいただけるよう努めたいと思います。

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障害(基礎・厚生)年金と損益相殺

交通事故により,重度の障害を負った場合,要件を満たしていれば,ご加入の年金(国民年金・厚生年金)から,障害の程度に応じて,年6回,障害年金の給付を受けることができます。

障害(基礎・厚生)年金の受給可能性があるような重度の障害を負った場合は,障害年金の請求を検討する必要があります。

障害年金の申請は,社会保険労務士などが対応していることが多いですが,弁護士法人心では,障害年金の請求にも対応しておりますので,障害年金の請求を考えておられる方はお気軽にご相談ください。

 

ただ,障害年金と交通事故の加害者からの賠償金は2重で受け取れるわけではありません。

調整がなされます。

例えば,先に加害者から賠償金を受け取っている場合は,一定期間(上限36か月)障害年金の支給は停止されます。

また,先に障害年金の支給を受け取ている場合は,現実に既に支給されている障害年金額及び支給が確定している未給付の障害年金額は,加害者からの賠償金から差し引くとの損益相殺が行われます。

 

交通事故で重い障害を負った場合,加害者からの賠償金以外にも公的制度等を利用することで負担を軽減できることがあります。

ただ,各種制度からの給付金と加害者からの賠償金との調整をどのように行うかは,給付金の性質により異なります。

私は,主に加害者に関する賠償請求を受任し,対応することが多いですが,障害年金などの公的制度についても理解を深めていきたいです。

「ムチウチ」と後遺障害等級認定

交通事故で負う怪我として多いものに,いわゆる「ムチウチ」があります。

「ムチウチ」は,正式な傷病名ではなく,「頸椎捻挫」「頸部挫傷」などの総称として使用されています。

「ムチウチ」は,受傷から3か月程度で治ることが多いですが,中には,どうしても症状が残存してしまう方もいます。

治療を受けたものの完治せずに,症状固定に至ってしまった場合は,残った症状(痛み・しびれ等)について,病院で後遺障害診断書を書いてもらい,後遺障害等級認定の申請を行うことになります。

 

ただ,後遺障害等級認定の申請を行った場合に必ずしも後遺障害等級の認定を得られるわけではありません。

自賠責保険が「局部に神経症状」があると認定した場合は14級9号,「局部に頑固な神経症状」があると認定した場合に12級13号が認定されますが,将来的に症状の回復の可能性があると判断されるなどした場合は,後遺障害の等級は認定されません。

14級9号か12級13号かは,症状を裏付けるような他覚的所見があるか否かで判断されており,基本的には,自賠責保険は,主観的な症状の軽重で14級9号と12級13号を区別していません。

 

「ムチウチ」から生じる痛みや痺れの程度を客観的に検査する方法がないため,「ムチウチ」で適切な後遺障害等級認定を得ることは容易ではありません。整形外科の医師などから,「ムチウチ」で後遺障害等級認定を得られるケースは少ないとの話を聞いたことがある交通事故被害者の方もいるかと思います。

 

交通事故被害者の方が,適切な後遺障害等級を獲得できるよう弁護士としてサポートできればと思っています。